表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/119

101 ハロウィン 3日目

前回の召喚に適した時間を、13時から18時に変更してあります。

 おはようございます。雨ですね。随分と風が強くなったものです。横薙ぎの雨ですか。リアルなら外に出たくない天候ですね。

 さて、解析は……まだ終わってませんね。UIを開いて解析を進めつつ、寝ていた間の情報確認をしましょうか。



東の森で目撃された『影』は、シュブ=ニグラスに祝福されしものだと分かった。


狂信者達の資料の解析が進んだ(シュブ=ニグラス)

 召喚に関係のありそうな部分を発見した。

 詳しく解析すれば抵抗する方法と、儀式にかかる時間が分かるかもしれない。


狂信者達の資料の解析が進んだ(シュブ=ニグラス)

 シュブ=ニグラスの儀式が分かった。

 召喚の儀式に必要な人数が残党で足りるとは思えない。何をする気だ?

 急いで解析を進めた方が良いかもしれない。


狂信者達の資料の解析が進んだ(シュブ=ニグラス)

 狂信者達は外なるものの奉仕種族を召喚して、彼らに召喚させようとしている。

 確かに、それならばシュブ=ニグラスを召喚するより低コストで済むだろう。

 それでも残党で足りるとは思えないが。

 なぜシュブ=ニグラスなのか……は、分かりそうにない。


狂信者達の資料の解析が進んだ(シュブ=ニグラス)

 召喚の儀式は1人でも可能だが、人数が増えれば増えるだけ速度が上がるようだ。

 儀式には残党が全員参加するだろう。そこを叩けば取り逃がす事は無さそうだ。


狂信者達の資料の解析が進んだ(シュブ=ニグラス)

 彼らの召喚しようとしている奉仕種族に関して調べた。

 その結果、【黒い仔山羊の召喚/従属】の呪文が分かった。


 いえ いえ しゅぶ・にぐらす 千匹の仔を孕みし森の黒山羊よ!

 いあーる むなーる うが なぐる となろろ よらならーく しらーりー!

 いむろくなるのいくろむ! のいくろむ らじゃにー! いえ いえ しゅぶ・にぐらす!

 となるろ よらなるか! 山羊よ! 森の山羊よ! 我が生け贄を受取り給え!



 このぐらいですか。

 結構情報が出たようですが、寝てる間に【黒い仔山羊の召喚/従属】の呪文を覚えたようですね……。ビヤーキーのように召喚できそうですが、このイベント中はロックされていますね? ビヤーキーも呼べませんか。


 さて本題。

 狂信者達はシュブ=ニグラスの召喚ではなく、黒い仔山羊を召喚しようとしているわけですね。なので、我々が戦うとすれば黒い仔山羊になるのでしょう。もしかしたら『影』である祝福されしものともですね。

 そして4番目の情報。儀式に参加している狂信者の数が多いとダメだと言うのがわかりますね。しかし、残党を逃さないために儀式が始まってから叩くようです。つまり全員で儀式中のところに殴り込み、儀式の完了前に全員捕まえる必要がある。

 何かしらのギミックがありそうな戦闘ですね。儀式中に護衛がいると思うので、それとの戦闘をしつつ、狂信者の数を減らしていく……だとは思うのですが。狂信者全員が儀式に夢中で無抵抗だったら流石に笑います。


 さて、起きますか。


「おはようございます」

『おっはー!』

『姫! お目覚めですか!』

「何かありましたか?」

『いや、全く』


 結局猫とカボチャは情報でないんでしょうか。……まあ、全部情報出る方が珍しいですか。謎が謎のまま終わるのもまたホラー系……と。

 さて、ストレッチをしたら部屋を出て、教会の庭を借りて形稽古。雨降ってますがまあいいでしょう。【洗浄クリーン】は偉大です。



 ……このぐらいですかね。

 冥府に行けないので施設を使用した反射と受け流しの訓練ができませんが、仕方ありません。公式イベント中はその辺り制限されますから。


「【洗浄クリーン】」



〈特定の条件を満たしたため、《超高等魔法技能》にエクストラアーツが追加されました〉



【生活魔法詠唱破棄】

 【火種バーン】【飲水ウォーター

 【加熱ヒート】【冷却クール】【そよ風(ブリーズ)

 【洗浄クリーン】【応急手当ファーストエイド


 条件は《超高等魔法技能》を所持しており、生活魔法の累計使用回数による解放。


 3次スキル所持者なら生活魔法ぐらいなら詠唱破棄でできる……って事ですかね。

 問題は詠唱破棄や無詠唱ってゲームによって結構違う事。このゲームにおける『詠唱』って確か……?


