102 ハロウィン 3日目 ボス
Tips
『エキストラ』とは。
TRPGではデータを持たないNPCである。ダイスを振らずとも、GMが許せば宣言だけでそうなる子。
「『BGMが変わった!』」
ああ、ボス戦って感じがしますね……。
[Ia! Ia! SHUB-NIGGURATH!]
[Great Black Goat of the Woods!]
[Answer the call of thy servant who knoweth the words of power!]
「……なんだって?」
んー……儀式ということを考えると……。
[いあ! いあ! シュブ=ニグラス!]
[森の偉大なる黒山羊よ!]
[力の言葉を知っている、あなたの僕の呼び声に答え給え!]
「に、なるでしょうかね」
「あ、はい。じゃあ行くか。クエストも変わったし」
『狂信者の残党を逃がすな』
ついに召喚の儀式が始まった。
逃がすと何をするか分からない。儀式のために集まった狂信者達を逃がすな。
あ、身体の制御をシステムに持っていかれましたね。いわゆるボス戦ムービー。
「カバディカバディカバディ」
「言い続けろよ?」
「カバディカバディカバディ……無理でしょ」
「アウトー。お前贄な!」
「ペナルティが重すぎる!」
このゲーム酸素ゲージがありますからね。酸欠になると普通に死にますよ。
さあ、どういう進行になるんでしょうか。
[メエェェェー!]
「『イケボ!』」
ええ、良い声してますね……黒い仔山羊。触手を動かして明らかに戦闘態勢になりましたけども!
「『興奮状態であり、話を聞いてくれそうにない……だとぉ!?』」
〈〈しばらく戦って冷静にさせろ〉〉
〈〈儀式の完了までに、一定時間、一定人数以上が戦闘可能状態である事〉〉
〈〈解析により黒い仔山羊の攻撃方法が判明しているため、スキル所持者以外にも危険地帯が表示されます〉〉
〈〈赤:死ぬ気で避けましょう〉〉
〈〈橙:複数人でなら防げるでしょう〉〉
〈〈黄:1人でもなんとかなるでしょう〉〉
……ですか。簡単に排除できなければ冷静になって頭使わざるを得ないと? 耐久系の更に条件プラスバージョンですね。
踏みつけ、突進、捕縛は赤な気がしますね。叩きつけが橙の薙ぎ払いが黄色でしょうか?
身体の制御が返ってきて、時間内にスタート位置を決めろと言われました。
「あれ威嚇してるんじゃないですかねぇ……」
「ワイトもそう思います」
「それは骨プレイヤーが言うべき」
「リッチもそう思います!」
「ふはっ! 後ろにスケさん居たわ……」
黒い仔山羊は多数の触手をうねうねさせており、威嚇状態と言えるでしょう。祝福されしものと狂信者達は儀式なので動かないと思いましたが、祝福されしものが動きましたね? 6体いるうちの4体が守るように左右へ。我々から見て中央正面に黒い仔山羊、その奥で儀式。右翼と左翼に2人ずつ祝福されしものがいて、完全に防衛態勢ですね。
PTはほぼ関係なく、ポジション分けして層になります。当然メイン武器の射程順。タンク、近接、投擲、短弓、魔法、長弓、和弓の順ですね。曲射できる人は後ろの方になります。
魔法は使う魔法により射程が変わりますが、大体メインとなるのはボールやアロー、ランスなので長弓と同じ位置です。エクスプロージョンやピラー、マインも使いたければ短弓と同じ位置にいるべきでしょう。しかしヒールやエンチャなどの支援系しか使わない、いわゆる神官系なら和弓より後ろにいるべきです。
前に行けば使える魔法も増えるけど、当然被弾の確率は上がります。その辺りはステータスや持ってるスキル、あとは好みの問題ですね。つまり、私のポジションは魔法にしては前の方。
スケさんは私と同じ位置にいて、自分の前にアーマーを召喚。そうすればスケさんは魔法の選択肢が広がりつつ、流れてきた攻撃は下僕に防がせることが可能。持ってるスキルでポジションが変わる典型ですね。
うちの一号は送還してリジィを召喚します。触手を殴るなり斧をぶん投げるなりしてもらいましょう。
「状況的に突進はこんよねー?」
「確率はかなり低いと思いますが、スピード次第でしょうね……」
「触手伸ばされて走られたら堪らんのよなー」
黒い仔山羊は遠距離……呪文に関しては最低限しか出てないんですよね。個体によるからでしょうけど。
儀式完了までの制限時間と、恐らく仔山羊が冷静になるまでの時間が表示され、狂信者と子供の数が表示。次に祝福されしもの達のHPゲージが、サブターゲットの枠で控えめに表示。そして大本命の黒い仔山羊のHPゲージが……うん。
「『体力ゲージ10本あるんじゃが!?』」
「多いですねぇ……」
「まあ、僕らの目的は狂信者達で、倒すことじゃないからね。クエ内容も討伐じゃないし、そういうことにしとこ」
さて、色々分かりやすいと良いのですが……。
細い触手が前衛のタンク達にペチンペチン当たっていますね。通常攻撃担当のようで、太い4本はまだ上でうねうねしています。
[メエエエエー!]
