113
土曜日! さて、今日はどこに行きますか。
「サイアー、霊樹の魔力が安定したとのことです」
「……ああ、お茶の木ですか」
ログインしたら専属侍女であるエリアノーラから、お茶の木の魔力が安定したという情報が入りました。
私の離宮がある冥府は特殊な環境なため、イベントで交換して手に入れたお茶の木が変質したんですよね。魔力が落ち着いたことで、味にどんな変化があるのか。
大鉱脈掘り掘りするついでに、見に行きますか。どうせ見た目の変化は無いでしょうけど。むしろあった方が困惑する自信があります。
カンカンしながら認識範囲内の木を見ますが、普通です。至って普通。一応魔力を見ることで前回との変化はありますけどね。
「魔力の乱れがなく、葉っぱまで行き届いていますね」
「庭師によれば、魔法触媒にする場合は多少年取っている方が良いとか」
馴染み具合とかの問題でしょうか。まあ、魔法触媒を変えるつもりもありませんし、お茶の木を伐採する気もありませんが。一応イベントで交換した木ですからね……。他の入手手段を知らないので、伐採するのはちょっと無いです。
部屋に戻って試飲。重要なのは味! 美味しいが全て。
「今回も一般的な茶葉より蒸らす時間を長くしました」
「方向性は変わりませんか。香りが強く出て渋みがないのは大きな利点でしょう。ブレンドが捗りそうですね。品質は安定したのですか?」
「そのようです」
食品系の品質が安定した=味の安定ですから、良いことですね。
え、品質安定前からの変化? ……覚えてるわけないじゃないですか。品質安定前の安定供給とか不可能ですし、覚えておくだけ無駄でしょう。
緑茶と烏龍茶と紅茶は製造法の違いですが……まあ、良いか。紅茶以外特に用はありませんし、気になる人が頑張るでしょう。
あれ、この紅茶バフ持ってますね。
リラックス
適度に力が抜け、集中力が高まっている状態。
HPMPスタミナの自然回復量上昇。
生産系スキル使用時、品質微増。品質ルールの制限を超える事はない。
……割と有能。生産者御用達ですね。少し調べますか。
キーとなる素材は恐らく霊樹の葉。私の場合は茶葉。お茶以外でもこのバフが付く……はず? うちの霊樹はお茶の木なので、茶葉を使ったクッキーとか?
そしてなんと、料理バフと共存が可能。御飯食べる時にこのお茶で、2個バフが付きますね。ステータスは上がりませんが、HPMPスタミナの回復速度上昇はあって損ありませんし。
この情報は生産板にSSを貼っておきましょう。
《聖魔法》に【リラックス】がありますが、これとは効果が違いますね。別枠だと思うので、効果は両方出るはずです。
さて、錬金部屋へ行きましょう。
【秘封結晶】
宝石を加工し魔力や魔法を封じ込める結晶を生成する。
ついに来ました、秘封結晶。これにより複数のレシピが開放されたので、色々検証しないといけませんね。
《空間魔法》の【インベントリ拡張】を使用することで、マジックバッグになるのかどうか。
一号が持っている物は銀の鍵による魔改造というか、私との共用化ですからね。背負い籠の入口部分の空間を弄っているのでしょう。秘封結晶でそんな事はできないと思うんですよね。
……まあ、色々検証しようにも、私だけでは不可能なのですが。とりあえず手持ちの宝石で、何個かの秘封結晶を作っておきます。今度エルツさんかプリムラさん、後はニフリートさんに渡しておきましょう。鍛冶、木工、細工なら使えるはずです。
そして作りたいのはもう1つあるんですよ。
一番大きな手持ちの宝石に合わせて、そのサイズの魔石を用意します。
【状態変化】を使用してどちらも液体化。混ぜ合わせてそのまま【秘封結晶】!
[素材] ドールコア レア:Ep 品質:B+
自動人形のコアとなる心にして動力源。
《召喚魔法》《人形魔法》【ゴーレム錬成】が複合発展した叡智の結晶。
びーぷらですか……なんとも言えない品質です。
現状、魔石のサイズは【魔石錬成】でゴリ押しができます。宝石のサイズも採取スキルのレベルや場所でなんとかなります。しかし、これらの品質に関しては運任せなんですよね。原石からの削り出しで多少変わるにしても、原石の品質次第です。
つまり、ドールコアの品質を上げるのが物凄く難しい。
とりあえずこれは……アビーにでもあげるか、委託に流すか。私はここまでしかできませんし。これ以上は人形側の生産スキルが必要です。
《錬金》は中間素材御用達スキル。
次は、お城の訓練場に行きますか。
もうすぐ《古今無双》が60になるのですが、免許皆伝のクエスト終わりませんかね? 一応3次開放レベルですから、認めて欲しいところです。
訓練場で平日中に覚えたアーツ達の確認をして、遺跡ダンジョンで今日中に《古今無双》を60にしましょうか。
さて、めちゃつよ木人を前にしまして、掲示板見ながら確認していきましょう。
3次の《細剣術》と《本術》になりました。現在レベル2とレベル5で、近接系はレベル5で最初のアーツなのでまだ。《本術》で覚えたアーツは2個。
【インフリクト】
対象のパーティーメンバーにヘイトの一部を押し付ける。
【サーキュレーション】
魔力や所持している魔法属性を魔法触媒に纏わせ、威力上昇や耐久強化を図る技術。
【インフリクト】は……スケさんとか双子が使う……かもしれません。私はPTだとヘイト2番が良いですからね。スケさんとヘイトを取り合いますが、スケさんが【インフリクト】を私かアルフさんに使えば、より狩りが安定するでしょう。ソロだと肉塊の一号に押し付けるぐらい。
【サーキュレーション】ですが……残念なことに、私は使いません。というか、既にアサメイがこの機能を持っているので、効果が無い模様。
そして《本》60で覚えた、ある意味ではお決まりの技。
【バニッシュ】
対象のバフを一つ消去する。消去されるのはランダム。
これは木人で試せませんが、掲示板によると成功率は100%ではないとのこと。何かしらの判定があるようです。
光と闇の3次である《極光魔法》と《混沌魔法》ですが、なんと15でそれぞれ別の魔法を覚えました。今までは属性が違うだけで、挙動などは同じだったのですが、ここに来て固有魔法ですよ!
