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おまたせ!
今日中に《縄》を2次スキルにしたいところですね。パッシブ系は勝手に上がるはずなので狙ってやらなくても良いでしょう。
寝ている間にもクロニクルがクリアされていますね。釣り道具の改良……? 住人のお店にルアーが並ぶようになったと。そういうタイプもあるんですか。案外こういうほそぼそとしたものが多そうですね。《料理》系統もありそうですが……料理人に任せますか。
「お帰りなさいませ」
「問題はありますか?」
「問題はありませんが、連絡がございます。まず宰相がお呼びでした。そして異人達が納品用に、ロータスとプニカを持ち出しました」
クエストのクロニクルの項目を確認すると、何箇所かに納品されていますね。全体で見るとまだまだですが、正直進出がまだまだなのでこんなものでしょう。現状で王都まで行っている人がどのぐらいいるか……。
ネアレンスの王都に持っていきましょうか。つまり教会本部。見てみたいですし、軽く顔を出しておきましょう。
「では私も挨拶ついでに教会本部へ持っていくので、用意を」
「畏まりました」
待ってる間に、不死者の種族掲示板を見てみましょうか。クロニクルで検索です。
んー……ふむ。自分で採取しなくても、お城のメイドさんに言えば高品質を用意してくれる。ただし、その場合イベントアイテムにされていて納品しかできないと。自分で採取したものは生産にも納品にも使える、通常の素材アイテムっぽい……ですか。
お、来ましたが……私のは相変わらずイベントアイテムではありませんね。あの言い方なら納品用だと分かっているはず。ということは、ここでも立場の違いが関係あるんでしょうね。それ以外に思い浮かびませんし。
そしたら侍女に見送られ、離宮から常夜の城の宰相の元へ向かいます。
「宰相ー、呼びましたか?」
「おぉ、サイアー。祭りに関しては伝えましたかな?」
「はて? 聞いてませんね」
「王家の名の由来でもあるネメセイア。簡単に言ってしまえば鎮魂や冥府の活性化、迷える魂の導き、そして我々不死者のための祭りですな。昔から歌があるのです」
「歌ですか」
「祭りといえば歌でしょう。という事で、これ覚えてくだされ」
〈音楽が追加されました。リスニングとカラオケモードが使用可能です〉
カラオケモード……練習しろとな。
これ……音楽系のスキルを取得した時に追加されるUIですか。
「せっかく覚えているのですから、サイアーは古代神語で頼みますぞ」
「……正気ですか?」
「ハハハハ!」
追加された曲を見ると、古代神語モードと現代語モードが選択可能でした。古代神語は架空言語なので、発音がですね……。まあ、覚える必要がある分、こちらの方が効果は高いのでしょう。
問題は……古代神語って状況によって変わるんですよね……。普段使用しているのは所謂魔術言語。魔法を使うためだけのです。つまり歌ではまた別になります。
生産中などで作業用として聞いてましょうか……。
「これは冥府へとやってきた他の異人達にも知らせますぞ」
うっかり忘れていたようですよ。間違いなく歳ですね。
「……なんですかな?」
「いえ? 用はそれだけですか?」
それだけらしいので離宮へ戻り、日課である《古今無双》の型稽古をしてから一旦ログアウト。
朝食やらを済ませてから再びログインです。
そして東のネアレンス王国、王都へと飛びます。
始まりの町の教会は屋敷サイズですが、こちらの教会はお城サイズ。本部とは言え大きすぎる気もしますが……リアルの神殿を考えるとそうでもないんですかね。パルテノン神殿とか相当な大きさですし?
まあ、行きましょうか。勿論正面から堂々と向かいますよ。
構造は大体共通なのでしょうか? いや、どう考えてもそうなりますか。立像の置かれているお祈りする場所、この世界では礼拝堂ですね。リアルで考えると……聖堂でしょうか? 立像を聖遺物と言って良いかはあれですが、『力』を持っているのは確かですね。
4柱の立像がででんと置かれており、長椅子が沢山置かれている……『お祈りする場所』と言われてイメージしやすいタイプの大きな空間です。
この礼拝堂が一般開放されているので、必然的に教会といえばまずこの空間になるわけです。この建物最大の存在意義であり、玄関口です。教会の運営に関するあれこれは神々には関係ありません。なので基本的に奥の方になりますね。
クレス教は神様第一集団ですから、立像に続いて礼拝堂が力の入る部分です。どこの教会堂もまず正面玄関が礼拝堂なんですよね。
何が言いたいかと言うと、『教会』に用がある場合は全員がまず礼拝堂に行くんです。お祈りが目的だろうが、組織に用があってもです。
つまり、かなりの人数が時間を問わず礼拝堂にいるわけで。当然、そんなところになんか球体がウニョンウニョンしてる私が行くと、とてつもなく目立つわけですよ。服装の色合いもクレス教的にあれですからね。とは言えデザインが違いますが。
まあ、面倒なので手っ取り早く行くつもりです。方法はね、こうするんですよ。
「ごきげんよう、ネメセイアです。お届け物ですよ」
お、やっぱり効果抜群ですね!