「『やべっやべっあーっ! セーフ!』」
太い4本の触手が振り上げられると、一部の地面が橙に色づきます。そしてそのままビターン。
逃げれる人は範囲から出て、無理な人達は固まってガードですね。
「うはー。ステータスか何かが足りないと押しつぶされるっぽいねー」
「いわゆる筋力抵抗をしてる扱いなんでしょうか」
「筋力だけじゃないかもだけどねー」
私達の場所には攻撃が来なかったので、スケさんと観察をしつつ、魔法による攻撃をしておきます。
誰かが狂信者に向けて放った攻撃が、黒い仔山羊の細い触手によって防がれたようです。やはり守りますか。右端の方からの攻撃は、祝福されしものに防がれる……と。ちゃんと狙うタイミングが用意されているのでしょう。
「仔山羊ちゃんかったーい!」
「ギャハハハ! 仔山羊ちゃんビンビンだぜぇ!」
「モヒカン! 子供もいるんだぞ!」
「ヒヒヒ! その悩みはとっくに解決済みだぁ!」
「マジかよ」
「姫様を真似る事を祈るんだよぉ!」
「『おまっお前!』」
キャンプの時言ってましたね。解決は解決でも、自己完結の方ですけど。
触手が縦横無尽に大暴れしているので、結構忙しいですね……うわ来た。広範囲が黄色かつ……あの触手の位置は薙ぎ払いですか。
「大縄跳びの時間だオラァ!」
「男子ちゃんとやって!」
「殺意沸くからやめろ!」
しなりながら結構なスピードで向かってくる触手を、端から波のようにぴょんぴょんしていく中、私は上空に浮いて回避します。
「飛行系楽そうでうらやま」
「まあ、儀式のところまでは行けないっぽいが」
飛行に限らず儀式に近づくと、黒い仔山羊の細い触手が大量に来るようです。こちらの遠距離攻撃も、細い触手が防御しに行ってるんですよね。そのせいかただでさえHPゲージが多いのに、全然減りません。
別の場所に触手をビターン。そしてこっちは再び薙ぎ払い。
「またかよ!」
「あぁ^~心がぴょんぴょんするんじゃぁ^~」
「ぴょんぴょんするん……おまっ」
「『高さが違うやん!』」
さっきは足払いのように足の高さだったので、ジャンプで済みました。でも今度はお腹ぐらいの高さですね。私はさっきより高く浮きます。
「これは……伏せろ!」
「とうっ……えっ? ぶべっ」
「おっふ……」
触手は伏せた人達の頭上を通過。ジャンプした人は……無事避けれた人と、足を触手に叩かれ、地面とキスしている人に分かれました。そして避け方に迷った人は容赦なく張り倒されています。
「伏せろっつったよな?」
「もっと……早く……」
顔面からいった人は結構なダメージが入っていますね……。
「これもっと距離とっておかないとまともに避けれないな?」
「だな。伏せる必要があるのは予想外だ。しゃがむだけじゃ足りん」
「スペースも言うほど無いしなぁ」
そして離れすぎると叩きつけの難易度が上がりますね。あれは数人で受け止める必要があり、受け止められれば一定距離内の人達も助かるようです。つまり前線だけではなく、後ろの方にもタンク……サブタンクですかね。いた方が良い状態です。
叩きつけ用に一号をタンクで出すと、私の下僕とスケさんの下僕、それと私で一応防げはしますが、私はウェポンガードなのでダメージ貫通が気になりますね。
と、言うか。この戦闘は私も空で良いのでは? 地上のスペースも空くことですし、地上である必要が特にありませんね。空の住人になりますか。
「スケさん、私も空にしますね」
「あいよー」
今回はスケさんも1人の方が動きやすいでしょう。上の双子と合流しましょう。
今のところ空を狙った攻撃は来ていません。叩きつけの触手を避けるぐらいですね。上にいる分地上より攻撃が早く来ますが、その分空は避けやすいので問題はありません。空から魔法攻撃をします。
[メェェェェー!]
さっきより声が少し高いですか……む? 細い大量の触手が仔山羊を守るように集まりだしましたが……【魔力視】での情報が重要ですか。
「魔力が集まってますね。魔法攻撃の予備動作ですか?」
「『マジで』」
「……闇が来ますよ」
「『来なくていいが……は?』」
は?
ハリセンボンが如く仔山羊の周囲に大量の黒い球体が出現。仔山羊の後ろ側には無いようですが、情報には無かった攻撃方法ですね!
《空間魔法》による防御系は間に合わない気がします。どう考えてもショットガン系なので、無効化は使うだけMPの無駄。となると【ライトバースト】とできる限りの受け流し!
「対魔法体勢!」
「そんなもんねぇ!」
「良いから伏せろ!」
「【ルーメンウォール】」
「【マジックガード】」
「【マジックバリア】」
自分の周囲に大量の《危険感知》によるラインが表示され、集まってた触手が広がると同時に大量の球体が放たれました。
「『あーっ!』」
くはっ……どう考えても無理! 闇半減なのに4割!?
闇半減の私でマックスから残り6割、体力や防御が低い人達で4割、演奏組とかは2割でレッドですね。
「「こっわー!」」
「親方! 空から大量の天使が!」
「『闇はマジ無理……』」
親方! 空から大量の天使の亡骸が! ……間違いなくホラーですね。天使組の被害が甚大です。人外種の中でも天使と悪魔が人気ですからね……。今の魔法攻撃は地上の方が被害が少ない。
双子も闇系軽減があるはずですが、少々レベルが低いですからね。でも生きてることを考えると、特殊計算っぽいですね。まあ、生きてるなら問題ありません。
「『【パーティーヒール】!』」
ヒーラーが立て直しを始めました。当然私も回復しておきます。
[メエエエエー!]
「『おまっお前ー!』」
「ナッパよけろーっ!」
太い触手による攻撃の再開が早いですね!
攻撃が来た方のヒーラーは大変ですね……。避けながらPTの回復ですよ。ちなみに攻撃が来てない人達は余裕を持って回復。
飛行組、高みの見物。
「ふっ……あとは任せたぜ……」
「うるせぇ早く起きろ」
「タス……ケテ……タスケテ……」
「【リザレクション】」
「あざーっす!」
案外死人が出ましたか。
死体の癖にやたらニヒルにあとを任せた人の顔面に、蘇生薬がクリーンヒット。
そして復活魔法でお馴染み、【リザレクション】が少し前に発見されたので、なんとかなるでしょう。解放条件は『蘇生薬を使用するか、使われる(10回)』だそうですね。《聖魔法》にExとして追加だとか。つまり私はまだ覚えてません!
今のところ蘇生薬の方が復活時のHPは多いようですが、MPだけで蘇生ができるのは利点ですね。高品質蘇生薬の自作ができる私からすれば、蘇生薬が尽きた場合の蘇生手段、もしくは……余裕が無い時用に蘇生薬を温存するか。
「「後ろに攻撃効かないねー」」
「祝福されしものに結界を張られていますね」
「「光の膜が出るー」」
祝福されしものがいる場所を境に、結界がドーム状に張られているようですね。
[メエエエエー!]
「『またか!』」
叩きつけ2箇所と、薙ぎ払い2箇所ですね。ふぅむ……攻撃位置は完全にランダムっぽいですか。安地は無さそう。
「ふははは! その攻撃はもう見切っ……ってーわ」
「おう、見えても避けれないと意味ねーぞ」
「あーダメダメ。体が動かねーもん」
「おっさんか」
近接は避けながら攻撃なので、ちょっと大変ですね。ジャンプだと辛いので、頭上通過時に斬りつけたり、叩きつけ回避後に攻撃ぐらい。
近づくのはちょっと……というか、だいぶ辛いですね。
「うげっ!? あーっ! たっけてー!」
「『は? うわ、捕まってる』」
見事に捕まってますね……。攻撃すれば外れるんでしょうか? 理論上はいけると思いますが、まあ……無理ですね。
大きな口に運ばれると物凄い速度でHPが減っていきます。
「あはーっ!」
「『なんで嬉しそうなんだあいつ……』」
……ちょっとヤバい人かもしれませんね。後ろにハート付いてそうです。
HPが0になると死んで、ゴミのように投げ捨てられました。
「扱いが酷すぎて草」
「やっぱあの触手、戻る時に近くにいると捕まえに来るな」
[メエエェェー!]
