28 フューチャーソフトウェア 2
ひゃっはー! 我慢できねぇ! 運営回で設定の暴露だー!
とある高層ビルの、広々としたフロアの1つ。
そこでは男女の大人達が机に向かい、ディスプレイを眺めている。
「お……おー? 姫様が《錬金》上げ始めたかー」
「ほう……となると、《死霊魔法》の発見が近いな!」
「姫様の場合《死霊秘法》ですけどね」
「……持ち主が不死者の場合だっけ?」
「ですです」
土日は休日? 運営にそんな事は関係無い……と言うか、シフト制である。開発チームもちらほらおり、せっせと作業中だ。
そこへ1人の男性がやってくる。山本一徹……FLFOの開発責任者だ。
「おいーす。何か問題は?」
「特になっし」
「問題児も0ではありませんが、参加者2万人と考えると少ないですからねぇ」
「じゃあ開発の進捗は?」
「…………まあ、問題ありませんよ」
「何だ今の不安になる間は。無理なら無理で早めに言えよ? 割り振ったり助っ人呼んだりするのも時間かかるんだからな」
「そこまで切羽詰まってませんよ。ちょっとモデリングの合間に息抜きで別のモデリングし始めてるだけなので」
趣味と仕事が一致した人が陥りやすいのではないだろうか。仕事絵を書く息抜きに、全然関係ない落書きを始めたり……とか。突っ込むと『同じお絵かきでも違うんだよぉ!』と言う魂の叫びが返ってくるだろう。
ここでは仕事の進捗に問題がないなら別に良いと、スルーされているが。
「またか。……今度は何作ってんだ?」
「ほらー、今GMが4人じゃないですか」
「そうだな」
「今ならまだしも、二陣来たら死にますよね?」
「まあ、増やそうかとは思ってるが……」
「で、そもそも簡単な問い合わせはAIに任せればいいんじゃね? という結論に至り、今その対応ちゃんをモデリングしてるところです」
「……え? 何してんのお前ら? AIは?」
「向こうが合間に」
向こうという方を見ると聞いていたのかピースサインが返ってきた。
「いや、ブイじゃねぇよ。どこまで進んでんのそれ」
「今他の皆から好きなキャラ設定を募り、AIに当てはめてるところですよ」
「それに合わせてモデリングしてるところ」
「……まさかもう数体動かせるのか?」
「「テスト鯖で動いてますよ?」」
山本の頭上にはきっとクエッションマークが大量に浮いている事だろう。責任者である。責任者がテスト鯖の状態を把握していない訳がない。必死に脳内を漁り始め……そして思い出した。
「ああ……! ナビィが云々か!」
「ですねー」
「Hey! Listen! とか言ってるからネタかと思ってたわ」
「流石にあれは出せませんが、イメージ的にはあれが近いかと。まあ、ゲーム内からの問い合わせ系の存在ですけど」
「GMの前にその対応ちゃんを挟むんだな?」
「ですね。問題は息抜きに作ったせいでぶっ飛んだキャラが何人かいる事ですが」
「詳しく」
「ミニセシル、ミニ姫様、ミニ妹ちゃん、ミニこたつ、ミニルゼバラム、ミニムササビ、ミニエルツなどなどプレイヤーミニキャラ軍団」
「何してんだお前ら……」
「「超楽しかった!」」
「……ちょっと見せてみ」
「今面白い事になってますよ」
プレイヤーミニキャラ軍団のいる隔離世界……というより箱庭。イメージで言うなら……シル◯ニアファミリーと言えば良いだろうか。
その世界では姫様が王座に座り、両サイドにアルフとスケさんが控えて立っており、セシルやこたつ達が傅いていた。
「……なにこれ謁見?」
「女王と勇者達かな?」
「瓜二つなんだけど? 息抜き?」
「超楽しかった!」
「そうかい……」
まあ当然プレイヤーミニキャラ軍団は使えるわけがなく。そのうちプレイヤー達に許可取って何かのイベントで使うか? と考えていた。
普通に作られたAI組は次のアプデに組み込まれる事に。なお、オプションでオマケ機能付き。対応AI全て、対応AI真面目、対応AIネタとオプションで分けて提供する。デフォルトは真面目のみ。
このオプションを弄る場合不具合が出てイラッとしてる時に、ネタAIが来て更にイラッとしてもそこは責任取らんと注意書きを加えておく。