一般の人達はともかく、全員に通達がいっていたのでしょう。修道服を着た教会関係者は全員がビシッとしました。一般の方と座って話していた人もガタッと立ち上がりましたね。
教会の関係者は全員が視線を巡らせた結果、1人に集まっています。なぜかって、確実に今この空間にいる中で立場が上なのでしょう。私の対応役決定です。本人もそれを察したのか、少々笑顔が引き攣っていますよ。お気の毒に。
まあ、私が元凶ですけど。
ローブに刺繍ありの時点で役職持ち。そしてローブも刺繍も緑系ですか。
「どちらも緑……女神ハーヴェンシス信仰の司祭ですね」
「え、ええ。まさかネメセイア様が直々にいらっしゃるとは……」
「1度ぐらいはご挨拶を……と思いまして。会いに来いと言っても物理的に不可能ですし、死なれても困りますから」
本来なら王家が軽々しく直々に……とかなりそうですが、そうするしかありませんからね。では会いに行きますね! とか言って霊体で来られたらドン引きですよ。
ネメセイアが会いに来いって、一般的には死ねと同義でしょう。
お届け物が来た場合の指示は受けていたようなので、物は引き渡しておきます。問題は『私』ですね。
正直、1回ぐらい姿を見せておくか……ぐらいのノリで来ましたので、逆にもてなされても居心地悪いですね。しかしさっさと帰ろうにも、1人が奥に入って行くの見てしまいましたし。
とりあえず、せっかく来たのでお祈りして待っていると、後ろがガヤガヤしてきました。
視野的に後ろを見る必要が無いので、お祈りポーズのまま確認すると……女の子に教会の騎士……聖騎士ですね。
神子様……という声が聞こえますね。あれ? なるほど、ステルーラ様が教えてくれたわけですかね。本来住人でも自己紹介や紹介されないと分からないはずの情報が見れます。
ハンナ・アディンセル 15歳
ステルーラの加護
盲目の神子
「おや、ようこそ。ハンナ様」
「こんにちは、プリースト・アルネ。同じ加護持ちが来ていると、ステルーラ様から言われて急いで来たのですが……とても明るい……」
おや、私に会いに来たようですね。それにしても明るいですか? おやおや?
「ステルーラ様の加護持ちでしたら私のことですね。ごきげんよう、ハンナ・アディンセルさん。私の名前は聞いていますか?」
「いえ、教会にいるとだけ……」
……ステルーラ様結構おちゃめですか? それとも神々的にはあまり重要ではない? 判断に困りますね。
「アナスタシア・アトロポス・ネメセイアです。よろしくお願いしますね」
「え? ネメセイ……え?」
「異人で、外なるもので、ネメセイアです。加護持ちなので神子でもありますね」
「???」
こう言うと、私なかなかあれですね。
ちなみに外なるものも、不死者もイコールで加護持ちとは限りません。
「よ、よろしくお願いします」
「基本的には異人なので、そう畏まらないでください。……私個人ならともかく、売られた喧嘩は立場的に買わないといけませんが」
私個人ならスルーすればいいですが、立場関係で喧嘩売られると黙っている方が問題ですからね。具体的には、異人ならまあスルーで良いでしょう。ネメセイアと外なるもの関係だとアウトですね。
とは言え、ネメセイアと外なるものという存在に喧嘩を売る住人はいない……はずです。今まで集めた情報的にいないでしょう。いないですよね?
「ところで、動きに迷いがありませんね」
「ステルーラ様に加護を戴いてから、枠組みが見えるのです」
おっと、《空間認識能力拡張》でしょうか?