おや、微妙に違う?
「普通の叩きつけ……じゃないわ!」
「『待て待て待て待て』」
太い4本の触手が持ち上がって、地面に赤が表示されたと思いきや、更に赤が近くに表示。1本が2連続の叩きつけなので8箇所ですね。即死級がかなりの範囲で来ることになりますね……。
叩きつけなので上空組も回避。
[メェェェェー!]
細い大量の触手が仔山羊を守るように集まりだしました。魔法攻撃の予備動作ですね。今度は……あ、よろしくないですね。
「アメトリンさん私の後ろに」
「「光は死ぬー!」」
集まった魔力が白くなり、今度は白い小さな球体が大量に出現。そして同じ動作で放たれました。
「親方! 空から大量の悪魔が!」
「レイス系もな!」
闇だと天使系が沢山墜ちますが、正直光の方が被害は大きいですね。悪魔に加えて不死者系も墜ちます。不死者ではレイス系が人気ですが、まず耐えれません。というかあの攻撃、弱点属性に刺さると死にますね。
[メエエェェー!]
「『お前ー!』」
今度は……薙ぎ払いですか。4箇所の同時薙ぎ払いですが、触手によって高さが違うようで。ジャンプしたりしゃがんだり伏せたりと忙し……って危ない。
「『上にも来たー!』」
地上は外から内に触手が振られ、そのまま上空に来て飛行組を狙い、内から外に振るわれました。動ける範囲が広いからか、地上よりも触手が速いですね。
[メエエエェェェー!]
「ん? 長いですね……」
「「新しいの来るー?」」
細い触手がうねうねと落ち着きなく動き、先端に魔力が集まっています。
「また魔法っぽいが、動きが違うんだよなぁ」
「声も違ったしな……」
「『なんか飛んできたー!』」
白と黒のスイカぐらいのサイズの球体が、大量に撒き散らされます。地上は勿論空中にも留まり……さて、どうしたものか。
「ヒャハハハ! モッコリちゃんだぁ!」
「『は?』」
「……膨らんでね?」
「膨らんでるな……つまり?」
「『やべぇ!』」
爆発するんですね、分かります。
「でもこれ個数からして逃げるの辛くね? 壊せるんじゃね」
そう言いながら黒の球体に突っ込んで行った人が、周りの10人ぐらいを巻き込み爆発しました。HP消し飛びましたね……。
「……はい」
「『はいじゃないが!?』」
「あれはマインの爆発ですね……」
「「上に逃げるー?」」
「半減と軽減あっても、マインとなると残るか怪しいところです」
マインは威力だけが取り柄みたいなものですからね。しかも使用者が黒い仔山羊なので、光と闇しか使えない代償に威力補正が高いでしょうし。
球体を魔法攻撃してみますが、着弾時のエフェクトが違いますね。
「くあー! 分からん! どうすんだこれ!?」
「わんちゃん全滅あるでこれ」
「結局は魔法扱いでマインっぽいんだよな? 【念力】」
「あぶねっ」
「すまん。だが動かせるぞ」
朗報ですね。マインの対処と同じで良いのでしょうか。ユニオンのPTリーダーには伝えておきましょうか。
丸々と育った球体を急いで離します。双子を考えると白は避けるべきですね。これは位置取り勝負。黒ならまだ可能性ありますが、白は確実に無理でしょう。
リジィは何もさせずに距離を取らせます。
「でけぇ! ん……?」
スイカサイズだった白と黒の球体は、バランスボールぐらいのサイズまで育ちました。
《天啓》が球体を中心にしたかなり広い範囲が危険だと言っています。この範囲、逃げるのは間に合いませんね。双子には退避を伝え、自分は防御魔法の詠唱をしながらなるべく距離を取ります。
数秒後、球体がハンドボールぐらいにまで収縮し、バースト系のように破裂。双子のところに触手を盾として出しておきます。
「【マジックバリア】!」
「「にゃー!」」
「『あーっ!』」
【マジックバリア】が間に合いましたが、範囲ギリギリでこれですか。双子が触手盾ありで2割ぐらいと。私は割とヤバいですね。【グラウィタスマニューヴァー】を使う余裕が無かったので、距離も稼げませんでした。
リジィは……避けれたようですね。
「あー……死にそうですね……」
「生きろ」
そなたは美しい……自分でそなたは無いですね。つまり。
「……私は美しい!」
「『ぶはっ』」
「まあまあまあ、どうしてそうなったかは分かるけども」
顔を背けてプルプルしてるところ悪いんですけどね、私の視界的にバッチリ見えてるんですよ。
それより回復しないと非常にまずい状態です。
黒い仔山羊の冷静になるまでの時間の色が変わっていますね。地上は死屍累々。立て直し頑張ってくださいヒーラー。
あの白黒球体の後に太い触手は動かず、細い触手がタンクを殴っていたので、落ち着いて立て直しが進みました。
色が変わっていた時間は赤から橙になりました。どのぐらいか分かりませんが、赤でもカウントは進んでいたので、赤の下があるようですね。
[メエエエエー!]
「『太いの動くぞー!』」
「『まだ全然復活しきれてない!』」
休憩タイム終わりましたか。
向こうの行動は叩きつけ2箇所、薙ぎ払い2箇所ですね。
『これ、一巡したかな?』
『球体が最後っぽいでござるな?』
『次魔法だっけ?』
『いや、もう1回同じ行動が来るはずだな』
[メエエエエー!]
