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100 ハロウィン 2日目

呪! 100話!

スクロールバーは見ない方が良い。

 おはようございます! 今日もいい天……曇りですね? ホラーと言えば……クライマックスは雷雨か。演出としては定番ですが、このゲームで雷雨にされると割と辛いんですけどね。キャンプのように雷が物理的に降ってくる事は無いでしょうけど、雨と風が十分厄介です。視界の問題もありますからね。

 それはそうと、寝ている間の情報を確認しますか。お、項目が増えてますね。とりあえず寝る前に見た二つはっと。


 にゃんこ……新規情報なし。

 カボチャ……も新規情報なし。


 猫はまあ……逃げられてるとして、カボチャが情報無しってどういう事ですかね。カボチャも逃げるとか? カボチャに足が生えて……にしこくんみたいになりますね。カボチャから美脚が……その場合橙色ですか。

 ……この方向に考えるのはやめましょう。


 新情報はっと。


 あれ? なんでこんなところに? ここはどこ?

 気づけば変なところにいて……目的の場所へ行けない!


 おお、ホラーしてますね。ループ系の罠ですか? しかし変なところにいるということは、ループでは無さそうですね。同じ道から出られないならループでしょうけど……これは迷子になる? 幻惑系でしょうか? 迷いの森的な系統。

 問題は原因ですが……境界が不安定という事なので、普通に考えれば空間系ですね。この場合、エリアの仕様という可能性も否定できません。公式イベントですし。

 人為的……住人による仕業。この場合町の人というより、敵役のNPC。この可能性も現状0ではありませんが、理由が不明ですね。その辺りは今考えるだけ無駄か。調べているうちに分かるでしょう。


 さて、活動しますかね。

 お礼を言いつつあと2日はお世話になる事を伝えておきまして、教会から出ます。

 中央のキャンプファイアーはもうしばらく元気そうですね。


 ……住人ばかりですね。プレイヤー組は就寝中でしょうか。ユニオンで起きてる人は……っと。


「おはようございます。起きてる方いますか?」

『おう、起きてるぜ!』

『おはよう姫様!』

「マーカー見た感じプレイヤーが少ないですが、就寝中でしょうか?」

『夜明けとともに仮眠に入ったぞ』

『ホラー系らしいから夜が本番だろうって事でねー』


 寝るタイミングとしては今ですか。私は夜に寝ますけど。そこは譲りませんとも。

 とりあえず私が寝てからあった事を聞きます。情報の共有大事。


『夜専用だろうクエスト、子供の捜索とか篝火の確認とかあったよー』

「やっぱり子供の捜索ありましたか。そんな気はしました」

『あとはー……夕方ぐらいから雨降りそうだって』

「おや、分かるようになったんですか?」

『技能に調べるのがあるらしいけど、精度はいまいちだとか?』

『何かしら補正付くのがあるだろ。風系とか嵐とか』

『種族とかもありそうだよねー』


 なるほど、天気予報系統の魔法が見つかったんですか。技能と言うと手紙を飛ばす魔法、【天を翔けゆけ(コントレール)】と同じ感じでしょうか。

 実は町だと天気予報のような物が貼り出されているのですが、あれの有無は町によるんですよね。分かる人材がその町にいるかどうか……が答えでしょうか。大体大きい町だと分かりますが、この町には無いみたいですね。