【セラスエンブレイス】は翼を持った光の何かが生成され、対象に突っ込んで行きます。木人では分かりませんが、高誘導の高威力単体魔法らしいです。
《雷魔法》には劣りますが速度も速く、直角に曲がるほどの高誘導性。マジックミサイルの上位互換的な立ち位置で、欠点は消費MPがかなり多いこと。こればっか使ってるとすぐ枯渇するでしょう。
《古代神語学者》でのキーワードは"Aten"
【ダムネイション】は指定箇所に一定の闇が広がり、無数の腕が伸びて引きずりこもうとするエフェクトが出ます。若干の拘束性能と、極低確率の即死。
座標指定魔法かつ、攻撃判定発生まで少し時間があるのが難点。しかしフラック魔法よりは使いやすいので、闇の主力に加えても良い魔法でしょう。攻撃魔法としてとても優秀かと。
《古代神語学者》でのキーワードは"Motu"
【聖魔法】は基本的にアンデッド対策か回復補助なので良いでしょう。【影魔法】も妨害系が多いので、木人相手では意味がありません。特に【影魔法】は実際に使わないと使い勝手が分からないので、狩りの時に確認します。
他は特にこれと言って大きな変更はなしですかね。
よっし、遺跡ダンジョンでジェダイして、《古今無双》を60にしましょう。そしたらご飯食べて、午後一でラーナのところへ行ってみますか。
少し遅れましたがお昼、リビングへ行くと妹がいました。
「あ、お姉ちゃんこれから?」
「うん、スキル上げしててねー」
「ダンジョンいたし戦闘スキルかー」
もぐもぐしている妹と話しながら、こちらもご飯を用意します。
「なんか気になる事とかあったー?」
「んー……生産関係で何点か。ただ協力者が必要だから……」
「てっと錬金関係かー」
「後はSPが余ってるから、どうしようかなって」
「割と余るよねー? かと言って変に取るとスキルレベル上がらなくなるし」
パッシブ取りまくりたいところですが、スキル経験値分散の筆頭ですからね。それぞれのスキルに入る経験値が減って、スキルレベルが上がりづらくなります。
私のスキル構成が既にパッシブばかりですからね……。どうせアクティブスキルなんて使うの限られるじゃないですか。私の主力は《古今無双》に《極光魔法》に《混沌魔法》、あとは触手ぐらいですからね。
《細剣術》と《本術》はアクティブアーツほぼ使いませんし、微妙に残った敵用に《蛇腹剣》のアーツ使うぐらい? これも触手で引っ叩いても良いぐらいです。
《死霊秘法》も召喚取り込みぐらいで、基本召喚するだけ。《時空魔法》も補助系ですし、《影魔法》と似たような使用頻度。後は一号の回復に《聖魔法》を使うぐらい。
最近《アイちゃんズ》のおかげで状態異常が使いやすくなったのは良いですね。触手で付ける状態異常とは違うので、ついでに見つめておくと良い感じにスキルが育ちます。
私って結構、スキル構成はシンプルなんですよね。
「お姉ちゃんのしてること自体はシンプルだけど、真似できないからね」
「ジェ○イ楽しいよ?」
「同じスキル構成にしても、できる人がどれだけいるのか……」
「フォースを感じるのじゃ……」
実際は慣れるしかありませんけどね。まずはあの視界からですけど。
食後に紅茶一杯飲み、のんびりしてから午後のログイン。
さあ訓練場へ行きましょう。何かイベントがあると良いのですが。
訓練場では相変わらず冥府軍の住人達が、訓練に勤しんでいますね。
お、リジィの中身、リーザ発見。頑張っているようですね。
「ああ、サイアー。良いところへ」
「何かありましたか?」
「さあやりましょう」
やってきたラーナはスチャッと剣を抜いてニッコリしています。
いつもはこちらから声をかけるので、イベントですかね。
「まずは型稽古から見せてもらいましょうか」
いつもはすぐに殴り合いが始まるのに!
いつもやっている型稽古をした後、冥府軍の何人かを相手にし、それからラーナの相手。
様々な方向から様々な速度や力で攻撃してくるのを、ひたすら弾きます。
ラーナは総隊長ですが、頭脳派かと言うとそうではありません。味方を引き連れ最前線で無双するタイプの総隊長です。『作戦や戦術というものは、戦力がある程度拮抗している時に必要なのですよ』とか宣うタイプです。
小細工無しに前に立つもの全てなぎ倒して行くんですよ。だからこその大英雄。ラーナの場合、敵は魔物だった……というのも大きいでしょう。
つまり何が言いたいかというと、めっちゃ武闘派。戦闘時に本能で最善の行動を取り、直感で指示を出す、俗に言う天才。
そして向こうは私より遥かに格上のレベルカンスト。私が付いて行けない速度で動き、攻撃の時だけ私が認識できる速度で、タイミングやら込める力を変えて攻撃してきます。
つまり力加減・タイミング・攻撃方向・攻撃方法・攻撃回数・などなど、大変器用に攻撃してくるのを防がないといけません。
認識できるギリギリの速度での突きを防いだと思ったら、今度は一気に速度を落としての3連撃など。防ぐのは当然としても、やる方も絶対に難しいでしょう。
結構掠ってはいますが、斬り飛ばされるのは防げています。いえ、正しくありませんね。斬り飛ばされずに済んでいます。
真後ろから突きが来たので、アサメイを背中に回しつつ体を捻って掠りつつも避けます。配下の殺意が高い。
「ふむ……今のも反応してそらせますか」
「思いっきり掠っていますが」
「突き刺さらなければ上々です」
ラーナが随分とご機嫌ですね? クリアできたでしょうか。
「……免許皆伝としても良いでしょう」
「ついにですか」
〈クエスト:『目指せ、免許皆伝』を達成しました〉
〈『称号:古代剣術後継者』が『称号:古代剣術免許皆伝』へ強化されました〉
[古代剣術免許皆伝]
剣姫スヴェトラーナの使用していた古代剣術・古今無双の中でも、一番特異とされる一刀流を学び、その全てを伝えられた者に与えられる称号。
一般的には極めたと言える状態。……しかし、極致へは程遠い。
型の効果にシステムアシストが追加される。
「しかし鍛錬は怠らないでくださいね?」
「それは勿論」
「……サイアーならば、私とは違ったものを取得できるやもしれません」
「まだ何かあるのですか?」
ラーナによると、まだあるらしいですよ。ただ、ラーナにも確実にあるとは言えないそうですが、あるはずだ……とのこと。そして教えることもできないとか。
【Ex4 意馬心猿】
【剣技超強化】【斬撃超強化】【脚力超強化】
【防御強化】【受け流し強化】【反射強化】
ラーナの全力時の型はこれ。完全に攻撃主体の型であり、ラーナは生前【Ex3 修羅の型】を愛用していました。
恐らく【Ex3 水面の型】を主に使用している私なら、別の型へと派生するのではないか……とのこと。
……覚えるのはいつになるやら。しかし、楽しみが増えたのも事実。このままジ○ダイを貫きましょう!
さ……て、どうしましょうか?
とりあえず始まりの町にでも行きますか。
「ヒヒヒ! 姫様じゃねぇかぁ!」
「あんらーお久しぶりねー?」
「あ、おはようございます」
……モヒカンと愉快な仲間達を紹介するぜ! 右からヒャッハー系いい人! オネエ! 女装男子だ! ……相変わらず濃いですね。
「ごきげんよう、モヒカンさん、美月さん、歩さん。それと初めましてですね?」
見慣れない男女がいます。しかも……水棲系の人化種族。尻尾を見る限り……恐らくサメ?
「シャークックック! シャーKUNだ、よろしくな! アクセントはシャー芯と同じで頼む!」
……濃い。実に濃厚です。そしてやっぱサメ系統ですね。サメですよね? まさかそれで違うとか言いませんよね?
