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23

 ログアウトして軽く体を伸ばしてからリビングへ向かいます。


「あれ、お父さん。おかえり」

「やあ、ターシャ。ただいま」

「しばらくこっちにいるの?」

「そうしたいなーとは思うんだけど、社長が何か企んでるんだよねー」

「あれ、そっちも?」

「え、そっちも?」


 お父さんの社長が発言に反応するお母さん。2人して実に渋い顔をしています。


「……いつからだい?」

「んー……3週間ぐらい前……かなぁ?」

「うちのもそのぐらいだなぁ……」

「「……嫌な予感がする」」


 つまりお母さんのところの社長と、お父さんのところの社長が同時期に何かを企み始めた……と。

 ……グルですかね。よく2人で企んで、お金稼ぎしてるらしいですからね……。


 お母さんは女優でありモデルです。所属は海外のどでかい所。バラエティとかには出ません。ファッションモデルや映画が主体ですね。私達はお母さんから聞いたストレッチや肌の手入れを長年続けています。妹はちょっと雑ですが……。

 お父さんはファッションデザイナーの方です。同じく所属は海外のどでかい所。うちにある服はお父さんの作品であり、オーダーメイドですね。普通に買った場合の値段を考えてはいけません。

 両親のそれぞれ所属しているところの社長が、長い付き合いというか同級生の友人だったそうで。社員は大体振り回されるようですが、社長してるだけあって結果はバッチリ残しやがるので何も言えねぇとかお父さんがボヤいてましたね。

 特に手を組んだ場合が実に愉快な事になると。片や有名人を抱え、片やファッション最先端なもんだから、モデルはそっちが用意する、着るものはこっちで用意するってWin-Winな関係で安定しちゃうんだと。

 まあ、そのおかげでお母さんと会えたとか、突如惚気けられましたけどね。娘に惚気るのはどうなんでしょうかね、お父さん。


 そこへ妹がやって来ました。


「うお、お父さんだ!」

「娘に逢いたくて生霊を飛ばしてみたよ!」

「掃除機! 掃除機はどこだ!?」

「HAHAHA、吸っても退治はできないぞ! お父さんだからな!」

「つよい」


 相変わらず元気ですね。


「ところでお姉ちゃん。ご飯食べたら南行こう?」

「コアトル?」

「うん。後南だけじゃん? 行くなら今かな……と」

「まあ良いけどね。何時から?」

「9時から」

「ん、分かった」


 コアトル戦ですか。

 空飛ぶ蛇ですけど、サイズどのぐらいなんでしょうね?


「ゲームかい?」

「うんー、4週間ぐらい前にVRMMOが出たの」

「へー……4週間ぐらい前……ねぇ……」

「あれ? そう言えば……ねえ、社長達って……」

「秋菜、そのゲームって海外からの接続は?」

「一応禁止されてるね」

「……ゲームの評判は?」

「めちゃくちゃいいね。夏休み頭で第二陣解放されるし、新型VR機器も生産が間に合ってないよ」


 お母さんとお父さん2人して、遠い目をしていました。

 昨今、日本のVR技術は凄いですからね。正確にはダイブ型のVR技術が確立してから……と言った方がいいでしょうか。愛すべきバカ達が張り切った結果とか言われています。

 FLFOは五感再現していますし、リアルさでは頭2つぐらい飛び抜けています。

 まあその代償かつオンラインという事で、法の整備待ちする必要もあったようですけど、その分作り込む時間もあった……らしいですからね。

 つまり、海外も注目のゲームですね。


「嫌な予感がする。うっ頭がっ……いや、待てよ? もしゲームのためにこっち来やがるなら、むしろ家から出勤できるようになるのか?」

「『海外からがダメなら日本に行けばいいじゃないか』とか普通に言い出すからね。あの人達は……」

「無駄に行動力あるからね。いや、だからこその立場なんだけど」

「しかもここから通勤できるようになるなら文句が言いづらいと。子供達が夏休み入るし呼ばれるかと思ったけど、社長が不気味なほど静かなのよね」

「こっちはしばらくでかい仕事無いからって戻されたなぁ……。まあ、せっかくだしゆっくりさせてもらうけど」

「……お、CMだ。ってこれイベント時の!? お姉ちゃんだ!」


 ほんとだ、ゴブリン軍団からの防衛戦ですね。

 勝手に使うからよろしくねって書いてありましたからねぇ……。イベント戦を使用して宣伝するのは当然ですよね。


「4週間ぐらい前だっけか。……最初だからしょうがないとは言え、あのドレスはちょっと……。デザインは割りとしっかりしてたからこそ、あの色が目立つなぁ……。うん、黒髪ロングな琴音も悪くない。流石うちの子、可愛い!」

