49 夏といえばキャンプ 初日
おまたせ。
こっちの方が良いかな? それともこっちかな? としていたら1週間経っていた。
実際歩いてみると、そう広くありませんね。8日しかないのに移動だけで数日かかっても困りますが。
[食材] インディカ レア:No 品質:C
とっても美味しそう!
《料理人》
少量で死に至る神経毒を持つ。
水で分解されるので、流水に5分さらすと解毒できる。
お湯や水に漬けるだけだと不十分である。
……さっきからアイテム全てが『ちゃんと《鑑定》しろよ』って訴えかけているレベルの雑っぷりですね。しかもエグい。見た目は赤と黄色のグラデーション。色や形的に元はアップルマンゴーでしょうか。
途中から川沿いを進み、湖に来たは良いのですが……はて?
「んー……状況が分からん」
「捕食と被食じゃねー? 蛇に睨まれた蛙的な……」
「普通にそう考えればそうなのですが……」
敵同士が睨み合っています。やはりこのイベントエリア、AIが特殊ですね?
「食物連鎖が成立しているマップだと考えれば、イベントではなく日常風景……」
「これ湖は外れだったかな? 敵多いよね?」
「ですね。失敗したかもしれません。水飲み場なのでしょう」
「水を飲みに来た草食を狙ってる肉食かな……。《危険感知》の反応が凄い」
「周囲の森に隠れてるのが沢山いますね」
私達も茂みに隠れながらコソコソしているので、どっこいどっこいでしょうけど。
孤立して囲まれているイノシシと、囲んでいるラプター。完全にただの狩り風景でしょう。イベントの可能性が無さすぎて悲しいですね。
周りは海なので、水を飲むとしたら川か湖ですか。大きめの川が北から東と西に分かれて流れていますが、エンカウント率が高そうですね。水の近くは注意が必要と覚えておきましょう。
「これ、乗り込んでも美味しくないなー……」
「下手したら連戦ですね。イベント中に死ぬのは避けたいところです」
「マジのサバイバル感出てきたなぁ。敵もサバイバルしてるとか」
「まさに野生ですね……」
生態系頂点はワイバーンでしょうか? ラプターぐらい食べそうですよね、ワイバーン。
あ、さらばイノシシ。
「どうすっべ?」
「どうしましょうね」
「どーしようねぇ……」
《感知》の2次スキルである《危険感知》も敵の位置は分かるのですが、どちらも敵の種類までは分かりません。あ、いるな……程度です。上位スキルになった事で、感知した敵の位置もマップに表示されるようになったのは便利ですけどね。
「隠れているのがどっち側か……それが問題だ」
「好戦的じゃないと楽なんですけどねー」
ラプターはイノシシを食べた後、水を飲んでからスタスタ北へ向かって行きました。お食事完了ですかね。
しばらくしてから隠れていた者達が出てきて、水を飲み始めます。
「鼠系と兎系か」
「飲んだらさっさと引っ込んでいくね」
「長居しないようですね。食われる可能性が上がるからでしょうか」
「ラプターがあれだけのわけないし? ここに拠点置くのは無理か……」
「残念ですが、幸い魔法で水は出せるのでなんとかなるでしょう」
水、洗濯、水浴び。これらは《魔法技能》で覚える所謂生活魔法でなんとかなります。そういう意味ではリアルよりは楽でしょうか? リアルより敵性生物とのエンカウント率が遥かに高いですけど。
問題はセーフティーエリアがないので、HPやMP管理がかなり厳しいですね。
「おや、月花草だ」
「確かMPポーションでしたか?」
「そうそう。採取しておきたいなー」
スケさんが発見した月花草はサルーテさんに渡したいところですね……。
「ところで姫様、採取についてはどう思う?」
「どうとは……ああもしかして、有限かどうかですか?」
「うん」
「……通常通り個人判定でした?」
「そこは変化無かったね」
「でしたらゲーム的処理だと思います。そうですね……なるべくリアルに寄せたとしても……復活に1日でしょうか?」
「ふむ、いくらこの森でも8日は枯渇するか」
「全員ではないにしろ6万近いはずですからね。復活しないと無理でしょう……」
「PK自体は可能だから取り合いになるか」
スケさんが湖の状況を掲示板に書き込み、情報を共有しておきます。