ユニオンのリーダー組が話す通り、同じ行動をしました。
『次は闇が来るはずでござるな』
『天使の人居たはずだし下がっときなー?』
ユニオンチャンネルなら距離に関係なく声が届きますが、それ以外の人は祈るしかありませんね。
ところで、ファミリー同士だととても不毛なのでは? 私はまだ新人なので光と闇が半減ですが、上位になると無効どころか吸収までいきますよね。でも持てる属性も光と闇なので、物理で殴り合うしか無いのでは……。
闇魔法によって墜ちていく天使を見送りつつ、とりあえず攻撃。
『あの子、自動回復系持ってるよね?』
『倒すのは絶望的でござるな』
「冷静になるまでに必要な時間が減っていますよね?」
『攻撃はHPじゃなくてそっちを減らすのが主目的っぽいね』
『冷静になるまで一定人数維持するのはかなり辛い』
『あの球体がエグいでござる』
狂信者の方も結界があるので、どうにもなりませんからね。早いところ対処法を見つけないと、球体で全滅しそうです。
『まあまずは、球体を向こうにやってどうなるかだな』
『それな!』
『誰か爆発までの時間見てた奴おらん?』
『大体10秒ぐらいやで』
『そこそこ余裕あるか』
『じゃあ敵に近いやつは向こうにやるとして、他のは対処法考えるか』
『それで行くでござる』
『敵の攻撃も今のところさっきと同じだから、ちゃんと順番決まってるっぽいね』
『まあ、あれの完全ランダムはちょっとな……』
叩きつけ2箇所と薙ぎ払い2箇所をランダム位置に2回攻撃。
その後は闇で広範囲のショットガン的な魔法攻撃。
再び叩きつけ2箇所と薙ぎ払い2箇所をランダム位置に2回攻撃。
「すぐ起きろよ……【リザレクション】」
「あざーすっ!」
「リザレクでMPカツカツなんじゃが?」
「ほんそれな」
じわじわと立て直しが進んでいますが、起きるタイミングを考えないと……触手にぶん殴られてまた即死しますからね。
今回はもう、ヒーラーは攻撃しなくても良いかもしれません。
『次は叩きつけ4箇所2回が来るはずだが……』
[メエエェェー!]
「あの角度は……薙ぎ払いですね」
『違うやん!』
地上を1回薙ぎ払い、空中を1回薙ぎ払いました。
『高さとか位置はランダムっぽいな』
『それで光が来るはずだ』
[メェェェェー!]
『来た!』
『光弱点下がれよー?』
光の広範囲ショットガンが炸裂。
その後は叩きつけ4箇所が2回。
『叩きつけと薙ぎ払いはランダムなのか?』
『交互の可能性もあるからまだ判断できなくね』
『それもそうか』
完全にランダムなのか、それともある程度は決まっているのか……ですね。
[メエエエェェェー!]
細い触手がうねうねと落ち着きなく動き、先端に魔力が集まっています。
『球体くんぞー』
『同属性と対抗属性を試してみたいんだよね』
『ちょっとエフェクト違ったよなー』
『そうそう』
へぇ……となると、対抗魔法を試してみましょうか。近くに飛んできた光の球体に、双子と一緒に闇魔法攻撃です。
闇の魔法で光の球体を削り取れるようで、近くの人とも協力して魔法を撃ち込んだら消滅しました。
同属性は……吸収しているようなエフェクトでは?
『どー見ても同属性ダメじゃね!? あーっ!』
そんなユニオンの声と共に、視界の端の方で光の球体が炸裂。バーストのエフェクトを発生させて、周りが持っていかれました。
近くの球体を攻撃しながら観察。これが鬼門な攻撃ですからね。少しでも情報が欲しいです。
最前列の方は……黒い仔山羊やシュブ=ニグラスに祝福されしものと、球体でドッジボールをしていますね。ぶっちゃけ、大量の触手がある仔山羊とのドッジボールは分が悪すぎるでしょう。
10秒間球体を押し付け合い、プレイヤー側で爆発したところは壊滅です。酷い被害だ。時間ギリギリで飛ばしたところは結界に命中。時間が合わないとどちらかだけに掠ったり、どちらにも当たらなかったりですね。
そして爆弾が複数結界に当たり……パリンという高めの音と、透明の物が砕けて光の反射で破片が見えるようになったエフェクトが発生。
「『割れたぁ!』」
『範囲攻撃はNG!』
狂信者を狙った攻撃は仔山羊と祝福されしものに大半が防がれましたが、微かに通った攻撃が狂信者に当たり、あっさりと失神。
2回目の攻撃は届く前に空間が揺らぎ、再び張られた結界に防がれました。
『狂信者はエキストラか……雑魚め……』
『祝福の方はそこそこ削れたな……』
「冷静になるまでの時間が増えていません?」
『マジで?』
『うん、確実に増えたぞ』
『結界割っちゃダメなのか? えー?』
『いや、祝福を攻撃したのが仔山羊にとってはNGなんじゃね?』
『それはまあ……あり得るか。しっかり狂信者だけ狙えと?』
「誘拐された子供を巻き込むので、範囲は使えません。そもそも射程外ですけど」
『となると、弓に頑張ってもらうしか無いのか』
『もしくは飛行組に頑張ってもらうか』
話している間にもヒーラーは死んだ人達の蘇生と回復。特にドッジボールで敗北して消し飛んだタンク優先ですね。細い触手が猛威を振るう事に。
『同属性は爆発が早まる?』
『対抗属性を当てるのが正解だな』
『弓はNG。即爆破』
『対抗属性以外は無意味では無さそうだけど、対抗属性に比べ効果は低いっぽい』
『同属性が誘爆するっぽい。巻き込まれた対抗属性は消えた。複数消えるかは謎』
『爆発までは大体10秒』
2回目で来る攻撃が分かっていたので、結構な情報が集まりましたね。
少し攻撃頻度を落として情報を纏め、ユニオンに共有します。
通常攻撃。細い触手。範囲内にいる敵に攻撃と、遠距離の防御を行う。
1・2.叩きつけ2箇所と薙ぎ払い2箇所同時。位置はランダム。被り×並び○。
3.闇魔法広範囲ショットガン。闇属性弱点種族だと即死級。距離取り推奨。
4・5.叩きつけ2箇所と薙ぎ払い2箇所同時。位置はランダム。被り×並び○。
6.薙ぎ払い4回or叩きつけ4箇所2回。薙ぎ払いは地上1回、空中1回。
7.光魔法広範囲ショットガン。光属性弱点種族だと即死級。距離取り推奨。
8.薙ぎ払い4回or叩きつけ4箇所2回。薙ぎ払いは地上1回、空中1回。
9.光と闇混合の球体をばら撒く。
マインとバーストの複合。マイン状態から膨らみ、10秒後バースト爆発。
物理近遠NGマイン爆破で範囲内即死。マインと同じ対処法可。
対抗属性を球体に当てる。同属性NG。他属性無意味では無い程度。
バースト時に同属性誘爆。バースト時に対抗属性消滅確認。個数不明。
特殊行動
叩きつけ、薙ぎ払いから常時派生。戻る時、先端付近にいるプレイヤーを掴もうとする。触手を攻撃で救出が可能かもしれないが、まず救出前に死ぬと思われる。
行動9の球体を結界に複数当てる事で、攻撃1回分ぐらいの間は割れる。
シュブ=ニグラスに祝福されしものに攻撃を当てると、冷静になるまでの時間が伸びる?