「おお、私も映った!」

「琴音と秋菜、リアルと色彩逆な感じで新鮮だねぇ」


 と言うかこのCM長いですね? あ、終わった。

 始まりが私の開戦のセリフで、飛び飛びでプレイヤー達を映しつつ、最後再び私のセリフ場面を映し、空へ行ってタイトル表示。そのまま終わるのかと思いきや、タイトルも消えて最後におまけ的な大量のフクロウが登場。

 ふふっ……あの報酬持ってきたフクロウですね。


「うおっ……」

「うわぁ……」


 私と秋菜は笑っていますが、あれを知らないお父さんとお母さん半笑いと言うか、軽く引いてますよ。

 タイトルで大人しく切ればよかったのに、何故そこを使うのか。いえ、プレイヤーからすればくすっと来る小ネタタイプなんでしょうけども。

 私達は実際に真下からあれを見上げて引きつつ、報酬受け取りましたからね。これ見てあれを思い出すわけですよ。


 フクロウは猛禽類です。忘れてはいけませんよ……。


「微妙にここの運営天の邪鬼と言うか、最後に落とすよね……」

「ほんとにね。プレイヤー達に報酬渡すフクロウ達まで映さなくて良いだろうに」



 久々に4人揃って食事を済ませ、コアトルに行くというのでお風呂やらも済ませておきます。

 私の戦闘スタイルは割と融通が利くので、臨時PTには入りやすいと思います。ビルドや戦闘スタイルが問題ないなら、後気にするのは人間関係ですね。

 とは言え、妹のPTは確か5人で、内2人は学校の友達でした。つまり私が知らないのは残りの2人だけです。まあ秋菜が既に組んでいるなら恐らく大丈夫でしょう。

 私が嫌いな人の話を聞かない、話の通じないタイプは妹も嫌いですからね。



 21時まで後20分ほどありますが、リアルでの用事は済ませたのでログインしましょうか。集合場所は南門と言っていましたね。


 料理してそのまま落ちたので、ログイン場所はベルステッドの中央広場になります。始まりの町に帰るには転移門使えばいいので、時間の心配はありません。

 さて、準備ですが……特にこれと言ってすることがないんですよね。ポーションは種族的に使えませんし、装備も耐久が存在しないので修理も不要。食事も種族的に不要ですから食材も本来は不要。……実に楽な種族ですね。


 21時集合というと、丁度夕方に切り替わる時間ですか。さっさと集合場所に行って《HP超回復》のスキルを上げましょう。……料理するのが面倒なのです。まだ現状ではダメージが上なので、日傘しないと死にますからね。

 どのぐらい効果が上がったのか分かりませんが、2倍ならそろそろ大丈夫になるはずなのですが……。

 お日様的にもポーション的にも、不死者系統は自動回復系スキル育てないとかなりきついですね。


 まあ、とりあえず始まりの町へ転移しましょう。

 ヘルプによると転移に必要なのはお金と魔力です。お金はありきたりですが、珍しいですよね魔力って。MPを持ってくようです。

 ベースレベルと飛ぶ距離がお金と魔力に影響するようで。ただ、キロメートルとかではなく、何個先の転移先かって見方のようですね。

 私はまだ始まりの町とベルステッドしか登録先が無いんですけども。



 なんだかんだこの一週間ベルステッド篭っていたというか、食材集め(しゅっか)に忙しかったので始まりの町は久しぶりですね? 相変わらずの賑わいで。


 南の大通りから外れて、通称プレイヤー露店通りを通りましょう。エルツさん達も露店している通りですね。あの人達もうすぐお店持てると思うのですが……うん? そう言えば不動産屋に行ってないので、相場知らないじゃないですか。 