「おっちゃん達は東かなー。北にはいないっぽいし」
「まだ全体合流はできてない系?」
「東とまだっぽいねぇ」
「3号と接触させれば合流にならないでしょうか?」
「召喚体はどーだろうなぁ……」
少なくとも見ただけでは合流判定になってないんですよね。地形確認時に一号の視界に入ってはいるでしょうから。三号を派遣するべきでしょうか? ……意思疎通ができない。マーカー見るより先に攻撃されて終わりですかね。止めましょう。
「……おや? あそこ一帯は葉が違いますね」
「ホントだ。なんかの素材かな?」
ラプターがイノシシをバリムシャァした後、ある程度落ち着いた湖へ向かい周囲の確認。
少し離れたところにスケさんの発見した月花草群生地。更に別のところに葉の違う一帯。早速チェックしましょう。
「あ、これニンジンですね」
「おー、収穫じゃー!」
アルフさんに警戒してもらって、スケさんと2人で収穫します。1本2本と引っこ抜いていきます。
「よい……うん? なにこ……」
「ゴルァ!」
「へぶぅ!?」
「姫様ぁ!?」
なんか物凄い渋い顔の付いたニンジンに頬を蹴られました……不敬ですね。
「なん……なんだ、このなんとも言えないやつは……」
「マンドラゴルァ! セクシーダイコン科……」
「完全にネタMobじゃねぇか!」
「ふふふ……初めてですよ。ニンジンに足蹴にされたのは……」
「「そりゃそうだろうよ……」」
「極刑ですね……」
蹴りに突っ込んできたニンジンモドキを叩き斬ります。
「ふんっ!」
「ゴ……ルァ……!」
「「む?」」
「おや? まさか死亡時特定スキル使用ですか?」
声と同時にバースト系のようなエフェクトが円状に広がりましたので、何かしらあると思うのですが……私達には特に影響は出ていないと。
マンドラゴラのネタMobでしょうから、即死か状態異常だと思います。ただ、イベントルール的に即死は無いでしょう。そう考えると何かしらの状態異常ですね。つまり私達に影響はない。
「《鑑定》による見分けが……一応可能ですね」
「僕分からんわ。キーは《料理》系かー」
「ですね。ってこいつ……何も出さないじゃないですか……」
「ただの嫌がらせか? この運営ならやりそうだな……」
せっせと本物のニンジンだけ収穫していきます。スケさんが私と同じところを抜いていく作戦を実行しましたが、個人によって配置が違うようで。
「マンドラ……ゴルァ!」
「おうっふぅ」
蹴り飛ばされていました。2度目から蹴ってくるのが早いんですよね……。
スケさんが割りと頻繁に蹴られるのを横目に、せっせと収穫。
「くそぉ!」
何気に蹴りのノックバックが強いんですよね。奴を引っこ抜く度蹴られて飛ばされるスケさん。
「この辺りはこんなものでしょうか?」
「…………」
最初のうちは避けようと頑張ったようですが、どう足掻いても引っこ抜いた直後は蹴られるようで、もはや掲示板を見ながら無言で蹴り飛ばされるスケさん。
ぶっちゃけ弱いので、考えることを止めたのでしょう。
「小動物達がどっか行って欲しそうに俺達を見ている……」
「やはり大木を目指すべきでしょうか?」
「ただぶらつくだけでも良いっぽい。結構そこらに色々あるようだよー」
「逆に歩き回ってメモして行くのが正解ですかね……」
「まずは探索だぁ」
では、歩き回ってどこに何があるかをまずメモしていきましょう。
フラフラと歩き回っては採取していきます。その間スケさんがマップにメモを書き込んでおきます。後でマップのメモ情報ごと共有すると楽だよ……と。
「ん……?」
「む……?」
ふと《直感》が反応したので、レイピアの柄に手を添えつつそちらを見ます。
「どった?」
「《直感》が動いたんだが……」
「何もいませんね?」
「ほぉーん? 2人の《直感》で見つからないのがいるー?」
「魔力視でも特に見えませんね」
「気のせいじゃ無さそうだし、動きが速いのかな?」
2人同時だったので気のせいではないでしょう。そうなると我々が見る前に移動したと考えるべきですね。
魔力視で見えていないので光学迷彩タイプではなさそうです。生物である以上魔力は持っているので、姿が見えなくても魔力は見えるようですよ。師匠であるメーガンお婆ちゃん情報です。《魔力隠蔽》や《魔力遮断》などのスキルがあるようなので、過信はできないようですけどね。