狂信者をピンポイントで狙う必要がある。
誘拐された子供にも注意。
『纏め助かる』
『地上にそんな余裕が無いわ』
『ほんそれ。マジ無慈悲』
さて、攻撃に復帰しま……ん?
『おんおん?』
『【真紅の輪】か!』
『あれはうさぎと……子供持とうとしてるー!』
「『子供はダメだー!』」
あ、祝福されしものがこっちを見て止まりましたね……冷静では? 荒ぶってるのは黒い仔山羊ですか。
祝福されしものは子供とウサギさんを手放し、先走った異人に手を伸ばしますが、ビタンビタンして回避。先程結界が破れて気絶した狂信者を捕まえ、グサリ。ダバダバと出る血が意思を持ったように動き、名前通りの輪を描きます。
【真紅の輪】により血で赤い縁の門が完成。そこからシュブ=ニグラスに祝福されしものが2人出てきました。
「『ふ、増えたー!』」
どんどん増えて【真紅の輪】が大きく、継続時間も長くなり、更に増えると? 結界が強化されないと良いんですけどね。強化されてた場合、壊すのに必要な球体が増えそうですから。
「こっちも死体は沢山だぞっと……」
「おら起きろ」
【真紅の輪】が終わると再び仔山羊の太い触手が動き始めました。
『これ結界破って狂信者倒しておかないと、子供が贄にされるな?』
『狂信者捕まえなくて良いんですかねぇ……』
『クエストは逃がすなだし良いんじゃね……』
「役にたてるのです本望でしょう」
捕まえる手間が省けたとも言えますので、コラテラルですコラテラル。必要な犠牲ですよ。ほら、盗賊は捕まえるよりその場で片付けてしまった方が楽ですからね。更に言えば良い年した狂信者より子供を優先する、当然のことです。
『信じる者は救われるって言うじゃん?』
『死は救済なり』
『なお奈落』
「この世界死んでも救済とは限らないんですよ。いや、リアルは知りませんけど」
『そうだったな!』
仔山羊のHPが全然減らないので、残りHPによる行動の変化は無いと思うんですよね。あるとすれば経過時間でしょうか? 冷静になる方の時間なら、逆に行動が大人しくなりそうなのですが。正直言って現状がかなりキツい。
「おい、傭兵ペンギン見習え! 死にすぎだ!」
「無☆理」
ペンギンのきぐるみの人、上手いですよね。まだ1回も死んでないようですし、体力も十分残っている感じですか。見た目が見た目なので、目立つんですよね。
「やべぇ……MP無くなるぅ」
「ぽーよんは?」
「さっき尽きたわ」
「ほらよ」
「ざっす」
「そこのお前! ポーションに入ってる魔力はポーション1本分だぜ!」
「やめろ! ミスったら死ぬだろうが!」
「とうっ! 姫様ガード!」
「普通姫を肉壁にしますかね。フェアエレンさん」
「うははは! 触手は薙ぎ払いの1発ぐらいしか来ないのは良いんだけど、魔法が怖すぎる」
「今回は随分と難易度上がりましたね。現状飛行は人外しかいませんし……」
「属性次第で刺さりまくるのつらたん。まあ……我ら妖精は常にオワタ式だが!」
妖精はそういう種族ですからね……。大体がその分空適性が高いのですが、元々人は飛べない種族なので、慣れる必要があります。サイズが小さく空適性が高いとはつまり……普通に怖いらしいですね。
そういった意味でも人間サイズの天使と悪魔が人気……と。天使は防御寄り、悪魔は攻撃寄りで、空適性は天使の方が高い。翼があるからでしょうね。
『さあ、皆大好き球体だ』
『嫌いだが?』
『丸いの大好きー!』
『ティンダロスに蹴られてしまえ』
『俺ティンダロスに蹴られるから、お前ヨグ=ソトースに蹴られろ』
『ヨグ=ソトースに蹴られる……?』
「多分ステルーラ様が蹴りに来るのでは?」
『……ご褒美では?』
『神の肉体性能で蹴られたら死ぬと思うんですよ』
『トゲトゲした犬に蹴られて死ぬより、美女神に蹴られて死にたい』
どうしてこうなるまで放っておいたんでしょうね。
前の方は時間ギリギリまで球体を持ち、爆発寸前で結界に向けて飛ばす。他は対抗属性をぶつけて消したり、どこかに纏めたりですね。これをミスったところは爆発して壊滅すると。
「サヨナラー!」
「死んでんじゃねぇ! 殺すぞ!」
「なんだそれ。お前を倒すのは俺的な?」
「おら起きろ」
「ちゃんと助けてくれるところ好きよ!」
「うぜぇ……。次死んだら寝かしとくわ」
「またまた~」
楽し……そうですね?
