52 夏といえばキャンプ 4日目
エアコンは贅沢品ではなく、生命維持装置である。
無人島生活 4日目
この島は何かがおかしい。なんだろうか?
1.違和感の原因を突き止めろ。
物凄いシンプルじゃないですかー……。
気になる事が確信に変わっていますが、それが何なのかはまだ分かっていない……と。しかしこれではヒントがありませんね。どこをどう調べたものか?
いや、逆ですか。むしろまだ調べてない事は何でしょう? とりあえず……ふむ、もう少し後、皆が大体起きた頃に提案してみましょう。
プリムラさん提供の丸テーブルで、妹提供東の森産茶葉をいただきましょう。私と妹、エリーとアビーの4人ですね。レティさんとドリーさんがいれてくれます。
「見つけたからとりあえず持ってきたけど……もう少し品質欲しいなー?」
「アッサムです? ミルクが欲しいです!」
「そうね。こっちのに合わせてブレンド考えないと」
「イベント中は時間が足りませんか……」
「こちらダージリンです」
「流石に普段飲んでるのとは違うわね」
「環境が違うのですから仕方ありません。正確にはどこのを再現したか……でしょうけど」
「流石に栽培からする気にはならないです……」
「……栽培してる住人を買えばいいのではなくて?」
「それです!」
「選択肢としてはありですね。システムが許してくれるでしょうか」
「茶葉はポイントで交換できるかしら? ……できるわね」
……嗜好品ですから消費ポイントは多くありませんね。余ったら交換しておきましょうか。ブレンドも考えたいですね。どうせエリーやアビーもやるでしょうし。
『あそこだけ空気……世界ちがくねぇ?』
『畑の持ち主ごと買うっていう発想よな……』
『紅茶ガチ勢だわ……』
4日目ともなると大体落ち着き、朝からバタバタせずにすみますね。……シュタイナーさん達農家組は毎日収穫してますけど。そして収穫された物が加工なりされて、《料理》持ちに出荷されると。
「おまち! 産地直送だぜ!」
「まあ……間違えてはいませんね……」
受け取った野菜を昨日取ったお肉と一緒に調理して配布します。大体この辺りになると皆起き出しますね。
周囲を見渡して大体が食事中の今のうちに提案しておきましょう。
「ユニオンに参加している皆さんだけでも構いませんので、聞いてもらえますか?」
「なにー?」
「クエストの確認はしましたか?」
「もち!」
「つまりさっぱり分からないので発想を変え、一度マップ情報を共有しておかないかと思いまして」
「なるほど……一旦纏めるのね。そしてここのメンツが行ってない方はほぼノーチェックと……」
「見た感じ大半が1陣の人達なので……行けないのか、行ってないのか……と言うのは重要でしょう?」
「確かに。まあ、あからさまに怪しいのは東の森なんだけどね……」
「そうなの?」
「ある程度進んでいくと敵の数が多すぎて進めなくなる。何かあるはず!」
『うんうん』
「まあ、マップの共有はしておきましょう。分隊長はユニオンメニューから私へお願いします。私の方で統合された物を分隊長へ返しますので」
『ういーす』
妹が代表で反応してくれたのでそのまま進め、送られてくるイベントマップデータを上書きしていくと、自分の行っていない場所も色がついていきます。
データが来なくなり改めてマップを確認すると……確かに、あからさまですね。
「これは……とりあえず、一斉に送りますね」
『東半分も行けてねーじゃんか!』
「えっと……東行った事ある分隊長は手を上げて貰えますか?」
『はーい』
「セシルさん、どう思います?」
「……メンツ的にまだ行けないってのが正解かな? 手上げてる半数以上は1陣のPTだね。見覚えあるから」
「東以外に何かある……んでしょうね」
「キーがあるんだろうね。さて、どうするか……」
「少なくとも今日でイベント半分ですから、何かしらあると思うのですが……」
「西で反応する《直感》が気になるんだよねぇ……」
「そういや、東だと《危険感知》が反応するな」
『んだな』
西で《直感》、東だと《危険感知》ですか。確実に何かあるのは東ですが……多分イベントのキーを拾えてないので、まだ行けないのでしょう。