オールバックのツンツン頭で色は紫でしょうか? 目つきは鋭く色は黒。歯はサメのようにギザギザ。ノコギリのようなデザインのバンダナをしていますね。
服装は……浜辺にいる男性的な。上半身裸で羽織るだけで、下半身は短パン。色合いは水兵のような白と水色。
身長は170センチぐらいでしょうか。武器は剣……だと思いますが、面白いですね? 恐らくノコギリザメのノコギリ部分が腰に吊るされています。
「ふかひれです。よろしくお願いします」
ふかひれさん……180センチ近いのでは? 胸は小さめですが、長身なのでクビレがはっきりしていますね。
ダークブルーでポニーテール。水色の三白眼でギザ歯。服装はホットパンツのへそ出しルック! カラーはこちらも水兵。
武器は……鎖鎌ですね? また珍しい物を……。
「水棲系の人化種族って、あまり見かけない気がしますね……」
「あまり利点がありませんからね?」
水棲系は種族的に人化するのは微妙らしいですね。
人化してもしなくても、水棲系種族スキルの《水泳》のレベルを上げれば、地上や空を泳げるようになる。ただそのまま地上に出ると呼吸できなくて死ぬので、種族スキルの《ラビリンス器官》が必須。
人化すると地上を歩けるようになるが、地面や空を泳げなくなるし、水中での速度も遅くなる。メリットは地上の住人と会話ができるようになり、人と同じ装備やスキルが使用可能になる。……内部補正まで同じとは限らないそうですが。
「つまり、大半の人がわざわざ魚介類を選んだのに、人にならないと」
「シャークックック! 俺らは変わりもんだ!」
「ギャハハハ! 色んな意味でなぁ!」
「お前に言われたくねーわ!」
間違いなくどっちもどっち。
シャーKUNは名前からしてだいぶネタ系に走り、ノリが良い人ですね。ふかひれさんはしっかりした子だと思います。
ちなみに種族名はカリハロイドと言うそうで。シャーKUNはソーシャーク……ノコギリザメからの進化。ふかひれさんはオブスキュラス……ドタブカからの進化だそうです。
「あー! 姫様だ!」
「ゆらさんですか。話すのは久方ぶりですね」
「うわぁ、何だこのメンツは……」
ドン引きする一般人の図。
世紀末、オネエ、女装男子、サメの人型2人と私。私も大概ビジュアルがあれですからね。んん~……濃い。
世紀末とオネエがゆらさんに向かってポーズ決めてますね……強い。
ちなみにゆらさんはショートで薄ピンク髪。リボンで右耳の上後ろ辺りを縛り肩まで垂らしています。まあポニーテールの縛る位置を、右耳辺りまでズラしているわけですね。
体格は割と小柄気味で、身長は150前半でしょうか。
服装は……白とピンクのアイドル衣装と言うべきですかね。ノースリーブにミニスカで少しひらひら。
「姫様の周り濃すぎない?」
「姫様はでっけぇからなぁ!」
「ちょ、モヒカンさんセクハラですよ!」
「おうおう何を想像したんだぁー? 俺はでっけぇしか言ってねぇぜぇ?」
「えっ!?」
モヒカンさんが女装男子をからかっていますね……。胸張っておきましょう。
「……楽しいですよ?」
「間がありましたね?」
「ちょっと振り返っただけですよ」
ゆらさんと話していると、彼らは狩りに向かうそうです。
……タンクいませんよね? そのメンツ。モヒカンさんは短剣、美月さんは棒、歩さんは刀、シャーKUNが剣でふかひれさんは鎖鎌。なかなかハードな狩りになりそうですね。
まあ、ゆらさんと見送りします。
「そう言えば姫様、魔眼の使い勝手ってどうなんですか?」
「パッシブの魔眼はとてもいいけど、状態異常系の邪眼はいまいちですね」
「使い勝手悪い系?」
「見ている間カウントが進んで、視界から外れるとリセットのタイプですね。時間も短くありませんし、邪眼は他のスキルと競合するので、少々使い勝手が……」
「他スキルとの競合かぁ……」
これはPvPでは弱点……にも一応なるので詳細は言いませんが、邪眼の効果は《揺蕩う肉塊の球体》の自動反撃と競合します。
ちなみに《アイちゃんズ》による衛星エフェクトは《揺蕩う肉塊の球体》のエフェクトに上書きです。つまり《アイちゃんズ》を無効にすると魔眼や邪眼が使えなくなり、エフェクトも元々の球体が離れたりくっついたりをランダム箇所で繰り返すあれに戻ります。
「正直持っている状態異常だけで言えば、邪眼より粘液の方が優秀ですね……」
「ああ、あの触手でペチペチしているやつ」
停滞や緩慢といった敵の行動妨害系は結構使い所が難しいんですよね。動きが止まった瞬間フルボッコにして倒せるなら良いのですが、そうでないなら地味にやり辛かったり。
遺跡ダンジョンでソロのときとか、基本的に恐怖の視線しか使えませんからね。停滞で動きが止まっても困りますし、緩慢で動きが遅くなっても困りますから。
死の視線はレジストされる可能性もあるので、敵が増えすぎた時に使う……なんてのも無理です。とりあえず使っとくにしても、発動まで5分は長すぎます。
PTだと主にアルフさんの行動に影響が出るので、使うかどうかはアルフさんと相談。いつものテンポで捌けなくなるというのは、アクションゲームだと結構困ります。感覚で覚えているものがズレるわけですからね。
それらの問題から邪眼を使うなら被ダメを減らせる恐怖が安定。更に敵の行動を阻害しない、触手で塗りたくれる《未知なる組織》が優秀。とりあえず付けとけば良いスリップダメージはやはり使い勝手が良いです。
「そう言えば放送しているようですが、放送的に雑談はありなんでしょうか?」
「ありよりのあり!」
「そういうものですか」
「姫様はフィルターもかかってないからねー」
ああ、放送関係のフィルターですか。公式以外のプレイヤーによる動画・放送に対してフィルターをかける……でしたか。そんなオプションがありましたね。
「あの機能、1陣は使っている人の方が少ない気がしますね」
「イベントで1陣と同じになりますが、確かに少ないですね。むしろ自分から映りに来る人もいますし」
「放送してると、やっぱり大変な事もありますか?」
「んー……たまにしょーもない荒らしは来ますが、ブロックすれば済みますし。リスナーさんも特に反応せず通報しているようなので、そこまで……ですかね?」
「撮れ高とか気にしません?」
「あー、最初はしてましたね」
このゲームAIが優秀だから最近は気にしていないとか。撮れ高を気にするよりも、リスナーを不快にさせない方を優先しているようですね。見続けられるというのは、やはり強みになるのでしょう。
「え、姫様とPVP? 嫌だよ。ボコボコにされる未来しか無いもん」
「そう言えばゆらさん、メイン武器は?」
「両手斧です」
「……アイドルらしからぬ武装していますね」
「よく言われる。しかしそれはそれ。武器は無骨の方がかっこいいじゃん!」
白とピンクのアイドル衣装で無骨な両手斧振り回してるんですね……。良いと思います! ゆらさん小柄なのもポイント高そうですね!
「私の武器はだいぶ特殊ですからね……」
「姫様のあの刀身好き」
恐らく空間属性の刀身でしょう。大体使用しているのがそうなので、目撃情報が一番多いはずです。夜空みたいで綺麗ですからね。
アサメイを手に呼んで、空間属性で展開します。
「そうそれ! うん、実に綺麗」
「空間の刀身で、受け流しや防御に補正がある属性です。基本的にこれですね」
このアサメイは私専用のため渡すことはできないので、よく見えるように横にしておきます。
「おぉーめっちゃ綺麗! 見て見て!」
何やら操作をしてからガン見しています。放送視点を一人称に切り替えたんでしょうか。
……テンションが高いですね。確かに綺麗ですけども。
「にょわっはっ!」
しかし突然胸に手を当てながら仰け反りました。
「……どうしました?」
「目が合った……ビビッたぁ……!」
「ああ、この子達ですか」
「おお……コメが流れる流れる。被害続出してますわ」
「すみません。私これでもホラータイプなので」
《アイちゃんズ》ですね。この子達基本的にオートなので。ここから見て……とか、この辺りに1個……程度の制御ならできるんですけどね。それするのって大体戦闘中ぐらいなので、普段はフリーダムです。
「スキルのフレーバーテキストがこれなんですよね……」
「……へー……? これ勝手に邪眼使うんですか?」
「どうでしょうね? とりあえずにらめっこはやめさせているのですが、町中ならプレイヤーは平気だと思うんですよね」
基本的に町中はセーフティエリアですからね。プレイヤー同士の攻撃もできませんし。
「姫様を見てる時に一人称で流すのはダメ……と……」
「でも小枠で一人称出してますよね? 結局被害でそうですが」
「……致し方なし! 私は姫様をとる!」
「まあ私が《アイちゃんズ》を一時的に無効にすれば目は合いませんが……」
《アイちゃんズ》を外した場合のエフェクトも、それはそれであれなんですよね。いったいどっちが良いんですかね?