 ……ああ、やっぱり。発動キーは必要なんですね。無くなるのは詠唱ゲージの方ですか。つまり使おうと思って【洗浄クリーン】と言えば発動すると。

 地味にあった詠唱時間が完全に無くなったのはまあ……良いですけど、生活魔法の詠唱が無くなってもなぁ……感が凄いですね。生産で割と頻繁に使うので、地味にストレス減るんでしょうか。

 詠唱破棄と無詠唱はお約束と言っても良いぐらいでしょう。詠唱破棄がこれだというと、無詠唱が発動キーも不要になるんですかね。


 とりあえず礼拝堂へ……いえ、領主の館に行きましょうか。クライマックスまでそんな時間がありません。領主の館で解析を進めるとしましょう。

 ということで……亜空間移動。亜空間で【洗浄クリーン】と【防水結界】を使用してから出ますよ。


「これはネメセイア様!」

「おはようございます。通っても?」

「どうぞ!」


 顔パス、楽でいいですよね。雨の中もご苦労さまです。

 問題があるとすれば、基本的に先触れがないのは申し訳ない。貴族関係は特に、その辺りちゃんとするはずですからね……。

 我々プレイヤーにそこまでは無理。


「来なくても良いと言っても来るでしょうから言いますが、別に急ぐ必要は無いと夫人に伝えておいてください」


 唐突に来たのはこちらですし、夫人は夜会ほどではないとは言えドレス。現状特に用があるわけでも無いので、さすがにあれですからね……。

 とりあえず案内された部屋で解析を進めながらのんびりします。



 起きてきたPTメンバーと合流しつつ、やってきた夫人と雑談。


「行方不明者捜索の進捗はどうです?」

「芳しくありません。……いえ、予想通りとすら言えるでしょう」


 そもそも見つかったという記録すら無いようですね。更に言えば、ミイラ取りがミイラになるのを避けるためにも、長時間の捜索は不可能。それを知るからこそ、この町の住人達は家に籠もる。


「結局全員で何名に?」

「報告されたのは7名でしたね。3倍ほどの記録更新です……」

「記録では多くても2名ぐらいですか」


 さて、アホが多かったと思うのは簡単ですが……狂信者がいるんですよね。


「異界行きではなく、狂信者によって誘拐されたという可能性はどうでしょう」

「奴らの資料にあった贈り物か」

「問題は、既に目撃情報があるということは……なんですよね」

「そうだな……いや、待てよ。贈り物ってそんな頻繁にできるものなのか?」

「おや? 確かにそうですね。行方不明は昨日、または一昨日です」


 アルフさんの疑問は尤もです。

 殺して贄とする訳ではなく、贈り物を『作り変える』。つまり殺して終わりではないんですよね。シュブ=ニグラスに祝福されしものに変質するわけですから、はいさよなら……というわけにはいきません。


「ニグラスへと繋げる門、もしくは何らかの儀式が必要なはずですね」

「ニグラスに繋げる門ができるなら、もう召喚と変わらんよな……」

「ニグラスの化身が作り変える能力あるっぽいねー」

「「化身いるのー?」」

「「いやまさか」」


 掲示板を見ていたスケさんからの情報に反応した双子に、私とアルフさんが否定します。

 シュブ=ニグラスの化身がいるなら、既に狂信者達は何らかの行動に移っているでしょう。外なる神は化身でも十分に化け物ですが、そもそも私のように本体の招来ができるはずです。それはちょっと、イベント的にあれです。


「別用途での誘拐でしょうか……」

「もしくは普通に異界行きー」

「誘拐かどうかは資料の解析をすれば分かるだろうが、そろそろ6割か」


 アルフさんが言うように、今の資料解析率は60%ほど。あと4割を時間までに解析できれば良いのですが……。

 まあ解析は座ってUIを開いておけば進むので良いとして。行方不明者が異界に行っていた場合はどうしようもないので、狂信者による誘拐を前提としておくべきですかね。



〈〈情報が共有されました〉〉



狂信者達の資料の解析が進んだ(シュブ=ニグラス)