 とは言え、あまり気にするプレイヤーはいないという。今のところ天候による難易度の変化がないので、精々外套を装備するかしないかの違い。

 ただし、シュタイナーさんなどの農家組とかは影響あるようで、とても気にするようですね。


『猫ちゃんは背中しか見えないしー』

『カボチャを調べてもただのカボチャらしくてなぁ』


 猫は振り向かないので顔は見れず、背中を追っかけるのみ。篝火だけではなく、プレイヤーの出した光からも逃げるように動き、正面から見た者は誰もいない。

 つまり探し回って見かけた時も、猫は後ろ姿である……と。……とても怪しい。


 動いた気がしたカボチャを調べてもただのカボチャ。動いた気がするカボチャだけでなく、周囲のカボチャも特に発見は無し。


『飛行組も特にこれといった成果は無し』

『つーのが今のところの纏めだな!』

「なるほどなるほど。ありがとうございます。……4日しか無い割には、あまり進展無しですか?」

『4日目は片付けだし、実質今日と明日だよな』

「もう少し何かしらあると思っていたのですが……」

『ホラーだし、3日目とかに一気に来るんじゃない? 今はジワジワタイム』

『その可能性は確かにあるんだが……』

「クトゥルフが無関係ならそれでも良いんですけどね……」

『関係あると何か問題?』

『今のうちに情報を集めて、ラストの問題に抵抗する……ってのがお決まりなんだよな。あのTRPG』

「そうなんですよね。抵抗手段一切無しはもう詰みです」

『つまり、今のうちから調べておかないと、ラストでお手上げ状態になると』

「はい」


 お屋敷とかに閉じ込められて、殺人鬼などから逃げ回りつつ、お屋敷内を漁って情報や抵抗手段を探し回る……ってクローズドタイプはある意味楽なんですけどね。

 今回は参加人数が人数なので、特大サイズのシティイベント。


『おっす。ちょっとリアルの方で本見てきた』

『なんかあったのか?』

『ジャック・オー・ランタンって言うニャルの化身がいる』

『マジかよ……』

『目の飛び出た大口の男か、にやりと笑ったカボチャちょうちんの頭をした男。ニヤニヤ笑いのカボチャちょうちんを持っていて、場合によっては2D10の取り巻きあり』

『今のところ男の目撃情報はないねー』

『ちょうちんの光を見るとPOW抵抗失敗で魅了。森や崖とかに誘導されて殺されるっぽい。魅了の抵抗に勝っても、次にやるジャックとのPOW抵抗に負けると、恐怖でいっぱいになり、仲間とか装備を放置してでも逃げようとするらしい』

「このゲームだとPOWは精神でしょう。状態異常の恐怖とは違いそうですね」

『特殊系貰いそうだなー』

『あと気になったのは、持ってるちょうちん以外のカボチャちょうちんを通じて、見聞きが可能。しかも金切り声とか上げられるらしい。畑にあるカボチャの蔓も操作可能っぽいな』

『畑云々は特に聞いてねぇな』


 今のところ畑では情報無しのようですね。

 猫もカボチャもニャル様だった場合、おちょくられてるだけな気がしますね。奴の性格の悪さは相当です。

 確かハスターとシアエガは掲示板で言いましたが、猫の情報は言って無かったはずですね? 伝えておきますか。隠すような事でもありませんし。


「深淵で猫に会った事あるんですよね……。燃えるような目が三つ程ありましたけど」

『燃えるような目が三つ? ニャルの化身!?』

「猫かと思い近づいたら振り返りまして、ニャルと気づいたら舌打ちされました」

『燃える三眼は闇をさまようものの特徴だったか。光にくっそ弱いあれ』

『【ライト】じゃなくて【ナイトビジョン】なら逃げないのか?』

『いやー? 関係なく逃げてるよー』

「奴だとしたら遊ばれてるだけですね。正面から見ないと分からないので、三眼だった場合気を付けてくださいね」

『あいよー』

『おっけー』


 さて、情報収集を兼ねて朝のお散歩ですかね。何か変化があると良いのですが。



 さすがにあからさまに変化した部分は無さそうですね。境界が云々ということは……規模によって、『町の一部が無くなってるんだけど?』とかあり得るんですかね。住人から聞くのは行き来に関する事だけでしたが。……まあ、実はそれら対策用のキャンプファイアーなのかもしれませんね。

 特に発見も無く、中央広場へ戻ってきてしまいました。


 ……お肉が食べたいですね。ハンバーグでも作りましょうか。

 さて、デミグラスかおろし醤油か……デミグラスは面倒なので、おろし醤油でいいか。

 とりあえずPTの分と、妹、トモ達も考えると……3PT分は作った方が良いですかね。残りは早いもの勝ちということで。

 量作るならお肉は複数種類混ぜましょうか。


 料理キットを出して挽き肉を作り、野菜を切ってタネを作って成形。真ん中は潰さず小麦粉でコーティングしてからフライパンへ。

 箸で押して出てくる肉汁が透明になったら、新しいのとチェンジ。


「「ハンバーグだ!」」

「おや、おはようございます」

「「おっはー!」」


 双子が起きてきましたね。1時間ぐらい変化探しの散歩をしたので、起き始める時間ですか。


「「ご飯無いよー?」」

「おや? 主食がありませんね。パンでも作りましょうか」

「「ハンバーガー!」」


 そうですね。挟むとしましょう。

 問題は……挟むように成形されてないことですが、もう遅い。頑張って食べてもらいましょう。


 焼いたハンバーグは一旦インベントリに避難させまして、パンを焼きましょう。ハンバーグより少し大きくした丸パンですかね。

 2人に大根おろしを作ってもらいましょう。トリンさんが台を持って、アメさんが大根担当のようです。


「「どこまでー?」」

「人数が人数なので、とりあえず全部ですね」

「「はーい」」


 楽しそうに削ってますね。何が楽しいのかよく分かりませんが、まあ良いでしょう。結果として大根おろしができれば問題ありません。ゲーム内だと腕が疲れないのもありますかね?


