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14 祭りの予感

新キャラ続々登場。

トップ裁縫師。

主人公リア友2人。

トッププレイヤーのPTリーダー4人。

 お母さんと妹と食事を済ませ、食休みを挟んでから午後のログインです。

 ゲーム内は朝になりますね。

 ログインすると私が露店を出していた場所に、知らない男性が露店を出していました。《裁縫》でしょうか。服系ですね。


「あ、おかえり。私の横に出すと良いよ」

「ただいま。そうしますね」

「お、初めまして。ダンテルだ。《裁縫》を上げているからよろしく。姫様?」

「はい、よろしくお願いします。ちなみに名前はアナスタシアですが、呼び方はもう姫様でも構いませんので」

「名前よりあだ名や通称が定着するのはよくある事だな、うん」

「学校とかであだ名で呼んでて、本名出てこない事あったなー」

「あったな。もはや原型ない奴とかたまにいたもんな」

「いたいた」


 サルーテさんとダンテルさんは社会人ですね。物凄く懐かしげに話していますし、過去形です。


「しかし、良いドレスだな……色合いが悲しいが……」

「私も思いますが、アイテム名が色あせたシリーズなんですよね。仕様かと」

「なるほど……」


 ちなみに、ダンテルさんとサルーテさんもそれぞれトップらしいですね。

 エルツさんとプリムラさんと並んで出してるのですから、想像通りでしたが。

 ちなみにトップと言っても、一番上と言う意味ではなく……上から一定以上と言う意味のトッププレーヤー『達』です。

 MMOで誰が一番上か……なんか分かろうはずもなく。でも間違いなく有名で、良い物を作っているのがトップ生産者と言われる人達ですね。



 露店をサルーテさんの隣に出して料理をせっせと作っていると、エルツさんとプリムラさんに続き、アルフさんとスケさんも帰ってきました。

 そこへ妹もやってきました。1人では無く、PTを引き連れて来たようですね。

 このゲームのPTは上限6人のはずですが……倍近くいますね?


「やっほーお姉ちゃん! おっちゃん修理よろしく!」

「おう、ちょっと待て」


 現状私とは逆側にいるエルツさんのところに突撃していくリーナ。

 そして見覚えのある男性2人がこっちに。


「スターシャだな?」

「ああ、トモとスグか」

「おう。漸くフレンド登録な」

「オッスオッス」


 リアルで智大ともひろすぐる

 友人1号と2号で、幼稚園からの付き合いですね。

 キャラクターネームはトモとスグだと学校では聞いてたけど、ゲーム内で会うのは初めてだったり。


 トモは黒髪緑目の人間。武器は本の魔法アタッカーのようです。

 スグは赤髪赤目のジャイアント……巨人種ですね。2メートル中盤……でしょうか。見た目通りのパワーファイターで、武器は両手槌ですね。


 リーナとトモの2PTが来たので多かったようです。

 それぞれが用のある生産者の場所へ向かいます。


「お姉ちゃんよくこのメンバーに並んで露店出したね……」

「うん? 4人ともフレンドだから。ダンテルさんとサルーテさんは今日だけど」

「多分だけど、現状姫様《料理》ではトップレベルだと思うよ? 今いくつ?」

「《料理》は……23ですね」

「ああ、やっぱり。掲示板組だと東の肉が手に入らないからって、15前後で難航してるはずだからね」

「そもそも料理人人口が現状じゃ少ない。もっと増えて欲しいもんだがな」

「なるほど、お姉ちゃん東の森でソロ狩りだもんね……素材はあるのか」

「料理も美味かったぞ?」

「リアルで食べてるから、お姉ちゃんの料理が美味しいのは知ってるけど……結構いい値段するね……。スープどっちがお勧め?」

「ベアね」

「ベアだな」

「ベアだね」

「ベア」

「一番美味しいのはベア。満腹度的にはステーキ。値段ならボア」

「全員推すね……。ベアとステーキ買おう」


 この世界の料理は本当に美味しいと思います。リアルで熊鍋を作ってもこうはいきません。《料理》を取った甲斐がありましたね。問題があるとすれば、まだまだ序盤なので食材の選択肢が無いことでしょうか?