あ、そう言えば……《アイちゃんズ》を有効のまま、《揺蕩う肉塊の球体》を無効化するとどうなるんですかね?
「ちょっと試してみますか。エフェクト変わるはずなんですよね……」
「へー?」
「《アイちゃんズ》ではなく、こっちのスキルを無効化してみて……っと?」
……ふむ? お目々ちゃん衛星が無くなりましたね。それならこっちを無効にするのもありかもしれませんが……。
「住人相手に立場を示すためにも、スキルは有効のままが望ましいんですよね」
「あー……身分制度の世界ですからねー?」
「そうなんですよねー……」
住人への影響と分かりやすさを考えると、やはり《アイちゃんズ》を無効にするべきですかね。とは言え、ゆらさんと話す時ぐらいですが。
「あっああああああー! いけません! いけませんねぇそれは!!!」
「なるほど、こう来ましたか。さすがホラーの住人」
……眼球の出現位置が球体じゃなくて、ランダム箇所の肌になりました。
地獄ですね。
「……お目々ちゃん達で我慢しましょ? 普通に見る分には可愛いですよ?」
「つぶらな瞳だしそれぞれ意外と個性を感じられて良いですが、ホラー展開良くないと思います」
「あ、もしかしてフィルター入れたら良いのでは? ショゴスを考えると」
「あ、なるほど!」
フィルター系は複数ありますが、一括や種族別で設定が可能です。外なるものに入れれば大丈夫だと思いますが……。
「球体だけになったのかな? さらばお目々ちゃん……」
「というか、フィルター入れて無かったんですね」
「普段だとそう会うことも無いですからね? ハロウィンのイベントの時は最初から覚悟してましたし……そういう系だと」
「確かに、不意打ちとは訳が違いますか」
「そんなもんですなー」
まあ、私がスキルを弄る必要はなくなりましたね。
「あらターシャ、ごきげんよう」
「ごきげんようです! ターシャ」
「ごきげんよう」
ゆらさんと話していると、エリー達がやってきました。
「あら……? 綺麗に映して頂戴」
「はい、お嬢様!」
「いや、ゆらさんもアイドルなので映される側だと思いますが」
「些細な事よ。おーほっほっほ!」
無駄に決まってますね。相変わらず高笑いの練習でもしてるんでしょうか。
「一気に華やかになった! 美味しい」
「私には従者がいませんが……一号でも呼びましょうか」
アーマーで騎士風の一号と、以前作った雰囲気重視でローブ姿の、大きい一号を召喚し、背後に控えさせます。
「いや、やっぱ姫様だけ雰囲気違うわ……」
「あれはお嬢様って言ったらダメよね?」
「確実にボスです!」
「なぜです。雰囲気あるじゃないですか」
「方向性の違いで解散するレベル。周囲が暗ければ完璧」
レティさんとドリーさんも頷いてますね。
解せぬ。
「あ、そんな事よりアビー。《錬金術師》が上がってこんなの作れましたよ」
「あー! まだ使えないです……」
「さすがに3次いっていませんか」
「もう少しかかると思うです」
アビーは2陣ですし、生産メインというわけでもありませんから、さすがに3次はまだでしたか。
ふぅむ……売りますかね?
「なにかしら?」
「ドールコアですよ。自動人形を作るのに必要な素材です」
「へー? オートマタというと、勝手に動くようになるのね」
「仕様がまだ不明なので、委託に流して誰かしら試してくれないかな……と」
「品質はどうです?」
「作るのは簡単ですが、品質を上げるのが難しいタイプですね」
アビーに使用する素材などを教えておきます。今から素材を集め始めて、3次になって持ってくると思います。
コア以降は人形側の役目なので、品質が重要なのかサイズが重要なのか分からないんですよね。それぞれが与える影響が不明なので、素材の確保は大変でしょう。
「お嬢様同士の会話、良い……実に良い……」
「映しに徹しろとは言っていないのだけれど」
「ミーハーです?」
「本人が楽しそうだから良いのではないでしょうか」
ゆらさんが喋らないと思ったら、完全にカメラマンになっていました。レティさんが言うように、やけに楽しそうですね……。リスナー達と盛り上がっているんでしょうか。
私とエリーとアビーが三角形で話し、ゆらさんが少し離れたところからカメラマンをしています。レティさんとドリーさんはそれぞれ主人の後ろですね。
「おや……?」
「「? ……!?」」
「こんにちは、ネメセイア様!」
丁度私達の三角形の中央やや上に、逆さまで少年の上半身が飛び出して来ました。
エリーとアビーだけでなく、大体の目撃者が驚いていますね。私は亜空間にいる段階で姿が見えているので、驚くことはありませんが。
「お久しぶりですね、アルカディー」
以前と雰囲気が違いますね。以前会った無邪気な感じではなく、去った時のしっかりした感じのままですか。こちらが素なのでしょうか?
スタッとこちらを向いて着地。相変わらずのピエロ感。拘りなのでしょうか……。
「こちら父上よりお手紙です」
父上というと、プロア家当主ですか。いったい何用ですかね? 大体偉い人は手紙に罠などがないか警戒するかもしれませんが、私にそんな事しても無意味です。
一切の警戒もせず、受け取ってさっさと読みます。
こういった物は表示モードがありまして、原文・意訳・要略などですね。
貴族からの手紙は基本的にガチガチなので、意訳表示が安定です。3行で頼む!とかなら要略ですね。理想は意訳と要略の両方読みでしょうか。
情報収集やらを担当する我が家だけど、我が子の悩みを知らなかった事、とても恥ずかしく思う。
我が子の相談に乗ってくれた事、そして私達と話すように言ってくれたこと、大変感謝している。ありがとう。
何か困ったことがあったら、できる限りの協力を約束する。私達歪魔の力、上手くお使いください。
これは……要するに、感謝の手紙ですね。そして、借りを返すつもりもあると。
「……ちゃんと話せたようですね。悩みは解決しましたか?」
「んー……ひとまずは」
とりあえず闇落ちしてなさそうで何より。
ええ、本当に。
「そうですか。とりあえず自分を納得させるだけの答えは出せたようですね」
「はい。ありがとうございました」
んー……実にピシッとしっかりとした礼ですね。良いところの子って感じが溢れ出ています。
……格好がピエロですが。
「同じ神を信仰する者として、導けたのなら何よりですよ」
長く頭を下げているアルカディーに声をかけると頭を上げ、今までの真面目な様子からコロッと変化し、会った当時のような無邪気なニコニコ顔になりました。
「でも悪戯はやめないけどね! 子供のうちの特権だから!」
「ああ、まあ。子供のうちというのは間違いありませんね」
しばらく周りの人の胃は犠牲になりそうですが、子供のうちの特権と分かっているので、そのうち落ち着くでしょう。
「あ、そういえばそろそろかな?」
「なにか予定ですか?」
「帝国で新しい技術が開示されるんだよ!」
「詳しく」
「詳しく聞きたいわね」
「気になるです!」
アルカディーから聞いた情報を纏めると、魔導銃が作れる技術の開示ですか。つまり機甲種を作りしミ=ゴやイスの技術の復元。世界的にも大スクープになるのでしょうが、そんな事より魔導銃ですよ。光剣も作れますかね?