 大根おろしをイベントで入手した調味料セットで味を調え、パンを横に切って挟みましょう。パンに塗って、ハンバーグ乗せてタレかけて、挟む。


「「パン! 肉! パン!」」


 ふむ……ハンバーグサンドですか。まんまですね。……事実なので、何も言いませんとも。

 そんなことより、早速双子といただきましょう。2人の分は【魔化】しないと食べることができないので、【魔化】してから渡します。

 キットを片付けてから、いただきます。妹達は寝てるでしょうから、メッセージだけ残しておきましょう。


 ……分かってはいましたが、最高に食べづらいですね。そもそも夕食とかに出るナイフで食べるハンバーグを挟んだので、分かっていましたとも。


「「あーっ! はむっ」」


 双子も苦戦していますね。肉汁垂れるんですよ。

 軽く潰して、パンに吸わせてから食べた方が良いですね。双子は吸い付き始めましたけど。


 自分で作ったハンバーグサンドと格闘していると、アルフさんとスケさんが起きてきました。

 やってきたスケさんは無言で両足を揃えて少し屈み、ゆっくりとYの字に広げつつ胸を張りました。

 それを見た近くのプレイヤーも隣で同じ事をしました。


「……なんです?」

「「太陽万歳!」」


 なんか意気投合したのか、ガッチリ握手していますが……今日は、曇りです。


「それで良いのか骨」

「挨拶だからセーフ!」


 とりあえずご飯を渡しておきます。なんか混じった人にもあげましょう。ハンバーグサンドを持って去っていきました。


「うほ、肉」

「このバーガー、野菜が微塵も無いが?」

「ちゃんとハンバーグに使いましたよ?」

「んんー……まあいいか」


 ハンバーグのタネに野菜入ってますからね。ええ、0ではありませんとも。


「うめ、うめ」

「そう言えばハンバーグ久々に食べるな」

「大体ステーキに負ける」

「だな」


 家で作らないなら外食になりますが、大体ハンバーグがある場所はステーキもあるので、ステーキの誘惑に負ける……と。

 食事の不要な不死者組でハンバーグサンドをモグモグ。


「ん? 組合ランクC以上で『領主の引っ越し手伝い』募集されてるってさ」

「祭り中にか?」

「必要な物でも出たついでじゃね? C以上に加え、『この依頼中に盗みを働かない』とステルーラ様に誓える者……だってさ」

「『盗みを働かない』じゃダメなのか?」

「ステルーラ様への誓いはかなり拘束というか、力が強いので、できる限り限定するんですよ。『盗みを働かない』だと生涯になりますね」

「「それでも困らなくないー?」」

「この誓いは、判断するのが本人達ではないというのがポイントです」


 これ、実はとても大事な事です。


「例えば、アメさんとトリンさんの関係……つまり双子でも良いでしょう。2人は学校でのクラスが違うとします」

「「うん」」

「アメさんの物……辞書を、アメさんが移動教室で不在の時、トリンさんが無断で自分の教室に持ち込んだ場合、誓いはどうなると思いますか?」

「「ダメなの?」」

「はい。ダメです」

「なるほど。判断するのは本人達ではない……ね」

「本人達の関係を配慮せず、行動だけ見ると確かに盗みかー」


 この場合、断罪に来た外なるものを説得できれば見逃してもらえます。今回の例の場合は、2人の関係を証明すれば良い。ただし、この説得の難易度は個体差があり、断罪に来た個体によっては問答無用な場合もある。


「基本的に、誓いは破ると割りに合わない罰が来るので、気軽に使われませんね」

「領主からの依頼だけあって報酬は良いらしいし、真っ当な人なら美味しい依頼のようだねー」

「祭りは明日もあるわけだし、報酬を使ってもらえれば万々歳ってか?」

「領主側からしたらその発想もありかねー」


 PTメンバーと朝ごはんを食べながら話していると、朝の8時を過ぎ異人達が起き始め、ちらほら活動を開始したようですね。プレイヤーマークが多くなってきました。


「さて、今日はどうしましょうか」

「今のところ猫とカボチャ、迷子ぐらいか?」

「かねー。旧領主の館で更に何かあるか……ぐらいじゃね? 依頼受ければ堂々と探索できるし」


 まだ荷物がありますから、普段は見張りがいるようですからね。依頼を受ければ堂々と探索できるでしょう。

 ……ん?