 皆持ってる素材を売り、装備を修理してもらい、今日1日狩りに出るようです。休日ですからがっつりやるのでしょう。私もがっつり料理する予定ですからね。

 今日中にスキル進化は……厳しいかな? 素材レベル的にも、後半は少し伸び悩みそうですからね。


「お、いるいる。あの子からステーキ買ったんだよ」

「なるほど。ドレスで料理してるの、結構シュールだな……」


 ……ああ、以前ステーキをPT分買っていった男性エルフの方ですね。


「やっほーセシルさん」

「やあやあアキリーナさん。相変わらず元気そうだね」


 エルフの方の隣に人間の男性がいますが、どうやらリーナと知り合いのようで。

 まあ、エルフの……ノルベールさんですね。PTメンバーなのでしょう。しかも、恐らくPTリーダーですかね。

 リーナが私の料理を買わせようとしてるのは……まあ、放置しましょう。どうやら元々売ってれば買うつもりで来たようなので。


「エルツさん、修理お願いします」

「おう、待ってろ」

「プリムラちゃんよろしくー」

「おっけー」


 次々と修理依頼が入っていますね。

 皆考えることは一緒……と言うことでしょうか。休日ですからね。


「トモとスグのPTもトップに入ってるの?」

「一応な」

「大体中間ぐらいじゃねぇかな?」

「リーナは上の方な」

「へぇ……。あの2人……狐獣人と兎獣人ってリーナのリア友だよね?」

「そうだぞ。よく分かったな」

「結構遊びに来てたからねぇ……ここ最近見なかったけど、相変わらずか」

「ここ最近はずっとこれやってるだろうからな……」

「なるほど。納得」


 そこへリーナと一緒にノルベールさんと、セシル……と呼ばれる方がやって来ましたが、ノルベールさんはトモとスグの方へ。


「やあ、トモスグさん」

「「区切れ!」」

「1人の名前みたいだよね」


 ケラケラ笑ってそう言う美男エルフ、ノルベールさんです。

 確かに、並べると1人の名前みたいですね。ともすぐ。


「お姉ちゃん紹介するよー。私が入賞した大会の優勝者」

「こんにちは、セシルです。えっとアナスタシアさんでしたよね?」

「はい、アナスタシアです。よろしくお願いします」

「こちらこそよろしく。あっちでジャレてるノルベールPTのリーダーしてます」


 ノルベールさんは前も言ったように、メイン武器が楽器の男エルフです。

 演奏するスキルがあるので、それがメインなのでしょう。広範囲バフスキルですが、演奏中は行動に大きな制限が発生する、癖のあるスキルですね。

 ちなみに使ってる楽器はマンドリンだそうですよ。


 セシルさんは双剣だそうで、器用ですね。

 対魔物対人共に優れているそうですが、なんたって扱いが難しいようです。

 慣れていないと片方だけ使用してたり……とかですね。


「扱いで言ったらお姉ちゃんのレイピアも難しい分類なんだけどね……」

「ああ、レイピアなんだ? その持ち手的に細剣なのは分かったけど……」

「ドレスという見た目に合わせました」

「ああ、なるほど。確かにドレスに細剣はあいますね」


 料理しながら雑談をするのも悪くありませんね。

 皆揃って料理を買っていってくれますし。

 挨拶とフレンド登録だけして、セシルさんはエルツさんのところへ。



〈《料理》がレベル25になりました〉

〈《料理》の【燻製の心得】を取得しました〉


「お……ボアとベアは灰汁抜きが必要なのでダメ……。ラビットよりウルフでしょうか。シンプルのなら手持ちの材料でいけますね……問題は……」


 下味と乾燥にかかる時間でしょうか?

 加湿と乾燥は《錬金》の5レベで覚えるようですね……少し上げましょうか?