 このゲームの家はいくらするのでしょう? 100万ぐらいと勝手に思ってましたが……暇になったら見てみましょうか。


「ご機嫌よう皆さん」

「あ、やっほー」

「これはこれは姫様」


 いるのはエルツさん、プリムラさん、ダンテルさん、サルーテさんの4人ですね。

 反応があったのはプリムラさんとダンテルさん。エルツさんとサルーテさんは絶賛生産中で反応なし。


「北と西が開いたでしょー? 素材が回ってきて嬉々として生産してるよー」

「ああ、なるほど。プリムラさんは南だとして、ダンテルさんは?」

「今のところこれと言って情報が無いんだよ……。シルク……シルクは何処だ」

「姫様掲示板に書き込んでたけど、なにか進展あったー?」

「ええ、ありましたよ。そう言えば掲示板に載せようとしてたんでした」


 掲示板に書き込んでおきましょう。

 《料理》30のアーツと、《料理人》のアーツを載せまして……。後はトッケイの情報でしょうか? 鶏肉を載せまして、石窯の仕様も少し。

 畜産家の情報は……まだ秘密で。明日イベント会場で新作出します……と宣伝しておきましょう。その後、それに関しての情報を掲示板に載せましょう。



 これでよし、と。


「ほう、2次スキルになったのか。バフ効果が確定したし、後は数値次第で多少料理人が増えそうだな?」

「新作気になるぅー」

「ふふ、まだ秘密ですよ」

「残念!」

「バフの数値はまだ試食分しか作っていないので、発生条件なども不明ですね」

「そうか。要検証だな」


 試食も考えましたが、イベントまで秘密。

 そしてサルーテさんの調合が一段落したようです。


「ふぅ……こんにちは姫様」

「調合は順調ですか?」

「順調と言えば順調かなー? 扱える素材が一気に増えたんだけど、肝心の配分が……ね。おかげで試行錯誤中さー」

「なるほど。料理と違って大体の生産はゲーム特有ですからね」


 外部サイトで調べたところであるわけもなく。しかもここの皆はトップ組なので、ゲーム内掲示板でも怪しい……と言うか、使う素材ぐらいならまだしも、配分まで書き込む人はいないでしょう。そこまで行くとオリジナルレシピですからね。

 そして、トップ組なので使う素材を書き込むのがむしろこの人達である……と。


 レシピですが、実は種類がありまして。

 【再現】で使用するオリジナルレシピと、基本材料と手順の書かれた基本レシピ。

 基本レシピでは【再現】は使えません。これは所謂レシピ本の1ページに過ぎず、それを見ながら自分で実際に作って、初めてオリジナルレシピとして登録が可能になります。そうすれば自分で作った物を【再現】にて量産が可能に。


 この基本レシピの入手法はまだはっきりしていませんが、住人から聞くと言うのは確定しています。

 まあ、恐らく教えてもらった図書館にレシピ本があるでしょう。《料理》はともかく《錬金》を上げる前に一度図書館を見てみましょうね。


「ふっふっふ、上出来だな!」

「エルツさんは……遂に鉄ですか」

「おうよ! 鋼はまだ先だなぁ。何はともあれ、これでゴブリンドロップに負けることはないぜ……」


 ああ、ゴブリン軍団からの防衛戦で鉄装備が手に入ってましたね。使わないので組合倉庫に預けましたが、普通なら青銅装備より強いんですかね? 青銅品の品質によるでしょうけど。


 一定以上の品質なら青銅の方が強いけど、当然生産品だから値段は高くなる。

 トップ達とは言え、トップの生産品は結構な出費になるわけで、PT全員分揃えられなかったPTがあっただろう。その人達はドロップ品の鉄装備になっていた。

 鍛冶師としては悲しいとか。


 とは言えボスが倒され鉄が来たことにより、青銅装備は必然的に値段が下がる。鉄装備も一度溶かして素材化が可能になった。

 トップ達は鉄を求めるだろうし、後続は安くなった青銅品を買っていくだろう。


 つまり、ウハウハである。


「でもまだトップ達に売るには微妙だな。もう少し品質上げてぇところだ」

「こっちもそんな感じかな。もう少し品質安定させたいね」

「んだなぁ……。で、姫様それどういう状況だ?」


 エルツさんとサルーテさんが自己評価しつつ、こちらへ話を振ってきました。

 いったいどこを見て……。


「……ああ、なんか鞘が日傘になりまして」

「なるほど、分からん」

「そうとしか言いようが無くてですね? 【遮光機構アンソール】という効果が増えたのですよ。正直面倒ですが、ビジュアル的にはありかな……と」

「……武器だよな?」

「……一応武器ですね。発動に必要なのは鞘なので、戦えますよ」

「そうか……。やろうと思えばそういうのが作れるのか、エクストラ仕様か……」

「防具系にもできるなら夢広がるな! ふんどしにパージ機構装備か……!」

「ネタ装備が捗りますね」


 今度はダンテルさんが白熱し始めました。

 確かにプレイヤーでも作れるのなら、色々捗りそうですからね。問題はエクストラ装備と言う特別装備なので、特別仕様だったら悲しみです。


「あ、お姉ちゃん!」


 声のした方を見ると……まあ、リーナですね。

 私を見つけるととりあえず抱きつく癖はいつ治るのでしょう?

