57 現世と幽世
準備と戦闘でこれと言って書きたい事が無かった故、掲示板回無し!
それよりお盆だ。冥府に行こう。作中だとお盆過ぎてますけど。
今日は起きてからゲームに入らず、ゆっくり朝を過ごしてから待ち合わせに合わせてログインします。
昨日はここでログアウトしてましたね。特に準備する物もありませんし……いや、組合に寄って整理しておきましょうか。
イベント中はMPの問題から《空間魔法》がほぼ上がってません。戻ってきたのでまた上げていきたいところですが……これから行く場所が場所なので、【インベントリ拡張】は使わなくていいですかね……。
ん? 付けられてますか? PKですかねぇ……コソコソしてる時点で怪しさしかありませんよ。丁度組合行きますし、PK前提で預けておきますか。
1万単位で預けているので、手持ちが2kになってしまいましたね。まあ、旧大神殿エリアも格上なので良いとしましょうか。
セットなどは料理キットに統合して……と。
こうして改めて持ち物を見ると、私レアアイテム持ってませんね……。強いていうなら闇のパーツや……サーロインにヒレ?
我ながら、PKする価値が皆無ですね……。行動範囲の狭さがここに……。いや、そうか。キャパシティのために取り込んでしまうせいですね。ワンチャンボスの討伐報酬だった指輪ぐらいですか。
ワールドクエストの報酬であるトリフィドの木材系は、後でプリムラさん行きですね。どうせ自分の装備はこれでしょうから、お金は下僕用の装備に使うべきでしょうか。ハウジングも……。
まあそれはそうと、行きますかね。
中央広場の立像からベルステッドへ移動します。
「お、やあ」
「おはよう!」
「おはようございます」
「早速行くかい?」
「そうしましょうか」
PTに誘い、所持金などの確認をします。なんかPKっぽいのに見られている事も伝えておきましょう。勿論PTチャットで。
「ほほーん?」
「2陣も来て1ヶ月近くは経つからねぇ……そろそろ活発に動き始めるかな?」
「PKとPKKはMMOお馴染みですけどねぇ……」
全員で馬を召喚し、北へ向かって移動を開始します。
「しかし姫様狙うとは、命知らずだねー?」
「弱点がはっきりしている以上、狙いやすさはあるんじゃない? 問題はリターンとリスクが噛み合ってなさすぎる事だけど……」
「姫様狙う時点で正気とは思えないしー……私怨じゃない?」
「妬みとかが理由ならリターンは度外視か」
「小さい人間ですねぇ……。MMOで他者を気にするだけ無駄だと言うのに」
「「まったくだ」」
北の森を馬で駆け抜け、旧大神殿エリアに突入します。
あれ? これソロで来て……ワイバーンに乗って行けば早かったのでは? 空ってフライングヘッドしかいなかったような……。
まあ、既に遅いので地上を倒して進みましょうかね。
「目的地は中央です」
「ある程度は調べておいたけど、あまり情報が無かったねぇ……」
「何しに行くんだい?」
「おや、言ってませんでしたっけ。冥府への入り口がありそうなんですよ」
「「ほほーう。気合い入れていきますか」」
2人にここの説明をしておきます。ここは何より増援と連携が問題ですからね。
「んー……いっそPT分けてフル召喚しての、レイド組むー?」
「ああ、確かにありだねぇ。2人の召喚体ならここでも通用するでしょ?」
「なるほど。呼べるのは4体までですね」
「僕が抜けるからアルフはそのまま」
「分かった」
複数PTで組むレイドで、スケさんを誘います。
キャパシティを考えると……アーマーだけ30ですかね。他は20のままで上乗せと、ワンコにカスタムで6000と。
アーマー、スケルトン、スケルトンウルフ、アウルの4体。アウルには《閃光魔法》を持たせておきます。
「良いですか一号。バーストは禁止です。それとエクスプロージョンは私が言った時のみ、言った場所にですよ。普段はそれ以外で戦うように」
「カクン」
全員30で上乗せかつ、ウルフにはカスタム2箇所で召喚できるキャパシティが欲しいですね。つまり8100。後1800ぐらい足りませんか。