「旧領主の館にメインとなる情報は無い気がしますね……」

「「なんでー?」」

「鯖による難易度の差はないと言っていましたが、メインに選ばれたイベントで多少変わるらしい。しかし領主の荷物運びは組合C以上が必要……これは護衛などと同じ理由でしょう」

「現状で組合C以上は精々2陣ぐらい……か?」

「組合C以上の理由から、鯖によってそこの条件が変わるとは思えませんし、『メインの情報は絶対に無い』ということになりません?」

「「なるほどー」」

「ふぅむ。ある意味難易度の緩和にも繋がるわけか。余計なものが見つからないわけだし? 小ネタが見つけられないとも言えるが」

「霊体系なら侵入は楽ですが……」

「リスク考えると微妙かなー」


 不法侵入ですからね。レッドになるリスク考えると微妙です。


「町は案外無さそうだし、外を探索するかい?」

「人手が欲しそうなのは南の廃坑っぽいなー」

「廃坑の探索ですか。迷路状態なら人手が必要になりますが……マップは?」

「ダンジョン仕様っぽいねー。だからある程度の人数で行く予定っぽい」

「実際に見ないと分からないタイプですか」


 ダンジョンのミニマップは仕様が違いますからね。複数PTで別々の道を行きつつ、マップデータを統合していった方が確実ですか。

 普通のダンジョン攻略とかなら仲間内だけで共有とかが普通なのですが、公式イベントは最終的に一纏めにされるので、共有した方が得です。


 それはそうと、廃坑の探索ですか。私としてはどちらでも良いですね。加速された時間を利用して生産上げても良いですし、廃坑行って戦闘スキル上げても良いんですよね。


『姫様、ちょっと旧領主の館来れる? 見て欲しいのあるんだけど』

「旧領主の館ですか。依頼受けてなくても行けるんですかね」

『姫様なら問題は無いでしょ。よろしく!』

「分かりました。……セシルさんに呼ばれたので、とりあえず古い方の領主の館へ行きましょう」

「「あいよー」」

「「分かったー!」」


 町の南西にある古い方の領主の館へ向かいます。

 私に聞くということは宗教系か、冥府や深淵関係ですかね? 現場監督的にメイドさんとかがいると思いますが、そちらに聞かないということは後者でしょうか。



〈〈情報が共有されました〉〉



 保管場所に置いておいたキャンプファイアー用の木材の数が合わない。


「木材ねぇ……」

「『木材の採取』と『木材紛失の調査』が発生したっぽい」

「伐採した直後の木材って、燃やすには微妙だったはずですよね?」

「そう言われればそうだけど、ゲーム仕様かな」

「そういや、生木が云々は聞かないねー?」

「まあ、俺ら《伐採》系統持ってないからな。プリムラちゃん辺りが頑張るべ」


 やるとすれば調査ですが、まずは予定通り館に向かいましょう。


 館の正面でセシルさんが待っていますね。その隣にはメイドさん。


「お待たせしました」

「やあ、姫様。悪いね。物凄く気になるのがあってさ」

「そちらの方は領主の?」

「そう。今回の責任者みたいな人」


 セシルさんと話し始めてからずっと頭を下げていますね。セシルさんから伝えられましたか。責任者を任せられる程度には領主から信用されているわけですから、領主の評価を下げるような真似はしませんか。


「名は?」

「ルアナと申します」

「ではルアナ。依頼は受けていませんが問題ありませんか?」

「問題などあろうはずがございません。領主様にご報告する義務がございますので、それだけご了承頂けると」

「勿論構いませんよ。それではお邪魔しますね」


 セシルさんに付いていき中へ入ります。


「まあ、既に見えるあれなんだけどね」


 セシルさんが指さすのは、開け放たれている正面玄関に入る前から見える、大きな古時計。


「「大きなのっぽの古時計?」」

「随分と立派ですね?」

「めっちゃ豪華だなー」

「2メートル余裕で超えてるな?」


 真っ直ぐ近づき、チェックします。


「と……けい?」

「これ本当に時計?」

「「針が4本あるよー?」」

「形も不自然だよね。普通床に置く方を大きくすると思うんだけど」


 高さは2メートルを余裕で超え、横幅が最大で1メートルちょっと。セシルさんの言うように形が少し不自然で、棺の中でも吸血鬼の眠る棺のイメージですね。つまり長方形ではありません。日本では地震を考えるとまず置けない形をしています。

 更に双子の言うように針が4本。長針短針秒針とか言う感じではない。

 華麗な彫刻がほどこされていて、見た目は豪華です。

 ……これ、素材なんですかね?