「北が美味しいので、北が良いんですけどねぇ……」
『分かる』
「かと言って、あからさまなこのイベントスルーするのは……」
「ゲーム好きとしてはあり得ないね!」
『それも分かる』
「範囲的に大規模……多分Wクエストレベルでしょうから、結果的にはイベント起こした方が美味しそうではあるんですよね……」
「わざわざ不味いイベント用意するとも考えにくいしね?」
『確かに……』
「そう考えるとやっぱり……」
『西……か?』
東が現状無理だとすると、《直感》が反応する西に行くしか無いでしょう。北では特に何もありませんでした。ただ敵が強くて経験値が美味しいだけです。この経験値に釣られず、経験値の少ない西を調査しろって事なんでしょうね……。
「そう言えば姫様、地味に気になってるんだけどさ」
検証班の1人である調べスキーさんが話し始めます。
「この島ってAI特殊だよね?」
「そうですね。メインの向こうとは違う気がします」
「それでさ、島として見ると明らかに変だよね?」
「島としてみると?」
「こう言えば分かるかな? 生態系……食物連鎖。もしくは食物網」
確かに食物連鎖がありますね。ラプターがボアを、リザーダインがラプターを食べてるところも見ましたし。
「なんか変か? ゲームとしては珍しいとは思わなくもないが……」
「無くもないよね?」
ゲームとしては珍しい分類に入りますが、全く無いかと言われると……あるものにはありますよね。そのゲームのメインとなる敵だけだったりしますけど。
あ、いや……そうじゃない? システム云々はどうでもよく……そこではなくて……えっと、出てくる敵のリストは……。
「お、姫様は気づいたかな?」
「東だけ生態系がおかしい……?」
「そうそう。そうだよね?」
『あっ? あーっ! 確かに!』
「ここ数日歩き回って、掲示板とかでもチェックしてたんだよ。そろそろ言おうかと思ってたから丁度良かった。姫様、これ配ってくれる?」
調べスキーさんから送られてきたのはまさに食物網でした。流石に微生物などは省かれていますが、捕食対象が纏められていますね。
西の森はラビットがスパイダーに食われ、ラットとスパイダーはアウルに食われ、ボアはベアに食われる。
北だとスパイダーとボアをラプターが食べ、ラプターはトータスとリザーダインに食われ、アウルとベアをワイバーンが食べる。
ラビットは草食、ラットが草食かつ腐食、ボアも草食。リザーダインとトータスが雑食で海藻なども食べる……と。
この様に北と西で食物連鎖が動いてるけど、東は植物系しか確認されていない。
まだメモがありますね……。
ラプターやワイバーン、リザーダインなど北の敵は東には近づかない?
西の森の敵も西の森から出て追っては来ない。
つまり2陣はタゲが来たら西の森から出る。または東に逃げ込む事が可能だが、東の森も強いので大差ない。飛行のワイバーンよりはマシ?
北の敵は大体肉食なので餌がないのですから、近づかないのは分かりますが……タゲが来たら東に逃げれば追ってこない?
「これを見る限り、生態系頂点はワイバーンとリザーダインの2強ですよね?」
「うん、今のところ分かってるのはね」
「なぜ東に追ってこないので……まさか……シードコッケ……?」
「やっぱそこに行き着くよね?」
「……これから毎日森を焼こうぜ?」
「気持ちはとても分かる」
『説明はよ』
ろくなもんじゃないですよね? 東の森。
「少しは考えろー? そんな難しくないぞぉ?」
『めんどい!』
「おいゲーマー!」
「あーっ! なるほど、確かに東の森はファイアーするのが正解でござるか? む? 東の森で発生する《危険感知》ってガチやべーやつではござらんか?」
ガチヤバいやつでしょうね。多分シードコッケの仲間入りするのでは?
西の森の生物達が森から出ないのはまあ分かります。基本的に彼らは食われる側なので、わざわざ死ぬ確率が跳ね上がる森の外なんて出ないでしょう。
問題は生態系2強であるワイバーンとリザーダインが、わざわざ獲物を見逃してまで近づかない東の森。肉食のワイバーンはともかく、リザーダインは植物も食べます。海藻だけならまあ……?