確実に生産板が盛り上がりますね。
「私は使わないかしら」
「人形に活かせるか気になるです!」
「いやでも、蛇腹剣が作れるならありね……」
そうですね。蛇腹剣が作れるようになるなら、エリーの火力強化という意味ではありでしょう。《刀剣》スキルの取得しないとですけどね。
「コロッセオの近くに作ってたのが工房だよー」
「コロッセオ近くですか……」
あそこまだ行ってないんですよね。掲示板で検索してみますか。
「今までは貴族用だったんだけど、一般公開だよ!」
確かにそこそこ前に書き込みがありますね。最初の方は工事中で気になり、完成しても入れず……と。制限機能付きのお高いドア使っているようですね。というか、そのドア自体がその技術によって作られた物なんですかね?
「ふむ……確認しに行ってみますかね?」
「行くです!」
「そうね、行きましょうか」
「私も行きます!」
……銀の鍵で良いか。門を開いて。
エリーとアビー、そのお付のレティさんとドリーさん。カメラマンと化してたゆらさんですね。更に住人のアルカディーを連れて南のディナイト帝国の王都へ行きます。
「こっちだよー」
ルンルンなアルカディーの後を付いて行きます。
改めてこうしてみると、随分と動きが自然ですね。まさにテンションが高めの子供って感じの動きです。
……いや、普通の子供には無理な動きしてますね。
「身体能力と能力の無駄遣いかしら」
「凄いとしか言いようがないです!」
まるで踊っているようですね。くるくるぴょんぴょんしながら、かつ流れるように移動しています。付いていく私達の道案内も忘れること無く、一定を保っているんですよ。ジャンプで距離調整して、着地の時に回って体勢や角度の調整か。たまに短距離転移していますし。
「フィギュアスケートかな?」
「ああ、そんな感じですね」
「こっちの世界の身体能力でされちゃ堪らんだろうね」
レベル制の挙げ句にそもそもアルカディーは人ですらありませんからね。
とても大きいのでコロッセオの出入り口は何箇所かありますが、どの出入り口も結構広い通りに面しており、お店も沢山あるためかなり賑わっているようです。
そんな通りを目立つ集団で突き進んでいると、アルカディーが「ここだよー」と言いながら勢いよく扉を開け放ち入って行きました。
そして私の後ろから「ダイナミック入店!」という力の入った小声が聞こえ、ちょっと笑いそうになったじゃないですか、やめてくださいゆらさん。
「……ガンショップみたいね?」
「あ、人形もあるです!」
エリーが言うようにガンラックが並び、ちゃんと飾られていますね。そしてアビーの言う人形もおめかしされて座っていますし、中々面白いお店です。
「あれ、いないね? 見てていいよー」
お店に店員さんはおらず、アルカディー……長いですね。アル君で良いでしょう。お店の奥へ進んで行きました。
私達は品を見ているとしましょう。大変興味深いですからね。
アビーとドリーさんは人形を見に行きました。私達は魔導銃のチェックです。
「オートカートリッジ、マグナムカートリッジ、ペレットカートリッジ、ライフルカートリッジだって」
「ハンドガン、リボルバー、ショットガン、ライフルね」
「これ形状的にボルトアクションですね?」
ゆらさんが弾を見ていたようですが、その種類で武器種は分かりますね……。
そしてライフルはスナイパーライフル。さすがに連射できるアサルトなどは無いようです。弓が悲しみに包まれるからですかね? 魔力を撃ち出すので収束時間の問題という可能性もありますか。
「……あれ?」
「何かあって?」
「このカートリッジだと、イス達から聞いた話とあわないな?と」
「ああ、姫様が掲示板に書いてたね?」
ミ=ゴやイス達の改良前の段階……ですかね? プレイヤー仕様っていうのも否めないんですが。ゲームではあるあるですから。
「あ、鑑定に答えが書いてあるよ?」
「本当ですか?」
[弾丸] オートカートリッジ レア:Ra 品質:C
オートマチックハンドガンで使用できるカートリッジ。
オートマチック用に規格化された形状の弾丸であり、ある程度指向性を持たせる事でエネルギーが扱いやすくなっている。
「汎用性を無くすことで制御しやすくした……訳ですね?」
「使い手の問題もあるのではなくて? 聞いたのは機甲種が前提なのでしょう?」
「なるほど、一理ありますね」
元々魔導銃自体、魔法が不自由な防衛システムのために作った物でしたね。ロボットを前提として作られた物を人間が扱うのは無理でしょう。
[装備・武器] ショットガン レア:Ra 品質:C 耐久:100
魔力を使用して細かな弾を発射する一般的な魔動銃。
使用弾薬:ペレットカートリッジ
《鑑定 Lv10》
ATK:△
攻撃タイプ:魔法・刺突
適用スキル:《魔動銃》
《鑑定 Lv30》
強化スキル:《魔巧技師》
《鑑定 Lv40》
適切な職業:冒険者・騎士など戦いに関わる者達。
そしてどうやらゲーム的には魔動銃。魔力で動く銃。
マルカラント公国海軍の艦装と同じですね。軍事利用は既にされている技術と。
「お待たせ!」
「いらっしゃいませ」
お、アル君と一緒に店員さんが出てきましたね。
人形を見ていたアビーとドリーさんも集まり、早速説明して貰いましょう!
「では説明させて頂きます。これらの武具は《魔巧技師》によって作られた物です。このスキルは《鍛冶》や《裁縫》はたまた《人形作製》といった、武具を作るスキルと連動することで初めて意味を成します」
武具を作れる生産スキルと連動させる事で、設計図を作る時に《魔巧技師》による手入れをした後、リンク先のスキルで生産する。
要するに、《鍛冶》なら作る前に剣の設計図を書くが、その剣の設計図に《魔巧技師》側のアーツを使用してギミックを書き込む。その後《鍛冶》で設計図を使用して作る……と。
生産スキルと言うより、技術や知識と考えた方が分かりやすそうですね。武具を作る生産スキルとのリンクが必須らしいので。
「武具を作れる生産2次スキルと、《超高等魔法技能》をお持ちの方でしたらお教え致します」
「覚えられるです!」
「……あれ、私覚えられないのでは?」
「私はそもそも生産なんて持ってないわ」
「私も無いなぁ」
私が持っているのは中間素材御用達な生産スキルですからね!
「ネメセイア様は何の生産スキルを?」
「私は《錬金》です」
「……師匠は?」
「マルカラント公国にいるメーガンですね」
「……なるほど、今のスキルレベルは?」
「《錬金術師》の5ですが」
「一度師匠のところへ行くことをお勧め致します」
何かあると? 3次になってからゆっくりはしていませんでしたし、行ってみますかねぇ……。
「またね~!」
「ええ、また今度」
アル君は家庭教師によるお勉強の時間とのことで帰るそうです。ついでにアル君呼びの了承を得てからお別れ。
「可愛い子ね? なんかもう、ピエロぐらいの格好では動じないわ」
「可愛いですよね。……モヒカンさんを見慣れたらどうということはありません」
ヒャッハーのインパクトは伊達ではありません。
私は一度師匠のところへ行きましょう。他の人達はまだ残るようです。
気になるので、さっさと転移してお店へ向かいます。
「ししょー」
「お前さんか」
「《錬金》関係で武具が作れるようになるんですか?」
「ほう……聞いたのかい。3次になったようだし、そろそろ教えても良いか」
しっかりバッチリ教えて貰いましょう!