確認した感じ、《空間認識能力拡張》の劣化版……ですね。目と同じ範囲の、正面の枠組みが見えているようです。扇状なので、今の私より距離は長そうですね。
「とても明るい……と言うのは?」
「それはその……」
言いづらそうなので何かと思いましたが、こっそり教えてくれました。内緒話。
「……経験上、良い人は明るく、嫌な人は暗く見えるんです」
「ん……その色って、魂が見えているのでは?」
「魂……ですか?」
「基本的には灰色で、そうですね……子供は比較的白いと思うのですが」
「確かにそうです」
大きくなるにつれて、魂の色は黒くなっていく。なぜなら子供のうちに悪さしたり、嘘をついたりして、大体魂は白よりの灰色で落ち着く。
私と答え合わせをしたところ、魂を見ているで合ってそうです。つまりこの盲目の神子は、《幽明眼》と《空間認識能力拡張》の複合劣化版な能力を持っているようですね。
自分の魂の色は見えませんでしたが、ステルーラ様の加護を持っているだけあって、私もハンナさんもかなり白い……と。
初めて見るレベルの白さだったため、つい声に出してしまったようで。本来相手を色で判断できる事は極一部しか知らないようです。
内緒話を終え、普通に話すとしましょう。せっかくなので、神子について少しだけ情報でも仕入れておきましょうか。
「神託が云々というのは聞きましたが、普段神子は何をしているのですか?」
「んー……人によるでしょうか? 特別な事はしていませんよ。教会が護衛などを付けてくれるだけで、聖職者というわけでもないですから」
基本的に神子は2択だそうです。今までの生活を続ける者と、教会に住まいを移す者ですね。成人していれば自分の意志。してなければ家族側にもよるそうです。
共通して教会から聖騎士の護衛やお世話係が付くようですね。
シグルドリーヴァ様の神子は、今までの生活を続ける者が多い。なぜなら冒険者や騎士……戦いを生業とする者に多いから。
ハーヴェンシス様やステルーラ様の神子は、教会に移る者が多い。特にステルーラ様の神子は神託を受ける可能性がとても高いので、大体移ることになる。
「私のように村娘から突然人を使う側になり、権力を持ち、生活がガラッと変わる事もあります」
「神子の発言力は?」
「相当です。歴代の神子達が築いた信用ですね……」
「それ……いや、そう言えば祝福は呪いに反転するとか、さらっと言われた気がしますね……」
「はい。神子として得た力は、神子でなければ失うでしょう。神子でなくなった時、周囲がどうなるかで自らの行いを知るのでしょう。これを呪いとは言いませんが」
「それは自業自得でしょう」
まあつまり、力があるうちに好き勝手すると、力がなくなった時にえらい目見るぞ……ということでしょう。だから日頃の行いを気をつけろと。
『と、教わりました』とこっそり付け加えられましたけど。教えた1人が隣にいるアルネ司祭のようですね。
「知っていますか? 神子とは加護を貰った人達を指しますが、誰から貰ったかで呼び方を変える事もあるんですよ」
「おや、そうなのですね?」
「シグルドリーヴァ様から加護を貰った人を戦人と呼び、ハーヴェンシス様は聖人や聖女です」
「我々は?」
「神子の始まりが私達、ステルーラ様の加護を貰った者達らしいので、特に無いらしいですよ? 強いて言うなら正直者でしょうか」
ふふふふ、と……少し冗談めいて言われてしまいましたが、横にいるアルネ司祭によると事実らしいですね。
「元々『神子』とは『神託を受ける者』を指していました。神託を受けるのは基本的にステルーラ様の加護やら祝福持ちだったため、イコールだったようですね」
「今の『神子』は、昔より範囲が広いと?」
「そうなります。範囲が広くなった事で、自然と他の呼び方も増えたわけですが、今でも神子の代表はステルーラ様の加護持ちですね」
『神子』というワードが出た場合、『神々から加護を貰った人』を指すのが基本。違う場合は『ステルーラ様から加護を貰った人』ですね。
『戦人』や『聖人、聖女』のワードが出た場合、『神々から加護を貰った人』の中でも、『シグルドリーヴァ様、またはハーヴェンシス様から貰った人』を指すと。
「加護には3段階あります。祝福、加護、慈愛ですね。基本的に祝福でも貰える事は稀ですが、中には加護や慈愛まで行く方がいます。特にステルーラ様の場合は稀ですね」
「そうらしいですね?」
「そうみたいですね……」
「ステルーラ様の加護まで行く方々は、皆さんそうらしいですよ。本人達に自覚はないらしいですね。いかに自分達が難しい事をしているのか……。ですが、是非そのままでいて下さい。それで良いのですから」
代々、ステルーラ様の神子は大体大人で解消されるとか。大きくなるにつれて魂が黒くなるからでしょうね。いつまでも純粋ではいられない……と。
アルネ司祭とハンナさんと話していると、礼拝堂の奥からぞろぞろと来て、それを見た人達がざわめき始めました。
中央にいるそこそこ豪華な格好をした、30代ぐらいの女性がこちらへやってきます。
見えた瞬間にアルネ司祭が教えてくれましたが、トップが来たようですね。
「ネメセイア陛下、ご足労頂き感謝します。私がジャスミン・フォースターです」
「アナスタシア・アトロポス・ネメセイアです。まだまだ外なるものとしては新参者ですが、継続して幽世の支配者です。それ以前に異人ですが、よろしくお願いしますね」
扱いにとても困るでしょうが、よろしくお願いしますね!