東の森にはシードコッケという、植物に寄生侵食されてたヤバい状態なやつがいました。もしそれをワイバーンやリザーダインが知っているとしたら? 会話するような知能はありませんが、頭が悪いわけではありませんからね……。
『……なるほど』
「侵食されたくないから東には近づかない……と考えるのが妥当では? 誰だって寄生侵食とかごめんでしょう」
「ヒヒヒ、明らかにコッケちゃんイッてたもんなぁ!」
『完全に目死んでたもんな』
「んで、謎なのが西の《直感》ね」
「ですね。それが分かりません。東の森は恐らく最後でしょう。情報不足で行くと最悪キャラロストするので、西の《直感》調べたいですね。目星と聞き耳持ちに頼みましょうか?」
『これそういうゲームじゃねぇから!』
「若干ホラー入れるのやめよう?」
「まあ、東に行った人達が未だ無事なので大丈夫だとは思うのですが……」
『……ボディチェック!』
『なんか変なの付いてない!?』
皆さん楽しそうですね。でも割りとマジでチェックしといてくださいね。突然のPvP発生ありえますから。
「なあ……なんか南の空やばくねぇ?」
『あん?』
「ちょお前らクエスト見ろ!」
無人島生活 4日目
この島は何かがおかしい。なんだろうか?
1.違和感の原因を突き止めろ。
2.南の空がおかしい。嵐が来るかもしれない。
「そう来ましたかー……この発想は無かったですねー……」
「自然相手にどうしろって?」
「とりあえず掲示板で広めて……海岸沿いと川沿いの人達は避難ですかねぇ……」
「嵐ってどのぐらいの規模だ? ただの台風ならそんな慌てる事でもないが……」
『イベントで来る嵐がただの台風だと思うのか?』
『……それは無いなぁ。楽しくない』
「となると……何もなさすぎるここは逆にあれでしょうか? 逃げるなら西の森ですね……」
バタバタと拠点の撤去が始まりました。《建築》組が作った馬小屋的な簡易拠点は放置せざるを得ませんが……。
私はベッドやらをしまうだけですね。他の人達もテントやらをしまいます。
「めっちゃ雷見えるし、雨やばくて草」
「既に音と風がやばくて草」
「「レボリューションごっこしなきゃ!」」
「ゲーム内なのでやめろとは言いませんが、リアルでしてはダメですよ」
「「はーい!」」
『お母さん?』
『お姉ちゃんかもしれんぞ』
『保母さんの可能性も』
普通にお姉ちゃんでお願いします。
「お姉ちゃん! 今のうちに避雷針を立てよう!」
「なるほど、それは良いですねリーナ。雷が避けてくれるはずです」
「なんたって避雷針だからね!」
「「なにそれ凄い!」」
『ぶはっ』
アメさん、トリンさん。物凄いキラキラした目で見ないで下さい。リーナも目が泳いでるではないですか。周りにウケたのは良いけど、これはいけません。
そしてエリー達には通じていません。これは日本側のネタですからね。英語ではライトニングロッドなので、このネタは通じません。
「このネタは止めましょうリーナ。子供が変な覚え方をしてしまいます」
「そ、そうだね。こんな純粋な目が来るとは思わなかった……」
「2人共、お勉強のお時間です」
「「えー?」」
「今のは避雷針と言う文字からのネタであって、本来の機能ではありません」
「「そうなのー?」」
「避ける雷の針で避雷針ですが、機能的にはむしろ雷を集めるんです」
「「えー……」」
「家などの建物に避雷針を付ける理由は、落雷した際の雷が家に直撃するのを防ぐためです。避雷針がない家に落雷すると大きな力により爆発します。そうなると中の人は怪我します。最悪破片でも突き刺さり死にます」
「「爆発!」」
「家が消し飛ぶのを防ぐために避雷針が雷を受け、ケーブルを通し地面に爆発する力を逃がすのが役目です。つまり雷を集めて逃がすのが本来の機能ですね」
「「地面は爆発しないの?」」