ワイバーンなどを考えると……うん。
「竜種を使いたいけど……キャパシティなんとかしないとだなー」
「ですね。8・7で17はちょっと……」
「ほんとねー」
基礎で8倍の上乗せ7倍。1体で17000は飛ぶので辛いですね……。現状レギュラー入りは無理です。
森だとサイズの問題もありますからね。まあ、状況に合わせて変えられると言うのが使役系の利点なので、ちゃんと選択しろよって事なんでしょうけど。
アウルにしましたが……森ならスパイダーもありなんでしょうか。結構試してない素体があるんですよね。
それはそうと。
「頭が来たら私が殺りますので、地上をお願いしますね」
「「おっけー」」
アルフさんは遠距離がない。スケさんは敵の魔法を防ぐのが大変なので、私が対応するのが一番楽でしょう。
《魔法触媒》のアーツに【マテリアルバリア】と【マジックバリア】があるんですよね。スケさんはこれで防ぎます。強度が知力と精神依存だとか?私も《魔法触媒》取りましょうかね? このレイピアでも機能しそうですし。
でもSPを考えると……怪しいですかねぇ。《HP超回復》や《高等魔法技能》を見る限り2次スキルは30が上限ではない。そう考えるとまだ余裕はあるかもしれませんが……。
おっと、空飛ぶ頭が来ましたか。
飛んでくる敵の闇系統魔法を反射しつつ、こちらも魔法を撃ちます。
「この頭、反射練習に良いかもしれませんね」
「飛行系は当てるの大変だからねー」
「まあ時間掛けるわけにもいかないので……一号」
背後からアウルに後頭部へ【ルーメンショット】を撃たせます。止まったところで私も【ライトランス】を放ち倒します。体力は低いですからね。
さっさと進んで行きましょう。
召喚体合わせ11人ほどいるので、スムーズに進んでいきます。こちらのレベルが上がったのもあるんでしょうけど、ある程度は楽になりましたね。
「お、盾に剣に弓か。バランス良いじゃないのー」
「倒せはするんですけど、先に行ける気はしなかったんですよね」
「アーマーは持っとくから、他よろしく」
「姫様弓でいいー?」
「構いませんよ」
アウルは私とスケルトンアーチャーに行き、アーマーをスケルトンソルジャーに当て、他はアルフさんのアーマーに向かわせます。
ソルジャーは私のアーマーが持ってる間にスケさんがボコるでしょう。アーチャーは私とアウルが光を持っているので、すぐ死ぬでしょうし。アーマーは終わり次第ボコれば良いでしょう。
アーマースケルトンアーチャーに矢を反射してもいまいちですね。矢は刺突判定ですから、軽減されます。
とは言え、パリィ以外にも反射という選択肢が増えたのは良いですね。軽減であって無効ではないのですから、無駄にはなりません。
【ライトアロー】や【ライトランス】を撃ちつつ、敵が弓を構えたら【ロイヤルリフレクト】を使用して、レイピアを《危険感知》のラインに持っていき、後は微調整するだけ。
パリィより必要動作が少なく済むので、是非極めたいところ。《野生の勘》や《弱肉強食》が増えたので、システムアシストは十分そうですね。
アウルがアーチャーの真上から【ルーメンショット】を打ち込みゴリっと減らし、私の攻撃で倒します。
スケさんの方はもう倒せますね。アルフさんの持ってるアーマーを殺りますか。
「アルフさんそいつ飛ばせますか?」
「ん? まあ、可能だと思うけど」
「では、【ルーメンマイン】」
「なるほど」
私と下僕達は離れます。
「相手をボールにシュート!」
「超エキサイティン!」
アルフさんのネタ発言に反応するスケさん。
アルフさんが馬に乗り、少し下がってから馬が後ろ蹴り。それによりアーマーがノックバックして、私が背後に置いた【ルーメンマイン】に突っ込み南無三。
素晴らしい威力ですね。
「うん、楽でいいね」
「そう言えば姫様。マインって【念力】で動かせるらしいよ」
「まじですか」
「ボールは友達さ! 蹴ったら死ぬけど!」
「まあ、私達が【ルーメンマイン】蹴ったら死にますね……」