探索を続けますが、ちょいちょい《直感》が反応します。気になりますが謎ですね。興味を惹いているのか、監視されているのか……。
突然島に来た我々なのでどっちの可能性もあるんですよね。私達は餌として狙うにはとても向いていませんから、そっちの線はないと思っています。
それなりの知能がある……前提ですけど。そもそも同じ個体が見ている保証もありませんからねぇ……。
つまり現状では情報が足りなすぎると。
「なるほど、ここは草原でしたか」
「みたいだねぇ。ただ、なんだ……?」
「……戦闘痕かな?」
「っぽいですね……? ここに陣取るのが良いと思ったのですが……」
この島で開けている場所は外周海岸、北西側の湖、そして中央の3箇所。キャンプ用のテントを考えると砂浜はやり辛いでしょうし、湖は獣達の水飲み場。そうなると最後中央だったのですが……。
「様子見るべきですかねぇ……」
「気にはなるけど、ここ以外に拠点になりそうな場所無くない?」
「お、あっちに生えてるの小麦じゃねー?」
「どこを拠点にするかはPT単位で決める事ですから、候補の1つにはなりますね。判断は丸投げで良いでしょう」
掲示板への書き込みはスケさんに任せ、小麦の収穫へ向かいます。一面小麦畑ですねー。小麦の絨毯が風でゆさゆさしています。
「あ、鎌がないですね……レイピアで良いか」
「どうせ下の方は使わないし、良いんじゃない?」
「一号、上持って」
「カクン」
一号に上を持たせ、私は下を切っていきます。
「ふんふんふーん」
「そう言えば、どうやって小麦粉にすんの?」
「ん……?」
おや? 言われてみれば小麦粉にする道具なんか持ってませんね。時代的には……挽き臼ですかねぇ。
「……そうだ、プリムラさんに【粉砕】を頼めばいいのでは?」
「ああ、《木工》系と《調合》系にあるんだっけ」
「流石に料理人の分野じゃないよねー」
「「確かに」」
まあ、収穫はしておきましょう。
「ふぅ……こんなものでしょう。加工できる人に渡しましょう」
「お、いたいた! おーい!」
お? 何やら麦わら帽子にツナギで統一された6人がやってきました。鍬やら鎌やら熊手と、物凄く農家です。と言うか、6人の頭上に農民って表示されてます。農業系スキル取得称号ですね。
「ほっほう。早速収穫して小麦粉にしとくか」
「あ、加工できるのでしたらこちらもお願いします」
「おうよ! これは……強力粉になるな」
「こっちに薄力粉あるぞー!」
「じゃあそっちから収穫してくれー!」
「あいよー!」
「じゃあ姫様、早速始めるから」
「ええ、お願いしますね」
「強力粉だけじゃパンは作れないからなー」
早速農家6人組は3人ずつに分かれ、全員鎌に持ち替え両端から収穫を開始しました。どうやら半分から品種が変わるようですね。よく見ていませんでした。
「あれがトップ農業プレイヤーのPTだよー」
「リーダーがシュタイナー。残りがバイオ、ビオ、ロジカル、ダイナミック、ビオディナミ。名前の由来は全員バイオダイナミック農法かららしい」
「な、なるほど……。あれってある意味究極の農法でしたよね?」
「んだね。フォースだ何だを抜きにすると、要するに全て自然の素材を使用して作る農法。このゲームならむしろ合いそうだよねー」
「精霊とかいますからねぇ? そもそも化学肥料が無いでしょうし」
現実だと生産量が少ない農法だと言われ、お財布にダイレクトに響くため基本的にはやらないそうです。それをゲーム内でやっているわけですね。全員が全員リアル農家と言う訳ではないようですけど。
上を見上げるとお天道様が。位置的にお昼ですねー。昼食のお時間になりますが……昼食、あるんですかね。ハハハハ。
「姫様やー」
「どうしました?」
「とりあえず小麦粉にするから、パン人数分頼める?」
「ああ、構いませんか?」
「いいよー」
「良いんじゃない?」
「では作りましょうか」
「助かる!」
せっかく草原になったので、アルフさんとスケさんには馬で見てきて貰いましょうか。特にやることないでしょうからね。
「はっ……」
「どった?」