「正確には地中でも銅板やら何やら用意する必要があるそうですが、私も詳しくは知らないんですよね。避雷針にも複数種類あるようですし」
「「なるほど!」」
『なるほど!』
『おいちょっと待て、誰だ知らなかったやつ!?』
「ゲームの《雷魔法》とかは知りませんが、現実の自然が放つ雷は相当な威力です。避雷針などで対策しないと火災や水蒸気爆発の原因になります。電化製品も全滅でしょうね。中1では化学の授業はまだでしたよね? 水蒸気爆発などは習わないと思うので、知りたいなら理科の先生に聞きましょう」
「「他の先生はー?」」
「ダメです。理科の先生なら雷、避雷針、火災、水蒸気爆発のワードがあれば何が知りたいのか大体察してくれるはずです。他の先生だと別の方向に行く可能性があるので、聞くなら理科の先生ですね。それもできれば生物ではなく化学の人」
「「分かった!」」
「私も学生なので、ちゃんと説明できるほど詳しくはないのですよ」
「「レボリューションごっこやめる!」」
「2人は今霊体系でしょう。かなり軽減されるかそもそも無効では?」
「「おー……確かに!」」
そもそも雷どころか雨や風も怪しいのでは……? まあ、これで良いでしょう。
嵐に関しては正直、各自でなんとかするしか無いでしょうね……。木の下に避難するのはありですが、どの木に落ちてくるか分からない森は無理では? 木の真下は確か意味ありませんでしたよね。
「……アルフさん、どうでしょう。両手剣を掲げて仁王立ちというのは」
「俺に避雷針になれとな!?」
「確かに、全身鎧なアルフなら適任! どのぐらい通すのか知らんけど」
「鎧は謎素材だからな……。不死者だし選択肢にはなりそうだけど……武器の耐久が心配だなぁ」
「確かにへし折れそうですね。ああ、いや……アルフさんよりフェアエレンさんの方が良さそうですね?」
「そう言えば今雷か」
「ってかさ、あの嵐来るの早くねー?」
「過ぎるのも早いと思えば良いんじゃないか?」
「まあ、確かに?」
実際かなり早く、昼前には来ますね……あれ。正直時間がありません。
えっと……何もない場所での雷雨に遭遇した場合の対処法は……。
雷は高い場所へ落ちる……そうですね。
家の中は絶対安全ではない……家がない。
林や森の中も危険……やっぱダメですか。
車の中……車もない。
海、山は要注意……ですよね。
逃げる場所がない時は、前かがみで膝を抱えて……爆風から鼓膜を守るため耳を塞いでじっとしている……ですか。地面に寝るのは近くに落雷した場合の沿面放電により死ぬ場合があるためNGと。
今の状況的に森手前で外周にある木の保護範囲に入って座っているのがベストでしょうか? 傘はもはや諦めろとのことですが、【遮光機構】ならへい……?
「あれ、このドレス金属製では?」
「ウェルカム」
「僕だけ残るかなー?」
両腕広げながらウェルカム言わないでくださいアルフさん。一緒に逝きませんよ。冥府で待っててください。
「そもそも血流が無く、心臓も動いてない我々に効果あるんですかね?」
「さあ? ダメージぐらいはあると思うけど、死にはしないと思うんだけど」
「お姉ちゃんずるい!」
「ゾンビに転生する?」
「やだ!」
「お姉ちゃんは悲しい」
「俺が両手剣掲げて避難してる人達の周り走り回れば面白くない?」
『や、やめろぉ!』
雷に撃たれながら周囲に放電していくスタイルですか……傍迷惑ですね。きっと高笑いもセットでしょう。そのうち《光魔法》が飛んでくるはずです。
ぞろぞろと西側へ移動します。嵐が迫っていますからね。
移動の最中に風もだいぶ強くなり、もうすぐ雨も来そうですね。
「うん……? 雷の音の中になんか混じってません?」
「あ、やっぱりー?」
「天然物じゃないんかね」
声というか……咆哮と言うか……。ゴロゴロしてる中に何か聞こえますね。さっぱり分かりませんけど。