 ……治す気が無さそうですけど。


「はー、堪らん! サルーテさん解毒ある?」

「数は無いけどあるよ」

「6個……欲しいなー?」

「んー……品質バラバラでいいなら」

「状態異常回復薬って何に影響?」

「ディレイだね。再使用時間」

「数値固定?」

「C以上は数値固定で再使用時間が減ってく感じかな? A以上はまだ不明」

「買う買う」


 西が開放された事で作ることが可能になったらしい状態異常回復薬ですね。

 南最大の脅威である毒が治せるなら、後の問題は飛行対策ぐらいです。コアトル……空飛ぶ蛇ですからね。


「解毒って事は南か?」

「お姉ちゃん連れて行ってくる!」

「おう、そうか。頑張れよ」

「南よろしくー! 木! 木!」


 リーナの準備も整い、私は元々軽く挨拶だけするつもりだったので、2人で南門へ向かいます。


 フレンドリストを見る限り、セシルさんとルゼバラムさん達は西の町と北の町にいるようですね。トモとスグも北で、こたつさんは西ですか。皆さんボスにはあまり興味無いんでしょうか?

 まあ、南のボスで貰えるのはSP6と、恐らく初期好感度が高くなる解放者称号、そして器用が上がるだろうアクセですかね。

 北が体力、東が筋力、西が敏捷だったようです。精神と知力を抜けば器用でしょう。


 ぶっちゃけSP6以外は言うほど良い物ではありません。称号のプレミア感などを除けば……ですけど。

 皆そんなのより、明日の武闘大会に備えて第2エリアで狩り中ですかね。住人から特殊クエストが受けられる可能性も高いですし?

 まあ、当然知り合いのPTだけがトッププレイヤーな訳無いので、頑張っている人もいるでしょうけど。


 そう言えばボス戦はインスタンスで順番待ちが無いらしいですけど、この場合別のPTが倒したらそのボスはどうなるんでしょうね?


「別PTがボスを倒した場合、戦闘中のPTどうなるのかって情報出た?」

「出たよー。戦闘はそのまま継続。称号と確定ドロップは無しだけど、SPと通常素材はそのままっぽいって。確定ドロップはこの場合ステ強化アクセだね」

「なんとも微妙なところだね。SP6と素材が手に入るだけましかな」

「まあね。ボス個体は第2エリアでも見つかってないから、一応結構レア」


 一足先に倒されたとは言え、情報無しで討伐できたわけだから、SPはそのまま貰えるんですね。それに加え通常ドロップ素材が貰えて、称号と装備が無し。

 SP6は2次スキル1個分なので悪くはないと。通常だと貰えるSPは3だそうですから、それだけでも強いボスに挑む価値はありそうです。単純に6レベ分ですから。


 でも今回は武闘大会が控えているので、入賞すればボス以上のSPが貰えるようです。それと向こうは向こうで記念称号も貰えるようですね。

 解放者と入賞者、どっちが欲しいかは人によるでしょう。私は対人より魔物が良いので解放者の方が嬉しいですね。



「お、来たね」

「おっす。解毒買えたし、お姉ちゃんもいたわー」

「ご機嫌よう。よろしくお願いしますね」


 妹と南門へ到着しました。他のメンバーは既に集まっているようです。

 青銀髪青目でハルバードの人間が妹。黒髪黒目で刀のマシンナリーがノエリアさん。赤髪赤目の片手槌と大盾のドワーフがグリセルダさん。茶髪黄色目でウクレレの狐獣人がナディアさん。白髪赤目で短弓の兎獣人がヘレンさん。この5人ですね。

 獣人の2人が妹のリア友になります。狐カラーと兎カラー。2人共耳と尻尾があるだけの、獣人デフォルト状態。そこから弄るとルゼバラムさんみたいにできます。


 自己紹介の後妹からPTが飛んできて、リーダーも飛んできました。このPT名は……まあ、このままでも良いか……。

 仕入れてきた解毒はタンクのグリセルダさんと妹が2個持ち、後衛に1個ずつ配布。私とノエリアさんは種族的に毒にならないので不要です。不死者と機械ですね。

 妹のテンション高めな合図で南へ向かいます。


「いざ行かんコアトル!」


 南の主な狩場は道の左右にある森だそうで、南東側がゴブリンやオーク、南西側が蜘蛛やヘビ、アリだそうです。まあつまり、皆南東に行くというわけですね。

 舗装……と言うか、馬や馬車などに踏み固められた道を進んでいくと、段々潮の香りが漂い始め、それが同時にボスエリアが近い事の証です。

 左右の森からたまにやってくるゴブリンやファイティンアントを捻りつつ、ひたすら道を進みます。

 フルダイブ型だけあって、町から町への距離はそれなりです。早いとこ移動法を考えた方が良いかもしれません。遊撃ポジションな妹とノエリアさんはともかく、他の人達は敏捷が微妙ですからね。移動スピードはそこそこ差が出ます。とは言え種族による補正が更にあるのですが。