という事で、ハンナさんも一緒に少しお話。
「ルシアンナは元気にやっていますか?」
「元気ですよ。最近はソフィーさんと話してるのを見ますね」
「ソフィー……ソルシエールですね。2人にはお世話になりましたから……」
今の教皇は30代ぐらいの人間……つまり2人よりは若いので、上司みたいなものだったようですね。むしろ背中を押したのがルシアンナさんらしいので、頭が上がらないとか。
ソフィーさんは教会からすると部外者ですが、力は確かなのでお世話になったのは間違いないと。
ちなみにルシアンナさん。大司教は大司教でも、総大司教だそうですよ。大司教を纏める人ですね。上から数えた方が早い聖職者。教皇、枢機卿、総大司教だそうです。
なぜそんな人が始まりの町に? とか思いましたが、あそこ立地的には中心地でしたね。纏め役としては中央にいた方が都合がいいのでしょう。
「そう言えば、なんとお呼びすれば良いのでしょうか。ネメセイア陛下でよろしいのですか?」
「……そう言えばどうなのでしょう。冥府の者からはサイアーと呼ばれますが」
「サイアー……何かで見ましたね……あれは確か……」
聖騎士の1人に本を持ってくるように指示を出しましたね。
「教皇は呼び方はあるのですか?」
「聖下と呼ばれますね。もしくはポープ・フォースターでしょうか」
「ハンナさんは?」
「私は大体神子様と呼ばれます。ステルーラ様の神子は他にいなかったので」
「なるほど。私も加護を貰っていますが、神子より外なるものやネメセイアの方がインパクトが強いですからね。異人なので聖騎士の護衛も不要ですし……更に言うとこの体も化身なので、やられたところで別に……」
「化身……ですか?」
おや、聖下が知らないのなら、ハンナさんも知るはずがなく。
「外なるものについてどのぐらいご存知で?」
「正直な話、別次元に住む執行者としか……。『ステルーラ様と幽明種』という本はご存知ですか?」
「ええ、読みましたよ」
「あれぐらいしか知り得る機会すら無いもので……」
それもそうですね。執行者として来た場合、しばき倒してサヨナラですし……。死んでも行くのは冥府か奈落なので、当然深淵に行けるはずもなく。
正直ワンワン王とかなら、話しかければ答えてくれそうですが……執行者として来た場合、邪魔と判断されたら纏めてしばき倒されますね。
リスクが高すぎるか。しかもあの見た目ですし。
「ふぅむ……丁度いいといえば丁度いい機会ですかね。ちょっと待ってください」
正直私も新参者。ぶっちゃけ説明できるほど詳しいとは言い難い。じゃあどうするか。聞けばいいじゃないか。ハハハハ。
ステルーラ様の立像の前に行き……ティンダロスの王に呼びかけます。
いつものように? 立像の台座部分の角からニュルッと出てきました。
「なんだ?」
「私も外なるものの一員になった事ですから、色々知りたいと思いまして」
「ほう、良い心がけだ。良いだろう、何が知りたい」
やっぱり面倒見が良いですね、ワンワン王。頼れる王様!