 シュブ=ニグラスに祝福されしもの。

 Gof'nn(ゴフン) Hupadgh(フーパジ) Shub(シュブ)-()Niggurathニグラス とも言われる。

 彼らは元人類の生贄や信者がシュブ=ニグラスの化身に取り込まれ、生み出された存在である。

 下級の奉仕種族である彼らは、上級の奉仕種族である黒い仔山羊に付き添っている事が多い。

 彼らは人だった頃の身体のまま、一部が変化している事が殆どであり、人だった頃の能力をそのまま持っている。極稀に大きく変容した個体も存在するだろう。

 つまり攻撃方法は個体によって違う可能性があり、注意が必要である。

 彼らは少なくとも【シュブ=ニグラスの招来/退散】【黒い仔山羊の召喚/従属】【真紅の輪】の呪文を知っている。



 シュブ=ニグラスに祝福されしものの詳細情報が出ましたか。


「マルグレット夫人。行方不明になった者達は、皆若いですか?」

「そう……ですね。全員成人前だったはずです」


 夫人から更に詳しく情報を得たところ、戦いを生業としていた者は居ないようですね。攫うことを考えるとまあ……当然といえば当然か。

 つまり変えられたとしても、あまり脅威となる能力を持った者はいなさそうです。


「「化身って書いてあるよー?」」

「書いてありますね……」

「書いてあるな……」

「化身がいるんかねー?」


 いない……とは思うんですけどね……。ただそうすると、目撃されている祝福されしものが謎なんですよ。

 情報が足りませんね?


「捕らえた者達から新しい情報は手に入りましたか?」

「私は特に聞いておりません」


 となると、まだ領主止まりでしょうか。

 クライマックスはシュブ=ニグラスの召喚阻止……というのは分かっていますが、それだけですからね。バックボーンに関しては、本人達から聞くしか無いでしょう。


「そもそも奴らはどこでニグラスの存在を知ったんかね。外なるものとして有名なんだろうか?」

「ニグラスが直々に断罪に来るとは考え難いので、露出はそんな無いと思います。やっぱり本ではないでしょうか?」

「解析資料にしてるあれか。しかしなぁ……誤訳だらけのあの資料で、召喚部分が完璧かね?」

「ですが、イベント的に実は間違えててはい失敗……は無いと思いますよ?」

「……仔山羊、または祝福されしものが最初からいて、それに接触したとか?」


 アルフさんの言う方向で考えるとすると……今回ではなく、前回の境界の緩みで黒い仔山羊、または祝福されしものがこちらに来ており、不審者が接触して狂信者にでもなったと?

 で、元からいたどちらかに召喚方法を聞いた? 確かに奉仕種族は【招来/退散】の呪文は基本的に知っていますね。


「不十分ですが、バックボーンとしてはまあ、繋がりますね。ただ、彼らが召喚に協力する理由が分かりません」

「思惑が違うのはよくある事じゃないか」

「外なるものと狂信者達で目的が違うと?」

「その方が自然じゃないかい?」

「狂信者側の狙いはちょろっと出ていましたね」


 解析を待ちながら雑談に興じます。



〈〈情報が共有されました〉〉



狂信者達の資料の解析が進んだ(シュブ=ニグラス)

 黒い仔山羊。Dark Young of Shub-Niggurath.

 のたうつ巨大な塊で、全体的に黒い。大きさは大体3.6メートルから6メートルほど。シルエットで見れば木に似ている……と、思うかもしれない。

 上部はミミズに似た無数の触手を持ち、その中でも4本の触手が太くなっている。

 中央はシワの寄ったいくつもの大きな口があり、緑色のよだれが滴り落ちている。

 下部にある2本の太い触手の先端はヒヅメであり、それで移動する。

 攻撃方法は触手の叩きつけか薙ぎ払い、踏みつけ、あるいはその巨体を生かした突進である。もし触手に捕まり恐ろしい口へと運ばれた場合、犠牲者は虚しくもがくか、虚しく叫ぶことしかできないだろう。踏みつけを行う前に鳴く……らしい。