「失敗した……色々足りませんね……」
「おう、サバイバルだからな。具体的には?」
「酵母用の瓶の入れ物。果物と砂糖。後は塩ですね。瓶と塩は海岸に行けばなんとかなりますが……」
「あー……ビオ!」
「なんだー!」
「持ってる果物! 酵母に使えそうなのあるかー!」
こちらにやってきたビオさんが出したのはアプレンですね。
「アプレンは酵母には使えないんですよね……」
「お? 情報が……なるほど、こりゃ無理だ。んー……いちごは?」
「フラガリアならできそうですね。元が甘ければ砂糖も不要なのですが……」
一号を馬で再召喚します。職業カスタムは無し。3倍上乗せだけで同コスト。サイズによるコストが2倍から4倍になりますからね。
一度スケさんを呼び戻し、錬金キットを受け取っておきます。これがないとどうにもなりません。
「では海岸行ってきますね」
「骨馬か。森は大丈夫か?」
「スピードは落ちるでしょうが、私が歩くよりは早いでしょう」
「なるほど……ゾンビだったな。よろしく頼む」
シュタイナーさん達と一度お別れ。南に向かって一号を走らせ、ウルフの二号が並走、アウルの三号は頭上を付いてきます。
今回のイベント中に《死霊秘法》を30超えさせたいですね。今27なので行けると思います。30になれば下僕達のスキルも2次スキルに切り替わるでしょうし、30相当の死霊系が召喚できるはずです。ベースが30になる前に上がるでしょう。
まあスケさんによると、ベースとスキルレベルの両方が30超えてないと、30相当呼べないらしいですけど。つまりスケさんは既に《死霊秘法》30超えてると。
木々を縫うように走り、海岸へ到着。それなりの人数が海釣りを楽しんでいますね? 果実は色々あれでしたが、海鮮物はどうなのでしょうね。
軽く海に浸かりながら釣りしている人達を見つつも、再び一号をスケルトンにして砂を掬わせ、硝子を量産しましょう。
ポーション用の瓶と燻製や酵母用の大きな瓶に……塩などの保存用も必要ですか。瓶はあるに越したことはないですね。
「お? いつの間にか姫様がいる。本物だ」
その言い方だと私の偽物でもいるんですかねぇ? 聞いたことありませんが。
「ごきげんよう。大漁ですか?」
「大漁と言えば大漁と言えなくもない……かな?」
「だな。釣りと言う意味では大漁だが……」
「あー……食べられない系ですか?」
「そうなんだよー……。《料理》があるから鑑定自体はできるんだけどねぇ……。しかも釣具持ってきて料理キット無いし?」
「向こうで素潜りしてるのもいるしな」
指した方を見ると丁度浮上してきたところで、頭がでてきました。そう言えば銛を持ってる人がいましたね。
また潜ったと思ったら全力で砂浜の方に泳いできました。
「うおおおおおおお! あぶねええええええ」
『サメかぁ!?』
サメ……ですね。ゴブリンシャーク。ゴブリンのように何でも食べるようですね。顔も少しゴブリンっぽい? それが6体ほど。
なお、浅瀬まで追ってきてビチビチ戻ろうとしてるアホでした。頭もゴブリンですか? そのまま漁師達に狩られてサヨナラ。
「じゃ、また行ってくるわ。スリリングな漁だぜぇ!」
再び銛を担いで海へ……行こうとして戻ってきました。
「泳いでるせいで満腹度ヤバいんだけど、結局食事どうすっべ?」
「やっぱ枝かなんか拾って来るか。料理はあるんだよな?」
「あるぜ。料理キットが無いが」
「俺が伐採してくら。薪に加工すりゃいいよな」
「《木工》持ちいないか? 串が欲しい。串焼きにしようぜ。鮎みてぇのいたろ」
「塩焼きか。堪んねぇな……塩は?」
「……海水に漬けるとか?」
「流石にそらねぇわ」
「ダイナミックすぎるわな」
「では塩は私が提供しましょう。一号、海水をこれに」
「カクン」
「助かる。姫様料理キットは?」
「ありますよ。この錬金キットはスケさんの借りてきました」
「じゃあ俺らが食えない魚と交換しよう。具体的に言うと串焼きが無理なやつ」
「なるほど、良いですよ」
一号が持ってきた海水から塩分を抽出して塩に。にがりは一応1瓶分は保存しておき、他は捨てます。
二号にも頼みましょう。ひたすら海水から塩を抽出。渡す分の塩と自分用の塩を確保したら魚介類と交換して、中央へ戻ります。