スケさんの方も終わったようです。先に進みましょう。
「僕も《付与魔法》取ろうかなぁ?」
「アンデッド対策ですか?」
「んだー」
「同じ種からタゲは来ないとは言え、一種だけってのぶっちゃけほぼ無いよね」
「ですねぇ……PT組んでたら置いてくわけにもいきませんし?」
「まあ、下僕達の物理でも良いんだけどー。あればアルフにも使えるじゃん?」
「属性武器がまだ無いからなぁ……」
ファンタジーお決まりの属性を持った武器がまだありませんからね。それと蘇生系もありません。そろそろ見つかってもいいと思うのですが……。
「喰らえ、必殺! 素殴り! ……うお、杖の耐久結構減った!」
「何してんだお前……」
魔法触媒の杖は打撃用ではない……。
相手がアンデッドなので、闇も影もいまいちですからね。スケさん本体は暇なのでしょうけど……。
寄ってくるアンデッド達を倒しつつ、クエストマークの出ているエリア中央へと順調に進みます。全員30超えているので、サクサクですね。
ようやく人工物らしき物が見えてきましたが……。
「む? フライングヘッドですか。外周と中央付近にいて、中間にいないと」
「姫様が上見るようになると……僕もアーマー出しとくかなー?」
「……これ無理じゃね?」
大神殿があったからには結構発展したのでしょう。つまりそれなりに開拓がされていたはずなのですが、永い間放置だっただけあって自然に飲み込まれています。
ただ、それなりに開けているんですよね。つまり今までと違って少々見通しが良い。アンデッドの十八番、数の暴力が発生するはず。
「んー……フライングヘッドはスケルトン系ですか……。一号、アウルで町を見てきてください」
「カクン」
「【ビジョンシップ】」
「ああ、なるほどー。上もアーチャーもどっちもスケルトン系かー」
人外系の利点として、同じ系統からはタゲが来ません。
それを利用し、アウルの視点を共有して偵察です。
「植物に飲まれてますね……。入り口は東西南北。敵が……いない?」
「敵がいない……理由はなんだ? それ次第では突っ込むのが正解かな?」
さて、ルシアンナさんはなんと言ってましたか……メモ……メモ……。
えー……破棄した理由がアンデッドが集まったため。原因はステルーラ様の立像だけだったから。
よって、今の教会には4柱全ての立像が揃えられている……と。
「像が原因なら、町中までアンデッドが入って行かない理由はなんだろね?」
「今もステルーラ様の立像だけなんかねー?」
「なるほど。確かにその辺りが気になりますね」
「とりあえず一旦移動しようか。入り口正面辺りに」
「そうしよか」
リンクしたら堪りませんので、一度離れてから入り口が見える場所へ移動します。
移動の際に横にいる一号に指示を出します。思えばクラウド制でどれも一号なのですから、近くにいる別の素体に指示を出せば良いんですよね。
という事で移動後落ち着いてから、アーマーでも釣って町へ飛んでもらいます。これでアーマーがどうなるか。
アウルに反応したアーマーはアウルを追って町へ。そして中央に行くにつれスピードが落ちて……崩れ落ちて消えました。
「ふむ。少しエフェクトが特殊でしたね。あれが浄化でしょうか」
「寄って来てるのに寄り過ぎると浄化されるのか……いや、むしろ浄化されるために寄ってくるのか? 分からんけど、突っ込むのが正解かな」
「ですね。スケさんはもう、飛んでいって良いのでは? 私は……地上行きますかねぇ……」
「ふむー。突っ走るのに向いてないしそうしよっかなー」
「姫様は……頭はともかく、アーチャーが反応するだろうからね」
という事で、ワイバーンを召喚したスケさんを見送ります。
「では私達も行きましょ……ん?」
「あれ?」
「あ、なんかソロクエスト中になってますね」
町の範囲に入った瞬間スケさんの姿が消えて、フレンドリストを見るとソロクエスト中という表記が。
『なんか始まったんだけど、これ姫様が行った方が良かったんじゃー?』
