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ぐぐるなきけん

 

 

 

「死んだときのことを教えて下さい」

「死んだときの、こと……」


 それまでの受け答えと打って変わってぼんやり呟いた天使候補の顔を、面接官が覗き込む。


「覚えていらっしゃるでしょう?」

「死んだとき……」

「思い出せませんか?」


 記憶を探るように考え込んだ天使候補が、不意に、カッと目を見開く。

 面接官が姿勢を直して、口を開いた。


「思い出しま、」

「ああああああぁああああぁぁあああああああ゛あ゛っ」

「わっ」


 突然の絶叫に驚いて、面接官が椅子ごと跳び退る。


 瞼が裂け、眼球が飛び出してしまうのではないかと思えるほどに瞠目した天使候補が、両手で頭を抱える。


「いや゛あ゛あああぁぁぁあぁああ゛ああぁあぁぁあ゛ああぁっ」


 黒板を両手で思いきり引っ掻いたような悲鳴。喉を、いや、身体中を引き絞るような声量。

 繰り返し、繰り返し、叫ぶ。

 剥き出された瞳から、ぼろぼろと涙が落ちる。

 指は抱えるを通り越して側頭部に突き立てられ、どれだけの力が込められているのか、ぶるぶると震えている。みし、と不穏な音が響く。


 鬼気迫る顔の面接官が、机の上のベルを引っ掴んで振るった。


 入って来た屈強そうな天使ふたりに、鋭く指示を出す。


「腕!頭から引き離して!あと、医者!!精神系!」

「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛っ゛」

「ああもう」


 面接官は苛立ち紛れに吐き捨てると、さっと立ち上がり。


「煩い!!」


 ばしーんと、天使候補の横っ面をはっ叩いた。天使候補が吹っ飛ばされて横凪ぎに倒れる。


 唖然とする天使と、床に投げ出される天使候補。

 天使候補の胸ぐらを掴み上げ、面接官は怒鳴った。


「何があったか知りませんが、その生は終わったんです!なんにしろあなたを脅かすことはない!!」

「あ……」


 面接官の精神分析(物理)に、天使候補の発狂が治まる。


 それでも涙は流しながら、天使候補が呆然と面接官を見返した。


「天使になりたいんでしょう」

「なりたい、です」

「なら、死因くらい笑って語りなさい」

「う、あ……」

「出来ないならそんな自我、綺麗さっぱり消してしまいなさい。まっさらになれば恐怖も絶望もなくなります」

「いや……」


 天使候補はふるふると首を振った。


「ちなみに私は魔女裁判で度重なる拷問を受けたあと有罪とされ火炙りにされました」


 面接官はにっこりと微笑んだ。


「拷問した上有罪にした奴らの顔は今でも覚えています。ええ。見物でしたよ?自分たちが魔女として甚振り抜いて処刑した女が、死んだあと天使として顔を見せるのですから。あー、楽しかった」

「……そう言うことも、出来るんですか?」

「ええ。天使になれば」


 一度、二度、瞬いたあと、天使候補は口端を吊り上げた。


「旅行先で、ガラの悪い奴らに捕まったんです。拉致されて、暴行されて、まわされて、玩具にされて、心も身体もズタズタにされたんです。むかついて、偉い立場の奴の咬み千切ってやったら激怒して、しこたま殴られたあと凌遅刑りょうちけいです」

「ぐぐるなきけん」

「え?」

「あ、こっちの話です。にしても、クズの遺伝子を遺さないようにするとは、素晴らしい善行ですね」

「そうですか」

「そうですよ。全員刈り取れなかったのが残念ですが」

「そうですね。咬み千切ったのと握り潰したの引き千切ったのと、五人だけしか……」

「五人ですか」

「ええ、五人しか」


 心底残念そうに呟く天使候補を見る天使たちの脚は、心なしか内股になっていた。

 

 

 

m(__)m

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