「不思議でしょ?」

「《鑑定》は?」

「したんだけど、はっきりしないんだよね」

「では私も《鑑定》してみましょうか。いいですか?」

「そっと触れるだけでお願いします」

「分かりました」


古い置物

 何代も前からここに鎮座されているとても古い置物。

 ただ『不用意に触れてはいけない』とだけ、代々伝えられている。

 異人達からすれば時計に見えるが、針が4本ある時計は見たことがない。


「この針、時間に全然合ってないし、振り子なんかも付いてないねー」

「時計じゃないぞ?……という情報しか出ませんね。しかもこれはアイテム系の表示じゃない……」

「そうなんだよねー。姫様でも不明?」


 これだけではさっぱりですが、もしクトゥルフ系……つまり深淵関係ならば。


「『お?』」

「古き鍵の書が反応したということは……確定ですかね」


 腰にぶら下げていた栞が浮かび上がり、自動的に開いていくページが止まると、見開かれた本の上に情報が表示されました。


時の時計

 乗客を他の時間、場所、そして次元に運ぶことができる輸送装置である。

 適切な方法を知れば、時計の前部を開いて内部に入り、利用する事ができる。

 適切で無かった場合、ランダムな時間、または場所、あるいはその両方へ運ばれるだろう。その場合、帰る手段が無い可能性もある。

 また、機能に関する適切な知識なしで手を出す事は致命的である。もしも誤作動した場合、魔術的な『門』を内部に作り出す可能性も否定できないからだ。

 なお、これはフレーバーアイテムであり、イベントマップからの持ち出しはできないし、機能も使えない。つまり、見つけてくれてありがとう。


「なんだった?」

「何かと聞かれると……開発のお茶目?」

「『は?』」

「……SS出しますね」


 SSに撮って……共有っと。


「これは……つまりハズレだな?」

「ヤバいもんなのは分かった」

「この時計、いずれ運ぶんですよね?」

「はい。既に置き場は決まっておりますが、不用意に触れるなと言われている物のため、どう運んだものかと……」


 イベントマップなので、今回のイベントが終われば閉じるでしょうから、今後は気にしないで放置でも良いのですが……はて、どうしたものか。

 んー……どうせなら良いことしておきますか。


「これは私が運びましょうか。問題は……インベに入るんですかね?」

「入りはするだろうけど、所有者を考えると怪しくないかな?」

「窃盗判定を受けるのは種族的にも避けたいですね。正式な所有者である領主に空間収納で運ぶ許可を貰うのが確実ですか。許可を貰って来て貰えますか?」

「はい。すぐに」


 まあ、ルアナさんが聞きに行くわけではありませんけどね。責任者が不在になるわけにもいきませんし。つまり別の使用人……ルアナさんの同僚辺りを捕まえてその人がダッシュするわけで。悩みのタネが一つ消えるので許して。


『お姉ちゃんご飯!』

「今は旧領主の館」

『ういー』


 そんなこんなしている間にも、他のプレイヤー達は進行中。

 スケさんによると廃坑組がジワジワと展開。掲示板に上げられていくマップデータで、色の付いてない分かれ道を進むPTが随時募集されているようで。多分順調と言っていいのでしょう。


 『木材の採取』は北の森で《伐採》して運ぶようですね。ジワジワ進行中。

 『木材紛失の調査』がメインクエストな気がします。聞き込みされた情報がチリンチリン追加されていくので、これが始まりなのでは?


