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※このお話はフィクションです。実在するいかなるものとも関係はございません。
「どうして、死ぬことに」
「他殺です」
天使候補は、冷えきった顔で答えた。
冷淡な受け答えに面接官が面喰らって、戸惑いつつ訊ねる。
「殺された、理由は?」
「さあ。他人なので」
「え、通り魔とか?」
「いえ」
天使候補はそこで言葉を切り、深々と溜め息を吐いた。
「わたしと言う認識の下でしょうね」
「他人、が?」
「ストーキングされていたので」
冷たい声と、固まった面接官。凍りついた空間を、天使候補の声が割る。
「見ず知らずの他人ですが、ずっとストーキングされていたので、通り魔ではないと思いますよ」
絶句した面接官のために言葉の意味を噛み砕き、
「『きみを殺して俺も死ぬ』と道端で包丁を向けられたので、逃げたのですが、その先で別のストーカーに捕まってしまって、『別の奴に殺されるくらいなら』と首を絞められました」
「え……ふたり?」
「ストーカーですか?五人……いえ、六人……ん?八人だったかな?」
考え込む間だけ冷たい空気がほどけ、あどけない表情で首を傾げる天使候補は、初めて見た物体に首を傾げる猫のような愛らしさがあった。言葉の内容さえ、気にしなければだが。
「警察に、相談とか」
「ストーカーが何人も、なんて言われて、信じますか?」
あどけない顔は霞のように消え、人形のように固まった顔で天使候補は問う。
「自意識過剰な被害妄想と思われて終わりですよ。詳細な記録を用意しても、証拠を見せても、気にし過ぎだと一笑。あるいは、過去に関係があったんじゃないかとか、誘ったんじゃないかとか」
長く深く息を吐き、天使候補は続けた。
「挙げ句、相談した警察署の警官も仲間に加わりましたが、なにか」
「あ、ええと」
掛ける言葉もなくした面接官が、そっと訊ねる。
「追い掛けられたときに、すぐ通報とか。さすがに、実際刃物を向けられたら、そんなこと」
「窮地のとき、いままで、散々嫌な思いをさせられてきた相手に、助けを求めようと思えますか?」
人形の顔が歪み、浮かんだ歪な笑みはしかし、笑ったと言うよりは泣き出す寸前のようだった。
「これで死んだら、あいつらの過失に出来るなと思って、喜んで死んでやりましたよ」
m(__)m