 彼らは少なくとも【シュブ=ニグラスの招来/退散】の呪文を知っている。



 黒い仔山羊の詳細情報ですね。


「これで奉仕種族2種の攻撃方法などは分かりましたね」

「祝福されしものは基本的に人と変わらない。ただし攻撃に使えそうな部分があれば注意……ぐらいかね」

「運動会の狩り物と違って、戦闘にはならなそうじゃねー?」


 そうなんですよね。基本的にこちらから喧嘩売らない限りは、戦闘にならない……はずなんですよ。


「判断するには情報が足りませんね……。それも資料のではなく、現在の」

「東の方を偵察できれば良いんだけど、行けないんかね?」

「ユニオンで聞いてみましょうか……」


 基本的に解析待ちで暇なんですよね。

 ということで、ユニオンに参加している各PTリーダーに聞き込み。


『森に変わったところは特に無いっぽいんだよなー』

『影は1回見たらどうやら消えるらしい。今のところ再発見は無し』

『山近くまで来ました……が、なんかエグい不意打ちが来るので帰ります……』

「不意打ち? 狂信者からでしょうか?」

『分からんけど死ぬから帰る!』

『ほーん? 行ってみるとするか』


 どうやら偵察も大変そうですが、時間にならないと行けないタイプでしょうか? とりあえずスケさん達にも共有しておきましょう。


「やっぱ向かってるのはいるか。しかし不意打ちかー……」

「しかも何から攻撃されているのかも分からないようです」

「ということは、狂信者じゃなくて外なるものかなー?」


 バックボーンが現段階で分かるとも思いませんし、深く考えるだけ無駄ですか。



〈〈情報が共有されました〉〉



 とある住人の冒険者PTが、1年と3ヶ月ぐらい前に、東の森の奥で黒い巨大な何かを見たことがあるという。しかし、他の冒険者達や住人は信じてくれなかったようだ。



「……仔山羊?」

「祝福されしものは基本的に人間サイズのはずだから、可能性は高いね」

「1年と3ヶ月ぐらい前……ですか。ふぅん……?」


 今回ではなく前回の境界の緩みで来ていたと思って良いのでしょうか。


「何らかの理由で元から仔山羊がいた場合、側にいたであろう祝福されしものもこちらにいる場合がある……となると? もし誘拐だった場合、まだ無事な可能性がありますね」

「その場合って貢じゃねー?」


 スケさんが言うようにシュブ=ニグラスへの贈り物でしょうね。その場合は助けられる可能性あり。まあ、関係なくどこかの異界に行っていた場合は知りませんが。


「召喚に協力する理由が不明でしたが、そういえば逆の可能性もありますね。元々召喚する予定であり、会った人間に協力して貰う。その人間が利用しようと企んでいる……とか」


 これなら正確な召喚方法を知っていても不思議ではありませんよね。黒い仔山羊から直々に教わっている可能性が高いのですから。


「狂信者ってよく分からない行動をとるよな……。外なるものは脅威だと分かっているのに利用するとか」

「情の無い相手に利用されるとか、普通怒ると思いますけどね」

「まあ、そういうところが飛んでるから『狂信者』なんだろうけど」

「それで勝手に破滅するなら好きにしてくれで済みますけど、大体が周りを巻き込むんですよね」

「「それな!」」


 死ぬなら1人で死んで欲しいものです。まあ、狂信者の考えを理解しようとは思わないので、どうでもいいのですが。どうせイベントNPCです。



〈〈情報が共有されました〉〉



狂信者達の資料の解析が進んだ(シュブ=ニグラス)

【真紅の輪】

 呪文と血により空間を引き裂き、真紅の門を開く。

 行き来が可能であり、召喚も可能となる。


 【真紅の輪】発動のためには、集まって輪となり詠唱を始める。そして代表が血の生贄を捧げると真紅の輪が出現する。これが門である。

 門のサイズと継続時間は、集まっているシュブ=ニグラスに祝福されしものの数で決まる。

 血は一定量必要であり、その血は大型1体でも、小動物複数でも可能である。緊急時には、シュブ=ニグラスに祝福されしものが贄となる事もあるだろう。



 これは……シュブ=ニグラスに祝福されしものが持っている呪文の情報ですか。


「おっとー?」

「これ用の可能性もあるな?」


 生贄……いや、正確には血と言う触媒が必要な門タイプの呪文ですか……。アーティファクトである銀の鍵が破格の性能ですからね。

 作り変えるための贈り物ではなく、シュブ=ニグラスへの贄でも無く、呪文を発動させるための素材。大型でも小動物複数でも可能なら、別に人間でも良いわけだ。……普通なら同族は選択しないはずですけど、狂信者に普通を求めるのは酷というものか。超えてはいけないラインを簡単に飛び越える者がそう言われるのでしょう。


「このまま行けば解析は間に合いそうですね。そろそろ情報を纏めて方針をある程度決めておくべきか……」

「そうねー。残りの情報が入り次第修正すれば良いっしょー」

「今考えられる最悪の状態は?」


 アルフさんの問に答える感じで纏めていくとしましょうか。


「現状の最悪の場合は、シュブ=ニグラスの召喚に、狂信者達が何らかの悪い方向で介入することでしょう。……夫人。この町から王都はどちらの門から?」

「王都は西門からですね」

「狂信者集団である彼らの拠点で見つかったメモによると、目的は外なるものを王にすること。王都への襲撃が条件に入った場合、この町は半壊……で済めば良いですね」


 召喚場所は東、王都は西。つまり進行方向にこの町が来るので、シュブ=ニグラスの通った部分は全壊しますね。

 我々で一斉に魔法攻撃をしてHPを削りきれなければ、反撃の一撃でサヨナラする事でしょう。

 ただシュブ=ニグラスは結構人の話を聞いてくれる存在らしいので、狂信者達の介入を防げれば……恐らく問題はない。元々が人に優しいと言えなくもないので、この世界なら割とフレンドリーそうです。