まあ、私関係だとこっちに来ても良いようで、その辺りも関係してそうですが……この際そこは気にすまい。
聖下達にも聞いていて貰いましょう。
「まずそうですね……不死者との関係は?」
「直接的なものは特に無い。強いて言うなら同じ女神の……ぐらいか?」
「領域が違いますし、そんなものですか」
「与えられた役割も違うし、接点がない。奴らは魂の管理。我々は断罪だ」
深淵への入り口の1つが冥府にあるというだけで、特に不死者と関わりはないと。
「奉仕、独立、支配がいますが……それぞれ下級と上級がありますね?」
「そうだな。6段階だ」
中級は無い……と。
「化身は一般的ですか?」
「いや、一部のみだな。基本的に化身を持つのは上級の支配種族だ。お前は珍しいが、恐らく……なるのだろうな。期待している」
「ご期待に添えられるよう頑張りますよ。化身についてもう少し詳しく」
「簡単に言えば何らかの方法で作り出した分身だな。お前もそうなはずだが?」
「私は体の一部を切り離した化身ですね」
「そこは種によって千差万別だ。共通しているのが、化身をやられてもまた化身を作ればいいので、かなり質が悪い。しかし基本的に化身は本体より弱体化する。そもそも化身というのがお使い用みたいなものだ」
「お使い用……」
「お前のように本体のサイズが規格外だったり、本体が動けないから化身で動くとか、用途も種や役目によって変わる。化身によって独立した思考を持つ者もいるが、より稀だな」
上級の支配種族ですか。ティンダロスの王である、固有名持ちのミゼーアすら下級の支配種族なんですよね。
独立した思考……プレイヤーなのでまず無理でしょう。ニャル様とかですかね。
「お前が会った女神ステルーラも化身だぞ」
「ああ、そう言えば冥府の本に書いてありましたね」
「あとは門番もだ。古ぶるしきものな」
やっぱりあれもそうなんですね。ヨグソトースの化身なので、そうなのかなー? とは思ってましたが。
女神直々にチェックしているのですか。
「ふと思ったのですが、外なるものはステルーラ様限定なんですか?」
「ふむ? いや、違うな。だが深淵にいるのは女神ステルーラ信仰だ。女神シグルドリーヴァ信仰は神獣と言ったか。女神ハーヴェンシスは……神木だったか?」
「神獣に神木ですか……そう言えば、聖獣を見たのですがあれは?」
「神獣候補者みたいなものだな。神獣見習いでも良いが」
やたら知能が高かったのはそれですか。
まあつまり……地上からすると執行者である外なるもののインパクトが強すぎて、外なるもの=執行者。『ステルーラ様と幽明種』の本の影響も高そうですね。
しかし実際は、輪廻から外れた者達の通称が外なるものなので、信仰対象や種族によって呼び方が違う。
ステルーラ様は執行者。シグルドリーヴァ様が神獣。ハーヴェンシス様は神木。神木がちょっと合ってるか怪しそうでしたが、他に出てないので神木という事で。
執行者の候補が不死者。神獣の候補が聖獣。神木の候補は……なんでしょうね。
《識別》で信仰対象より外なるものが上なのは、これが理由ですか。
教皇が暇なわけもありませんし、このぐらいにしましょうか。
「では、また何かあれば聞きますね」
「うむ、ではな」
ワンワン王は角から消えていきました。
そして、少し前に送り出されていた聖騎士が本を持って帰って来ていたので、それを受け取ります。
「えっとサイアーは……ああ、これですね。王または支配者などへの呼び掛けとして、かなり昔に使われていた……と」
「常夜の城にいるのは古参達ですからね……その時代の人達かもしれません」
「不死者ですから、十分にあり得ますね……」
「ちなみにいつ頃ですか?」
「大体700年ぐらい前ですね」
「ラーナが大体600……宰相はそれ以上でしょうから……そうですね。その時代の人達かと」
私としては別に何でもいいんですけど、立場的にはネメセイア陛下とかネメセイア様が安定なのでは? 不死者以外からサイアーと呼ばれるのもなんか違う気がしますし。
「では……そうですね、ネメセイア様でよろしいですか?」
「構いませんよ」
更に少し話していると、聖下に時間が来たようなので撤退しましょうか。本来トップは忙しいものです。私は宰相が全てやるので楽ですが。
奥へ戻るジャスミン聖下を見送り、ハンナさんとアルネ司祭に挨拶して始まりの町へ転移します。