「多分私が持ってるクエストとは別のだと思いますが……」
『『冥府へと至る道』だってー』
「別のですね。しかし最終的な目的はそれだったので、結果オーライです。私達も行きましょう」
「突っ走るかねぇ」
一度全部送還して、馬で呼びます。アルフさんも自前の馬に乗り、いざゆかん。
進行上のアーマー以外は突っ込み、飛んでくる弓と魔法は当たるのだけ反射したり受け流します。アルフさんは全て防げばいいので、むしろ私より楽でしょう。
入り口から町中へ入った瞬間、横を走っていたアルフさんが消えて隔離されました。敵も来ていないようですね。
『冥府へと至る道』
死後の世界であり、不死者のエリート達が集まる冥府。
そこへ至る道にて試練を受け、認められれば冥府へと行けるだろう。
1.旧大神殿へ向かおう。
発生条件:不死者
達成報酬:冥府への通行権
なるほど。しかしまずはルシアンナさんのクエストですね。
旧大神殿の場所はクエストマークが出ているので、早速そちらへ向かいましょう。
うん、ボロボロ。下手なことしたら崩れてきそうですね……。
石造りですが蔦が巻き付き、壁も崩れています。ただ、柱などはまだ機能しており、最低限の形は保っている……と。
完全に廃墟ですが、これはこれで雰囲気ありますね。リアルではまず見ない光景なのは間違いないですし。
朽ちた建物とのびのび育つ植物。これはこれで好きですよ。
さて、観察はやめて中行きますか。
壁が崩れたりしてるので、中の保存状況も最悪ですね。植物入ってますし。
後ほど見て回って、何かあったらルシアンナさんに渡しても良さそうですね。ステルーラ様の加護を得ようとしているので、余計なことはなるべくしたく無いのですよ。かなり前らしいので、既に持ち主はいなさそうですが……冥府にいたりして。
ここですか、礼拝堂。他に比べると不自然なレベルで綺麗ですね。
大きな扉……は無理でしょう。横に付いてる小さい扉を開けて中へ入ります。
まず目に入ったのが、大きなステルーラ様の立像。そしてその両サイドに残り3柱の小さな立像が。
この3柱、明らかに即興ですね。当時の状況は知りませんが……立像のサイズによって効果が変わるとすれば、今の状況は分からなくもないですかね?
小さな立像では大きな立像を無効化できずアンデッドが集まるが、町の範囲ぐらいは浄化が効いている?
とりあえず【洗浄】を使っていきますか。範囲的に余裕でMP足りませんね。回復を待ちながらやりましょう。セーフティーエリアなようで、すぐできるでしょう。
『4つの立像は揃えて置かないとダメ』というのをここの事件で分かった……的な事を言っていたので、判明してからアンデッド達を掻い潜り小さい立像3つを置いたのでしょうか。
しかし中央広場にある立像は単品だったような……実は製法が違う別物なのでしょうか? 効果が違うような気がしなくもないですし。
ステルーラ様の立像を砕くのが最速なのは間違いないでしょうが、やりたくなかったのでしょうね。
さて、これで……足りますかね?
〈クエスト:『旧大神殿礼拝堂の掃除』を達成しました〉
〈特定の条件を満たしたため、『ステルーラの祝福』を取得しました〉
ステルーラの祝福
副神ステルーラからの祝福。
空間系魔法のコストが軽減される。
※神々から貰える称号について
この世界で行動していると、神々から加護が貰える事があります。
その加護は貰う度に強くなり、祝福→加護→慈愛と名前が変化します。
加護は称号で表示され、その効果と名前は加護をくれた神々次第です。
そして、くれる条件も神々次第です。
もし加護を望むなら、神々の目に留まるような行動を取りましょう。
勿論良い意味で。悪い意味で目に留まると、外なるものという刺客が……。
つまり祝福が加護の1個下と。装備に変化がないのですが……加護まで行かないとなんでしょうか? それともまだ条件が何か足りないんですかね……。進化が必要ですとか出てますね……はい。
冥府のクエストは……ステルーラ様の立像の裏から……?