「最善の状態は?」

「外なるものとの会話で、こちらの味方にしてしまうことでしょうか。ただ、これに関しては私の種族の影響が無さそうなんですよね……」


 今のところこのイベントで恩恵があったのは時の時計だけ。そしてその時の時計は完全におまけ。シュブ=ニグラスや嘆きの聖母たちの情報を古き鍵の書が出してしまうと、シナリオブレイクしそうなので無効化されているのでしょう。私としてもその方が楽しめるので、問題はありませんけどね。


「まあ、そんなもんか」

「「一番可能性が高いのはー?」」

「【真紅の輪】発動を阻止でしょうか。そのために行方不明者の救出が目標になる……かと?」

「外なるものとは戦闘になるかねー?」

「異人が万単位いるとは言え、さすがに辛いと思うんですよね。主に防御面で。なので通常の戦闘ではない……と思いたいところです」


 さすがに黒い仔山羊1匹なら倒せないとは思いませんが、攻撃された部分から壊滅していくでしょうから、ぶっちゃけ戦闘と言えるものではありません。ゴブリンジェネラル君とは比べるまでも無く、タンクが正常に機能しないでしょうからね。


『無理ー!』

『これ斥候に慣れてないと無理だわ。見つかったらエグい』

『先に見つけてのステルス系だな……』

『祝福されしものからの攻撃っぽい……ってのは分かるな。あいつら隠れるがめちゃたかだったはずだし、かなりつらみある』

『これ空から大回りすれば行けん?』

『空は見つかったら即アウトだぜ?』

『隠れられんしなぁ……ふぅむ』


 ユニオンのリーダー達も情報交換してますね。東は侵入系ですか。


「あ」

「「「「あ?」」」」

「ちょっと東側見てきますね」


 私、最強の偵察スキル持ってるじゃないですか。ということで、亜空間移動。

 黒い仔山羊や祝福されしものに亜空間能力は特に書かれていなかったので、多分大丈夫だと思いますが、一応空から行きましょうか。地上が見えるギリギリで。


 森ー……山ー……おっ。



〈〈情報が共有されました〉〉



東の偵察に成功した

 東の山の麓で黒い仔山羊、黒いローブを着た残党らしき怪しい者達、町で行方不明とされている者だろう6名を発見した。村から盗み出したであろう木材も見える。

 シュブ=ニグラスに祝福されしものらしき姿は見えないが、森で妨害してきているのが恐らくそうだろう。

 一度撤退し、時間になるまで準備を進めよう。戦闘になればきっと、厳しい戦いとなるだろう。



 狂信者ですという主張の激しい黒ローブが複数いて、どう見ても一般人な6人の子供達が地面に転がっていますね。子供達は明らかに黒い仔山羊にドン引きしてますが、口を塞がれて縛られているので静かではあると。

 そして肝心の黒い仔山羊は……近くにいる黒ローブを成人男性とすると、黒い仔山羊は5メートル後半ですかね。情報と照らし合わせるとかなり大きな個体と言えますか。

 特に喋っては……いませんね。屋敷に戻りましょう。上空は意識してないと気づきづらいとはいえ、バレたら丸見えですからね。長居は無用です。

 クライマックスである儀式の場所がマップに色づきましたので、迷うことは無いでしょう。


「戻りました」

「おかえり。情報出たね」

「ええ……しかし、夫人から聞いた行方不明者は7人のはずです」

「はい、私が聞いている数は7名になります」

「それらしき6名は狂信者達に捕まっていたので、後ほど狂信者達の確保と救出に向かう予定です。ただ、1人は異界に落ちていそうですね……」

「「狂信者に仲間入りとかはー?」」

「「……なるほど。ありえないとは言えない」」

「……まあ、異界だろうと仲間入りだろうと、今まで通りは不可能ですね」


 確かに仲間入りしてローブを着ていたら、判断できない可能性はあります。ただ、どちらだろうがもはや後戻りは不可能なので、こちらが気にする事ではありません。


「そう言えば未成年と聞いていた通り、子供達でしたね。血を目的とするなら成人男性を狙うべきでは?」

「確実に抵抗が激しいし、成功率を求めたんじゃろ。ただそれなら成人女性でも良いはずだが……いや、この世界だと警戒心あって1人になる可能性が低いか?」

「はい、基本的に夕暮れ辺りからは絶対に1人で外には出ないでしょう。特に今の時期は絶対と言い切っても良いぐらいです」


 アルフさんの疑問に、聞いていた夫人が答えてくれました。

 盗賊やらもいる世界ですから、その辺りの警戒心は住人では常識ですか。夫人の場合は貴族なので、なおさら1人では動きませんね。


「他の狂信者達が狩りに森にいるかもしれないしねー」

「それもそうですか」


 儀式まで時間のある今、見てきた場所に残党が全員いるとは限りませんもんね。捕らえやすいが血が少ない人か、強いが血の多い魔物か。人の場合は団結して反撃してくるのを考えると、普通は魔物を狙うんですけどね。


