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主張(物理)は美しくない

 

 

 

「死に至った理由を教えて下さい」

「交通事故です」

「交通事故ですか。詳細を聞いても?」


 天使候補は長く細く息を吐いて、頷いた。


「私は家畜輸送を生業にしておりまして、その日も屠殺場に向けて、肉牛を載せたトラックを走らせていました」

「その途中で、事故に?」

「ええ。突然道でもないところから飛び出して来たトラックにぶつかりかけて、それでもどうにか止まって事故は防ぎましたが、同じようなトラック数台に囲まれて、荷台を開けられそうになって、慌てて降りたところをはねられました」

「え、はねられたって」

「その、囲んで来たトラックの一台にですね」


 虚ろな目を細めて、天使候補は答える。


「……窃盗狙い、ですか?」

「それならどれほどマシだったでしょうね」


 抑揚のない声で、天使候補は吐き捨てた。


「自称、動物愛護ドウブツアイゴ団体ダンタイ、だそうで。動物は人間の道具じゃない、家畜を解放しろ、とのことですよ」

「自称、ですか」

「隣人を愛せない者が愛護を謳うとは、片腹痛い」


 心底、冷めた声で天使候補が言う。


「哀れだと言われたそのウシが、どれだけの労力と金を掛けて育てられたかご存じか?自分で育てたいきものを、殺して、売る、その気持ちをご存じか?俺が、失礼、私が運転していたトラック一台、その売上が不意になることで、どれだけの損害が出るか、そのせいで、何頭のウシが路頭に迷うか、ご存じか?」

「あ、の」

「子牛価格の高騰、燃料費高騰による輸送費の高騰、穀物価格の高騰。畜産業界が昨今どれだけの難問を抱え、ギリギリの経営を行い、苦しんでいるかご存じか?命を扱う意味を、命を商材にする意味を、知らぬでこの業界に勤めているとお思いか?言葉で意思疏通取れる相手のことすら慮れない人間が、言葉すら通じないものの代弁をしようなど、笑止千万だ」


 口調も表情も静かなのに、瞳だけは、怒りで燃え盛っていた。


 戸惑う面接官にその瞳が向けられ、ふ、と緩められる。


「と、脱線しましたね。まあ、要は、自称動物愛護団体の頭おかしいやつに、はねられた、と言うことです」

「ご愁傷さまです」

「……本当に」


 うつ向いた天使候補が、初めて瞳以外に感情を乗せた。ぎゅうと、眉が寄せられる。


「大事な愛子まなごたちを預かっておきながら、守りきれなかったなんて、どう、お詫びして良いのか……。愛情込めて、育てた、その愛情を、きちんと結ばせてあげられなかったことが、悔しくてなりません」

 

 

 

m(__)m

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