うわぁ……地獄への入り口って感じがしますね。この地下より下へ行くであろう真っ暗な階段、中々勇気必要なのでは? いえ、行きますけど。
カツカツと足音を響かせながら降りる事しばらく、突然視界が開け何やら通路に出ました。
「おやおや? 客人とは珍しい。さあこちらへ」
通路の先は開けているのが見えるので、そこから声がするのでしょうね。
『認められよう』ですか……ここで試練とやらをするのでしょう。行きますか。
「ようこそ、エリートを目指すふし……しゃの………………」
ようこそ、歓迎するよ! な笑顔だったのに、段々真顔になってますが、大丈夫ですか? と言うかこの人、ちゃんとした肌してますね。
「冥府へ行くにはここで試練を受ければいいのですか?」
「…………ひ、姫……だと? ……どうぞ、試練など良いので……いえ、ご案内致します。こちらへ」
あれ……試練……まあ、良いというのですから付いていきますか。……どうやら部屋が何個か通路で直線に繋がっているだけですか?
この人レベル80のゾンビ系ですね。《高位不死者》のマーダークレアスですか。
「早くないか?」
「待ち人来たり……だぞ」
「なんと……」
「ごきげんよう?」
今度はアーマー系ですね。《高位不死者》で、リーサルナイト。レベルは90台。
部屋自体は中央にリングというか、一段高くなった舞台がありますね。近接戦闘系の試練なのでしょうか。アーマーの人ですし。
しかし結局試練は全てスルーし、最後の部屋から続く通路には再び黒い階段が見えます。
部屋を通る度に付いてくるのが1人増えたのですが、《高位不死者》しかいませんね。試験するところなので、高レベルがいるのでしょうけど。
「少々お待ちを。今宰相にどうするか聞いてまいりますので」
「宰相がいるのですね?」
「城にエルダーリッチが」
「エルダーリッチですか」
座れと促されたので座ります。大人しくしてましょう。戦闘になったらまず勝てませんよ。格上と言うか、ラストダンジョンレベルですよ……。
どうやら全速力だったようで、全然待つこともなく戻ってきました。
「寄り道をせず真っ直ぐ城へ来て欲しいと言っていました」
「待ちに待ったからなぁ……。お祈りは?」
「絶対にスルーしてまず城に連れてこいと」
「そうか。宰相が言うからには意味があるんだろう」
「無駄な進化をすることになり、成長限界が早まるとか物凄い気迫で言われた」
「さあ、真っ直ぐお城へ向かいましょうか」
宰相進化ルート知ってるんですね? 無駄な進化とかゴメンですよ。しっかり聞きましょう。
1人に連れられて通路先の階段を降りると……広がった視界には巨大な川が映ります。間違いなくキロ単位ですね……。
「お待ちしておりました。ようこそ、王の器を持つものよ。我らは歓迎致します。さあ、お乗りください」
……トリンさんの進化系でしょうか。船に乗り、対岸へと運ばれます。
私が乗っている船以外にも沢山あり、別の船では現在進行系で霊魂が運ばれていますね。この船には私と案内の人だけです。
どうやら不死者が試練を超えて来る場所と、霊魂が来る場所は乗り場が結構違うようで。
霊魂とは出ていますが、見た目的には地上と変わらないのでは? まあ、その辺りは後々ですね。
「……巨大な川の割に、言うほど時間掛かりませんでしたね?」
「死んだことを受け入れるための航海です。今回はそんな必要が無かったので」
「なるほど……では行ってきます」
渡し守の人に見送られ、今度は霊魂さん達と道沿いに進み巨大な門へ。貴族のお屋敷って感じでしょうか。
列ができている横を素通りするようですね。
中はドラマで出てくるような、裁判をする場所でしょうか。裁判長の役職が閻魔になっているのはスルーしましょう。みなまで言わなくても結構。十分察せます。
「通りますよ」
「本当に来たのだな……ようこそ」
「お城へ行ってきますね。挨拶などは後程」
「うむ、皆もそれを望むだろう。早く行ってあげてくれ」
右側を抜けて建物を出ます。
「ここが冥府です。左に抜けると奈落になります」
「なるほど。見えているあれが常夜の城ですね?」
「そうです。ボロいですが、それも今日までの話です。さ、行きましょう」
