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幸せ?
「死因を教えて下さい」
「老衰です」
「んん?病気とかは一切なく?」
「どうなんでしょうねぇ」
天使候補は、のんびりと目を細めた。
「庭で孫が遊んでいて、それを見ながらうとうとして……気付いたら」
「日向で、眠るように?」
「そうですね。膝に猫が乗っていて、とても、温かかったような気がします」
どこまでも穏やかに、朗らかに、天使候補は呟いた。
「それは……幸せ、でしたね」
「そう、幸せ……なんでしょうね」
「なにか、心残りが?」
「いいえ。夫も子供も孫も、わたしにはもったいないような出来た子ばかりで……とても、幸せな人生でした」
目を細め、緩やかに口角を上げる笑みは上品で、美しい。
しかし天使候補はふと、その笑みを崩した。
「でも」
その顔に浮かんだのは、夢見る少女のような、悪戯っぽく、愛らしい笑み。
「本当はね、もっと、わがままに生きてみたかったの。髪を短くして、膝丈のワンピースを着て、風を切って歩いてみたかった。好きな夢を追って、好きに恋をして、好きに遊んで。母はみっともないって言っていたけれど、ずっと、モガに憧れていたのよ」
笑みだけでなく口調まで変えて、天使候補は夢を語った。
「幸せな人生でなくて良かったの。恵まれなくても、裕福でなくても、不自由でも。ただ、映画みたいに、きらきらした人生を送ってみたかったのよ。ひとから馬鹿にされるような、哀れまれるような人生になってしまったとしても、わたしらしく、精一杯生きてみたかった」
無邪気な笑みで、天使候補が言い放つ。
「他人に、幸せだったね、なんて言われる人生、わたしはいらなかったのよ」
m(__)m