「「あとは時間待ちー?」」

「やることはやった感がありますね」

「あとはまあ……生産しながら待機ぐらいか」

「っても解析しながらだから、できる事は限られるけどねー」


 座ってUIを開いておくか、立ってUIを見ているかですからね。座りながらできる生産なら問題はありませんが、問題は素材。

 ああ、そう言えば量産してた蘇生薬配っていませんね。あとで集まる時でいいか。


 夫人やPTメンバーと話しながら、解析を進めるとしましょう。



〈〈情報が共有されました〉〉



狂信者達の資料の解析が進んだ(シュブ=ニグラス)

 Shub(シュブ)-()Niggurathニグラス. 黒き豊饒の女神。

 この豊饒の女神は巨大な雲状の塊であるとされ、おそらく泡立ちただれている。

 雲の一部が融合し、体の一部を形成する事がある。紐のような黒い触手、粘液がダラダラの口、更に先端が黒いヒヅメになっている短い足などだ。

 彼女はとても大きく、通り道は平均して幅が10~20メートルくらいである。彼女の半分以下のサイズの場合、容赦なく踏み潰して進むであろう。

 彼女の乳には注目に値する特質があるとされているが、詳しい情報はここに無い。

 シュブ=ニグラスの化身として、『うねの後ろを歩くもの』や『パンの大神』が存在するようだが、その情報もここに無いため、今回は関係無さそうだ。

 彼女は少なくとも、外なるものに関する呪文を全て知っている。


狂信者達の資料の解析が進んだ(シュブ=ニグラス)

 【シュブ=ニグラスの招来/退散】の呪文が分かった。

 最悪の場合はこれで抵抗しよう。

 ※シュブ=ニグラスが召喚された際、退散フェイズへと移行します。



〈特殊呪文【シュブ=ニグラスの招来/退散】を覚えました〉



 無事、始まる前に最後まで解析できましたか。呪文……増えましたね……。


「……これ、最後までいって無かったらニグラスとガチンコ勝負かー?」

「呪文は一番安全で完璧な方法ですからね。それ以外で頑張れよって事でしょう」

「そもそも退散フェイズまで行かないのがベストだしな」


 Sクリアしたいものですね。条件は一般人6名の全員救出かつ、狂信者の残党全員確保だと思います。儀式が進めば一般人の6名が減っていくと思うんですが……さて、どんな流れになるのか。


「……時間ですか。行くとしましょう」

「「東の平原ー?」」

「とりあえずそこに集合ですね」


 風は良いか。【防水結界】だけ使用し、伯爵夫妻に挨拶をして外へ出ます。


 あいも変わらず雨が降り注ぎ、雷の鳴り響く中……中央広場にあるキャンプファイアーは、雷雨を物ともせずに淡い緑色の炎で燃えています。

 大通りを通り、燃え盛るキャンプファイアーを横目に、東門から出ます。森までの間の平原に武装した異人達が集い、最終確認中。


「姫様! 今日も良い天気だよ!」

「ええ、大地がとても潤う良い天気ですね」


 確かに、植物系であるクレメンティアさんからしたら、雷雨は良い天気か? 多分お天気雨が最高になるんですかね。レアな天候ですけど。


「むぅ……外套にも気を使うべき? 濡れること自体はともかく、張り付くのと重くなるのがいただけない……。氷系の状態異常に弱くなるし……」

「まあ、無いよりはあった方が良いだろうけど、そもそも魔法で対策した方がね」


 妹のぼやきに答えておきます。私の外套はかなり優秀ですが《空間魔法》による【防水結界】があるので、魔法の効果時間中であれば基本的に貫通してくる事はありません。

 冒険者としてRPでの雰囲気を優先するなら外套ですかね。しかし魔法使いのRPなら魔法による対策の方が合っているでしょうし、結局は好きなようにしろとしか言えないんですけど。


