39
病は気から
「死因を聞かせて貰えますか」
「はい」
あらかじめ、覚悟していたのだろう。天使候補は落ち着いた態度で頷き、口を開いた。
「沼地で、足を滑らせて落ちて、溺れました」
「沼地で。救助は?間に合わなかったのですか?」
「ひとりだったので。もしかしたら、自殺かと思われるかもしれませんね」
「なにか、自殺する理由が?」
「……夫が、亡くなったんです」
天使候補がそれまでの冷静な表情を崩す。
「いつも、ふたりで散歩に行っていた沼地で、だから、気付いたら足が向いていて。しばらく黙って見ていたんですけど、沼の端の方に、大きなカエルがいるのを見付けて」
しんみりした空気で話す天使候補の言葉を、面接官は黙って聞いていた。
「夫は、生き物好きで。だから、そんなカエルがいたらきっと近付いただろうなって思ったら、足場が悪いのも忘れて沼に近付いていて。本当に、大きなカエルでした。直径がわたしの顔くらいありそうな。大人しく座っていたから見ていたら、突然、おっきな声で、モ゛ォォォって」
「モ゛ォォォ」
「ええ。モ゛ォォォって。ウシガエル、だったんでしょうね。わたしったら、その声にびっくりして足を滑らせてしまって。沼に落ちて、足がつかなくて、パニックになって」
天使候補は視線を下げて悲しげに頬笑む。
「そんなドジをやるのはわたしじゃなくてあのひとなはずなのに。あのひとだったら、沼に落ちてもはにかんで、どろどろで上がって来てくれたでしょうに。……駄目ね、わたしには、あのひとがいないと」
「せっかくちょっと良さげな話なのに、なんなの?ウシネタを挟まないと死んじゃう病なの?」
「え?」
「いや、こっちの話です」
m(__)m