 蒸留水+薬草2+カッセイタケでHPポーションが作れるようですね。

 ……蒸留水がありません。

 そこでふと、横を見ると……サルーテさんが蒸留水を自作していました。

 調合キットに蒸留器があるようで、私の炭火の火力を使って作ってくれるなら貸してくれるそうです。


「何個欲しいの?」

「《錬金》を5レベにしたいだけなので、20個ぐらいでしょうか?」

「蒸留水は普通に店でも買えるから、そうだなー……ステーキ1個で値段的に120個かな」

「そうですか? ではこれで」

「使い方は分かるよね?」

「大丈夫です」


 炭火の上にセットして、【飲水ウォーター】で水を注ぎます。後は待つだけ。

 できたものをポーション用の空き瓶に移すと、蒸留水の瓶が完成です。

 これをせっせと繰り返し、120個を超えた分は蒸留器と一緒にサルーテさんへ。


 そしたら初級錬金キットを展開。

 魔法陣が書かれている大きめの布に、素材を載せて【合成】です。


 ……ぼふん! という音と共にゴミができました。


「HPポーションそれなりに高レベルレシピだからねぇ……」

「そうなんですか?」

「チュートリアルとかで貰える初心者用って所謂初級なの。あれは50回復。無印は150回復。初級はスキル上げには使えないんだよね」


 チュートリアルとか、最初から持ってるのは初心者用と別物扱いされており、お店では初級の名前で売られているそうです。

 作り方は無印……つまりHPポーションを更に蒸留水で薄めるんだとか。

 合成でも作れるけど、HPポーションと蒸留水の合成だから、レベル上げに使うにはお金がかかりすぎるようです。HPポーション買うにも今足りてませんからね。

 最初は肥料とか木の矢がお勧めらしいですね。雑草と土、木の枝と何かの羽なんか持ってませんけど。

 失敗でも経験値は入るので、素材が大量にあるHPポーションでやります。


 っと、《錬金》を上げ始める前に下味だけでも付けておきましょう。時間がどのぐらいかかるか分かりませんからね。

 まず料理酒を買う時についでに買っておいた空き瓶を用意します。砂糖も売ってましたが、高かったです……買いましたけど。



[道具] 空き瓶 レア:No 品質:C

 何かを保存するための、そこそこ大きな空き瓶。

 大きいのは難しいため、それなりに高価である。



 これに水、塩、砂糖を投入して溶かします。

 そしたら次、ウルフの肉を取り出し薄く切るのですが……この包丁では難しいので、切れ味抜群なレイピアでスライスしていきます。


「お姉ちゃんがレイピアで肉を切り始めた件について……」

「割りとよく見る光景だ。気にするな」


 妹とエルツさんはスルーで。

 そしたら包丁で玉ねぎとニンニクをスライス。

 先程の瓶にスライスした肉、玉ねぎ、ニンニク、ローリエ、胡椒を投入します。

 これで放置して染み込むのを待ちましょう。


 では、《錬金》でゴミを量産します。

 20個ゴミを生産した頃。


〈《錬金》がレベル5になりました〉

〈《錬金》の【加湿乾燥】を取得しました〉


 目的の物を無事に覚えました。

 後はお肉の下準備が終わってからですね。




 リアルでは土曜日のお昼後、ゲーム内では朝だけあって、結構な人数がいる始まりの街。当然人数相応の喧騒……にも関わらず、大気を震わせ聞こえてくる雄叫び。


「……なんだ?」

「祭りの予感?」


 再び聞こえた雄叫びは南の方からでした。

 そして今度は空からホーホーと聞こえ、プレイヤー全員が声に釣られ上を見ます。


「フクロウ……ですか?」

「だと思うけど……見えないね」


 と思ったのもつかの間、空から光の玉が降りて来て、こちらに向かって飛んできます。その光の玉は途中で、天を覆う巨大な白いフクロウへと変わり、街の上空を通過して再び天へと上って行きました。