「お、戻ったか。それなりに加工できたぞ」
「釣りしている人達から魚介類も貰ってきました」
「ほう、そりゃ良い。こっちはとりあえず畑拡張を試してるぞ」
「栽培できそうですか?」
「できそうではあるが……さて、成長にどのぐらいかかるか」
収穫できるまでが謎ですか、仕方ありませんね。
早速酵母を試しましょう。あ、これ【反応促進】のMPがかなり辛いですね? 酵母ができるのに約1週間ですからね……。
「お……? 本来の半分ぐらいでしょうか。イベント仕様ですかね」
体感的にはむしろ、普段より遅く感じるんですけどね。本来ゲーム内1日はリアル6時間で過ぎますが、今はゲーム内1日が1日ですから。でも日数的には今の方が早い……と。チクタク待つ時間が少し長いぐらいでしょうか。
強力粉と薄力粉を受け取り、塩と酵母を加えて元種を作ります。こちらも半分ぐらいチクタク飛ばし、膨らんだのを確認したのでパン作りを始めましょう。
「とりあえず夕食分のパンも焼いておきますね?」
「助かる! 農業は肉体労働だからなー。空腹減少も早いんだわ」
素潜りしてる人も早い言ってましたからね……。
とりあえず材料が許す限りパンを量産しましょう。どうせ昼食抜きな人が多そうですからね。
大量に作っておいた瓶と、ビオさんから受け取ったフラガリアで酵母を準備しておきます。石窯もフル稼働ですよ。
しばらくしてアルフさんとスケさんが戻ってきました。お土産を持って。
「軽く見てきたけど、東にハーブやらがあったよー」
「それとこんなのドロップしたよ」
[道具] 魔法の調味料セット 2 レア:Ra 品質:C
全ての番号を集めて統合すると使えるようになる。
内容物:ひ・み・つ。
ほっほう……? アイコン見る感じ、どうやら1~6があるようですね。何が使えるのかは謎ですが、後5個集めなければ……。
「ところで姫様、クエスト欄気づいた?」
「クエスト? おや、イベント仕様になってたんですね」
「俺らもさっき気づいた」
無人島生活 初日
無人島に漂流した。仲間達と生き残ろう。8日で助けが来るはずだ。
1.仲間達と合流しよう。
2.島の地形を把握しよう。
3.食料を確保しよう。
4.寝泊まりできる拠点を作ろう。
2番目はどうやら達成しているようですね。いい仕事をしました。
1番目がまだ終わってないという事は、まだ全部と掲示板が繋がっていない?
3番目と4番目はまあ……3番が特にですが、終わるような項目ではないですね。
どちらかと言うと、行動目標を表示しているだけですかね。しかも個人ではなく全体で共有されてる項目でしょう。我々不死者組からすれば項目3は不要です。何より1番が個人だと……ねぇ?
報酬項目すらありませんし、達成しても評価が増えたりしないのでしょう。内部でされてる可能性はこの際考えるのは止めます。
日も傾いてきた頃……つまり夕方頃ですけど、続々とプレイヤーが中央へやってきました。
そして見られる光景は、知り合いの《料理》持ちに全員が駆け寄る。
「お姉ちゃんご飯ー!」
「お、スターシャご飯くれ!」
「ターシャご飯欲しいです!」
「姫様ご飯頂戴ー!」
「私達も!」
「よろしく!」
「でござる!」
まあ、当然私の方にも来るわけで。
リーナにトモ、アビーにプリムラさん、こたつさん、ルゼバラムさん、ムササビさんですか。
「お、いたいた。姫様ご飯あるかな?」
「セシルさんのところもですか」
「ワイバーンの肉を提供するよ」
「竜種系のお肉は美味しいらしいですからね。ステーキでいいですか?」
「勿論だとも」
「俺からはこれをやろう」
「私はこれー」
「私はこれです!」
[道具] 製菓セット レア:Ra 品質:C
お菓子を作るのに必要な道具のセット。
料理キットに統合可能。
[道具] バーベキューセット レア:Ra 品質:C
バーベキューを行うのに必要な道具のセット。
料理キットに統合可能。
[道具] 製麺セット レア:Ra 品質:C
各種麺類を作れる機材セット。
料理キットに統合可能。
リーナとトモからは製菓セットとバーベキューセットを貰いました。