「そう言えばこのPT、種族バラバラですね?」

「うん、狐と兎でも特性違うからバラバラー」

「マシンナリーの知り合いは初めてです」

「結構良いです。スキル選択が楽。物理耐性が来ても皆が魔法持ってる」

「なるほど。特化型は分断さえされなければ強いですからね」

「PTにも誘われやすい」

「ですね。やることがハッキリしていると言うか、むしろそれしかできませんし」


 特化型は特化しているだけあって、その部分だけではかなり強いですからね。むしろそれで弱い方が困りますが、フルダイブ型のこのゲームだとありえなくない……んでしょうか? 中の人問題ですね。別のゲームより顕著です。


「ナディアさんとヘレンさんはお久しぶりですね?」

「最近はすぐ帰ってこのゲームしているので……」

「うんうん。部活無い日は真っ直ぐ帰ってゲームで集合」

「楽しめているなら何よりです。リーナが迷惑かけたら言ってくださいね」

「えー……」


 本人は不服そうですが、この子結構ぐいぐい行きますからね。そこそこ人を選ぶんですよ。

 ゲームでストレスを溜める必要はありません。気の合う人とやっていればいいんです。とは言え、親しき仲にも礼儀あり……ですね。妹を止めるには私が動いた方が早いですから。



 まあ、お決まりの流れは置いといて、ボス戦の作戦ですよ。


 タンクのグリセルダさんがタゲを取る。

 コアトルが飛んでいる間は私と妹、更にヘレンさんが対空。グリセルダさんも《火魔法》があるそうなので、たまに攻撃。

 ナディアさんは音楽スキルで支援。

 ノエリアさんはグリセルダさんの側で待機。

 落ちてきたら妹とノエリアさんが突っ込んでグリセルダさんとタコ殴りに。


 今回私の位置取りはナディアさんとヘレンさんの近くですね。つまり後衛組です。毒を飛ばしてくるらしいので盾になります。私に当たっても効果ありませんから。

 このPTは基本回復役がいないようで。マシンナリーのノエリアさん以外魔法を持っていますから、自分で回復するようです。という事で、私も自己回復します。


 今回も録画しましょうかね。



「お、見えてきたな」


 グリセルダさんが言う通り、ボスエリアが見えて来ました。

 準備してから来たのでそのままボスエリアへ突入です。お決まりのシステムに動作を持っていかれ、ムービー的な物を見せられる……と。

 上から翼の生えたヘビ、コアトルがやって来て……ふしゃー! とこちらを威嚇してきて戦闘開始です。


「ほら、こっち見な!」


 予定通りグリセルダさんが【アピール】でタゲを取り、ノエリアさんは側で待機。


「思ったよりは小さいですね」

「ヘビとしては十分でかいような……」

「このぐらいならまだいそうじゃない? コウモリの翼はともかく」

「実際のヘビも10メートルぐらいにはなるらしいですから、まだマシでしょう。さて、そろそろ参戦しますか」


 ある程度ヘイトが稼げるまで待機し、攻撃を開始します。

 妹が光、私が光と闇、グリセルダさんが火、ヘレンさんが弓。そしてナディアさんが……。


「ウクレレdeクラシック」


 何やら聞いたことのある有名なクラシックがウクレレから紡がれます。皆突っ込まない事から、これがいつもの事なのでしょう。効果は魔法攻撃力上昇。


 対空攻撃により、順調にコアトルの体力を削っていきます。

 ヘレンさんの【エアロフラック】が特に良いダメージ出しているようで。


 コアトルの攻撃パターンは突進や尻尾の振り回しがあるようです。突進はコアトルが降りてくるので、貴重なノエリアさんの攻撃チャンスですね。

 尻尾に関しては毒を持ち、空中から鞭のように来るので攻撃チャンスにはなりません。かなりの速度です。攻撃が来る角度なども当然一定では無いので、待つのも無理そうですし、リスクが高すぎますね。