「そう言えばパッチの進捗は?」
「順調ですね」
「パッチノートは?」
「今作ってます」
「うむ、順調なのは良いことだ!」
部屋の隅の方はリクライニングがあり、VR機器とセットになっている。テストプレイ用の場所であり、公開されているゲームサーバーとは違う場所に繋がっている。GMはまた別のところだ。
そこで寝ていた1人がVR機器を外して戻ってきた。
「テストプレイか?」
「ああ、山本さん。来ていたんですね」
「イベントしてるからな。で、何見てたんだ?」
「人形系を確認してたんですよ……ユーザーがいなさすぎるので……」
「……あれか。あれ確かある程度育たないと辛いんだっけか?」
「ですね。本番は操作数が3体になって、アタック、ディフェンス、サポートの3種ドールが揃ってからです」
「そこまで行かずに止めちゃうと?」
「ですね……実に悲しい……」
「弱いわけじゃないんだろう?」
「勿論ですよ。操作に慣れがいるのと、本体が空気と言うのが問題でしょうか?」
「伐採して人形作らないとだしな」
「PTでも操作する人形でPTに合わせられるんですけどねぇ……」
「二陣に期待だな」
スキルのバランス調整は開発陣最優先事項だ。プレイヤーが何人取得しているかなどのデータもチェックしている。少なすぎるスキルはテコ入れも検討。ここで注意が必要なのは、知名度が低くて少ないのか、扱える人がそもそも少ないのか……などもちゃんと確認する必要がある。
人形系は弱くはないが、扱える人が少ない系に入るだろう。更に使役魔法に分類される他のスキルが知名度的にも強すぎるというべきか。
使役魔法には《従魔》テイマー、《召喚魔法》サモナー、《人形魔法》マリオネッター、《精霊魔法》エレメンタラー、《死霊魔法》ネクロマンサーが分類されている。
当然強いのはテイマーとサモナーである。勿論データ的に強いわけではない。根強い人気があるという意味だ。
《死霊魔法》はまだプレイヤー数0だ。プレイヤー諸君はまだ知らないが、近い内に姫様が出すだろう。スケさんは《錬金》を取っていない。実に勿体無い。リッチからしたら主力級スキルなのに。まあ、解放されたら姫様が教えるだろう。
《精霊魔法》は分類上使役魔法とされているが、他とはものが違う。契約精霊は対等であり友達だ。下手な扱いをしたら去ってしまい、《精霊魔法》が機能しなくなる。これも現在プレイヤー無し。皆は知らない。
使役魔法と言えど、全て条件が違う。
テイマーは餌付けなど。サモナーは自分または自分の召喚体で討伐。マリオネッターは人形作製。ネクロマンサーは死体を暗黒儀式で取り込む。エレメンタラーは精霊側が決めるので、プレイヤーからは不可能。《精霊魔法》はかなりレアだ。
使役魔法は共通して1体まではPTカウントされない。2体以降はされる。じゃないとPT組みづらいからだ。使役系メインの人が使役対象無しでPT入ったところでただのカカシだし、経験値やドロップ判定は使役対象を抜いたPT人数だ。
使役系メインの人だってMMOやってるんだからPTぐらい組みたいだろう。PTに合わせて使役対象変えるなどすれば良い。ソロの時はフル召喚すれば良いのだし。
使役系は消費SPがソコソコ大きくなっている。1匹というアドバンテージがあるのだから、欲しければSPを使えばいい。そうすれば誰でもできる。使役対象と上手く連携取れるかは本人次第だ。
マリオネッターは魔物などを捕まえて来るのではなく、木を伐採して人形を作る必要がある。このハードルが高いのだろう。難しい挙げ句に、地道な作業が必要。しかも人の形なので装備を用意する必要がある。つまりお金がかかる。人形は回復方法も特定アイテムが必要だし……と。マリオネッターは好きな人は嵌りそうな、少しマニアックなシステムになっている。
「そのうち自動人形だって作れるのに!」
……テストプレイしていたこいつが元凶である。動かすのも少しコツがいるのだ。その代り人形は結構トリッキーで強かったりする。人形にはアタックドール、ディフェンスドール、サポートドール、キャスタードール、ワーカードールの5種類がある。しかもアタック、ディフェンス、サポートはそれぞれ連携アーツを覚える。