「ウェルカム!」

「骨はちょっと……」

「確かに骨なら雨とか気にならなそうですけどね……」


 スケさんは骨の上にローブ1枚ですし、アルフさんはフルプレートの鎧だし、双子も特に気にして無さそうです。


「うちのPTは雨を気にするの私ぐらいですね……」

「……この場合はお姉ちゃんを異端と思うべきか」

「球体になれば私も気にならないんだろうけどね。その場合パリィとかできなくなるからちょっと……」


 人外PTなので人外に基準を合わせると、私が異端といえば異端ですね。

 ただの肉の球体にレイピアを持てと言うのは無理というもの。触手伸ばしてはたき落としていった方が早そうですが、勿論ダメージを食らうので最高に無意味。


「そう言えば、スライムとか狐は人化できるんですかね?」

「期待はされてるけど、今のところは報告なっし」

「高レベルまでお預けですかね。何かの条件かもしれませんけど」


 普通に暮らしている分には覚えないと思うので、恐らく条件付きのレアスキルとか、レアアーツ・魔法に分類される気がするんですよね。Exかもしれませんが、あれ結構曖昧な気がしますし。

 私の場合は化身という少し特殊な設定。人と接するのを前提とされた化身なので、人の姿を持っている化身を生み出しています。深淵の修道女の時点で『聖職者』なので、まあ人でしょう。ワンワン王を聖職者と呼ぶかと言われると、NOだと思います。あえて言うなら崇拝者ですかね。聖職者は人のイメージが強すぎる。


 さて、ユニオンの参加リーダーを集めて蘇生薬配りますか。戦闘になったら確実に必要になる気がしますからね……。

 配るついでにリーダーが集まるので作戦会議……といきたいですが、ぶっちゃけ始まらないと仕様が分からないので、決めようもないという。


「命を大事に」

「助けてほしそうにこちらを見ている」

「ガンガン行こうぜ」

「どこぞのキタキタを思い出す」

「よく分かったな」

「実際は命令させろ一択」

「『それな!』」


 まあ、レベル上げで往復とかしてる時以外はそうですよね。なぜ瀕死の敵にその攻撃をした! ってなるのがお約束です。敵が瀕死で攻撃すれば終わるのに、バフとかデバフを使って無駄にリソース消費したり。ゲームあるあると言って良いのではないでしょうか。


 ……レボリューションごっこしてる集団がいるのは放置しましょうか。演奏までついてて、曲によってちゃんとポージング違うのはさすがに笑う。


「大体あと1時間……そろそろ移動かな?」

「時間が時間ですし、妨害も無くなっていると良いのですが」

「せっかちが向かってるが、まだいるようだぞ?」


 ルゼバラムさん情報ではまだいると。数でごり押すしかありませんかね……。解析で出た【真紅の輪】を考えると、ある程度すれば居なくなると思うのですが。

 クエスト内容がクライマックス用に変わると思うんですけど……とりあえず、残り1時間までは待機しますか。



『狂信者の残党を捕らえろ』

 黒き豊饒の女神、シュブ=ニグラス召喚の儀式が始まろうとしている。

 巻き込まれるのはご免だ、狂信者達の浅はかな野望を打ち倒せ。



「『クエスト変わった!』」

「『クライマックスだぜぇ!』」

「変わりましたね。では行きましょうか」

「『行くかー!』」


 多少マシになった雷雨の中、ぞろぞろと山へ向かいます。雨で何も見えないという状況では無さそうですね。

 ……誰です、ニャル子さんを演奏している人は。


「SAN値ピンチ!」

「なお、これからピンチどころか直葬が約束されている模様」

「祝福されしもの、黒い仔山羊は確定。最悪ニグラスママとご対面」

「や~い! お前の母ちゃんシュブ=ニグラス~!」

「姉ちゃんかもしれんぞ」

「姉なる……」

「そういやあれそうか」


 シュブ=ニグラスは男性バージョンもありますけどね。それを言ったらニャル様も女性バージョンがありますし、まあうん。奴らに性別など些細なもの。この世界ではどうなのでしょうね。元人間というのは私の推測でしかありませんし、人間やめて長いとその辺りぶっ飛んでいそうですからね。


「ふぅむ……せっかち共の反応がないな?」

「物欲に忠実な人達か。公式イベントでそれやるとろくな事にならないと思うんだけどね」


 ルゼバラムさんとセシルさんの会話を聞く限り、先行組の反応が無いんですか。……良いもの見つけたら自慢するでしょうからね。


「急ぐか? 対策されても面倒だぞ」

「んー……多分急ぐ必要はないと思うんだよね……」

「私もその必要はないと思いますね」


 まあ、私の予想では先行組はそれどころじゃないか、既に詰んでるかのどちらかでしょう。このイベント、一応ホラーなんですよ。ホラーで独断専行する人の未来なんて、考えるまでもありません。

 結構容赦ないですからね、ここの運営。


「完全解析状態で残り1時間でクエストが切り替わった。更に解析の段階で儀式が始まって、残党が集まった時に仕掛けるという流れ。そして召喚に適した場所はその一箇所のみ。これらの事から、急いだところでカウントが終わってからでないと、取り逃がしが出て評価が下がりそうですからね」