 毒の強度は口が2の尻尾が1でしたか。基本尻尾の連撃と毒飛ばしによって回復量を上回り、負けるみたいです。毒の問題が無い種族でも、ダメージ的には突進より尻尾の方が強いのも厄介です。


 コアトルの体力が削れ、ゲージが緑から黄色に変わり特殊行動を始めます。


「ラッシュ来るよー!」

「よぉーし……【ヘビィスタンド】」


 妹が注意を促し、グリセルダさんが大盾アーツを使用。

 そこへコアトルの尻尾が連続でヒットしています。それに加え、毒も飛ばしてきました。前衛は各自避けたり、盾で防ぎます。こちらは【アローパリィ】で弾きます。矢ではありませんが、魔法以外の遠距離攻撃を……ですからね。

 それに【危険感知】と【直感】で飛んでくる場所が大体分かります。


「水球をレイピアで逸らせるとは、ゲームですね。そして魔法扱いではないと」


 毒を飛ばしているのはアーツか何かでしょうか。まあ、魔法じゃない方がディレイ短いので、この頻度なら全然問題ないですね。

 と言うか、そろそろ【アローパリィ】や【マジックパリィ】辺りの検証もしたいですね。初めて使いましたよ。


 ラッシュの最後でグリセルダさんに巻き付き、バインドと継続ダメージが発生。更に噛み付いて毒も発生。その間コアトルは動かないので、殴りまくります。


「削れ削れー!」

「やっと出番」


 妹はハルバードで殴りまくり、ノエリアさんは刀を両手持ちして斬りまくっています。私達は2人のいない所に魔法と弓で攻撃。


「おや、リーナ。翼の膜。根本ではなく膜」

「ほっほーい」


 看破で見えた弱点、翼の膜を攻撃するように指示します。

 妹が殴り始めると翼を動かして抵抗を始めました。でも妹は長柄なのを利用して殴り続けます。刀のノエリアさんは大人しく顔面を斬りまくっていますね。

 残り4割近くと言うところでコアトルが堪らず拘束を解き、空へ飛び上がります。その間にグリセルダさんは解毒を使用。


「予想以上に飛行能力が落ちましたね?」

「部位破壊意味あるね!」

「右羽狙うね」

「よろしく!」


 妹にやられた右の翼がだいぶボロボロで、目に見えてフラフラ飛んでいます。そこで更に弓のヘレンさんが追い打ちをするつもりですね。

 問題は、フラフラ飛んでいるので当て辛くなった事でしょうか? 狙うなら全員で一気に潰した方が良さそうですね。次があるか分かりませんが。


「【グラビティアロー】からの【エアロフラック】…………そこ!」


 ヘレンさんが放った【グラビティアロー】が敏捷を下げ、更にしっかり狙って放たれた【エアロフラック】の爆発が、右の翼を丸々巻き込みます。

 堪らずコアトルが上空から降ってきて落下ダメージ。更に地上でびたんびたんする特殊モーションが入りました。


 勿論タコ殴りチャンスですとも。音楽がちょっと忙しない、激しめの曲に変わりました。与ダメージ上昇ですね。

 なお、ウクレレな模様。


「はーっはっは! 飛べないコアトルはただの毒ヘビよ!」


 皆妹の発言を放置してひたすらのたうち回っているコアトルを殴ります。

 チラチラ見ても私は突っ込みませんよ。その言い方では正しいのでツッコミどころありませんし。


「腹いせに尻尾斬ります。切れるか分からないけど!」


 八つ当たりに嫌がらせかの如くひたすら尻尾を攻撃し始めました。まあ、切れたら楽になりそうですし、良いのではないでしょうか。

 

 のたうち回るのをやめ起き上がっても飛ぶことが無くなりましたね。攻撃パターンが当然変化し、噛みつきと横薙ぎの尻尾、それと遠距離組に対する毒飛ばし攻撃です。つまり随分楽になりました。毒は全て私が弾きます。

 妹は動く尻尾に長柄を活かしてちょっかいを出し続けます。


「ウザかろうウザかろう……あっ」


 ……生々しい音と悲痛な声? とともに後ろの方から千切れ、今度は血を撒き散らしながらのたうちます。すぐ起き上がりましたがHPゲージがゴリっと減り、残り2割で赤ゲージになりました。


「ぎょえー! 血が付くぅー!」


 ……うちの妹はきゃーなんて可愛らしい悲鳴は上げません。と言うか嬉々として八つ当たりでぶった切った張本人ですし?