今日までの話……王家が来れば修繕許可ができる? 逆に言えばいないとできないとか? それは……ちょっとあれですね。
冥府の中央広場にもステルーラ様の立像があるんですね。
宰相……エルダーリッチの言う通り、そちらはスルーしてお城へ向かいます。
エルダーリッチと言えば、スケさんやアルフさんは大丈夫でしょうか? フレンドを見る限り、2人はまだ試練中でしょうかね……。
まあソロクエスト中は邪魔しないように、こちらからは連絡とりませんけど。味方のいないソロクエストは、1回のミスがそのまま死に繋がる事が多いですからね。カバーしてくれる味方がいないのです。オプションでソロクエ時のメッセージなどはどうするか設定できますからね。突然のコールで集中力が途切れる事故防止です。
冥府は割と賑やかと言うか、ワイワイしてますねぇ……。地獄というよりは天国に近いのでしょうか。普通に巨大都市ですね。かなり薄暗いと言うか、夜ですけど住民は霊魂なので、暗視でも持ってるのでしょう。
さて、このゲームで初めて見るお城ですね。……ボロいですけど。と言うか城に限らず、建物が全体的にボロボロでしたね。
「ささ、こちらですよ」
見て回ったりとかもせず、どこかへ連れて行かれます。宰相なら……執務室とかでしょうか?
メイドさんもいるんですね。さっと横へずれて道を譲り、頭を下げています。うん、姫になった実感がします。
メイドさん以外にも騎士などもいて、ピシッとしますね。
まあ、見た目はかなり様々ですけど……。骨だったり鎧だったり、霊体だったり。人の形してるだけマシですか。……このハードルの低さ。
やってきたのは豪華で大きな扉の前。両端にアーマーの人が立っています。当然のように90台。お城に入ってからメイドさんすら最低60台。
ラストダンジョン過ぎて笑えますね。
ところでここ、玉座の間とか謁見の間では?
アーマーの2人にゆっくり開かれた先は……うん、そうですよね。
高台になっている場所に豪華で大きな椅子。その横に立つ骨の人。
「真っ直ぐお連れしましたよ宰相」
「ご苦労。お祈りはしてないだろうな?」
「してませんよ」
「玉座に座って貰い所有者を確定してからお祈りに行く」
「では伝えておきますよ」
「頼んだ」
幽世の老賢者ですか……レベル100。
そしてお祈り前に椅子に座る……というフラグ回収が進化先に影響ですか……。
私を案内してくれた人はさっさと退場。
「器も魂も不足なし。異人というのは些細なことか。……どうぞ」
「良いのですか? いきなりそこへ座らせても」
「魂の色を見れば分かります。そしてステルーラ様の加護も持っておりますな?」
「ここへ来る前に貰えましたが……」
「問題のある者は貰えませんからな。かなり厳しいので」
座らないと進まなそうですね。そんな簡単に玉座座らせて良いのか状態ですが、良いと言うのならいただきましょう。
玉座に座ります。
〈玉座に座りました。支配下の者達に力が与えられます〉
〈特定の条件を満たしたため、『称号:幽世の支配者』を取得しました〉
〈ホームを手に入れました。ハウジングシステムについてはヘルプをご覧下さい〉
〈〈幽世に新たな王が誕生しました。幽世が本来の力を取り戻します。これにより異人達のデスペナルティが変更されます〉〉
ん……? 最後? うわ、ハウジングメニュー開いた。
「ああ、素晴らしい。ようやく……ようやく王家が……仕える者が……」
宰相、感動してるところすみませんが、今それどころではありません。帰ってきてお爺ちゃん。姫が困ってますよ。
上3つはまあ、分かります。確認する必要はありますが、別段問題はありません。
問題は最後、君はダメではないかな? しかも全体のシステムメッセージとか。
とりあえずまずは……。
「宰相!」
「なんですかな?」
「幽世というのは?」
「冥府と奈落ですな。ステルーラ様の領域全てを指す場合は冥界ですぞ」
なるほど。幽世の支配者は冥府と奈落の支配者ということですか。
「ちなみに表……地上は現世と呼ばれますな」
「なるほど」
「まあ大体はこの世とあの世」
「まあ……そんなもんですよね」
ハウジングメニューは……ホームがでかい! これ完全に城丸々1個ですね。庭で野球でもできるのでは?