 視界の先には街の上空に光が残され、徐々に形を変えていきます。


「敵でも来るかな?」

「鳥……しかもフクロウですか。演出的に神の使いと言う可能性も……」

「ああ、ありそうだねぇ……」


 光がぽんっと姿を変え、SEと共にログが更新されます。



〈〈ワールドクエストが発生しました〉〉

〈〈場所:始まりの街〉〉

〈〈該当エリアへと入った異人は自動的に参加状態へと移行します〉〉



「『なにーっ!?』」


 街のそこらで声が上がりますが……住人がその声にビックリしていますね。

 という事は……頭上のあれはプレイヤーにしか見えていないのでしょう。

 上空にデカデカと表示される『ワールドクエスト』と言う文字は。


 同時にワールドクエストに付いてのヘルプも更新されました。

 しかしヘルプを読む暇もなく、上空の文字と共にログが流れます。



〈〈クエスト規模を確認中…………完了。Wクエストに設定〉〉

〈〈Wクエストに必要な役職に適切な異人達を検索中…………〉〉

〈〈総隊長…………完了。部隊長…………完了。各プレイヤーに申請を開始〉〉



 はて、気のせいでしょうか?

 目の前に『ワールドクエスト:総隊長への申請』で『はい/いいえ』と言う文字が見えるのですが……? まだPTプレイしていない私に総隊長をしろと?