例えば、ディフェンスドールが敵の攻撃を防いだ直後、サポートドールが敵の背後から【バックスタブ】をしたり。サポートドールが敵をスリップで転ばせた時、アタックドールが【ヘヴィスタンプ】で追い打ちをかけたりだ。人形は連携攻撃が主体であり、使いこなせさえすれば強い。そして状況さえあえば人形同士である必要も無いのだ。人形と他プレイヤーでも連携攻撃は可能である。
「まあまだ2万人だからな。二陣の4万の中に人形好きがいることを祈っとけ」
「神様頼むよ神様。作った物が使われないの報われないよ神様……」
「切実すぎるな。分からんでもないが……」
ここは同類ばかりである。なので気持ちは大体分かる奴らばっかりだ。
「弱いわけじゃないんだよ! ちょっとマニアックなだけで! 悲しい!」
「お、おう……」
ヒートアップしていた。
「さて、諸君。第一回武闘大会が終わりました。生産者の戦いイベントが始まっていますが、武闘大会の反省会です」
イベントを考えるのも当然お仕事。
いつものディスプレイが並ぶ場所から移動して、会議室で反省会を行う。とりあえず参加者が気になったところをつらつら喋っていく。
「やっぱPvPは受けが悪いですね」
「結構盛り上がってはいたけど、参加者で見れば3割ですからね。ワールドクエストは9割オーバーでした」
「現状PKもいないと言って良いレベルですね。二陣で一気に増えるので出てくるとは思いますが……」
「やっぱフルダイブ型だとそれなりに抵抗があるんですかね?」
まあ元々、日本人はPvPに積極的とは言い難い。
武闘大会も最初から半分いればいいなーと言う理想と、現実は3割ぐらいかなと思っていたので、予想通りとは言える。
「予定通り夏のイベントはサバイバルかな。それと9月運動会して、10月はハロウィンだろうか」
「運動会ですか?」
「おう、剣と魔法と魔物のファンタジー運動会だ。狩り物競争とかな」
「何それ詳しく」
「チャレンジャーが一斉にスタートして魔物の名前が書かれたクジを引く。クジで引かれたその魔物がチャレンジャー達のいるフィールドに一斉ポップする。自分でとどめを刺す必要はなく、プレイヤー達も魔物同士も攻撃が当たり合う」
「大乱闘っすね」
「上手く誘導して他のプレイヤーに倒させても良いのか。死んだ場合は?」
「勿論その時点で失格さ。ちなみにフィールドは狭めにする」
「鬼や」
「大玉転がしやるよね? パンジャン転がしにしていい?」
「いいよ? 慎重に転がさないと爆発だな」
「ふぅ! 勿論近くにいたら誘爆もするようにして……」
反省会とはいったい……と言うレベルで脱線するが、武闘大会はダメだと言う事が分かっただけでも収穫である。
そもそも、反省会も何も『武闘大会』という前提がダメだったのだから話すだけ無駄である。それなら今後やるイベントの話で盛り上がっていた方が有意義だろう。
「まあ運動会の前に、サバイバル完成させてね」
「方向性はプレイヤー協力型で良いんですよね?」
「対立型にすると参加者減ると思うからな。精々運動会的な競争が限界だろう」
「最終日はワールドクエストですよね」
「おう」
「あれトリガー悩んでるんですけど、強制で良いんですか?」
「良いんじゃねぇの? ちょいちょい怪しい感じにしとけば」
「んー……まあ、メインとなるフィールドを少し怪しくしますかね。たまに看破系スキルが反応するとか良いかもしれませんね……後半に行くにつれその頻度を?」
「良いんじゃねぇの? 流石に何かあるとは思うだろ」
「じゃあこの方向で」
「うむ」
実はキャンプイベントで特殊な動物、幻獣的なものをペットにできるようなイベントも一度案として出たのだが、却下になった。使役魔法の仕様問題があるからだ。
それに一部プレイヤーが悲しみに包まれるから。主に不死者や悪魔組。彼らはまだ気づいてないようだが、動物の近くに行くとめっちゃ怯える。特に高位不死者の姫様がやばい。