「そうか、始まってからの方が良いとか出てたな」

「「でもバレたと思ってもう逃げてたりしないー?」」

「イベントと言うメタ的に考えても、数PT程度が先行する分には問題無いかと」


 独占しようとしたり、せっかちさんが出ることは運営も考えているでしょう。1PTでも行ったら終わりはさすがに無理ゲーです。と言うことで、メタ的に考えても急ぐ必要は無いでしょう。


「でも一切の反応がないってのがあれだね。死んだら死んだで騒ぎそうだけど」

「まあ、大体予想は付きますけどね……」

「なになに?」

「【真紅の輪】ですよ、こたつさん」

「あ゛ー……」


 【真紅の輪】の素材が、自分からのこのこやって来たのです。どうなるかなど分かりきった事でしょう。きっと今頃、時間が来るまで床に転がされていますよ。


「血の入手という事だけを考えれば、異人を狙うのはありですね?」

「倒しても復活するからねぇ……調達には良いかもしれないけど」


 出血の状態異常があるので、異人も血が出ますからね……。


 皆で話しながらも土砂降りの中、森を進み続けます。キャンプイベントと違い、落雷は無さそうですね。


「お姉ちゃん、その骨雰囲気ありますね……」

「でしょう? 理想を言えば、私の倍ぐらいの大きさが欲しいところ」


 森の中を肉塊で移動するのはちょっと大変なので、以前作ったボロローブの一号に運ばれています。せっかく作ったので、たまには使いたいですからね。



 少し余裕を持ち儀式の地に到着。

 大人数で突っ込むと始まりそうなので、離れたところに陣取り時間まで待機しつつ偵察です。


「敵の潜水艦を発見!」

「『駄目だ!』」

「日本兵多くて草」

「おいおいおい死んだわあいつら」

「実際ガチで死ぬと思うんですよ」

「まあ抜け駆けしようとした奴らだ、現状は放置でいいだろ」

「……無駄に素材の数が増えたから、地味に辛いスタートになるのか?」

「『余計なことを!』」


 せっかちさん達は捕まって転がされていますか。町から6名しか誘拐できなかったが、異人達が少数でのこのこやって来たのですから、喜んで捕まえますよね。

 しかし夫人が言うには7名でしたが、やっぱり6名しかいないようですね。子供サイズの黒ローブもいませんし、楽しい楽しい異世界一人旅ですか。……片道切符ですけど。


「大体5メートル後半か? でかいな」

「素晴らしい造形だ、まさに仔山羊。とてもキモいが、ショゴスよりマシ」

「ショゴスが悪すぎる」

「しょごたん着る?」

「やめろ。というか交換したのかよあれ……」

「いつか使うかもしれないじゃん」

「倉庫整理できない奴の言動」


 正面の森が少し開けた場所には黒き仔山羊と、シュブ=ニグラスに祝福されしもの。更に黒いローブを着た複数の狂信者。そして足元に転がる住人とせっかちさん。



〈〈儀式が始まろうとしています――〉〉



 空はピカゴロしており土砂降りで、クレメンティアさんが言うにはとても良い天気。……植物系からしたらの話ですけどね!


「うん、雰囲気出てきたね」

「だなー」

「まあ、これから殴り合いでござるけどな」

「悲鳴をあげて逃げ回るなんてそんなそんな」

「雄叫びあげて殴りかかるのが我ら戦闘民族よ」

「大概やべー奴らですね」


 狂信者達がそれぞれ獲物を持って森から帰ってきたようです。もうすぐ時間ですし、集まったのでしょうか。


「さて、片付けの時間だな」

「今こそ、全智を掴む時!」

「画面に映るだけで面白い男はお帰りください」


 雑談しつつ行動開始。なるべく囲むとしましょう。半円形……より具体的に言うと分度器型に囲みます。囲う必要がない方向は山なので、無理ですからね。

 向こう側も動き始めましたね。黒い仔山羊は少し離れて、祝福されしものと狂信者達が儀式のメインでしょうか。



〈〈儀式の難易度を設定中――〉〉

〈〈儀式が始まります――〉〉


グラブルにニャル様が来ましたね……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ニャルさま、ニグラスで思い出すのはケイオスシーカーシリーズだろうか。あれでは二柱とも元人間だったなあ。
「詠唱破棄」ってコレむしろ詠唱省略ですよね? 詠唱破棄だと中断して魔法行使を止めるイメージです。
[一言] 姉なるもの、ニグラスだったのか。初めて知ったわ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