無事に狂信者を気絶させられましたか。気絶した狂信者は贄になる運命なので、向こうからしたらあれでしょうけど、自業自得ということで。
「ミードが【メテオシュート】で狂信者ヘッショしてるのは草」
「オーバーキルですね……」
というか、普通に高度なテクニックを。【メテオシュート】はタイムラグのある攻撃ですし、結界が破れる前提で狂信者狙って撃った物ですね。
『6と8の行動だが、どう思う?』
『叩きつけか薙ぎ払いのどっちかってだけじゃね』
『魔法後は前に使ってないやつだな。今まで被ってないし』
魔法の前に使うのは、薙ぎ払いか叩きつけのどっちか。魔法の後に使うのは、魔法の前に使わなかった方……でしょうね。
まあ、飛行系に致命的なのはむしろ魔法の方なので、触手自体は別になんでも良いんですよね。
戦うことそれなり。
結構死人が出るものの、問題なさそうですね。それにしても……。
「随分増えましたね……」
『今78体ぐらいか?』
『どこまで増えるんじゃろな』
『もうすぐ冷静になりそうだけどな』
『球体の個数が減って死人減ったの嬉しみ』
『逆に言えば、結界割る難易度上がってるんだけどな』
失敗できる個数が減りましたからね。結果的に難易度が上がってます。その分ヒーラーの負担は減りましたけど。
「なんかミスって死んだけどヨシ!」
「ヨシじゃねぇ頭バグってんのか」
「辛辣!」
「さっさと起きろ」
私もこれ終わったら協力してもらって、【リザレクション】覚えましょうか……。やっぱり蘇生魔法は欲しいですね。復活時のHPは低いようですが、被蘇生受付時間がアイテムより短いらしく、こういう場合は重宝しますね。
『もうちょい、もうちょい……』
『はよ!』
『これもう1回球体来るでござるな』
『あの数の中、狂信者だけ狙うの無理くね』
『きっと変態達がやってくれるさ』
『駄犬、殺れ』
『ふっ……ついに俺の出番のようだな……見てろよ見てろよぉ』
その流れで駄犬さんに振るんですか……。変態と言われてるはずなのに本人やる気満々ですし、なんかもうダメな気がしますね。プレイヤー名はヴィンセントってちょっとかっこいいのに、付いたあだ名は駄犬。
「ふはははは! 無駄無駄無駄無駄ぁ! 全速前進DA!」
球体の個数が減ったのと慣れにより問題なく結界が破られ、駄犬さんが突っ込んでいきました。
仔山羊から来る細い触手の攻撃を避けながら走っていくという、割と凄いことをしています。
『駄犬やるじゃん』
『ああ、だが……』
『期待してるのはそうじゃない。空気読め』
『なんでや!』
「『ん!?』」
おや? 【ヨグ=ソトースのこぶし】と書かれた横にゲージが出現し、結構なスピードで伸びていきます。……前動作が無いので、UIに表示されているのでしょう。
「えっなにそれここに来て初見!? ぶべらっ!?」
『駄犬君吹っ飛んだー!』
『ふむ……ダメージは大したこと無さそうだが、すげーノックバックだな』
『ノックバックって言って良いのか怪しいけどな……』
『ホームランだな……』
〈特殊呪文【ヨグ=ソトースのこぶし】を覚えました〉
なんと! 仕様を確認しましょうか。
【ヨグ=ソトースのこぶし】
任意のMPを消費する事で、見えざる拳を放ち、対象1体を攻撃する。
MPを消費すればするほど、ノックバック距離と気絶確率が上がる。
効果は対象との距離、サイズ、体勢に大きく依存する。
……イベント終わったら消費MPの検証をしないと使えませんね。
『気絶5付いたわ。受け身取れないから飛んだ後のダメージがエグいんだけど?』
『結局弓の曲射が当たったようだし、ネタ感もいまいちだし、0点!』
『審査厳しくないですかねぇ!』
『まあ、死んでないのだけは褒めてやらん事もない』
『駄犬払拭ならず』
『ちくしょおおおおお』
私は新しい呪文覚えたので、感謝したいぐらいですけどね。
冷静になるまでの時間が止まり、床に色が付くこと無く太い触手が振り下ろされますが、途中で止まりました。
〈〈黒い仔山羊が冷静になりました、慎重に言葉を選び、乗り切りましょう〉〉
「『げっ』」
「姫さんよぉ。俺らSクリアしてーんだよぉ。よろしくぅ!」
「私がやると狂信者が死滅する可能性高いですが、それでも構いませんか?」
「贄にされてる時点で、逃さなければ生死問わず……じゃね?」
「そんな気がしてるわ」
「子供を贄にしようとした奴らに慈悲は無い」
大きな触手を戻し、上でうねうねさせている黒い仔山羊の前に出ましょう。……仔山羊って話せるんですかね?
「黒い仔山羊よ、落ち着きましたか?」
『異人の同胞……ネメセイアか』
イケボ! まあ、テレパシーのような感じですかね。
「あなた方の種族とは初めましてですね」
『うむ。して、同胞がなぜ邪魔をする?』
「我々はあなた方ではなく、そちらのアホ共を狙っておりまして。こちらが調べたところ、どうやら悪巧みしているようですから」
『ほう?』
さて、相談しながら話を進めますよ。
「とりあえず評価に響きそうなのは子供達だ」
「だな。こっち持ってこれないものか」
そうですね。子供達を確保したいところですが……向こうの行動理由が分からないと動きづらいですね。
「ところで、あなた方はどうしてシュブ=ニグラスを?」
『帰るためだ。我々だけでは全員で帰れん』
……物凄い単純な理由ですね。それ故に切実ですか。ですがその理由ならほぼ勝ち確です。私の場合は銀の鍵がありますからね。イベントマップなので個人使用は一部ロックされていますが、イベントでなら動くでしょう。
【真紅の輪】は繋いでおくのに制御が必要。つまり【真紅の輪】で『全員』が帰る事は不可能であると。そのため親玉であるシュブ=ニグラスを呼ぶことで、纏めて帰るつもりであると。【真紅の輪】はあくまで祝福されしものをこちらに呼び寄せ、シュブ=ニグラスを召喚するための準備でしかないわけですね。
『その者達は【真紅の輪】に必要な血の調達と、召喚を手伝うと言った』
「なるほど。帰る方法は私が用意するので、帰る場所のある子供達はこちらで保護したいのですが」
『帰る方法を用意できるのか?』
「私はこれを持っていますので」
『銀の鍵か!』
「最悪その者達を全員贄にして【真紅の輪】を使ってくださいな」
『良かろう。おい』
黒い仔山羊に言われ、祝福されしものが子供達を連れてきてくれました。他の人達が受け取りましたね。
あと評価に響きそうなのはなんですかね。子供は保護完了。町の被害も無いでしょう。こちらに銀の鍵があるので、帰るのが目的な彼らを怒らせる事もな……いや、そもそも奴らの動機があれでしたね。さて、どうするか。
いや、いっそ黙っているのが正解? 余計な事言わずに私が門を開き、黒い仔山羊達は奴らを信者として連れて行って貰えれば。そうすれば私達も町も安全、子供達も無事、仔山羊達はニグラスへのお土産入手、奴らは自業自得。
……完璧では? 銀の鍵が動かなければ、彼らを全員贄にして貰えばこちらに問題ありません。
『うわ、お姉ちゃんのあの笑顔はダメなやつだ……』
『マジで』
『喧嘩売られてないのに同じ笑顔してる……。暗黒面がっ』
「リーナ」
『…………』
『妹ちゃんが貝になった』
ユニオンの方で妹を呼んだら、しゃがんで自分の足に顔を埋めました。顔を背けたところで、私の視界では無駄ですからね。正しい対処法です。
あ、いや待てよ……全然ダメでは?
「ところで黒い仔山羊。それらをお土産にどうです?」
『この者達か? 仕えるつもりがあるなら構わないが……そうじゃないなら邪魔なだけだからな』
……奴らの顔を見る限り、まず無さそうですね。ダメか。ダメですか。
『どうした?』
「お土産にしないのなら、ここで奴らを根絶やしにしておくのが正解かと思いましてね」
『ほう?』
「姫様、結構物騒よね」
「見た目の割に結構好戦的だからな」
「『我らが姫は凶暴です』」
言いたい放題ですね!