【遮光機構】を使用して雨風を防ぎながら西へ。他の女性プレイヤーがスカートに苦戦していますが、私は実に平和です。最近全然出番がありませんでしたが、便利ですね。
「掲示板によると魔物達も姿を隠してるようだね?」
「全然いないっぽいねー?」
「という事は、この嵐が今日のメインイベントですか」
「1日潰すぐらい続くのは辛いぞー?」
「嵐後の復旧作業も入ってるんじゃないかね」
「ああ、なるほど。それなら1日潰れるかなー」
「つまりそれだけ荒れると?」
「……さらば馬小屋」
「結構なスピードでできてたけどねー」
まあ、どのぐらい被害が出るかは見てみないと分からないので良いとして。
このフィールドだけ魔法で地面が抉れたりするのは、もしかして自然災害用ですか? 要するに地形、建造物破壊系のエンジンを追加したわけですよね。『誰が、何がしたか』で自動修復時間を変えればいいですし、設定しなければずっとそのままですから……プレイヤーが復旧作業する必要があると。
なんかテストを兼ねてるような気がしなくもないですが……物理演算系のバグは面白いのが多いですから、良しとしましょう。大体荒ぶりながら吹っ飛んで行くんですけどね……。
すっかり辺りが暗くなり、ポツポツ雨が来たと思ったらすぐに土砂降りに変わります。もはや滝みたいですね……。しかも強風もセットなので横殴りです。
スケさんもですが、下僕達は送還しておきます。これはダメですね。
『ギャー!』
『ば……ば……バカじゃないか!?』
『やり過ぎだ運営ー!』
『どっかに捕まらねーとヤバいぞ!』
『逆向かないと息できねー!』
『一気に来たー!』
大変そうですねぇ……【遮光機構】が優秀で何よりです。影になっているところで雨が弾かれているのが見えます。風も多少強くなりましたが、髪が乱れない程度なので問題はありません。ステルーラ様関係の装備らしいので、恐らく《空間魔法》系の何かなのでしょう。
「ヒャハハハ! 土砂降りだぜぇー!」
「「だぜー!」」
アメさんとトリンさんに混じって遊んでる、モヒカンさんは見なかった事にしましょうか……。
『雷がうるせー!』
『雨もうるせー!』
『風だってうるせー!』
『全部うるせー!』
むぅ……このレベルは雨風が貫通しますか。髪が靡くし、濡れますね。この程度で済んでるだけマシですけども。
「そうだ【マテリアルバリア】で防げんじゃね!?」
『確かに!』
前方に張る物理結界でしたか。確か《魔法触媒》のアーツでしたね。……いや、それダメでは?
『待てやめろバカっ』
「うわあああああああ!」
『だろうな!』
ですよね。雨はともかく、問題は風です。面積が増えて一瞬で吹っ飛びましたね。MPも一瞬で無くなったはずです。
あれ着地で死ぬのでは? お、瀕死ですが残りましたね? 死な安死な安。
『あっ……』
『ヒエェェー……』
生き残ったと思いましたが、立った瞬間雷に貫かれ南無三。ばら撒いてはなさそうなので、1回目の死亡ですかね。後が無くなった。
全員風が来る方に背を向け、しゃがみます。中々シュールな光景ですね。割りと命懸けですが……。
「これもう、既に拠点死んでない?」
「馬小屋は間違いなく無いだろうなー」
「畑も田んぼになってそうですね。やあシュタイナー! 立派な田んぼだね! 何作るんだい?」
「言ってやるなよ……おっちゃん泣くで……」
「流石に言いませんが、このまま行くと田んぼどころでは無さそうですよね」
「あー……ね……」
ピカゴロ見聞きしながら、背中に大量の雨風をただ受け続けます。サバイバル生活最大の敵に自然災害持ってくるのは流石に卑怯では?
「む、姫様クエスト」
「更新されたんですか?」
無人島生活 4日目
この島は何かがおかしい。なんだろうか?
1.違和感の原因を突き止めろ。
2.南の空がおかしい。嵐が来るかもしれない。
3.雷嵐竜の飛来! 嵐から生き残れ!