流石日曜日のお昼タイム。人多いですね。まだ王都まで行ける人は少な目でしょうか。まあ人数の大半は3陣なので、散らばるのはもう少し先でしょうか。
んー……丁度時間が空きましたし、少しだけ早いですが、昼食にしましょうか。
昼食やらその他諸々を終えてからログインです。
「お、やあ姫様」
「ん……ああ、調べスキーさんですか。ごきげんよう」
「丁度いいや、姫様今時間あるかな?」
「あると言えばありますよ。スキル上げでもしようかというぐらいですから」
「お、情報提供にご協力下さい。姫様結構ゲームするね?」
「ええ、そこそこやってきましたが……」
「教会について情報が欲しいんだ。具体的に言うとWikiに書くぐらいの」
「あー……クレス教についてですね?」
「いえす。姫様が一番詳しいだろう……という、検証班の満場一致でね!」
「神官プレイしてる人とかではなく……ですか?」
「んー……組織の内情を知るならそれでも良いだろうけど、俺ら別にパパラッチじゃないからね。姫様アプデ情報見た?」
「あ、出たんですね。まだです」
「今度のアプデでギルドのサイトや個人ブログ的なのができるようになるんだよ。勿論ゲーム内で。そこで我々、ギルド検証班はWikiを作ろうと言う話になってね」
「そのWikiのため、教会のページに書くような情報が欲しいと」
「いえす!」
これからは掲示板を漁らず、検証班のWikiを見に行けば良さそうですね。そして教会の情報が欲しいと。Wikiということは、大まかな概要ですね。
検証班の纏めにはお世話になっていますし、協力しましょうか。
「構いませんよ。ついでに冥府や深淵の情報もあげましょう」
「お、それはありがたい! じゃあご馳走しよう」
なんでもプレイヤーが作った喫茶店があるらしく、そちらへ移動します。
「渋いおじさんがやってる隠れた名店的な落ち着いたお店と、女性客中心のちょっとメルヘンチックなお店、どっちが良い?」
「どっちが美味しいですか?」
「言っといてあれだけど、ぶっちゃけ姫様的には前者だと思う。お嬢様グループの出入りを確認しているからね!」
「おや、エリーにアビーですか」
「すげー高かったけど美味かった。正直あれ、本職じゃないかと思ってる。知名度的には後者なんだけどね」
「前者のプレイヤー名は分かりますか?」
「えっと……マギラスだね」
「なるほど。ではそちらで」
やはりマギラスさんでしたか。もはや一択ですね。
裏路地というほどでもないけど、大通りなどでもない。そんなまさに隠れた名店的な感じでひっそりと佇んでいました。
「いらっしゃい……おや、ようこそ」
「こんにちは、マギラスさん。お店持ってたんですね?」
「つい最近ね」
2人席に座り、紅茶とケーキを注文。
そして、早速調べスキーさんと情報を纏めます。
「まずこの世界の教会は、創造神クレアールを主神としたクレス教。よって教会のシンボルも十字架ではありません。主神を含めた4柱に関してはおいておきます」
「うんうん。神々については今は良いや」
「教会のトップ、教皇はジャスミン・フォースター聖下。少し前に変わったらしく、年齢は30代の女性。午前中に挨拶してきました」
「ほほう。こっちの宗教は性別関係なさそうだな」
「そうですね。4柱が女神だからでは? 始まりの町にいるルシアンナさんが総大司教。教会の役職では上から3番目ですね」
「ほう。役職について詳しく」
「今私が知っているのは教皇、枢機卿、総大司教、大司教、司教、司祭、助祭、修道士と修道女ですね」
「……カトリック系?」
「恐らく元は。ちなみに修道士と修道女は聖職者見習いです。それと修道院長という孤児院の先生がいますね。聖職者というより経営者寄りですが、結構偉いです。司祭と司教の間ぐらい」
「ふむふむ……」
「聖職者のローブは刺繍無しが修道士と修道女。赤が助祭、緑が司祭、灰が司教。大司教や枢機卿、教皇は金というか黄色ですが、それぞれデザインが違う。ローブ自体の色は、身に着けている人『個人』の信仰対象の色ですね」
「へぇ……そんなところまで。信仰対象の色とは?」
「4柱の髪の色です。赤、緑、灰、金(黄色)に白が基本色。特定がいなければ紺と白になります。始まりの町で紺の黄色刺繍はルシアンナさんしか見てませんね」