仕方ない。これで黒い仔山羊が暴れるようなら、私が銀の鍵でシュブ=ニグラスを呼びますか。お母さんくればすぐ冷静になるでしょう。鍵が動かないなら……あ、【シュブ=ニグラスの招来】が白文字になってる。最悪呼べますね。
ユニオンに伝えて動けるようにしておいてもらいましょう。
「理由1。しでかそうとした内容の割に、人の法では精々誘拐と窃盗である」
「『子供と木材か』」
「理由2。奴らは『シュブ=ニグラスの召喚方法』を知っている」
「『それは良くない』」
「理由3。愚かにも黒い仔山羊達を出し抜き、シュブ=ニグラスを利用しようとした。我々外なるものに対する挑戦か?」
『詳しく聞かせろ』
調査の結果で知った情報を仔山羊と祝福されしものに共有します。
「『ほう?』」
あ、祝福されしものまで仔山羊と同じ反応だ。……それはそうか。外なるものである以上同類であり、キレる部分は同じ可能性が高い。儀式の時は冷静でしたが、それはそれ、これはこれか。
……どうしたものか。太い触手が今にも振り下ろされそう。いや、殺して満足してくれるならそれはそれで構わないのですが。余計な気を回さずに済みますし?
「言いがかりだ! そんな事は……!」
……素晴らしい! 素晴らしい自爆です!
我々ステルーラファミリーに対し虚言を吐くのは、自殺行為と言うのです。
「我々の主である女神ステルーラに、今ここで、誓ってみせろ」
「っ……!」
「誓えない時点で答えです。とは言え、正直我々も扱いに困るので……いっそのことシュブ=ニグラスを呼び、判断を任せるというのはどうでしょう?」
『……良かろう』
会ったこと無いので不安は拭えませんが、暴れるようなら銀の鍵で退散ですね……。どうせなら呼びたいですし。どうせなら呼びたい!
「ということで、呼んでも構いませんか?」
「シュブ=ニグラス召喚の儀式と言えば……」
「何を期待してるか大体分かるが、このゲーム一般だから」
「なんでだ!?」
「その返しが何だ」
「狂信者元気だが問題ないのか?」
「銀の鍵を使うので、契約の介入は無いはずです。家の扉開けるようなものですからね。あるとしても鍵所有者の私だけのはずです」
「『なら良いんじゃね』」
では、召喚しましょうか。……銀の鍵だから詠唱がない? それは少々寂しいですね……定番で行きましょう。
「いあ! いあ! シュブ=ニグラス……【シュブ=ニグラスの招来】」
〈〈シュブ=ニグラスが召喚されようとしています〉〉
〈〈召喚者:同胞〉〉
〈〈召喚対象の状態:通常〉〉
〈〈召喚対象の契約状態:無し〉〉
〈〈召喚対象の友好度:友好寄りの中立〉〉
銀の鍵は正面や下といった普段とは違い、空へと飛んでいきました。……そうされると、私見えないんですけど? あ、リジィ経由で見ましょう。
〈〈プレイヤーにより、シュブ=ニグラスが召喚されました〉〉
〈〈退散フェイズへの移行……保留〉〉
「『保留!?』」
空が……割れましたね。少なくとも我々の頭上全体を覆う程度の広範囲で。その裂け目の奥の見えない空間から、霧というか煙と言うか……何かが漏れ出るように溢れてきました。
なんていうか、空気感が一気に重くなりました。存在感が半端ない。
狂信者達は腰を抜かし、青い顔で空を見上げています。君達が会いたかった方に失礼な奴らです。
「『SANチェックです!』」
「『このゲームにはねぇ!』」
「『だが夢には出る!』」
「『それな!!!』」
溢れ出てきた何かが、意味のある形を取ろうとしているのか、ただ重力に従っているのか、我々のいる下へとゆっくりと落ちてきます。
透けていた落ちてきた何かは次第に黒く色づき、ヒヅメの形を取り、静かに地面に立ちました。……地面の方はだいぶめり込んでいるようですけどね。
……木を1本もなぎ倒していない事に気遣いを感じますね。木のある部分は実体化していないのでしょうか。実体化と言っていいのかも分かりませんが。
サイズは仔山羊の2……3倍ぐらいでしょうか。大きいですね……。
『新人が、何用か?』
「お初にお目にかかります、シュブ=ニグラス」
『同胞です、楽にするように。……して?』
「少々面倒な事になりまして」
『我が子よ、答えなさい』
シュブ=ニグラスはちょっと高圧的な女性の声……というべきでしょうか。
母に問われた仔が、触手をうねうねさせながらメェメェしてるのを眺めるプレイヤー組。とてもシュールですね。かと言ってここで口をだすのもあれですからね。
「感動の再会……と言って良いのでしょうか?」
「『分からん』」
「感動の再会には俺ら邪魔じゃね」
「あいつらもな」
「帰るか」
「そうだな」
「どこへ行こうというのかね?」
「『ふはっ』」
君はラピュタ……ニグラス神の前にいるのだ!
この世界のシュブ=ニグラスってどういう立ち位置なんでしょうね。ニャル様は宰相してましたが……アザトースも気になりますし。さすがに今は聞きませんが。
『こちらで好きにして構わないと?』
「その者達なら好きにしてください。我々は口を挟みませんし、人への報告もこちらで済ませます」
『ふむ……パブリックエリアへ繋いでちょうだい』
ではそのようにしましょう。銀の鍵よろしく!
空の裂け目が閉じ、降りてきた銀の鍵はとても大きな門を生成し、深淵のパブリックエリアである花畑が広がっています。
『我が子よ、戻りますよ。同胞とその仲間達に免じてね』
『メェ』
沢山来た祝福されしものに、ガッチリ捕まって狂信者達が運ばれて行きます。狂信者達が何やら叫んでいますが、私達は華麗にスルー。今の我々の心は唯一つ。『Sクリアのためにさっさと行ってくれ』ですよ。
そもそも君達の望みだったはずです。シュブ=ニグラス級はさすがにそういませんが、人からすれば十分強者と言える者達が沢山いますからね。
……まあ、君達の想像する支配者と、彼らのする支配が一緒かは知りませんが。
最後にシュブ=ニグラスが霧状に戻って門を通ると、鍵による門が消えて腰にぶら下がりました。
〈〈シュブ=ニグラス一家が退散しました〉〉
〈〈メインイベント:狂信者の残党を捕らえろ 完了〉〉
〈〈クエスト評価を確認中…………〉〉
「『うおお……? 長くね?』」
「あいつらも今日からニグラスファミリー……か……」
「はて、分かりかねます」
〈〈クエスト評価を確認中…………審議中〉〉
「『それは草』」
「まあ……ちょっと特殊な方法だった気がしますね」
「『ちょっと?』」
「……私を前に出した結果です。甘んじて受け入れてください」
「『……致し方なし!』」
おや?