「らいらんりゅう……で良いんでしょうかね?」
「多分ねー」
「まさかの竜のせいですか」
「中心に竜がいる系だろうなー……だから来るのが早いんだろう……」
「なるほど、納得ですね」
「別に倒してしまっても構わんのだろう?」
「おう、早くしてくれ」
「MPが足りないようだ。運が良かったなー!」
「そもそも姿すら見えんのだが……」
竜が来るにつれもっと荒れるんでしょうね。これ以上されると掴まるのないと辛そうですが……? 木も細い枝が折れ始めましたし。
音が聞こえるレベルの強風は台風ぐらいでないとそう聞きませんよね。あー、ピカゴロの頻度が上がってきましたねぇ……。
原因が竜である以上自然と言って良いのか謎ですが、災害には違いないですね。鞘は傘のようにしたまま、レイピアを抜き地面にグリグリしておきましょう。壊れないので気兼ねなく掴まれます。
流石にモヒカンさんも遊ぶのは止めましたか。ここまで来るとそれどころじゃありませんよね……。双子はまだ楽しそうですけど。良いですね、霊体……。
ただただ過ぎるのを待ちます。
もうすぐお昼になりますね。食事なんてできる状態ではありませんけど。
絶賛暴風と共に雨と濁流、更に落雷という絶望的な孤島ですよ。こんなところに川は無かったはずですけどねぇ?
「見てみなよ皆! 川があるよ? お昼は焼き魚だね!」
『川になってるけど川じゃねぇんだよなぁ!』
「まあ、あんな泥だらけだと美味しくなさそうですが……」
『余裕だなあんた!?』
「ハハハハ、ご冗談を。……ちょっと、止めてくださいスケさん」
「僕軽いのおおおおおお」
「空の旅はお1人でしてくださいよ」
「そんなつれないこと言わずに!」
「と言うかなんで私に掴まるんですか、アルフさんの方が重いでしょう」
「姫様が一番余裕あるじゃん!」
「それはそうですが、2人支えるほど筋力無いんですよ!」
「ぐぬぬぬぬ! あっ……ぬあああああ」
私の二の腕に捕まっていたスケさんがツルンと、ゴロゴロ後転していきました。
「ふんぬー! 諦めんぞおおおおおお!」
「ちょ、這って来ないで下さい。成仏するべきです」
「なんでや!」
「いや、マジでホラーだぞ」
薄暗い雷の鳴る大嵐の中、泥だらけになりながら這って来る骨ですからね? これは動画撮っておきましょう。夏のホラー特集に応募するべきですね。
「なんで撮ってるし!」
「後で見せてあげますよ。思ったよりホラーですから」
「うおおおお……許さん……許さんぞぉ……」
「ノリノリか!」
「割りと必死なんだけど?」
「その必死さがよりホラーです。これ見た人は間違いなく違う想像するでしょう」
「愚かな人間めぇ……後悔させてやるぞ……ひゃひゃひゃひゃ!」
「そのぐらいの余裕はあるのな?」
「喋るぐらいならな!」
ズリズリと私の方へ来て、そのまま少し進みアルフさんのところへ。無事合流したので録画終わりにしましょう。
どうも雷は種族によって効果が多少違うようで、人類だと現在のHPの半分を強制で持っていくようです。双子のアメさんとトリンさんが当たってますが、1割ぐらいですね。我々はかなり余裕があるでしょう。とは言え、死ぬところは最初に見ているので、HP1で残るという事はなさそうですね。
そして中央にいるであろう竜が動くので、微妙に風向きが変わっていくんですよね。風の位置的に丁度島中央ぐらいですかね。さっさと飛んでいって欲し……なんで降りてきたんです?
雷嵐竜 Lv62
属性:? 弱点:? 耐性:?
属:竜 科:風竜
状態:正常
情報はさっぱりと。私のベースレベルが足りないのか、それとも知識か……。
まあ、サイズが段違いですが……ワイバーンのような飛竜ですね? 全体的に白く、スリムで前足が翼のタイプですか。まさにドラゴンですね! 実にかっこいい。
ただし、この落雷はちょっといただけませんね……。
『ちょ、やめろください。落雷ヤバいって!』
『ギャー! シヌゥー!』
降りてきた竜を中心に雨のように落雷が……。
私達は【フォーストゥコンバート】をかけたアルフさんを盾にしています。その様子を見た周囲の人達も、立ってるアルフさんから少し離れつつ周囲に集まりしゃがみます。
「完全に避雷針な件について」
『助かります!』
「お、おう……良いけどさぁ」
肝心の雷嵐竜はと言うと……お食事中ですねー。ワイバーンとリザーダインを捕食中ですよ。食事に来たんですかね?