「うお……部隊長申請来た……」

「セシルで部隊長なのか?」

「まあ、やるけどね」


 空を見ると返答待機中……とかなってるので、押さないと進まないようですね……。

 まあせっかくです、やりましょう。



〈〈申請した全員の参加を確認しました〉〉

〈〈残りのPTリーダーを分隊長に設定し、部隊長の元へ振り分けを開始〉〉

〈〈現在PTを組んでいない異人達は、Wクエストのヘルプを確認して下さい〉〉



「『ぎゃー! 視界がー!』」


 ええ、周囲の叫びに同意です。これは酷い。設定弄らないとダメですね。

 えっと……Wクエストの時は……自分のPTメンバーと隊長達の情報だけ見れれば十分ですね。あ、分隊長は無しで。数が多すぎるんですよ。


「うわ、お姉ちゃんの上に王冠が……あ、総隊長だ……」

「うん、なんか総隊長やれって申請来てた」

「あ、ほんとだね。おめでとう?」

「恐らくですが、種族またはスキルの問題では? ほら、統率系とかまさに必要そうですから」

「俺も統率系持ってるね。可能性は高そうだ」

「私は種族スキルで統率系上位を持っているので、総隊長にされたのかと……」

「なるほど。とりあえずミニマップで色変わってる方でも行こうか」

「そうですね。時間も……リアルで30分しか準備時間無いようですから」



〈〈ワールドクエスト:始まりの街防衛戦〉〉

〈〈場所:始まりの街〉〉

〈〈規模:Wクエスト〉〉

〈〈勝利条件:ゴブリンジェネラル率いるゴブリン軍団の殲滅または撃退〉〉

〈〈敗北条件:街への侵入を許す〉〉

〈〈開始まで残り……〉〉



 上空ではクエスト内容が纏められ、カウントダウンが進んでいます。


「姫様、PT組もう?」

「総隊長ってPT組めるんですかね? ……試せば分かりますか」


 アルフレートさんとスケさんにPTを申請すると、普通に組めたので問題は無いでしょう。これで《不死者の王族》と《王家の権威》によるバフがかかります。


 さて、料理キットと露店を片付け、南の平原へと向かいましょう。

 皆でぞろぞろと南へ歩いていきます。


「規模のWクエストだけど、ヘルプ見た感じ戦争クエストだね。ワールドの略じゃないっぽい」

「WarのWですか」


 アルフさんはヘルプを見ていたようで。


「しかし、いきなりこんな大規模な物が来るとはね……」

「……ゴブリン狩りすぎたとか? ボスがゴブリンジェネラルだし」

「どうだろうね……問題は、ジェネラルがどのぐらいの強さなのか……だね」

「ぶっちゃけWクエストってレイド戦じゃ?」

「ヘルプによるとレイド戦の上らしいよ? 文字通りの戦争規模だね」

「ゴブリン数千来るのかな? 戦争だから数万?」


 セシルさんとスケさんが話しているのを聞く限り、かなりの規模になりそうですね。いきなりこんな規模が来るとは思いませんでした。

 まだレイド戦すらやってないというのに。


 ワールドクエストは所謂、他のMMOで言うメインストーリーみたいな物……らしいです。世界に影響を与えるクエスト……ですね。

 これで始まりの街がゴブリンに落とされたら、間違いなく世界に影響があると言って良いでしょう。落とされたら奪還作戦に移行……でしょうか。

 ワールドクエストは結構突発らしく、参加できるかは運次第だけど……結構そこらで発生する可能性があるらしいです。


「ふーん……Wクエスト……他ゲーで言うフィールドボスみたいなもんかな?」

「あー、そうだねぇ。それが取り巻き連れて街襲うって、ハードだね」

「これ、ゴブリンじゃなくてドラゴンだったら、ブレス防ぎきれと?」

「まず真っ先に向き変えないと、ブレスで終わるね」


 セシルさんとアルフさんが話してるのを聞きつつ、南の平原へやってくると大量の異人達の姿が。


「随分と集まったねー」

「まあ、時間が時間だからね」

「あ、紅の月(ブラッディームーン)が浮いてますね……」

「ほんとだ。あれが引き金かな?」

「ですかねぇ……」

「さて、これからどうしようか総隊長」

「どう足掻いても、この人数統率するのは不可能でしょう……」

「だよねぇ……」


 普通に万超えてるでしょう。この数は……。

 となると、ゴブリンも千単位ではなく万単位でしょうね。


 異人達を眺めていると、頭上にアイコン表示を付けた3人がやって来ました。


「はろー! ……もしかして噂の姫様かな?」

「お、これで総隊長と部隊長が揃ったな。分隊長は……まあ無理か」

「ご機嫌よう。アナスタシアと申します」

「「「おぉ……予想以上に姫様してる……」」」

「……まあ、カーテシーはシステムアシストなんですけどね」

「あ、そうなんだ。私はこたつ! よろしくね」

「俺はルゼバラムだ。よろしく!」

「私はムササビです。よろしく!」


 こたつさんは猫獣人の女性ですね。耳と尻尾だけ。

 ルゼバラムさんがなんと、二足歩行して喋る熊です。格好いい系のデフォルメがされていますね。獣人は獣度が選べるので、見た目が案外自由な人類です。

 ムササビさんは忍ぶ気がない忍者ですね……NINJAですか。忍び装束で人間の男。


「うん、姫様の言った統率系スキル持ちが正解っぽいよね」

「なるほど。統率系持ちかつ高レベルでしょうか?」

「そうだと思う。さて、時間がないからさっさと決めること決めたいんだけども」

「「「…………この人数は無理」」」

「うん、知ってた。どうしようか総隊長」

「……流石にこの序盤から空の敵は来ないでしょう。飛行系に乗ったゴブリンライダーとか来たら詰みかねませんからね。武器ごとに隊列組むだけで良いのでは?」

「この人数だし、それしか無い……かな?」

「うむ、シンプルが一番だろう。タンクを前、弓を中、魔法を遠だな」

「無いとは思うけど可能性が浮かんでいる以上、対策しないのは総隊長として無能ですかね……」


 どうもこのクエストが発生してから、参加者は自分の持ってるスキルに応じて役割ロールの選択ができるみたいなんですよね。

 名前の横にその選択したロールがアイコンで表示されるので、ひと目で分かります。

 そしてUIをよく見ると、総隊長である私はロール毎の人数が表示されています。やっぱり参加人数が普通に2万近いですね。第一陣ほぼ全てではないでしょうか?