しかも第二回イベントでそんな椀飯振舞するのもあれじゃね? と結果却下に。イベント中、仲良くなればモフモフできるけどお持ち帰り不可。
ゲーム内監視班……と言う名の休憩時のお楽しみ部屋。沢山のディスプレイに様々な場面が映っている。
そのディスプレイを眺められるように長いソファーが何個か置かれており、コーヒーメイカーやドリンクバーなども置かれ、完全に休憩所扱いだ。食事も可能。
「馬のプレイヤーが馬車牽いてるぅ」
「今回のイベントでそういうのも用意したけど、ちゃんと見つけたのか。馬特有のクエストを楽しんでくれ……引っ張るだけだが」
今も数人の男女がゆったり寛ぎながら眺めていた。
ちなみに、部屋の別の面ではちゃんと監視班がお仕事中だ。
「姫様がせっせと砂取っては錬金してるな」
「結構効率いいと思うよあれ。ポーション瓶の納品もできるし?」
「ポーション瓶より蒸留水の瓶で、それよりポーションだけどね」
「トップ生産者2人が一緒に採取してるね」
「プリムラちゃんとダンテルさんか。南の解放を待ってただろうからねぇ」
「フェアエレンさんは相変わらず飛んでるのな」
「飛ぶの楽しい言ってたからねー」
「セクシーダイコンの人も頑張ってるなぁ。セクシーマンドラゴラになったのか」
「セクシーマンドレイク卒業したんだ」
「ん……?」
「なんかあった?」
「お、行け! 行け! そのまま行け!」
「んんー……? ああ! 反魂の儀クエスト発生するかな!?」
「諦めんなよ! やばい感じはするけどフェイクだから! よく見ろHPは減ってないぞ! 突っ込め突っ込め! 死ぬ可能性あるのは不死者だけだからな!」
「行ったー! 後は祈るだけ!」
「おぉ……! 完璧だ。天使誕生も時間の問題か」
悪魔が天使へと切り替える種族クエスト、反魂の儀。その発見者が遂に現れたようだ。発生条件は教会へ行き、立像の前で祈りのポーズをする事。クエスト内容は10回人助けをする事。冒険者組合など雑用系クエストで達成可能。後は5の倍数レベルにして教会の立像前でクエスト報告。そうすると天使へ生まれ変わる。
悪魔と天使はステータスに変化は無いが、特性……モンスタースキルが変わる。悪魔は攻撃系、天使は防御系になり、属性も闇のみから光のみへ。
実はリビルドには2種類あり、ステータスの方向性が丸っと変わる場合に発生する、レベルもリセットのフルリビルド。ステータスの方向性は変わらないが、スキルなどの変更により戦闘スタイルが変わる限定リビルドだ。
悪魔と天使は後者の限定リビルドになる。種族スキル関係は弄ることができない。スキル名と属性がレベルを引き継いで天使用に強制変更される。攻撃系種族から防御系種族になるのだから、所有スキルは変えたい可能性が高い。
天使から悪魔へと堕ちる方法もあるので、実際に試して自分の好きな方にすれば良い。5レベ毎に変われるから他種族より遥かに融通が利く。この種族はこれを利用して上がりづらいスキルに回す事が可能だが、元の種族に戻るのは更に5レベ後だ。当然高レベルになればなるほど5レベが結構遠いし、装備だって用意が大変だろう。しかもこのリビルド方法でスキルを上げると10レベ毎のSPが貰えない。
勿論天使や悪魔への変更はそのレベル中1回しかできない。レベル上げなきゃ何回でもできるんじゃね? とはならない。
FLFOの世界では堕天使と悪魔がイコールと思って良いだろう。
「スライムの人も今はキングスライムか」
「まあ、ただのでかいスライムだけどね……」
「こっから何になるんかねぇ?」
「粘液系って確か、幽明種ルートあったよね?」
「そう言えばあったなぁ」
「行けるかなー?」
「どーだろうなぁ」
「トップは今20レベ台かー」
「第二エリアだしねー」
「第三入る頃にはエクストラ種族が増えだすだろうから楽しみだな」
「確定してるのはスケさんのリッチだけ?」
「スケさんのはアイテム進化だから確定だな。ケンタウロスやアラクネ、ナーガにヴァンパイアが出るかどうか」
「ああー、あの馬の人どうするんだろうね? ケンタウロス行っちゃうとスレイプニールとか、ペガサスルートからは外れるんだよね」