バーベキューセットは直火・鉄板・ローストが可能の大型グリル、串やトング、小皿のセット。甘口と辛口のバーベキューソース、焼肉のタレも付属。アルミホイルもありますね? ホイル焼きも可能と。
製菓セットはクッキーなどの型が大量にあったり、ベーキングパウダーやホットケーキミックス、メープルシロップやホイップクリームが纏められています。
しかもこのバーベキューのグリル、持ち主の《料理》系スキルに依存して他の人も焼けるようです。バーベキューを1人でやらせる鬼畜仕様ではありませんでした。……人数的にバーベキュー1択な気がしますね。
アビーからは製麺セットを頂きました。
素材を入れると混ぜてくれる物と、各種麺やマカロニを作ってくれる機材のセットですね。なお、小型です。本格的に量産を考えるならハウジングを買えって事でしょう。めんつゆと焼きそば用ソースが付属していました。
こたつさん、ルゼバラムさん、ムササビさんからは食材の提供。まあ、食材を用意してくれるならバーベキューセット貸し出すだけで良いですからね。
エルツさん組からはなんと、寝床の提供です。正確にはプリムラさんとダンテルさんですが。
「ああ、そうだ。サルーテさん」
「なにー?」
「これポーション瓶と薬草達です」
「おほー助かるー。ポーション瓶が鬼門だった……」
《錬金》系か《硝子細工》系統のスキルが必要ですからね。
ポーション自体はサルーテさんに渡した方が確実に効果が上なので、任せましょう。スケさんは錬成陣拡張コアありませんし、使用素材量も考えるとベストなはず。問題があるとすれば生産速度でしょうか。
ああ、料理キットの蒸留器に水をセットしておきましょう。サルーテさんが使うでしょうからね。
おや、全ての船と合流できたようですね。1番のクエスト項目が埋まっています。これで掲示板が全員参加になったはずですね。見てない人もいるでしょうけど、そこは個人の自由なので知りません。
このまま夕食にも突入しそうな時間ですね……。とりあえず食材を片っ端から切り分けて、串刺しは任せましょう。バーベキュー食材を提供したPTは参加可能が妥当ですかね。
ある程度切り分けたらセシルさんPT用のステーキを焼きます。
「おや、皆さんお揃いで」
「ヘヘヘ、大御所のお揃いだぁ」
ミードさんと……また随分と濃い人が来ましたね……。
「ヒヘヘ、姫様とは話したことなかったなぁ? どうも、モヒカンです。こんなですが良ければ以後よろしく」
『お、おう……まともだ……』
「基本的に私は話が通じるなら問題ありませんので、よろしくお願いしますね」
「ギャハハハ、流石姫様だぁ! 色々でっけぇぜぇ」
『開幕の挨拶だけだったー! 色々ってなんだぁ!?』
ふむ? モヒカン……ああ、攻略板にいた『非常識な格好かつ下品な言葉で常識的なこと言ってくる』あの人ですか。
モヒカンさんRPガチ勢ですね。発言の割りには視線が胸に行っていません。貧乳派……と言うわけでも無さそうですね。完全に見た目で損するタイプですが、それでも尚そのキャラをやりますか。何がそこまで彼を惹きつけるのか。
リアルでは真面目なのかもしれませんね。その反動でしょうか? 少々……リアルを見てみたいですね……。
「私も頂きたいのですが、いいですか?」
「バーベキュー用食材持ち込みなら問題ありませんよ」
「お肉で良いですかね?」
「メインですから大丈夫でしょう。食われまくっていますし」
「これで手料理でも頼みたいぜぇ!」
「はいどうぞ」
「……セルフサービスだぁ! ヒャッハー! 焼くぜぇ!」
私が差し出した生の串を見て止まりましたが、バーベキューのグリルを確認して《料理》系がなくても良い事を認識したのでしょう。すんなり自分で焼きに行きましたね……。なるほど、言い回しと格好を気にしなければ普通に良い人なんですね。言い回しと格好は別に気にならないので、今後ともお付き合いがありそうです。嫌味やねちっこさは感じないんですよね。
RPの正しい姿な気がしてなりません。キャラはともかく、心構えが。
ワイバーンステーキをセシルさん達に渡します。
「どれどれ……」
「「美味しい!」」
「うん、美味い!」
「ランプステーキより美味しいですね? 肉の違いですか……」
「美味しいねぇ……。また狙う?」