「お姉ちゃーん!」


 ああ、来ましたか。トモ達もいるようですね。

 一度メインフロアから出まして、入り口でハンバーグサンドを渡します。


「うわお……肉!」

「野菜が微塵もないが?」

「俺は一向に構わん!」

「お肉食べたくて作って、主食がないからパンで挟んだだけだからね。あ、先に潰してパンに吸わせないと死ぬから」

「溢れ出る肉汁……」


 そう言えば、セシルさんにもあげましょう。


「お姉ちゃん今何してるの?」

「領主の引っ越し手伝い。今のところ発見はあれぐらいかな」


 指を指すのは勿論あの時計。扉が開け放たれているので見えますからね。そしてSSも見せます。


「うわぁ……これ銀の鍵レベルの、一つしか無いやつだったよね……」

「アイテム内容的に実装は無理だったんだな」


 家具には既に立像というポータルがありますからね。出番がないでしょう。


「調査が情報共有来るけど、これメイン?」

「多分ねー」

「むむむ……廃坑も行ってみたいんだけどなー」

「『お?』」


 調査を進めていた結果、廃坑に怪しい人物が出入りしている痕跡を見つけた。ここからは人を集め、確実に調査していこう。


 これが廃坑に繋がる……と。


「スケさん、廃坑組の進捗はどうですか?」

「順調だねぇ。何箇所か行けてない分岐があるけど」


 聞き込みしてた人達がそのまま廃坑に回るでしょうから、それでどうなるか。


「クライマックス……には早いですよね?」

「早いだろうね。やるなら3日目だと思うし」

「となると、廃坑で資料。その資料から情報の入手。クライマックスですか」

「多分ね。問題はこのイベント、順調に行くと盛り上がりにかける事かな?」

「クトゥルフ系のシナリオっぽいので、盛り上がられても困るんですけどね……」

「俺らはSクリアで経験値が目標さ。盛り上がりは他の鯖に期待するとしよう」


 セシルさんの言うように、Sクリア……つまり理想的な終了をした場合、盛り上がりにはかけるでしょうね。クトゥルフ系の場合、『何も起きない』が最善なので。

 神話生物は基本的にぶっ飛んだ奴らなので、遭遇した時点で詰んでるんですよ。基本的には『阻止』または『逃走』が目的になるのですが、最初のうちに情報収集を怠ると……『適切な対処法』が分からないため、詰みです。

 これはどんなのでしょうね。『召喚の阻止』か『遭遇からの退散』か『遭遇からの逃走』か。

 このゲームはファンタジーなので、『遭遇からの討伐』もありと言いたいですが、このゲームの神話生物は軒並みカンストしているので、現段階では不可能でしょう。

 いや、不完全の召喚により弱体化して来る場合もありますか……。まあ、進めていかないとどうなるか分かりませんね。



〈〈情報が共有されました〉〉



「『廃坑か?』」


 東の森の奥の方で、見たことないような『何か』を見たらしい。

 さて、なんだろうか?


「東……だと……?」

「『何か』ってことは神話生物系? となると後かな」

「もう神話生物がいるならお姉ちゃんが話しに行った方が早くない?」

「迷い込んだならそれで良さそうだけど、契約で来てたら無理かな」


 我々(召喚者達)の命と引き換えに、国を蹂躙しろ……とかの場合ですね。勿論召喚者の命に惹かれているわけではなく、久方ぶりの地上が魅力的なだけでしょうけど。


「それはそうと、トモ。この町図書館みたいなのあった?」

「……いや? 無かったはずだな」

「はて、どこで調べるんですかね」

「そうか。廃坑組が手に入れた情報をどこで調べるかは問題だな」

「書斎と図書室があるってよ?」


 掲示板で旧領主の館の探索情報が出ているようですね。


「貴族の館だし、まああるか」

「外なるもの関係はそれなりに貴重な資料でしょうから、ここか引越し先の館、または教会……辺りでしょうか?」

「ちゃんと管理されているならそうなるかな?」


 ちゃんと管理されている事を祈りましょう。

 使用人が戻ってきましたか。青年と護衛が増えていますね。


「お待たせいたしました」

「伯爵家の者ですね?」

「フォーセル家長子、ステン・フォーセルと申します。お姿を拝見でき、至極光栄でございます」


 私が来た以上、さすがに使用人ではダメだということでしょうか。長子ということは何かしらの問題がない限り次期伯爵か。何かしらの問題がある者をわざわざ私の前には出さないでしょうけど。


「運んで良いのですね?」

「はい。よろしくお願いします」

「では早々に済ませましょう」


 時の時計の元へ向かうとしましょう。

 ステン伯爵子息は好青年ですね。まあ創作の貴族は大体家柄・見た目・能力のどれかで結婚するので、言わずもがなですけど。


 ステン伯爵子息同伴の元、時計をインベントリへしまいます。


「運んできますが、スケさん達はどうしますか?」

「ん~……僕達も行こうか」

「行くか」


 では不死者組でゾロゾロと向かいましょう。南西から北東へ。

 妹やセシルさん達はここで一旦お別れです。


 領主の子がいて道を譲ってくれるので、とても移動が楽ですね。正直私だけなら亜空間移動で済むんですけど、特殊すぎますからね……。

 新しくなったお屋敷で、夫人率いる使用人ズがお出迎え。服装で判断できるのは良い事です。


「母上です。名はマルグレット」


 マルグレット・フォーセル伯爵夫人ですか。

 軽く挨拶だけ済ませますよ。入り口にズラッと並ぶのは壮観ですが邪魔なので、さっさと動いてもらい時計を置きます。


「完全に置物として扱う事を推奨しますよ。ところで、当主はどうしました?」

「当主は現在会議中でして……」

「行方不明者ですか?」

「行方不明者と東の森の謎の影、それと不審者に木材の盗難でしょうか」

「問題山積みですね……」

「頭の痛いことです……。しかし異人の皆さんが協力してくれているようで、とても感謝しております」


 せっかくなので夫人から情報を貰いましょうか。お茶を貰いつつ情報収集。


 それによれば、行方不明者やカボチャは珍しいものではない。この町では割とある事で騒ぐほどではない。『家から出るな』と言っても、お調子者の1人や2人がいなくなったりする事はどうしてもあるとか。そして発見は絶望的である……とも。