「あいつらに人の部分は無いからなー。人の姿があるからといって、良いとは限らないからな! 中の人次第だろう」
「ヴァンパイアはコウモリの派生にしたんだよね?」
「だねぇ……。世界設定的にヴァンパイアが不死者? と微妙だったのがあるけど、最大の問題がコウモリのエクストラ種族が思いつかなかった事。それでヴァンパイアがぶち込まれたはず」
「食事も睡眠も必要な時点でこの世界だと不死者じゃないんだっけ」
「んだ。ヴァンパイアは可能性低そうだよなー……。コウモリで吸血系スキル育てないと可能性が……」
「多少種族によって感じ方を変えているとは言え、味覚が再現されているこのゲームで、わざわざ血を飲みに行く物好きがいるのか……」
「しかも吸血自体は結構強いけど、当然ゼロ距離だからなぁ……使いづらい」
「吸血しない吸血鬼って意味分からんからね、仕方ないね」
「種族と言えば、姫様の種族ツリーやばくない?」
「あれな。やばいよな」
「順調に行けば最初の王女入れて10回進化?」
「そんぐらいだな。天使レベルに進化する。まあ、失敗したら最短3回進化」
「鬼だよね」
「鬼だな。言わなきゃ分からないさハハハ」
「でもなんか、姫様順調に行きそうだよね……」
「俺ら的には外なるものにならない5段階止まりで良いんだが」
「外なるものな時点で世界的に重要人物……ってか重要存在でヤバいのに、外なるもの達の姫だからね……」
「そうなんだよ……。一国の王も気を使うレベルの立場にはなる……」
「今そのルート入った場合の、特殊クエスト作ってたよね」
「王侯貴族関係の中でも更に特殊なやつな。王家のAIにバカ設定は入らないから、亡国ルートは無いのが救い。貴族の家が何個か潰れるルートはあるかも知れんが」
「外なるものの世界設定は既にプレイヤー達は知ってるからねー……。あの種族を選ぶとそれなりの柵が……」
「どちらかと言うとRP用の種族だから、姫様が引いてくれたのは良かったな」
「FDVRゲームだから割とRP推奨してるよね」
「そりゃな!」
「そう言えば魔女の話はまだ出てないんだっけ」
「ありゃ西の第三ぐらい行くか、冒険者ランク上げて貴族の護衛依頼やら受けるようになってから、その貴族経由で話題が出ないと無理じゃないか?」
「そっかー。サルーテさんがなると思うんだけどなー?」
「知ったらなろうとはするだろうなぁ。なんたって魔法薬の元祖だからな……お、妖狐の人が20になった」
「尻尾が4本になったねぇ……」
「あ、ウルフの人も20になった」
「おー、悩んでるなこれは」
「えっと、ウルフのツリーは……あー、なるほど」
「ワーウルフ選べば人型ルート。ブラックウルフ選べばケルベロスがあり得る。ホワイトウルフは……こっちはこっちで別のがあったな?」
「あるねー。どれにするんだろー……」
「この人は……光無しだからホワイトは出てないな。闇持ちだからブラックとワーウルフだろう」
「おー、黒ワンコ行ったー」
「わざわざ人外選んで遊ぶだけはあるな……ん? こいつ駄犬じゃね? ……あ、駄犬だわ。まさか姫様に近づくために闇ルートを……ないよな? 近づくつもりなら闇選んだのはファインプレーだぞ……。姫様進化先の種族スキルをこいつは知らないはずなのに……」
「種族判定じゃなくて属性判定になるんだっけ」
「そうなんだよなぁ。闇なら何でも良くなるし、外なるもの入れば光と闇なら効果範囲だなぁ」
純粋になりたい方を選んだのか、欲望に忠実だっただけか……それは本人にしか分からない……。
強いて言うなら、進化して大型犬ぐらいになりテンションが高い。トップの方にいるだけに戦闘センス自体は高く、できる猟犬的な雰囲気を醸し出している。ただ、狩り以外の行動が完全に駄犬である。
「農家の人達はせっせと畑仕事してるねぇ……」
「お、更に畑買った。もうあそこ一帯奴らの土地状態だな」
「元々買う予定あったっぽいけど、イベント来たから計画早めたね?」
「畑増やすには丁度いいだろうからなー。あそこに家でも建てそうな勢いだな」
「一陣は農家全然だけど、二陣も来るし確保しておくなら今のうちか」
