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温度差に注意
「それで、死因だけど」
天使候補に訊ねようとした面接官は、問い掛けの途中で、ああ、と頷いて言葉を止めた。
「心中だったね」
「え、なんで……」
「さっき、相方が」
面接官の答えを聞いた天使候補は目を見開き、ぽろりと大粒のをこぼした。
「あのこも、死んでしまったんですね」
「きみが薬をすり替えていたこと、彼は気付いていたよ。気付いていて、だから、きみに会う前に別の薬を飲んでいた」
「……」
ぎゅうと眉を寄せると、天使候補は両手で顔を覆った。低い、低い声で、唸るように呟く。
「私さえいなければ、あのこは幸せになれたはずなのに」
「嘘を吐いたの?」
「あのこに、幸せになって欲しかったんです」
掌から上げられた顔は、悲しみとも苦しみともつかない表情で彩られていた。
「眠って、起きて、それで私がいなくなっていれば、諦めもつくだろうと」
「それなら、きみはいなくなるだけで良かったんじゃない?なにも死んだりしなくても、嫌いになった振りをして、離れれば」
「死ぬ以外であのこのそばを離れるなんて無理です」
即座に断言して、天使候補は、ああでも、と俯いた。
「そんな私のわがままが、まだ幼い彼を殺してしまったんですね」
「……わがままはきみばかりではないけどね」
面接官が肩をすくめて、ぺらりと帳面をめくった。
「『あいつは俺のことが大好きだから、忘れて楽になるより、辛くても覚えたまま俺を見守ろうとするだろう。なら、約束は守って貰わないとな』」
目を見開く天使候補に、面接官が嗤って見せる。
「彼も大概わがままじゃないか?きみの意思を尊重するなら、生きて幸せになるべきだった」
「……ばかなこ」
「でも、きみは彼の予想通りここに来た」
面接官が手を差し伸べて、首を傾げる。
「さて、志望意思と動機を改めて訊こうか。きみは天使になることを望むか?望むなら、その理由は?」
「……私は」
俯いて息を吐き出したあと、すいと向き直った顔は決意に満ちていた。
「望みます。『死後の世界で共に』と、約束しましたので」
「良いの?」
「ええ。約束を破ってはいけないと、彼に教えたのは私ですから」
だから、破らせないで下さいね?
天使候補はまだ涙の残る顔で、そう言って微笑んだ。
m(_ _)m