 問題としているのは、今回行方不明者が多い事。基本的に地元だからこそ、『帰ってこれない』という事実を知っている。探しても見つかる可能性が低い事を知っているにも拘らず、多いために不審がっている。


 行方不明者を探すため東の森を担当した住人から、普段行かない奥の方で『何かの影』を見たとか。人影ではなく、何かの影というのがポイントなのでしょうね。


 不審者と木材は調査中であり、主に異人達が担当しているようで、夫人としては特に情報は持たない。これはイベント用UIに表示されている内容でしょうから、私達の方が詳しいでしょうね。

 木材の調達も会議前に聞いた感じでは問題無さそうだと。


 領主としての優先事項は

1.行方不明者の捜索

2.木材の確保

3.不審者の調査と木材盗難の調査

 の方針である……と。


「姫様、使用人がお昼はどうするかってよ?」

「そんな時間ですか。そうですね……私達はこのままお茶だけ貰いましょうか。ああ、軽いクッキーでも焼いてもらえるとこの子達が喜びますね。【魔化】はこちらでするので」

「言われた通りになさい」

「はい」


 伯爵家としては『お客』が来たらお茶は確実に出しますし、時間によっては食事も出すのが普通の行動でしょう。

 問題は我々が普通のお客ではなく、外なるもの、鎧、骨、霊体……ですからね。そりゃ使用人も困る。文化どころか種族が違いすぎて、本人達に聞くしか無い状態。

 憶測で動いて地雷踏むより、さっさと本人に聞くのが正解でしょうね。


 おもてなしされながらのんびりしつつ、情報を纏めていると当主がやってきました。当主も夫人も見た目は若いですが、長子の年齢を考えると40から50でしょうか。私の親も見た目詐欺してますからね、騙されませんよ……と言いたいですが、このゲーム不老の人がいるのでなんとも。

 当主が来たことで話すメインが夫人から、当主のクルト・フォーセルへ。彼から最新の情報を貰いましょうか。一緒にいれば報告として最新の情報が入ってくるわけで、領主から貰う……と言って良いのか分かりませんが。

 勿論こちらの異人側の情報も与えます。こちらはリアルタイムですよ。廃坑組は拠点らしき場所を見つけたらしく、廃坑組を集めてから不審者達と戦闘に入ったようですし。



〈〈情報が共有されました〉〉



「廃坑の制圧が終わったっぽい」

「さて、なにがあるでしょうか」

「これから物色するってさ」


 不審者の調査をしていたら廃坑に繋がり、いざ廃坑を探索するとやたら生活感のあるスペースがあったと。そして見た目がローブ姿であり、怪しさ満点。どう考えても鉱夫ではない。冒険者達(異人)が怪しい奴らを張り倒してこれからガサ入れ。


 チリンチリンと連続して情報が更新されていきます。


 一つの資料らしきものが見つかった。

 何やら見慣れない読めない文字で沢山書かれている。一番上のメモ書きのように書かれている文字は分かる。

 それには『To Summon Our Ladies of Sorrow』と書かれている。


「英語だわ。姫様分かる?」

「「サモンは分かる!」」

「……これ嘆きの聖母たちでは?」

「あれ召喚しようとしてんの?」

「悲しみや嘆きのSorrowと女性の複数系ですから、嘆きの聖母たち以外に知りませんね」



〈〈情報が共有されました〉〉



 一つの資料らしきものが見つかった。

 何やら見慣れない読めない文字で沢山書かれている。一番上のメモ書きのように書かれている文字は分かる。

 それには『To Summon Shub-Niggurath』と書かれている。


「「おい。よくばりセットかよ」」

「そう言えばミスリードがあるとか言ってましたね。こういうことですか。どっちを調べたものか」



〈〈情報が共有されました〉〉



 旧領主の館で何やら数式を見つけた。貴族はこんなのも解けるのだろうか? 我々の世界でも、これが解ける者は多くない気がするが……さて、解けるだろうか?