「これは《錬金術師》の奥義とも秘伝とも言える技術さね。道具や設備が無くても作れたら……そんな夢のような考えを現実にするもの。当然材料は必要だがね」
師匠が鉄のインゴットと木を持つと形が変わっていき、包丁ができました。
「このスキルはあくまで形を整えるものさね。今のように鉄インゴットを鋼にしてから包丁に……なんてことはできないのさ」
「普通に【合成】で作ってから……ですね?」
「そうさね。【合成】とかやっているんだから簡単そうに思えるが、そうもいかない。魔力操作の難易度が段違いで、これを怠るとナマクラの完成さね。やってみな。【魔力視】は必須さね」
まずは鉄のインゴットを渡されたので、包丁を選択し早速やってみましょう。
……さて、ミニゲームの開始です。システムのアナウンス通りに進めます。
まずインゴット全体に魔力を……これは均等に流すでいいんですかね。
そして薄っすら表示されている包丁の形になるように、魔力を動かす。
……あ? なるほど、難しいですね。当然包丁は立体的です。表示されている片側だけ見たところで意味がありません。刃に行くほど薄く作らなければなりませんし、デコボコしてるのは論外でしょう。
そしてミニゲームなので、時間制限付き。
「ダメダメさね。もう一回だよ」
「んー、難しいですね」
ワンモアセッ!
……今回は2度目なので、だいぶマシですね!
「ふむ、悪くないさね。勿論使う素材や物によって手順などは変わる。鍛錬を怠らないように」
「はい」
〈今までの行動により《魔導錬成》が解放されました〉
〈《魔導錬成》を取得しました。《錬金術師》とリンクされます〉
SP12でしたが、取らないという選択肢がありませんからね。
おや……このスキル、レベルが無いんですか。
《魔導錬成》
【魔力錬成】
魔力を用いて物質やマナに干渉し、実用性のある武具が生産可能。
これが無いとすぐ折れたりする剣ができるんですかね?
師匠の冥府素材を補充して……フレンドリストを見る限り、まだお店にいるようなので、再び向こうのお店へと行きましょう。
「……あれ、随分増えましたね」
「『やあ姫様』」
帝国へ転移した後、亜空間でお店へ行くとプレイヤーがそれなりの数集まっていました。プレイヤーが増えた事で店員さんも増えていますね。
しかしエリー達はどうやら店舗とは違う部屋で教わっているようです。
店員さんに言って別の部屋へ案内してもらうと、エリー達に加えて鍛冶のエルツさん、木工のプリムラさん、裁縫のダンテルさん、細工のニフリートさんがいますね。サルーテさんは調合ですし、マギラスさんは料理なので2人はいません。
「姫様じゃん。錬金って意味あるの?」
「ふっふっふ、たった今覚えてきました!」
「へー? これ魔法系だからマシンナリーにはちときついなー」
ニフリートさんのマシンナリーはMP壊滅していますからね。MPではなくEPですし。一応できはするらしいので、マシといえばマシですけど。
アビーの横へ行って私も教えてもらいます。持っているスキルによって店員さんが違うようですね。
先ほどと同じようにまずは設計図。この設計図の段階で魔力の通り道である【魔力路】や、魔力をエネルギーに変換する【魔力炉】、それからエネルギーの通り道である【伝達路】を指定する……と。
「気をつけないといけない事は、回路同士が近すぎると逆に流れが悪くなってしまいます。基本的に一方通行なのを意識してくださいね。回路は川ですよ、川」
更に回路を引きすぎると耐久も下がるようです。素材が脆くなるとか。
銃は銃口があるようですが、今は通り道を物理的に作っているわけではありません。原理はよく分かりませんので、まあそういうものとします。
〈今までの行動により《魔巧技師》が解放されました〉
〈《魔巧技師》を取得しました。以下のスキルとリンクできます。《錬金術師》〉
〈《魔巧技師》が《錬金術師》とリンクされました〉
またまたSPが12持っていかれましたが、SPには余裕ありますからね。
「それと《魔導錬成》でしたらもう一つお教え致します」
そう言って店員さんは私の前にオートカートリッジを置きました。
「まずサイズは置いておきまして、これと同じ形を魔力で作ります。そしたらひたすら圧縮、圧縮、圧縮……するとカートリッジの器ができますので、後はこれに詰め込むだけです」
物凄く簡単そうにやって見せてくれましたが……ええ、ダメでしょうね!
「最初にサイズを気にしなくて良いのは、圧縮してサイズを合わせれば過剰分は内部燃料となるためです。結局後で詰め込むため気にする必要はありません」
なるほど、とりあえずやってみますか。
手のひらに魔力を集めて、最終的に同じ形で同じサイズになるように圧縮し、隙間に魔力を詰める……と。
「外郭を固め損ねると霧散してしまうので、注意してください。魔力が綺麗に並ぶように意識して。サイズや形が違うとジャムったりする原因になるので確実に」
このゲームジャムるんですか……。まあ、物理エンジンはしっかりしているので発生しますか。
ちなみにジャムるとは弾詰まりの事です。銃の薬莢が排出されず、次弾装填が出来ない状態ですね。手動で取り外す必要があるので、戦闘中だと結構なロスです。
このゲーム薬莢と言う名の残り滓は霧散するので、放っておいてもいずれ解決しますね? ジャム解消より別の銃に替えるのも手か。
〈《魔導錬成》の【クリエイトカートリッジ】を取得しました〉
何度かチャレンジしてアーツを取得。オート、マグナム、ペレット、ライフルのカートリッジのレシピをそれぞれ覚えました。
これ1個1個なんて作ってられませんから、それぞれを全力でサイズや形の完璧な物を作り、【再現】による量産不可避ですね……。
「……これ他のスキルだと作れるんですか?」
「魔道具ですね」
ああ、ハウジングにあるマナ濃度増幅結界などを駆使するんですかね。
「そちらは当店で販売中でございます」
どうせお高いのでしょう? 知っていますよ。消耗品を買い続けるよりはマシかもしれないって感じか、自動製作で足りない分補充してね……でしょうね。
このゲーム在庫制ですし、金策として委託に流すのもありですかね。魔動銃のユーザーがいないはずありませんし!