 尻尾が無くなったため攻撃手段が噛みつきと毒飛ばしのみに。しかも尻尾が無くなったせいか特に特殊行動もせず。

 まあつまり、そのまま何事もなく平和に終わりました。


「ふっ、他愛なし……」

「一回負けてるけどねー?」

「あー、知らんなぁ」



〈種族レベルが上がりました〉

〈《闇魔法》がレベル30になりました。スキルポイントを『2』入手〉

〈《闇魔法》の【ダークバースト】を取得しました〉

〈《闇魔法》が成長上限に到達したので《暗黒魔法》《影魔法》が解放されました〉

〈南のボスを討伐した事により、南のエリアが開放されました。ワールド初回討伐特典として、スキルポイントを『6』入手しました〉

〈特定の条件を満たしたため、『称号:インバムント解放者』を取得しました〉

〈〈アナスタシア率いる『姉妹と愉快な仲間達』パーティーにより、南のボスが討伐されました。以降、南のボスは弱体化され、流通が復活します〉〉



「リーナ、《影魔法》って既に情報ある?」

「お、闇カンスト? 暗黒は完全攻撃側で闇の上位。影はちょっと特殊で妨害と攻撃が今分かってるかな? 光も上位の閃光と聖に派生するって」


 《影魔法》は攻撃もあるけど補助と妨害がメインだろう……と。攻撃は暗黒がありますからね。現状で分かっているのが【シャドウバインド】と【シャドウファング】だとか。影で縛る魔法と、影から狼の影が出てきて噛み付いて攻撃するとか。

 闇系制覇も良いですが、どうせスケさんがしそうな気もするんですよね。スケさん闇しか持ってませんし。私はとりあえず《暗黒魔法》だけにしておきましょうか。

 SP3を払い、種族スキルとして取得します。レベル1は【ノクスエクスプロージョン】ですね。


「か い た い の時間だおらー!」


 妹が解体した結果、魔石1、毒腺2、牙4、皮6、器用を上げる指輪だそうで。

 録画はここまでで良いでしょう。


「よーし、では真っ直ぐ町に行きます。お姉ちゃんの寝る時間が近い」

「「早い」」

「早寝早起きお姉ちゃんだから」


 しばらく道沿いへ進むと生えている木が徐々に変わりました。何か分かりませんが、プリムラさんに教えてあげましょう。

 森の方で《採取》が反応している場所もありますね……。所謂ゲーム的な処理、採集ポイントですね。採集ポイントは同じ場所から複数回取れます。採集ポイントの木を《伐木》すると、アイテムが複数手に入るらしいですね。


「リーナ、裁縫素材って今何使ってるか分かる?」

「ウールじゃなかったっけかな?」

「リネンがあるみたいだから、ダンテルさんに教えてあげましょう」


 更に進んでいくと月桂樹やオリーブが確認できました。少し前に商人の女性に聞きましたね。この2つがここの特産品で、後は海があるから魚介類?

 リネンがありましたが、あれはどうなのでしょうか? 需要はあるでしょうが、特産とは言い難いかもしれませんね。



「おや、ようこそお嬢様方」

「お勤めご苦労さまです。コアトルの討伐を組合に報告したいのですが、冒険者組合はどこにありますか?」

「なんと! 冒険者組合なら……この通りを真っ直ぐ進むと、ステルーラ様の立像がある十字の広場に出ます。その左側がそうですね。方角で言えば十字の北東が冒険者組合、南東が商業組合になっています」

「なるほど、ありがとうございます」

「いえいえ、ようこそインバムントへ!」


 場所は分かったので町へ入り、まずは観光気分で冒険者組合へ。


「さすが港町? 日に焼けた人が多いね」

「海の男って感じの人も沢山いるねー」


 組合へ向かっている最中、なんかこう……妙な感じがします。しかし何でしょうね? こう……煩わしいと言うか、つんつんちょっかい出されている感じと言うか。当然私に触れている人はいないのですが……。


「どうしたのお姉ちゃん」

「いや、なんか妙な感じが……なんだろうね?」


 この感覚は初めてですねぇ……。段々強くなっていくのですがこれはいったい? ……と思ったのですが、ちらっと視界に入った物で察しました。方向も一致しますし、恐らく間違いないでしょう。あれが原因か。


「北西に教会があるんですね……」

「え? あー、あるね」

「この煩わしい感じは教会っていう地形効果の浄化を弾いているのかな。浄化耐性が効いているのか、この日傘にも多少遮断効果があるのか……」


 試しに【遮光機構アンソール】を外してみると、微妙にちょっかいが増えた気がするので地味にあるのでしょう。

 ただ、警戒してましたが教会の地形効果はそこまで高く無さそうですね?