「……ムササビさん。飛行系の敵が来たら対空を頼めますか? ムササビさんの部隊が一番……誤差ではありますが、多いので」

「はっ! お任せあれ姫様!」

「ノリノリだな。でもこの人数、確実に勝手に動く人間が出るが、どうする?」

「どうしようもないでしょう。最初からいない者として扱ってください。気にするだけ面倒ですし、ゲームですからね。なるようにしかなりませんよ」

「うんうん、実に結構。姫様結構オンラインゲームしてるね?」

「なんだかんだやりますよ、2Dですが。妹がゲーム大好きですからね」

「面白いじゃん!」

「そうね」

「あ、リーナちゃんのお姉ちゃん?」

「そうですよ」

「ああ、ちゃんと賞品が役立ってるんだな」


 作戦とも言えないような作戦が決まりましたが……正直敵の情報がない挙句に、土地が平原です。正面衝突するしか無いでしょう。

 敵どころかこっちの戦力すら把握できていませんからね。寄せ集めですし。


「戦争クエスト? 実に結構ですね。我々からしたらお祭りですよ」

「正しく祭りだな」

「では、作戦の通達をお願いします」

「「「「了解」」」」


 皆さんノリノリですね。

 総隊長は参加者の隊長全員に声を届けられる。

 部隊長は自分の部隊にいる、各分隊長に声を届けられる。

 分隊長は普段のPTチャットと同じです。


 で、総隊長と話せるのは部隊長。分隊長は部隊長と。

 つまり……部隊長は中間管理職ですね。

 そして部隊長は副隊長……自分の補佐を数人指定できるそうです。1人だと大変だからそのサポート要員でしょう。それぞれ管理する分隊を分けられるそうで。

 隊長達はこのルールで距離関係なく会話できます。Wクエスト限定隊長間チャットですね。

 思考でチャットの切り替えができるので、非常に楽です。これVRじゃなかったら発言チャンネルの選択で絶対誤爆しますよね。


 隊長達から作戦が通達され、ぞろぞろと皆が位置につきます。

 PTメンバーのアルフさんとスケさんも前に行って貰いましょう。



「そう言えば、放送どうする? と思ったけど、各自勝手にするか」

「放送ですか?」

「このゲーム生放送配信機能とか、録画機能があるんだよ」

「そう言えば、オプションにそんなのありましたね……。分からないのでスルーしてました」

「録画設定ぐらいしとくと良いぞ?」

「始まるまでもう少しありますし……今しましょうか……」

「設定自体はそんな無いからね。教えるよ?」

「お願いします」


 こたつさんにお勧め録画設定を教えて貰いました。

 生放送の設定もしましたが、配信サイトのアカウントを持っていないので、リンクをしていません。

 一人称の視点を端っこに小さく、三人称の視点を大きく……ですね。

 これが安定だそうです。所謂テンプレですね。一人称だけだと酔う。三人称だと臨場感が……と言う事だそうで。三人称の時、視界ラインと言う今ここ見てるよってのが分かるそうです。凄いですね。

 UIは基本枠だけで、HPMPとミニマップぐらいしか映らないそうです。

 スキル構成バレたりしちゃいますからね。


「うん、早速放送してるのいるな。あのプレイヤーの後ろに付いてきてるカメラ持ってる妖精がそうだ。緑が放送、赤が録画だな。ちなみに住人には見えない」

「なるほど、あれがそうだったのですね」

「せっかくの祭りだし、俺も放送するかな?」

「セシルさんアカウントあるんですね」

「今部隊長してるの皆あるよ?」

「あ、そうなんですね」


 皆さん放送者でしたか。

 セシルさんの後ろに緑色の妖精さんがひょこっと出てきて、カメラを構え始めました。他の方も放送してますし、同じ場所で放送しても視聴者取り合うだけでは? と思いましたが、同じ場所の別視点はそれはそれで面白いのだとか。