とりあえず終わったので、ぞろぞろと店舗側へ戻りましょう。
「二丁拳銃できるんだろうか?」
「できるか出来ないかで言えばできるが、現状リロードが無理だねぇ」
「つまりダウン時などでのバーストは可能か」
お、あれは調べスキーと愉快な仲間達ですね……。
つまりギルド検証班。
「姫様良いところに!」
「はい?」
「我々の検証の結果、魔動銃は恐らく器用・知力・精神辺りが怪しいんだ」
「へぇ? 確か弓は筋力と器用でしたね」
「その通り! ということで姫様ライフル撃って?」
「私知力も精神も上げているので、参考にはならないと思いますが」
「良いの良いの。データは数だよ兄貴」
まあ、気にはなりますし撃っていきますか。
おっと、ダンテルさんがいるなら都合が良いですね。
「ダンテルさん。これ【インベントリ拡張】を込めた秘封結晶です」
「マジでか!」
「作ったばかりなので、色々試してみてください」
「こりゃ忙しいな」
《魔巧技師》の検証もあるでしょうからね。
私も《魔導錬成》なんてものを覚えたので、一応自分で検証できるかもしれませんが、秘封結晶の自作が可能ですからね。今は渡してしまって良いでしょう。
「俺らは早速戻って研究だ!」
「革鎧とかの強化に活かせるだろうか」
「杖に加工する意味あるかなー? 楽しみだね!」
「アクセにはサイズ的に厳しいかなぁ……」
エルツさん、ダンテルさん、プリムラさん、ニフリートさんが話しながら帰って行きました。
見送りつつ私は試し打ちのできる木人のところへ。リクエスト通りスナイパーとライフルカートリッジを持って行きます。
……一応スコープも付いて、カートリッジは6発ですか。しかし普通の銃ではありませんからね。
「構えとかは分かるかい?」
「ええ、問題ありません。こうですね」
「『ぶはっ! そ、それは!』」
「冗談です」
漫画で話題になっていた構えから、ちゃんとしたものに戻します。
ストックを鎖骨辺りに付け、頬も付けてスコープを覗きます。
「おっけおっけー。右手から魔力を送ると段々抵抗を感じる様になる。込める魔力で威力が増減するからその辺りで調整。その後普通にトリガーを引く」
キーンと言う高い音を残して発射されました。弾速はかなりのものですね。
反動は気になるほどではありません。基礎ステータスは高いので、ほぼ参考にはならなそうですが。
「モルタルみたいな音ですね?」
「モルタル……ああ、迫撃砲か。確かにあれ撃った直後の音に近い」
「それで、カートリッジを使う場合は普通にコッキングですか?」
「いえす! スナイパーはボルトアクションだからそんな感じ!」
「なるほど」
「コッキングしたら魔力を込める、トリガーを引くとカートリッジが使用される。またトリガーを引くと発射される。素早くやれば複数のカートリッジを消費できるけど、制御できればの話。多分出来ないと壊れそうだねぇ……」
なるほどなるほど、面白いですね。
しかし私は既に右手左手両方装備済みなので、使えないですね。お遊び用として持っていても良いかもしれませんが。
魔力を込めずにコッキングし、カートリッジを消費してみます。
……カシュンという音とともに魔力が増え、もう一度トリガーを引くと発射されますが……反動が増えていますね。撃ち出したエネルギー依存ですか。
「ふむふむ。やはり姫様がダメージ高いな」
「純魔よりダメージ上か。姫様精神の方が高いんだよな?」
「そうですよ。精神による補正が大きそうですね」
「どっかにヒーラーおらんかね?」
「精神特化型のダメージ見たいな!」
精神特化型はこのゲームでは結構レアですからね……。
公式ヘルプによれば精神は最大MPと魔法防御に影響。更に分かっているのが所謂、信仰系魔法と呼ばれる魔法に補正を与える。具体的には《聖魔法》や《神聖魔法》ですね。故にヒーラーであり神官プレイと。
あ、もし魔動銃が精神の影響を強く受けるのでしたら、ヒーラーが杖を捨て銃を持つ可能性が高いですね。《光魔法》で攻撃するより強いでしょうし、PTのHPと自分のMPを管理しながら銃を撃つヒーラーですか。
……良いと思います!
「お、ログインしたやん……呼べ」
「これで大体結果は出るな!」
精神特化の人が来たんですかね。
せっかくなので、全部試してみましょう。気になるのはハンドガンです。
オートマって自動装填だからこそオートマなんですが、こっちは勝手にカートリッジを使われては困るわけで。
見た目はただのハンドガンですね? 見た目だけでは仕組みが分かりませんか。
「それね、トリガーが2段階になってるんだ」
「へぇ? では引ききるとカートリッジが?」
「そうそう。ちょっと慣れないと扱いづらいかなー?」
ハンドガンを眺めていたら検証班の人が教えてくれたので、試してみましょう。
まず魔力を込めてトリガーを引く。……なるほど、普通に撃つ分にはブローバックしないんですね。トリガーも途中で止まりますが、更に引ける感触はすると。
再び魔力を込めて、今度はトリガーを強めに引きます。弾が発射されブローバックによってカートリッジが装填されました。
「装填されたらトリガーの一段目でカートリッジの起動、二段目で発射」
「……一段目を繰り返したらどうなる?」
「知らんのか? 銃が爆発する」
ネタが通じて何よりです。
トリガー一段目でカートリッジ使用のカートリッジ排出。そのまま再装填されずに戻るようですね。トリガーを一段目で素早く2回引くと排出後に再装填。
「これ慣れないと誤射しそうですね?」
「慣れれば楽なのは間違いないね。ハンドガンに比べてリボルバーもショットガンもライフルもギミックはシンプル」
リボルバーは自分でハンマーを、ショットガンはポンプアクション、そしてスナイパーはボルトアクションをすることでそれぞれカートリッジを使用する……と。少々複雑なのがハンドガンになるわけですね。
ただ、カートリッジの連続使用において楽なのは間違いなくハンドガンで、続いてショットガンでしょうか。リロードも考えるとハンドガンですけど。
攻撃力が高いのは、やはり両腕を必要とするショットガンにスナイパーですね。
「おう来たな! 撃て!」
「格好良いやん……で、仕様は?」
精神特化の人が来たようですね。到着早々検証が行われています。
「ふーん? やっぱ精神補正が強いな。精神・器用・知力の順で影響ありだ」
「刀は筋力・器用・敏捷だったな。精神が入る分、銃の方がつらめか」
「精神上げるのキツいんだよなー」
「精神補正スキルがよく分かってないからな……」
私の精神は種族による基礎ステータス面が大きいですからね。種族的には体力と精神という結構耐久寄り。
ゲーム内の筋トレで筋力が上がるなら、お祈りで精神が上がりそうとは思うんですけどね。
「あとはスキルを覚えてどんなアーツが来るかですね」
「試着だとスキル覚えんからなー」
「魔力効率は間違いなく上がっていくと思うんだが」
「あ、そういや姫様って今無属性?」
「ええ、無属性ですよ」
「属性持ちが撃ったらその属性になんのか?」
「なるほど、気になりますね」
「駄犬……は銃持てんか」
人型人外属性持ちで近いのは……フェアエレンさんですかね。連絡してみましょう。
『はろはろー?』
「魔動銃に興味はありませんか?」
『あれかー、どんな感じー?』
「隣に検証班がいるんですが、精神・器用・知力の順らしいです」
『……私には微妙だー』
「そこで、属性持ちが撃ったらどうなるのかという話になりまして」
『あ、はい。今行きます』
「はい、お待ちしております」
話が早くて何よりですね!
少しするとそ~っとフェアエレンさんがゆっくり飛んできました。
「私エレンちゃん、今あなたの後ろにいるの」
「私後ろも見えているので……」
「ガッデム! そうだったわ!」
そういうの分かっちゃうんですよ。
「見方変えると、何度売りに出しても帰ってきてくれる健気な子ですよね」
「確かに。小遣い稼ぎに貢献ってか?」
「売るお店を毎回変えないといけないのが手間ですかね」
「帰ってきたら綺麗におめかしして売らないとだから、そこも手間じゃない?」
「確かにそうですね。歩いて帰ってくるとなると、相当汚れていそうです」
「『そういう話じゃないけどな』」
メリーさんはそういう話では? 北海道まで売りに行ったらどうやって帰ってくるんでしょうね? 飛行機とか乗ってくるのか。
まあそういうところまで描写したら、間違いなくホラーではなくコメディになりそうですけど。
「これが例のブツね! どれどれ……」
「人形と妖精用サイズの銃があるの気になりますね?」
「『分かる』」
「あ、そう言えば調べスキーさん」
「なにかな!」
「《人形作製》の3次持ちいません? こんなのあるのですが」
「マジでか」
「アビーはまだ3次ではないので使えないんですよね」
「検証班ではないが、知り合いにいるとも! 姫様の魔粘土とか買ってたはずだ」
「ではプレゼントするので仕様確認して貰ってください」
「いいですとも!」
さてフェアエレンさんの方ですが……あれは無属性が撃ち出されてますね?