「お姉ちゃん大丈夫そうだね?」

「すぐどうこうなる訳では無さそう? 浄化効果がそもそも分かってないけど」

「対不死者特効だね。低位不死者とか教会に近づくだけで全ステータス低下と自動回復速度低下、更に継続ダメージが発生。昼間だとそのせいで大体日光で即死するんだけど?」

「特に問題ないかなー?」

「日光の無い夜行っても、近づけば近づくほどダメージが増えて溶けるんだけど。これは正式始まっても変わってなかったはず……」

「高位不死者の浄化耐性中はかなり優秀ってことね」

「つまりお姉ちゃんに生半可な浄化効果は効かないと……」

「私に対しては普通に《光魔法》撃った方が早いんじゃないかな? 現状じゃ高位浄化なんて覚えられないだろうし」


 アルフさんも確か浄化耐性小が生えたとか言ってましたね。中位で小、高位で中ですか。最高位で大かな? 最高位があるかも分かりませんが。

 直ちに影響はない……ということなので放置して組合に入り報告です。報酬12万を6人で分けて2万の収入。


 ステルーラ様の立像に触れてポータルも開放し、最後にボス品の配布です。


「じゃあお姉ちゃんこれ、助っ人報酬ね」

「……器用上げる指輪じゃないですか。ヘレンさんとかが使うのでは?」

「ヘレンはリアルスキルがあるからねぇ……」

「【精密射撃】もあるから器用はそこまでって感じかな? 《器用強化》取っちゃってるし……。それよりも毒腺が欲しいかも」


[装備・装飾] 精妙な指輪 レア:Ra 品質:A

 コアトルからドロップした指輪。

 装備者の手先を器用にするという。

《鑑定 Lv10》

 DEF:△ MDEF:△

《鑑定 Lv20》

 器用上昇:極小


 弓の判定は確か……威力は筋力、命中が器用、飛距離が装備と筋力と器用の複合でしたかね。


「正直現状でヘレンは外してないから、それなら傭兵的なお手伝い報酬としてお姉ちゃんに渡しちゃうか……と」

「ではありがたく頂いておきましょうか。私は器用あっても困りませんからね。となると……アルフさんと同じでいいでしょう。他の報酬はそっちで分けて」


 アルフさんも指輪以外の素材は放棄しましたし、ある意味一品物の装備ですからそのぐらいが良いのでしょう。個人的に他の素材貰っても売るだけですからね。装備はこのドレスセットがありますけど、アクセ枠は空いているので装備させてもらいましょう。


「よし、おっちゃんのところ行くか! あ、お姉ちゃん寝る前にボス戦アップしといて? 後は私やっとくから」

「分かった」


 じゃ、おっちゃんのところ行ってくる! と皆で転移していきました。


 私は……アップロードしてから寝ましょうかね。

 委託を回収して、ログアウトです。


名前:アナスタシア

種族:不死者の王女(イモータルプリンセス) 女 Lv18

属性:闇

属:高位不死者

科:ロイヤルゾンビ

スキルポイント:43


スキル

《細剣 Lv4》《宛転流王女宮護身術・細剣 Lv3》《軽装 Lv4》

《光魔法 Lv29》《魔法技能 Lv30》

《危険感知 Lv3》《直感 Lv3》《舞踏 Lv5》

《料理人 Lv5》《錬金 Lv5》《採取 Lv20》

《目利き Lv22》《解体 Lv20》《鑑定 Lv25》《識別》

控え


種族(モンスター)スキル

《暗黒魔法 Lv1》《闇のオーラ Lv25》

《物理耐性 Lv26》《物理無効 Lv23》《魔法耐性 Lv5》《HP超回復 Lv7》

《不死者の王族 Lv18》《王家の権威 Lv18》《高位不死者》

称号

優雅で静謐なお姫様:他者に与える印象がとても良くなり、警戒もされづらい。

ベルステッド解放者:始まりの街の東を一番最初に解放した記念称号。

インバムント解放者:始まりの街の南を一番最初に解放した記念称号。

料理人:一人前の料理人に与えられる称号。

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― 新着の感想 ―
人の話を聞かない話の通じないタイプ > 大抵の人は嫌いなんじゃないかなあ………。 将来、教会とやり合ったりするのかなあ。
[気になる点] このゲームの世界ってプレイ時間6時間で一日?よくある時間加速とかない感じ?
2019/12/05 01:42 退会済み
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