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こんなサービスが切実に欲しい

 

 

 

「死んだ理由は?」

「工事現場から落ちて来た工具に直撃して。いや、本当にタイムリーでした」

「……タイミングが、悪かったね」

「いや、良かっ……んん?悪かったのかな?とにかく、ジャストタイミングで」


 こんくらいのレンチがちょうど脳天ジャストミート。


 両手の人差し指でボールペンほどの長さを示した天使候補は、それで、と続けた。


「それが、積荷処理請負業屋さんに積荷を預け終えた帰りのことだったから、本当に運が良かったなあって」

「積荷処理請負屋さん?」

「あ、知らないですか?まだマイナーなビジネスですもんねぇ……」


 苦笑して、天使候補が説明する。


「ほら、誰しもひとに知られたくない性癖や趣味のひとつやふたつ、あるじゃないですか。えっちな本とか、ダッチなワイフとか、あられもない抱き枕とか、年齢制限付きの同人誌とか、お着物が三(さお)とか、プレミア付きの楽器とか、レコードとか、春画とか」

「……誰しもかは置いておいて、持っている方もいるだろうね」

「で、持っていると困るのが、保存場所と処理方法なんですよね」

「保存場所と処理方法」

「そう。同居人がいると下手すれば社会的に死ぬし、死んだあと遺品処理で見付かりでもすれば目も当てられない。ダッチなワイフなんかは捨て方にも困るだろうし」

「最初から、持たなければ」

「持たないと言う選択肢はない!!」


 天使候補は宣言した。あまりにも堂々たる開き直りっぷりに、面接官がぽかんと聞き入る。


「で、その悩みを全て引き受けてくれるのが、積荷処理請負屋さんなんですよ」


 口を挟まれないのを良いことに、天使候補は続ける。


「都内から電車で一時間くらいのところの、一見高層マンションにしか見えない建物で、まあ実際構造は天井の低い風呂トイレキッチンなしのワンルームマンションなんですけど、全室防音・窓にはシャッター有・禁煙・リモセンで空調完備で」

「それは……整っているんだかいないんだか……」

「共用トイレと共用キッチン、コインシャワーにコインランドリーは、共用部に備えられていますよ。ただ、住むのは禁止ですし、各部屋には水も通っていません。床面積も三畳の部屋がほとんどです。中階層に六畳とか九畳もあるらしいですけど」

「中階層、なんだ」

「中階層の中部屋ですね。最上階とか角部屋とか、屋内環境が安定しない部屋は人気ないですよ。いつ雨漏りするかも定かじゃないですし、うっかりシャッター閉め忘れて西陽が射し込みでもしたら、目も当てられません」


 自分とは違う人種の話なんだなと、面接官は自分を納得させる。


「床面積三畳で、天井もほとんどの部屋は二メートルくらいですね。天井高い部屋もないわけじゃないですけど、私の場合はそこまで場所取るわけじゃないんで三畳×二メートルの部屋ですね。それで、月々、家賃管理費光熱費込みで三万円に初期契約費が七万円の年一で更新料六万円」

「……都内から一時間なら、郊外ってほどではないにしろ、三畳でしょう?防音と空調が備わっているにしても、高くない?」


 面接官の疑問に、天使候補がしかりしかりと頷く。


「そう。その高い分が、サービス料なんです」

「サービス料」

「まず、ひとつめ。契約時にお願いした管理をやってくれるんです。私がお願いしたのは週一の環境チェックと清掃、空気の入れ換えですね。ふたつめが、万一なんらかの理由で室内のものに破損汚損等が発生した場合の賠償。みっつめに、荷物受取代行と処分代行。あ、特殊なものの処分の場合は別途手数料加算の場合アリですよ。売れるもので売却処分した場合はもちろんこちらに利益金額が振り込まれます。さいごに、よっつめ。契約者が死亡した場合、室内のものは遺族に内容を知らせることなくすべて処分され、売却利益が生じた場合は指定口座に振り込まれる」


 ふふっと笑って、天使候補は言う。


「さいごに関してはオプションで、パソコンや携帯のなかの見られたくないファイルの消去なんかまで請け負ってくれます。それと、死亡と判断する基準はいくつかのなかから契約者が自分で選んで決められるんです。複数の組み合わせで判断もおっけー。私の場合は、とぅいったーへの浮上が三日以上途切れた場合死亡とみなされるように指定したので、そろそろ処分終了した頃ですかね」

「それは……ビジネスとして通用してるんですか?」

「んんー……利用希望者は後を断たないと言う話ですよ?私が契約したところは二軒目らしいですけど、三軒目が稼働開始してて四軒目も完成間近で既に予約者がいるって聞きました」


 契約が埋まりやすくなって来てるから、運が良かったって言われましたよ。


 微笑んだ天使候補が、直後少し苦い顔になった。どこか納得の行かない表情の面接官に、気付いたからだろう。


「利用するひとの理由はそれぞれあるでしょうし、私の場合、ひとに言いにくい趣味だからって言うのも大いにありますけど、なによりの理由は、遺族が価値を理解出来ないであろうものだから、ですよ」

「価値を」

「箪笥一杯のお着物をカビさせた挙げ句廃棄したとか、よく聞く話ですよ。コレクターの持ちものなんか、一見ただの古ぼけたおもちゃが博物館モノだったりもしますし、ゴミみたいな書き付けが歴史的価値のある文書なんてこともあります。わかりますか?古いもののなかには、もう二度と再現出来ない、手に入らないものが、いくらでもあるんです。でも、無知なひとは平気てそう言う価値を、無視してゴミにするんです」


 滔々と語った天使候補の目は、真剣だった。


「積荷処理請負屋さんの創業者は、自身もとある分野のコレクターで、従業員もなにかしらのコレクターで固めています。荷物を預かる際は契約者と徹底的に話し合って、どの分野で価値があるものなのか、どう管理すべきなのか、どう処理して欲しいのかを、明確に決定して双方納得の上でないと、判を捺しません。そして、処分する場合は適切に、売る場合も、きちんと渡して良い相手に届く方法で売却してくれます。もし、従業員に知識があるひとがいない分野のものなら、専門家に依頼してまで、です」


 わからないひとには、わからないでしょうけど、と、天使候補は皮肉混じりの笑みを浮かべる。


「だから、信頼して預けられたし、だから、運が良かったと思ったんです。私のタカラモノは、きちんとタカラモノとして、扱って貰える」

 

 

 

m(__)m

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