「はーはっはっは! 俺だぁ!」
「『オッス!』」
「今山本さんとイベントチームが審議中だから待ち給え!」
「予想ではどうなりそ?」
「まあ、Sだろ。方法が特殊だっただけで、ポイントは押さえられてるからな!」
〈〈審議完了〉〉
〈〈狂信者達の目的…………調査済み〉〉
〈〈黒い仔山羊の目的…………判明済み〉〉
〈〈誘拐された子供の救出…………成功〉〉
〈〈狂信者の逃亡…………無し〉〉
〈〈町の被害…………無し〉〉
〈〈異人行動不能回数…………12,964回〉〉
〈〈シュブ=ニグラスに祝福されしものの討伐人数…………0〉〉
〈〈黒い仔山羊の対処…………成功〉〉
〈〈シュブ=ニグラス召喚の阻止…………成功?〉〉
〈〈クリア評価…………Sクリア!〉〉
〈〈更にパーフェクトクリアとして、報酬にボーナスが追加されます〉〉
〈〈報酬は第一サーバーの全員に支払われます〉〉
〈〈3分後、助けた子供達と東門の前に転移されます〉〉
〈種族レベルが上がりました〉
〈下僕のレベルが上がりました〉
〈《本》がレベル50になりました。スキルポイントを『2』入手〉
〈《本》の【クイックキャスト】が強化されました〉
〈《蛇腹剣》がレベル30になりました。スキルポイントを『2』入手〉
〈《蛇腹剣》のアーツ【制限解除】を取得しました〉
〈《超高等魔法技能》がレベル10になりました。スキルポイントを『1』入手〉
〈《超高等魔法技能》の【索敵魔法】を取得しました〉
〈【索敵魔法】に関するオプションが追加されました〉
〈《極光魔法》がレベル5になりました〉
〈《極光魔法》の【セラスフラック】を取得しました〉
〈《聖魔法》がレベル40になりました。スキルポイントを『2』入手〉
〈《聖魔法》の【パーティーヒール】を取得しました〉
〈《混沌魔法》がレベル5になりました〉
〈《混沌魔法》の【ハオスフラック】を取得しました〉
〈《時空魔法》がレベル5になりました〉
〈《時空魔法》の【スロウ】を取得しました〉
〈《身体強化》がレベル10になりました。スキルポイントを『1』入手〉
〈《肢体強化》がレベル10になりました。スキルポイントを『1』入手〉
〈《霊魂強化》がレベル10になりました。スキルポイントを『1』入手〉
〈《最大HP強化》がレベル10になりました。スキルポイントを『1』入手〉
〈《最大MP強化》がレベル10になりました。スキルポイントを『1』入手〉
〈《偉大なる術》がレベル40になりました。スキルポイントを『2』入手〉
「『来たああああああああ!』」
「『うめええええええええ!』」
「『さすが格上!』」
「第一そんな人いねーのに死にすぎわろた」
「あれは仔山羊が悪い」
「どう考えてもあれが悪い」
「人外系がワンパンされてたからなぁ……」
「じゃ、4日目でやり残しが無いようにな!」
「『ういー』」
八塚さんが帰っていきました。
イベント自体は後1日あるんでしたっけね。確か片付け期間で最後のチケット稼ぎ時でしたか。欲しい物の交換は済んでいるので、明日はスキルの確認しながらのんびりしましょうかね。
「今回項目が多いねー?」
「シティイベントだからなぁ」
「仔山羊に目的聞いたのは正解でしたか……」
「目的の調査は基本よな」
「ニグラスが疑問形なの草生える」
「呼ばれなかったけど呼んだからな……」
「呼ばれるのがダメなら、先に呼べば良いんだよ兄貴!」
「銀の鍵無いと呼べないだろうけどな!」
これ正規だと全部贄にしてもらうのが1番楽なんですかね……。
「子供達は?」
「寝てるっぽい?」
「それ多分気絶って言うと思うんですよ」
「そう言えば、子供達への配慮皆無でニグラス呼びましたね」
「『…………過ぎたことさ!』」
いい笑顔だこと。……まあ過ぎたことです。
東門を出た草原に転移されて帰ってきたので、ぞろぞろと町へ戻ります。
「『お疲れー!』」
「『おっつー!』」
「この後どーすっべ?」
「打ち上げかー?」
「それも良いが、かぼちゃと猫は?」
「『あー……』」
「なんかもう答え合わせ待てば良い感ある」
「4日目の15時で終わりだべ? 今夜がラスチャン?」
「そーなるな?」
大体0時過ぎがホラーの本番でしょうから、実質そうなりますか。とは言え、私はこのまま伯爵家へ報告ですかね。
「このまま伯爵家へ行きますが、スケさん達はどうしますか?」
「んー……どうするか」
「ラストだし見回りでもするー?」
「ふぅむ……そうするか」
「2人はどうしますか?」
「「少し早いけど寝るー?」」
「今回は種族的に即死攻撃してきたから、気を抜けなかったからねぇ……」
「「疲れたけど楽しかったー!」」
「それは良いことですね。おやすみなさい」
「「おやすみー!」」
それぞれ行動が決まったところで、伯爵家行きますか。子供を抱えてる人も私と一緒に伯爵家行きですね。個人の家は分かりませんが、領主の館なら起きたら自分達で帰るでしょう。
当主だけで良いかと思いましたが、夫人も待機していたようですね。
先程あった事を報告しておきます。子供達を6名確保したこと、恐らく1人は落ちたこと。黒い仔山羊達の目的。狂信者の目的。そして結末。
「そうでしたか。尽力、感謝致します。子供達は責任を持って返しましょう」
「ええ、お任せしますよ」
報告にそこそこ時間がかかったので、教会へ戻って寝ましょうか。丁度いい時間ですし、このゲーム始めてから1番の強敵でしたからね……。他の人は運動会で来たショゴスで体験してそうですけど、私は早々に出ましたからね……。
伯爵夫妻に挨拶して撤退。この世界で考えれば十分遅い時間ですね。
礼拝堂にいたシスターに挨拶して部屋へ。最終日はゆるりとスキル眺めましょう。
おやすみなさい!
P.S
私「あー……死にそ」
友「生きろ」
私「……私は美しい!」
ぷそで使徒をシバいていた時の実際の会話である。