騎士や侍女など、城の住人はお助けNPCとして機能するようですね。
「ところで、なんか綺麗になりましたか?」
「王が来た事で活性化されましたからな! これが本来の姿ですぞ。手を加えたければ好きにして構いませんぞ」
座った瞬間にシステムログと同時にエフェクトが入りまして、まず宰相にワールドクエストと同じ? 《王家の権威》による赤い光。恐らく支配下全員。つまり冥府と奈落にいる不死者全員に?
そして玉座から光の波紋が出て、通った後は綺麗になっていました。
確認する事が多すぎますね……まずはデスペナから見ますか。
えー…………ハウジングにありますね?
デスペナルティ(通常)
デスペナルティ(レッドプレイヤー)
通常の死亡と、PKが死んだ時の2つですか。
……ああ、なるほど。死んだ時直接広場などのセーブポイントで復活ではなく、1度冥府を経由するようになったのですか。
ここで設定できるのは、冥府からセーブポイントに戻る際の金額設定。
つまり今まで死んだ時ロストしてたお金が、冥府に入ってくるわけですか。
PKされた場合は……冥府では特にお咎め無しなんですね。
PKが死んだ時は……プレイヤーまたは住人に倒された場合、牢獄エリアに放り込まれるだけ。魔物とかに倒された場合、ロストしてた分が冥府に入ってくると。
基本的に所持金以外は今まで通り処理をした後、冥府に来て設定に従いお金の処理をして、セーブポイントに戻る……ですね。
他者のデスペナで拡張ができる。なんと素晴らしいのでしょう。うっかり預けず死んで下さい。
それはそうと、今までのロスト金額は通常50%。レッドは75%でしたね。
設定幅は10%から100%です。30%の50%にしてあげましょう。
〈〈死亡時冥府募金金額が変更されました〉〉
〈〈通常プレイヤー:50%→30%へ〉〉
〈〈犯罪プレイヤー:75%→50%へ〉〉
これでよし。
次は称号の確認。
幽世の支配者
幽世の者達への命令権を持ち、デスペナルティが軽減される。
常夜の城がホームになり、幽世の拡張が可能。
なるほど、良い称号ですね。私は死んでもお金を払う必要がない。
異人達の霊魂の来る場所は、住人の霊魂とはまた別なようですね。募金が集まり次第、豪華にしてあげましょう。なんかハウジングアイテムありますし……。
自分達のデスペナで建った教会を刮目せよ……。
さて、ハウジングをガン見する前にですね……。
「宰相、先に進化したいのですが?」
「では中央広場へ行きましょう」
ステルーラ様の立像へ向かうのですね。宰相に付いて、来た道を引き返します。
少々ボロボロで朽ち気味だった内部も、すっかり新品同様ですね。
ハウジングメニューで間取りが見れるので、迷うことはないでしょう。確認のために軽く見て回るぐらいで済みそうです。
お城の割に少々寂しいのは初期だからですかね。これから好きに拡張していけるようにしているのでしょう。この辺りはまあ、ゲームですか。
ハウジングメニューは自分の土地範囲内ならどこでも開ける……。つまり私の場合、冥府や奈落ならどこでも開けると。
「おぉ……クリスタルロータスが咲いている。やはり王がいなくては……」
宰相の見ている方を見ると、ハスですね。クリスタルのように半透明なハスだからクリスタルロータスですか。それが沢山咲いています。
ハスって本来朝だけ咲いていた気がしますが、クリスタルな時点で無意味ですか。後でじっくり見ましょう。
町の方へ降りると騎士達が道を作って待っていたようで、そこを通り真っ直ぐ立像へ向かいます。
最初に案内してくれた人が立像のところで待っていますね。
「お待ちしておりました。お陰様で全体的に綺麗になりました。感謝致します」
「私は特に何もしていませんが……」