魔力をエネルギーに変換する【魔力炉】とやらで、属性を失っているんですかね。となると、属性を改めて付けるアーツでもありそうです。
「私の場合は魔法撃った方が早いなー。姫様はありじゃない?」
「私はもう両手埋まっているので……」
「ああ、本かー」
本は自分で浮いているので、銃を持つことはできますがそこはゲーム。かの有名なセリフ『武器や防具は装備しないと意味がないぞ!』が発生します。
右手に剣、左手に銃は割とありだとは思いますが……このゲームだとかなり人を選ぶ要求ステータスですね。
「ああそうか、銃だと種族の属性強化系が効いてないのか。やっぱダメだね」
「無属性攻撃ができるという利点はどうですかね?」
「単体属性しか持ってないならともかく、現状微妙としか言えないかなー」
軽減とかくらう敵だけの場合はありかもしれませんが、攻撃方法が1属性魔法のみって人はかなり少ないと思うんですよね……。現状無属性のみ通るような敵もいません。そのうち出てくるかもしれませんが。
そして私の場合は関係ありません。光と闇はその辺り楽です。どちらか軽減はあってもどちらか弱点が大半のハズです。なお同業者は絶望的。それでも一応アサメイによる蛇腹剣やリジィなど手段はありますので……。
大体の確認は終わったので、フェアエレンさんと店舗の方に戻りましょう。
「漸くこの装備ができる時が来た!」
「お、軍人じゃなくてガンスリンガーですか」
「渋いねー」
「サイズ合って良かったわ。多少調節できるようにしてて正解だったな。俺の貯金が火を噴くぜ!」
この人の見た目としては保安官よりカウボーイですね。獲物は勿論リボルバー。さらにショットガンもですか。ペレットカートリッジを肩掛けのホルダーに入れていますね。リボルバーとショットガン用のスピードローダーも複数購入ですか。
そしてカートリッジを作る魔道具、中々の値段な模様。
最終的に見た目が割とゴツくなったカウボーイなガンスリンガーは、ワクワク顔でお店を出ていきました。
「人が増えてきましたね」
「銃器大好き組のテンションが高いなー」
「待ちに待ったって感じでしょうから、こうなりますかね」
「私は魔法でいいや。今のスタイルに特に不満もないしー」
「私もこのままですかね……楽しいですし」
ジェダイスタイル、大変楽しいですからね。
「そう言えばフェアエレンさん」
「んあー?」
「妖精の国はどんな感じですか?」
「んー……メルヘンと言えばメルヘンだけど……思ったよりは普通?」
思ったよりは普通……ですか。
まあ、私も冥府や奈落を聞かれたら思ったよりは普通……と答えますか。ただし奈落は治安が大変悪いですけども。
「妖精の生活って小さいだけの人だからねー? サイズは妖精サイズだからメルヘンと言えばメルヘンだけど、中身は普通だね。強いて言うなら花は多いかなー」
「妖精の蜜とか関係ですかね?」
「あの国では普通の定番甘味扱いだねー」
形が似通っていれば、大体同じようになる……と。違うのはスケールですか。
……深淵を普通と括るのは無理がありますね。不死者はまだ人の名残がありますが、外なるものは欠片もありませんので。ティンダロスとかトゲトゲですからね。あの次元に生物が行ったらどうなることやら。
「あ、でもりんごと豚は食べ放題だし、エールも飲み放題だね。実に不思議だ」
「常若の国、ティル・ナ・ノーグでしたか」
「そうそう、実に不思議だ。すぐ実を付けるりんごと、湧き出るお酒はまだ分かる。死闘繰り広げて倒した豚が生き返るからね。意味が分からん」
「どうやって復活するんですか?」
「さー? 気づいたら復活してるわー」
ソフィーさんから聞いた時はスルーしましたが、改めて考えると……ステルーラ様が関わっていないと不可能な事だと思うのですが?
「そのブタちゃんがフェニックスと同じとは思えないのですが……」
「あ、不死鳥いんの?」
「シアエガの例え話に出てきたので、いるのではないかと」
「あの豚がそんな大層な存在には見えないけどねー? とは言え、多少聞いて回ったけど知ってる人いなかったんよね」
「それなりに立場ある者達ではないと知らない事ですか」
「あの豚達ってマーカーが住人と同じ色なんだよね。エネミー判定じゃないからとりあえず手は出してないけど……ってところー。ちなみにりんごとエールは美味しかったけど、豚は食べてない」
住人と同じ……緑ってことですか? 召喚体や従魔、更に住人所有の家畜などはペット枠で、黄色マーカーだったと思いますが。
「何なら今からティル・ナ・ノーグ行くー?」
「良いかもしれませんね。行きましょうか」
「よしきた。案内してしんぜよう。姫様なら私の飛行速度付いてこれるでしょー」
「亜空間で付いていくので可能かと」
「んー……一応PT組んで行くかー」
妖精の国であるティル・ナ・ノーグは南西の海でしたね。そのためまずは帝国側の港町であるポースムントへ。
フェアエレンさんに案内してもらうのでPTを組み、ポースムントの海岸へ。
「絶好の航空日和! 行くかー!」
「私は亜空間で行くので、PTのチャンネルで」
「おっけー」
飛び立つフェアエレンさんの後を、亜空間へ入って追います。現状プレイアブルにおいて、エクレーシーの飛行能力は大気圏内において最強です。……制御できる人を選ぶ程度には。
直線のみの飛行速度だけなら大気圏内でも恐らく私です。間違いなく『ただし安全は保証されておらず、障害がない場合に限り、MPも十分にあることとする』の文字があるでしょうけどね! 所謂カタログスペック上は……というだけです。
空においてエクレーシーは間違いなく強い。操作性がよりマイルドなのが風妖精のフェアリーや天使に悪魔ですね。
エクレーシーの飛行……特に、慣れに慣れたフェアエレンさんに付いて行くのは結構難易度が高い。ですが、私の種族には亜空間という移動において最強と言える空間がありますからね。障害物や空気抵抗が無いんですよ、この空間。
銀の鍵はあくまで町にある立像……ポータルの亜種でしかないので、行ったこと無い場所には行けません。転移魔法も現状は短距離転移のみですからね。
『ついて来れてるー?』
「問題ありません」
鳥系の魔物を置き去りにし、進行上にいる敵を縫うように飛んでいくフェアエレンさん。あの飛行はさすがとしか言えませんね。私の種族では無理です。真似する場合、進行上の敵は触手ではたき落とすのが確実。
さて、妖精の国はどのような所でしょうね。
カリハロイド
カリハリアス(Karcharias)+オイド(-oid)どちらもギリシア語
よって、進化元の種族で変わりそう。
コミカライズの4巻が発売しています。
書籍6巻は近いうちに発表されるのではないかと。
書籍と漫画は細かな部分が結構違うので、お好きな方をどうぞ。
ちなみに書籍6巻ではこっちの74話ぐらいまでです。