ワイバーンは逃げようにも雷嵐竜の方が飛行速度が速くて詰んでますし、リザーダインも体格やパワー全てにおいて負けてるので詰んでます。属性相性も良くないようで、完全に食われる側ですね。逆に私達やタートルなどには見向きもしないようで。食事にならないからでしょうね……。
本に従うなら雷嵐竜は混血竜になると思うのですが……ドラゴンに関して本は気にしない方が良いかもしれませんね。竜については冥府に話せるのがいたら聞いてみましょう。教会でワンワン王呼んでも良いかもしれませんね。
北側にいた人達からの実況ですが、中々悲惨なようですね。頑張って生き残ってください。
掲示板によると川が氾濫して近づくことが不可能。海岸沿いも波がやばくて近づけない。北は雷嵐竜本体がいて地獄絵図。森は比較的マシだけど、木に雷が落ちてダメージを貰う事があると。
「安全地帯がありませんねぇ……」
「まあ、無人島だからねー……」
『《聖魔法》が育つぜー!』
『MPポーションくれ! MP無くなる!』
きっと他でもこんな状態なんでしょうね……。
ちなみに安全地帯は西の大木のところだったようですよ? 落雷がなにかに弾かれているようで、雨風もかなり抑えられてるとか。しかし、川が氾濫しているので私達は合流できません。氾濫前に行くしか無かったようですね。
『大木に攻撃でもしとけば分かったんだろうけど!』
『そんなキチガイ行動しねぇよ!』
『雷鳴ってんのにあえて大木を安全地帯にするとか運営汚い!』
『さすがファンタジーだぜ! 常識が通じねぇ!』
『これはこれで面白いからなんとも言えねぇ!』
「これはこれで防御系のスキルが育つから悪くないか? 《魔法耐性》上がるな」
「む、私も《魔法耐性》育てたいですね……」
「HPとかMPの問題もあるし、交代でやるかい?」
「そうしましょう」
回復ついでにアルフさんと交代しまして、避雷針になります。《魔法耐性》全然上げる機会が無かったんですよ。
ついでに《直感》と《危険感知》を駆使して、雷を弾けないかもチャレンジです。
フェアエレンさんもクレメンティアさんも、比較的余裕そうですね。問題があるとすれば、クレメンティアさんの自動回復能力が機能してない事でしょうか? 太陽が隠れてしまってますからね。
サラマンダーの人が大変そうですね……。人外系は種によってかなり違うので、楽か楽じゃないか分かれますね。そう言う意味では不死者はかなり楽ですか。普段から太陽に焼かれるとは言え、《HP自動回復》系が育てば大体無視できますから。
強いと思うんですけどね、不死者。やはり見た目か。見た目のウケが悪いですか。人っぽい見た目は高位不死者が云々とメーガンお婆ちゃんが言ってたので、普通なら先は長そうですからねぇ……。
「ふむ……慣れてくると雷も案外弾けますね……」
「お姉ちゃんが順調にジ○ダイに……」
「上のみというのが辛いですね。横に弾いてもいいですか?」
『やめて!』
「ですよね」
横に弾いたら当然周囲の人に当たるわけで。
アルフさんと交代する事何回か。ついに雷嵐竜が飛び立って行きました。それに伴い嵐も去っていき、嘘のような晴天です。
〈種族レベルが上がりました〉
「なんかレベルが上がりましたが、傍迷惑な食事でしたね……【洗浄】」
「生き残れなクエスト達成したから、経験値貰ったっぽいね……」
「まあ……拠点の様子を見に行きましょうか……」
嵐でそこらが酷い状態で、時間で戻ると良いのですが……戻らない気がしますね。とりあえず拠点の確認です。
……見事な沼地ですね。さて、どうしましょうかこれ。馬小屋的な物も無いし、畑も当然無いですね。ここにあったんだな……と言う痕跡ぐらいはありますが……。
「oh...shit! と言いたいところですが、予想通りすぎてなんとも言えませんね」
「俺達の畑がー!」
「やあシュタイナー! 立派な沼地だね! レンコンでも作るのかい?」
「ドラッシャー!」
「おっふぅ……」
「バカだろお前……」
まさかスケさんが言うとは。しかもより酷い。案の定ぶん殴られると言う。
今日は復旧作業で1日潰れそうですねぇ……。島の調査もしたいですが、どうしましょうか。