「んだなー……。つっても、東西南北で買えるからまだまだ余裕だぞ」
正確には畑というより土地だ。隣の土地を買っていけば当然広がっていく。土地の購入はハウジングシステムの一部なので、そこへ家を建てる事も可能。
土地の値段は立地次第である。街の中心地に近いほど、大通りに近いほど高い。彼ら農家組は街の外側の土地を大量に買い、畑にしている。
ゲーム的な処理として土地は買えば買うほど値段が上がるが、街の外側は元が安いので大きな土地が欲しいならもってこいだ。
ちなみにエルツなどトップ生産者組が欲しいのは店舗だ。当然立地的に町中、しかも大通り近くの土地を狙うことになるので高くなる。土地を買ってもそこにある家、もしくは店舗改造費も必要になるので、β組と言えどそう簡単には買えない。
実は店舗の貸出もやっているのだが、安い分買わないと自分好みに改築は不可能。エルツなどは多少不便でも露店でお金を稼ぎ、最初から土地を買おうとしている。店を借りると契約費がかかるし、住人を雇えるけど当然お金がかかる。いい場所を借りられればそのままそこを買えば良いのだが、中々そうはいかない。
「トップ組は護衛依頼……生産組はひたすら生産。開放されたばかりの南だけはプリムラちゃんとダンテルさんが出張中か」
「姫様は生産中。妖精は飛行訓練。悪魔の人は反魂の儀クエストを開始と……」
「お、ニフリートさんがログインしたな」
「細工師の人かー。最近忙しそうだよね?」
「漸く解放されたらしいぞ。早速エルツ組に並んで露店出してるな」
「ふぅむ……遂に《高等魔法技能》が広がるか」
「むしろこっちからすると遅いぐらいだけどねー」
「とりあえずこれで7個の複合魔法も広まるわけだ」
「一番レアなのは光と闇の《空間魔法》かなー?」
「大体皆光か闇どちらかだからな」
「【ライト】と【ナイトビジョン】のせいだね」
《魔法技能》にある【火種】や【飲水】など、これらを開発は生活魔法と呼んでいる。この生活魔法に【ライト】や【ナイトビジョン】が入っていないのは、地味に高度な気がするからだ。動いても自分の頭上に位置取りさせる【ライト】や、見える光を弄る【ナイトビジョン】。
開発がリアルで欲しい生活魔法第一はぶっちぎりの【洗浄】である。お風呂と洗濯機いらず。洗う時間も干す時間も不要。瞬時に手間なし。
……なお、この魔法はストレス軽減用に実装された魔法だ。リアルに作って汚れるようにも、雨などで濡れるようにもした。服の中に砂が入った場合なども再現されている。それらを瞬時に解決できる魔法だ。
何故わざわざそうしたかと言うと、状態異常扱いの場合もあるから。濡れ状態がその筆頭だ。雨に当たれば、水に入れば当然濡れる。その時に雷や氷は効果抜群。でも戦闘時ならまだしも、それ以外だと鬱陶しいのは確か。じゃあ魔法で一発解決させようで追加されたのが【洗浄】である。
当然毒や石化なんかは【洗浄】では無理。あくまで『洗浄』だ。
夜の狩り対策には《闇魔法》の【ナイトビジョン】が人気だ。個人にかかるので、敵などからはバレない。【ライト】は術者の頭上に出るため、敵次第で寄ってくる。 ただ、《光魔法》は回復系に派生するのもあり、光を持っている人が多い。
「さて何人が《空間魔法》とインベントリを連想してなんとも言えない気持ちになるか」
「なんとも言えない仕様にしたからね」
「光と闇からの派生で必須魔法にするのもあれだからしょうがないな。あると便利なのは間違いないが、無くてもまあってレベル」
「MP消費多いしねあれ。純魔法型じゃないときついんじゃない? その癖補助寄りだからねー」
「もしくは逆に全く使わない人だな」
「インベントリ目当てならそれもありかー」
まだサービスが始まって大体一ヶ月ほど。情報があまり無いのが当たり前なのだ。元々マスクデータの多いゲームだが、スキル情報などは時間が経てば経つほど増えていくだろう。
たまに『情報もっと出せよ不親切だろ!』とか言うのがいるが、ここの開発陣は『攻略本片手にゲームがしたいなら過去作でもやってれば?』という連中だ。基本的にヒントは出すが答えは自分で確かめろ、または探せである。