「うん、チャンスがあれば狙って行きたいね」
美味しかったですよ、ワイバーン。レベル上げに挑むのもありでしょうか。
さて、次は……ああ、そうだ。
「ミードさん、大木はどうでしたか?」
「特に何もありませんでした」
「元々何もないのか……イベントトリガーに日数もありそうですね……」
「とりあえず今は何もないというのが分かったので、良しとしますよ」
ミードさんと話している最中にリーナが、お肉を塊のまま表面を焼きローストに設置したのが見えたので、しばらくお肉は良いでしょう。
特に処理せず食べれる貝も網に乗せておきます。誰か食べますよね。
更に内臓の食べられない魚を捌いて開きにし、野菜と一緒にアルミホイルで包んで焼きます。
「姫様ー! できたよー!」
「うむ、力作だ」
それぞれの生産者は突貫作業を始め、様々な物を作っていました。
プリムラさんはダンテルさんとベッドですね。
「何という天蓋付きベッド……」
「姫様と言ったらこれでしょ?」
「木造だが虫の侵入は防げるはずだしな」
「無人島で使い捨てるのはちょっと勿体無いレベルな気もしますが……ありがたく使わせて貰いましょう」
「無人島でも」
「快適な眠りを提供しよう!」
2人は私にベッドを引き渡し、バーベキューに参戦しました。
「あら、良いベッドね。私も欲しいわ」
「ターシャと寝るです!」
「む、それも良いわね」
「まあ、このサイズですからね。久しぶりに3人で寝ましょうか」
「やったです!」
結局夜まで宴会よろしく飲み食いしていました。食材よく持ちましたね?
今のうちにこのグループの朝食を残りで用意しましょう。リーナとトモとエリー、エルツさん、セシルさん、こたつさん、ルゼバラムさん、ムササビさん、シュタイナーさんのPT分を作り、ミードさんとモヒカンさん個人の分。
起きてからでも良かったのですが、皆起きている今のうちに配っておきます。こうして見ると知り合いも増えましたね。
焼いたパンにお肉と野菜を挟んで、バーベキューソースで良いですかね。
「悪いね。助かるよ」
「いえいえ、《料理》系のお土産を期待しているので」
ええ、善意だけではありませんとも。それが期待できる人達でもあるので、先行投資ですよ。ふふふふ。
とは言え、正直渡さなくてもこのメンバーは私のところに持ってくるのでしょう。でもそれだと私だけが得する事になってしまいます。それはあれなので、食事の準備ぐらいはしますとも。ギブアンドテイク。Win-Winが交流の秘訣です。ゲームだと特にですね。皆物欲ありますから。
すっかり暗くなり、辺りに【ライト】による光源が浮かび、頭上には月と星空が広がっています。VRかつ無人島の絶景ですね。
「姫様眠そうねー?」
「おやすみの時間です」
「俺らはどうする? 少し夜狩り行くか?」
「ステ上がるし、敵変わるかもしれないからねぇ。軽く見に行って寝るべー」
「初日だったしなぁ。そうしようか」
アルフさんとスケさんは様子見だけ行って、寝るそうです。本来夜の住人ですが私は寝ます。健康的なゾンビですから。
「魔物とPK対策で見張りが必要でござるな?」
「とは言え、俺らで多少時間ずらして寝ればよくね? 戦闘トップ組だからな」
「まあそんなもんでござるか」
「このイベントでPKは嫌がらせぐらいしか意味無さそうだよね?」
「んだな。俺は寝るの後で良いぞ」
「こっちも後でいいでござるよ」
「そうかい? じゃあ先に寝ようかな。朝方はむしろ姫様達に任せられるでしょ」
「5時から6時の間には起きると思います」
「了解。どうせ一部はテンション上がって寝れないだろうからねぇ……」
調整はセシルさんにお任せ。
森が開けているこの辺りはベッドや寝袋、テントが入り乱れています。これ顔の広さが無人島での過ごしやすさに直結していそうですね。
私は早速貰った天蓋付きベッドで寝ましょう。エリーとアビーを呼んだら当然のようにリーナが潜り込んできました。レティさんとドリーさんはしばらく見張りに回るそうです。
ではおやすみなさい。
『美少女4人が寝てるのに……寝顔が見れん! 誰だ! 天蓋付けたやつぁー!』
『ふむ? 職人としては成功だろうが、男としては失敗したか? まあ、力作だ。諦めろ』