まあそもそも教会に行って大体会うのは、カトリックで神父と言われる司祭です。ルシアンナさんは基本奥で書類仕事でしょうね。時間が空いた時に礼拝堂にいるのでしょう。遭遇確率はそんな高くないはずです。
「後は……神子でしょうか。由来は神の愛し子。要するに神の祝福称号持ちです」
「姫様も持ってるんだっけか」
「そうですね。祝福持ち全体を神子と呼び、シグルドリーヴァ様は戦人、ハーヴェンシス様は聖人に聖女だそうです」
「クレアール様やステルーラ様は?」
「クレアール様は不明ですが、ステルーラ様が由来らしく、神子のままですね」
「ほほう……」
「神子にも位があるらしく、祝福が3位、加護が2位、慈愛が1位だそうです」
「身分社会は大変だなぁ。姫様は?」
「私は加護なので、神子では2位ですね。先程挨拶に行った時に、ステルーラ様の盲目の神子とお会いしました。こちらも2位でしたね。加護でも相当らしいです」
「慈愛が激レア。加護も相当。祝福持ちだけでも十分……と」
「彼らは全員が聖職者というわけではなく、後ろ盾として教会が付いているだけです。教会の戦力……聖騎士ですね。彼らが護衛に付き、お世話役も付くそうです」
後は冥府や深淵の方ですが、こちらは正直私もあまり知らないので、とりあえず目撃した種族などの情報をあげましょう。
「ほほう……宰相がアーウェルサエルダーリッチね……」
「運動会の時に出てきた英雄の女性ですが、スヴェトラーナ・グラーニン・エインヘリヤル。南のディナイト帝国、約600年ぐらい前の大英雄らしいですね。冥府では軍の責任者です。私の剣の師匠ですね」
「お、やっぱりそうなんだな。構えが似てるとか少し話題になってた。しかし600年とはまた……」
そして深淵で見た種族も。
「ムーンビーストとティンダロスの猟犬、ティンダロスの王、ショゴスは確認してるな。後は運営の話からして嘆きの聖母たちか」
「深淵にも常夜の城のような古城があるのですが、宰相がニャル様でしたよ」
「ナイアルラトホテップ!」
「ちなみに神父の格好でした」
「……ナイ神父?」
「恐らく……。黄色いドゥルっとした何かはまだ見てません」
「本体だっけか」
「後はミゴにイスですね。見てませんがルルイエがあるのでクトゥルフ。そしてハスターもいるでしょうし、クトゥグアの名もニャル様から聞きましたね」
「マジで深淵がクトゥルフ系統か」
「クトゥルフ系統を出すにあたって作ったエリア……みたいな感じですね。ミゴとイスが友好関係にある技術者で、機甲種の原型が彼らが作ったものだとか」
「マジで?」
「ティンダロスの大君主、ミゼーアが言っていましたからマジかと。今じゃロストテクノロジーな古代遺跡系統らしいですが、彼らの時代の物だと」
「スクープだな! マシンナリーは?」
「マシンナリーはその後の進化かなにかなのでしょう」
「自我が生まれたんかねぇ……。ま、これだけ情報集まれば十分か。助かる」
「いえ、ごちそうさまです」
パクパクしながら話していました。流石マギラスさん。とても美味しいです。
「レディ、サービスでございます」
「あら、ありがとうございます」
「お連れの方もどうぞ」
「ありがとうございます」
美味しくいただきますよ。
「この店サービスあるのか……うめぇ」
「まあ、三ツ星シェフですからね」
「……マジ? 三ツ星ってあの三ツ星?」
「恐らく思ってるだろうあの……ですよ」
「そりゃ美味いわけだが……」
「なぜゲームしてるかはリアル側の問題なので聞いてませんが、美味しいのが食べれるので特に問題はありません」
「それもそうだな」
食べながらついでとばかりに魔女関係の情報も纏めます。分かっている事は少ないんですけどね。魔女のランクと名前ぐらいでしょうか。
食べ終えたら用事も済んでいるので撤退します。
「じゃあ姫様、助かったよ」
「いえ、ごちそうさまです」
「またどうぞ」
お店を出て、調べスキーさんと別れてレベル上げに向かいましょう。
《縄》ついでにキャパシティもためましょう。
こう、ゲームで出てくる組織の設定とか気になるよね。
それはそうと、重版分が書店に並び始めたようなツイートを見ました。
メールでは昨日7日とかだったので、高い値段で買う必要はなくなった……と思います。
そしてこの作品を上げて1年が経ちました。時の流れが早い。