スキルが育ってきてその派生が発見されたとする。『そんな情報無かっただろ!』と発狂するようなら、そもそもこのゲームは向いてないから止めた方が良い。もしくは最低でも1年ぐらい待ってから始めたら? というレベルだ。
理想のプレイヤーというのは『マジで!? 欲しいけどSPがねぇ! え、そんなスキルもあんのか!? ぐぬぬぬ……』という反応をする人達。そんな人達を見てニヤニヤしているのが開発陣である。そこへ更に情報を掲示板にちょい出しして、もっと悩ませるまである。
つまり、情報もっと出せな人達とは分かり合えない。音楽性の違いにより……とか言って解散するレベルだ。
「皆楽しそうだねぇ」
「そーだなー」
「……MMOの地獄はこれからだけどねぇ」
「そー……だなぁ」
MMOと言うのは、簡単に言ってしまえば『いかに作業を楽しくやらせるか』だ。そういう意味ではFDVRはある意味楽な方。ひたすらマウスポチポチするだけでなく、自分の体を動かせるからだ。戦闘はスポーツ感覚だろうか。
生産活動を最適化していくと、座った自分の周囲に全ての素材と生産道具を並べ、立たずにひたすら作る機械になるだろう。多分気づいたら朝だ。時間泥棒も良いところ。インベントリに素材詰め込んでおけば尚更ヤバい。
まあ、その辺り……疲労などを感知するとVR機器が強制ログアウトとかさせるが。
結果、MMOは総じてドロップ率が渋かったり、経験値テーブルがとんでもない数字になっていたりする。なぜなら運営としては長くやってほしいから。数百倒してドロップするのは全然いい方で、数千台が普通。物によっては数万だ。
そして理想は楽しいからやってたら、気づいた時には持ってた……だ。まあ、基本そんな事にならず、出ねぇ出ねぇ言いながら周回だ。いや、言っているうちはまだいい。まだ楽しんでると言える段階だ。段々無言になってくる。そしてそのうち周回が日課になる。で、持ってる人にあたりだしたら末期である。完全に病んでる。
そこで救済処置として、そいつを狩ってると手に入るとある素材をこれぐらい用意したらこれと交換してあげるよ? ってシステムなどが出るが、それでも何体狩れば良いんですかねぇ……って要求数だったりする。
狩ってれば確実に手に入るんですね? という思考になったら立派なMMOプレイヤーだ。訓練されちゃった人だ。アップデート? 何のバグを実装したんです? とか、時間内にアップデート終わったんですか!? なんかもそうだ。
MMOは魔界である。きっとこのFDVRMMOで魔界適合者が現れる。運営から言うことは唯一つ、『ようこそ、MMO沼へ。歓迎しよう』。きっと囁く悪魔はいい笑顔。
最初のうちは試行回数や討伐数を少なく、段々増やしていく。最初のうちに数字が上がる楽しみを覚えさせるのだ。知らないうちに片足が沼に浸かり、気づいたらもう立派な適合者さ!
「お、ゴーレムの人がハイゴーレムに」
「大きくなったねぇ……」
「大体巨人ぐらいだったな。横幅も考えるとそれ以上だが」
「えーっと……ハイゴーレムから分岐するのか」
「んだ。実はガーゴイルの方へも行けるんだが、この人はどうするのかね」
ハイゴーレムは高さ2メートル後半3メートル以下、横幅は成人男性が横になって2人分ぐらいと、中々の大きさだ。これ以上は大きくならないが。
ちなみにゴーレムの初期であるミニゴーレムで成人女性ぐらいである。ゴーレムで2メートル前半。横幅も考えると種族の中で一番大きいと言えるかもしれない。
「二陣はどのぐらい人外行くかな?」
「4万だから4000行けば良い方だろう……」
「天使の情報が出るだろうだから、多くなりそうだねー」
「でも防御型だしどうだろうな? 神官系をしたいなら悪くはないが、闇に対する被ダメが増えるからなー。狩場によっては安定しないかも知れん」
運営は今日もプレイヤー達を眺めている。……ニヤニヤしながら。
という事で、光と闇の派生は空間魔法です。
光と闇を司るステルーラ様が時空……時と空間なので。重力も空間の一部。
何かノリで生まれた駄犬が本編でてきそうなんだけどどうしようあいつ。