「スケさん、ワイバーンに乗って島の確認頼めますか?」
「あー、あれに乗るのも確かにありか。馬は辛そうだし見てこようかねー」
ディナイト帝国でワイバーンの竜騎士隊云々書いてあったので、大丈夫でしょう。
「北のポップ数が減ってそうな気がするんですよね……」
「食われたからか……」
「北でレベル上げに励んでないで、イベント進めようね的なあれでは?」
「気兼ねなく行けるように的な?」
「ですね。ありがたいと言えばありがたいですけども……」
「じゃあ南から西回って北行って、東経由して帰ってくればトレインの心配も無いかー? そうしよう」
調査はスケさんに任せましょう。ついでに拠点を移せそうな場所も探して来てください。
それよりも拠点をどうするか。【火種】ではなく【加熱】ですかね? これで水気を飛ばせるなら継続して使えるのですが……。【エクスプロージョン】なんかやったら飛び散りますし、デコボコになりますよね。やはり【加熱】ですか。試しましょう。
「【加熱】」
「お姉ちゃん効果ありそう?」
「そこそこMP使うけど、できなくもない……と言うレベルかな」
「正直移動したいけど、そんな場所もないか」
「一応スケさんに頼んだけど、あの嵐だし無いだろうねぇ……」
「だよねぇ……」
少しするとスケさんから連絡が入りました。
「西の大木周りが使えなくも無さそうだけど、川がまだ無理だねー」
「移動が不可能ではダメですね……。スケさんのピストン輸送も数的に面倒ですし、中央を整えるしかありませんか……」
「何だかんだで一番マシな被害状況かもしれない。北見てくるわー」
後は北次第ですが、皆して【加熱】で乾かし始めましょうか。時間的余裕はそんなありませんからね。昼食は朝に用意してあるので、寝床の確保と畑の復活が最優先ですか。
「西が川のせいでダメで、東という選択肢はそもそもない。北は雷嵐竜がいたせいで望み薄だし、全滅はさせてないだろうから……どの道選択肢としてはないか」
「シュタイナーさん、畑の復活が最優先です。ある程度はそちらの手伝いに回しましょう。夕食がお肉だけで良い人は寝床のスペースを確保しましょう」
『おう!』
「魔法の使えない脳筋の皆さんは乾いたところを平らにしてください」
『おうよ!』
「では昼食後に始めましょう。食事の不要な種族は今から開始です」
私はまず自分のベッド用を確保しましょうかね。
昼食を食べ終えた人からぞろぞろと行動を開始。MPポーションを飲んだり、休んだりしながら黙々と作業を進めます。
スケさんが確認から戻ったので、1陣組を集めて報告を聞きます。
「ただいまー」
「どうでしたか?」
「0じゃなかったけど、激減してたね。あれじゃ効率悪そう」
「という事は、やっぱ西行けって事か?」
「北は土砂崩れと言うか、岩雪崩と言うか、そんな状態だったから足場もねー」
「採掘にはむしろ良いか?」
「ああ、それはある。狩りは精々一桁PTかなー」
「美味しかったけど仕方ないか。本格的にイベント進めた方が美味しそうだね」
「拠点としてもここを整えるのが良さそう。雨と風で凹凸がより酷くなってる」
「今日は復旧作業ですか。どの道、川も落ち着かないと西の調査が捗らないでしょうし、本格的に動くのは明日からですね……。では、継続で」
『あいよ』
初日より悪化するとは、中々運営も鬼畜ですね。
しかし4日目でこうなった以上、東のイベントは明日からでも間に合うと判断するべきですか。むしろ明日からの4日間が本番ですかねぇ……?
《高等魔法技能》が上がるので、悪くはないんですけど……このスキル放っといても上がるんですよね。むしろMPを使うことによる《MP超回復》などの強化が嬉しいところでしょうか。
さあ、午後丸々使って復旧しましょう。
てぃーえm……なんでもないですよ。何でしょうね、レボリューションごっこ。
ちなみに、消イオン容量型避雷針という雷を周囲に落とさせない物もある模様。
作中的にはイオン放散型避雷針が主流になっている可能性もあるが……ネタのために考えるのを止めた。
『作中で使われている避雷針はどれか?』なんてどうでも良すぎたんや……。