「王の有無は重要なのです。これからよろしくお願いします、サイアー」
「こちらこそお世話になりますよ。まだまだ弱いですからね」
「すぐに強くなられますよ。王とはそういうものですから」
そういうものですかね。メタ的に見れば私はプレイヤーなので、成長速度などは圧倒的に早いでしょうけど。
ちらっと宰相に目を向けると、立像に到着したことの報告をすればいいそうです。
早速立像に到着報告をしましょう。
〈冥府へと到達したことにより、進化可能種族が追加されました〉
視界の端で進化マークが自己主張し始めましたね。久しぶりです。
冥府の王女
冥府の正統な王家の一族。
ようやく実家へと帰ってきた。
幽世の王女
冥府の正統な王家の一族。
冥府と奈落を管理する、幽世を統べる者。
ネザーとアーウェルサですか。
「アーウェルサ、出ましたかな?」
「ネザーとアーウェルサが出ましたね」
「アーウェルサに進化する事をお薦めしますよ」
「宰相と同じですね?」
「ええ。ネザーではその後2回進化ぐらいが精々です。余りにも勿体無い」
「アーウェルサの方だと?」
「さて、それはサイアー次第ですな。アーウェルサなら深淵への道が開ける……とだけお伝えしましょうか」
「外なるものですか……」
「加護を得られているのです。目指すなら最大限のお手伝いを致しましょう」
「分かりました。では進化したいのですが……」
「寝室へご案内致します」
私とともに道を作っていた騎士達も撤退。この世界で護衛は必要なのでしょうか? と思ったら、久々だから張り切ってるだけでそのうち落ち着くだろうと。
別にこちらに困る事も無いので、好きにさせてあげましょう。
外なるものも不死者も、見た目があれなだけで人とあまり変わらなそうですよね。意思があるからアンデッドではなく、不死者と分けて呼ぶわけで。
それにしても、玉座に座ってから呼び方が変わりましたね。ユアーハイネスではなく、サイアーと呼ばれるのですか。
かなり高度なAIなので、彼らに認められるよう振る舞わないといけませんね。
「こちらを使用して下さい」
連れて行かれたのはお城から離れた豪華な建物。離宮と言われる物でしょうか。
「こちらの建物がプライベートエリアになりますな。なにかあれば侍女、もしくは騎士に連絡を」
侍女はレベル90台のゾンビ系と霊体系。騎士は100のアーマー系ですか。職業がロイヤルガードとは、かっこいいですね。ここにいる以上、近衛騎士でしょう。
「この建物丸々ですか?」
「勿論。あのお城はあくまで仕事場ですぞ。こちらが家ですな。では主寝室へ」
日当たりの良い部屋ですね……いえ、正しくありませんか? 月明かりの良い部屋ですね? 私達の場合、日当たりの良い部屋とか確実に嫌がらせになるのでは?
……まあ、冥府に『陽』が無いですけど。
「では進化してきますね」
「はい。こちらで待たせていただきますよ」
なんか、宰相? あなた親ばかと言うより孫バカになり始めてませんか?
……まあ、まずは進化です。問題は先送りしましょう。どうにもならない気がしますし……。
ふかふかベッド……いや、普通の布団に潜り込みます。そのうち布団変えましょう。住人の不死者は寝ないでしょうから、布団なんてどうでもいいんですかね。
そう考えると、あるだけましか。
〈エクストラ種族、幽世の王女への進化を開始します〉
進化までする予定だったけど、文字数的にも進化は引っ張る事に。
サイアーはコメントで貰った(Sire≒我が君)の意味なので、競馬とかは関係ないよ?
https://dictionary.goo.ne.jp/word/en/sire/#ej-77677
気になるならここの2や3の意味です。