 見る人はウィンドウ分けて同時に見るらしいですね。


「アキリーナさんもアカウント持ってるけど、放送せずにたまに撮った動画上げてるね」

「なるほど、生放送だけではないのですね」

「まあ、必要になったら作ればいいんじゃないかな。さて、そろそろか……」


 定期的に森の方から咆哮が聞こえてまして、聞こえる度にだんだん大きくなって行くのです。近くに来てると言う事でしょうね。


 カウントダウンが1分をきった頃、森の方からぞろぞろとゴブリンが出てきました。

 私は初めて見ますね、ゴブリン。ファンタジーのオーソドックスな見た目ですか。

 ちらほら一回りほど大きいゴブリンがいますね……?

 ゴブリン達は石の槍、石の斧、弓、杖で武装と……。


「報告します! 一回り大きいゴブリンはホブゴブリンだそうです!」

「おいNINJA、騎士みたいになってんぞ。忍べよ……」

「HAHAHA、知らんでござるなぁ」

「ホブゴブリン……定番ですね。レベル10進化でしょう。ジェネラル……将軍ですか。レベル30……高くて40相当ですかね」

「ホブゴブリンからジェネラルは流石に無いでしょう。間に何か挟むとすると、そのぐらいになるかな?」

「想定でもトッププレイヤーと比べて大体レベル差倍か」


 そしてカウントが0になり、上空には『Ready』の文字が。


「Readyで止まられても困るんだが? 総隊長何か出てる?」

「……出てきましたね……これ、言えと?」

「なんか開始のキーワードでもあるんか?」

「総隊長からの開始命令が必要なのかな。一応軍っぽいし?」


 ひょっこり出てきたウィンドウには、セリフが書かれています。

 これを言うと始まるようですね。カウントダウンもされているので、言わなくても自動的に始まるようですが……仕方ありません。恥ずかしがったら負けですねこれは。演劇です演劇。RPRP。


「あー……あー……よし、では行きます」


 多少ちゃんと声を作りましょう。

 このセリフはかっこよく、凛々しくですね。


「『集いし異人達よ、開戦の時です。あの者達を1匹たりとも通してはなりません。戦の女神、シグルドリーヴァ様のご加護があらんことを! 全軍、攻撃開始!』」


 セリフを言い終わると同時に、参加している全てのプレイヤー達が赤い光に包まれ、光が体の中へ吸い込まれていきました。



〈〈《王家の権威》が発動しました。このクエスト中、全ステータスが上昇します〉〉

〈〈ワールドクエスト:始まりの街防衛戦、開始します〉〉



 プレイヤー達の雄叫びと、森の方からの雄叫びが重なり、大気を震わせます。

 同時にゴブリン、ホブゴブリンが動き出しこちらに突撃。


 部隊長達の指示により遠距離、中距離組からの攻撃が開始。

 魔法と矢が雨のごとくゴブリン達に降り注ぎます。


 そしてゴブリン側にも弓持ちと杖持ちがいるので、向こうからも魔法と矢が飛んできます。1対1なら大した事無いゴブリンでも、戦となるとまた別です。


「……ゴブリンの動きが全然違うね」

「あ、やっぱり?」

「あんな賢くはないはずだもんな」

「しっかりこっちと似たような隊列組んでるでござるなぁ」


 なるほど、ジェネラル……向こうの司令官の存在がでかそうですね。


 魔法と矢の雨あられを抜けた前衛同士がぶつかり合い、本格的に始まりました。


という事で、次は防衛イベント。


Key

南のゴブリン種を一定期間以内に一定数以上討伐。

その数日後、ジェネラル率いるゴブリン軍団が反撃にやってくる。

数日の間準備期間としてゴブリン達のポップ数が激減する。

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― 新着の感想 ―
魔法で出した水は不純物のない蒸留水だと思うが………何で不純になってるのか。 それを蒸留する過程で逆に汚れそう。 ほぼ、みんな青銅製装備でレイド? 戦争発生するの早くない? せめて鉄装備を整えてから……
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