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尖ったものを上から覗くときに考えること

 

 

 

「どうして死ぬことに?」

「いつも通勤で、徒歩じゃないと通れないような裏道を使ってたんですよ」

「んん?」


 いきなり語り出した天使候補に面喰らいつつ、面接官が話へ耳を傾ける。


「俺の家、一方向が切り立った崖になってる丘の上にあって、崖の下に駅があったから、ちゃんとした道を通ると遠回りになるんですよね。だから、崖に作られた細い階段を通って、通勤してたんです」

「なるほど」

「で、その階段の下にひとつ、ラブホがあって。古いラブホで、なんかほら、お城?みたいな外観になってたんですよね。外とか、それっぽい塀とかあって」

「ほうほう」

「わかります?ほら、こう、先端が槍みたいになってる鉄柵。あれで、囲まれてるんですよ」

「あーあー、あるある」


 話題のせいか友人と話すようなノリになって、面接官が相槌を打つ。


「で、いつも思ってたんです。ここから落ちたら、あの柵刺さるだろうなぁって。もちろん、階段にフェンスはあるし、細いって言っても余裕でひとがすれ違えるくらいな幅なんで、そんな、落ちるとかないんですけどね」

「え、まさか」


 話のオチが見え始めて、面接官が姿勢を正した。

 天使候補は語り口を変えないまま、語り続ける。


「ある夜、俺は仕事で疲れきった足で、帰途を歩いていました。階段の昇り口近くに、コンビニがあるので、寄ってチキンでも買おうかなぁなんて思いながら。そのとき、スポーツウエアの太ったおっさんが、走って俺を追い越しました。ダイエットでも、してたんですかね。ひいひい言いながら、走ってました」


 話に呑まれたように、面接官は相槌を忘れている。

 気にせず天使候補は、話を続けた。


「俺はコンビニでチキンを買って、食べながら階段を昇り始めました。結構長い階段なんですけど、慣れるとまあ、そこまで苦ではなくて、結構速く昇れるんですよ。で、途中で大きな人影が見えました。さっき追い越した、おっさんです」


 ぱっと見、熊かなんかに見えて、ちょっとビビりましたと、天使候補は少し笑った。面接官は、口を挟めない。


「おっさんはゼイゼイ息を吐いて、ふらふら階段を昇っていました。俺は簡単に追い付いて、横を追い抜こうとしたんです。おっさんはそのときフェンス側を昇ってたんで、崖側を通って」


 面接官の喉が、こくりと鳴った。


「必死で昇ってたから、気付かなかったんでしょうね。通り抜けようとした俺におっさんが驚いて、躓いたんです。とっさに俺は手を伸ばしておっさんの手を掴んで」


 一拍、溜めてから、天使候補は言った。


「気が付いたら、身体が宙を飛んでました。体勢を崩したおっさんに振り回されて、投げ飛ばされちゃったんですね。俺の身体はあっさりフェンスを越えて、落下しました」


 なにも言えない面接官に笑みを見せて、天使候補は息を吐く。


「唖然としたおっさんと目が合ったあとで、ずぶり、って、背中に衝撃が走りました」


 天使候補が親指で、自分の鳩尾辺りを撫でる。


「あー、やっぱり刺さるんだなぁなんて思ってたら、悲鳴が聞こえて、目を向けたら、ラブホの従業員かな。可愛い子が、真っ青な顔でこっちを見てました。すっげえ可愛い子だった」


 そこで意識が飛びましたと、最後まで語り口を変えないまま、天使候補は話終える。


「いやー、最期が太ったおっさんの顔で終わらなくて、良かったですよ」

「結論そこか!いや、わかるけど!!」


 結局友達のようなツッコミに落ち着いた面接官を、天使候補は笑い飛ばした。

 

 

 

m(__)m

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