 クルーシュチャ方程式。


「「方程式……?」」

「お屋敷なのでおまけだとは思うのですが……クルト伯爵、クルーシュチャ方程式はご存知ですか?」

「クルーシュチャ……? ああ、あの難解な! あれは解かずに保存だけしておけと言われていますね。まああれが解けるものなどそういないと思いますが」


 まさか普通に計算させるわけではないでしょうけど、どういう仕様なんですかね。


クルーシュチャ方程式

 『この画面を見ている間』または『この画面を開いて座っている間』解析が進む。

 解く速度は知力、他精神や装備の影響を受ける。


 なるほど。クルーシュチャ方程式のUIを開いていれば、後はステータスと装備依存で解析が進むと。

 見ていれば体勢は関係なく、座っていれば別のことをしていても良い……ですね。


「解いてもニャルが来るだけだから解くなってよ?」

「この数式が化身ですか?」

「お前がニャルになるんだよ! って化身らしい」

「ろくなもんじゃありませんね」

「進み具合からして、滞在中の期間じゃ無理っぽいけどね」


 純魔レベルのステータスが無いと解析すら許されないようですね。私はやめておきます。古き鍵の書が暴発したら堪りませんし、ニャルは放置で。



〈〈情報が共有されました〉〉



廃坑の拠点制圧と確認が完了した。

 捕まえた者達は喋りそうに無いが、反応からして仲間がまだいるようだ。

 手に入れた資料を調べ、彼らの仲間を探し出そう。

 とりあえず捕まえた奴らは町へ連れて行き、後はプロに任せよう。


『フェイズが動いたようでござるな。どう動くでござるか?』

『対策調べつつ残党探すしか無いんじゃない?』

『いや、資料を考えると残党は召喚しようとしてる可能性が高いから、調べていけば場所が分かるはずだ』

『ああ、そっか』


 人数が増える番号の大きい鯖なら、人数に物言わせる人海戦術でも良いでしょうが……我々の鯖ではちょっと現実的ではありませんね。


「私達のユニオンは資料関係からですね。東に行くことになるとは思うのですが」

『東と南が話に出てきて南が終わった。となると後は、なにかの影云々の東かー』

「エルツさんいますか?」

『おう、なんだ?』

「木材確保のクエストが北の森のようですが、何かありました?」

『いや? 護衛も付いててくれてるが、特に問題は聞かないな。普通の森』

「西はただの平原ですから、やっぱり東でしょうか」

『影、気になるでござるな。偵察必要でござるか?』

『そうだな、数PTぐらいは偵察に送るか? 戦闘組はそうした方が喜ぶだろ』


 ユニオンの各PTリーダーと話した結果……今回はシティ系ということで、町中で情報の出ない北と西は探索領域から除外。南も廃坑で終わりと考え、再び町に戻り情報収集、後に東へ向かう。

 より具体的には、不審者輸送の数PT以外はそのままマップを埋めながら帰還。今町にいる人や輸送のため戻ってきた一部が、東の森の偵察に参加。

 勿論うちのユニオンのメンバーは……ですけどね。うちの行動方針はスケさんが掲示板に流すので、見ている人達はそれも考えつつ動くでしょう。


「私達は不審者達の持っていた資料の調査ですね」


不審者達が持っていた資料だけでは全く分からないという事が分かった。

解読のために別の資料が必要だ。解読に役立ちそうな資料を探せ。

 To Summon Shub-Niggurath

  不審者のメモ

  千匹の仔を孕みし森の黒山羊

  黒き豊穣の女神

 To Summon Our Ladies of Sorrow

  不審者のメモ

  涙の聖母

  嘆息の聖母

  闇の聖母


 イベントのUIを見る限り、このタイトルの付いた資料がある……ということですかね。


 とりあえず当主に説明をして情報を共有しておきましょう。資料は協力してもらった方が確実に早いでしょうからね。


「……ふむ。なるほど」

「我々は資料を調べるので、不審者達から情報を得るのはお任せしますよ」

「承知いたしました」

「そこで、昔の……具体的に言うと外なるものに関係する資料はありますか?」

「外なるものと断言はできかねますが、書斎にかなり古いのがあったはずですね」

「他の場所に心当たりはありますか?」

「……あるとすれば教会でしょうか」


 領主の館の書斎と教会ですか。

 教会の時点で私の担当が決まりましたね。ということで、他の人に領主の館の書斎を調べてもらいましょうか。

 ユニオンに言って、近くのPTにでも来てもらいましょう。


「では我々が教会へ行くので、別の異人が来たらよろしくお願いしますね」

「勿論です。町のために動いてくれている異人達に感謝を」

「勝手に動いてるだけですよ」

「結果的にこちらが助かり、感謝しているだけです。それで良いのですよ」


 そういうものですか。動機ではなく結果を求める。領主としてはまあ、当然か。


「結構長居してしまいましたね。……お二人、食べ過ぎでは?」

「「美味しい!」」

「ははは。それだけ食べてもらえれば料理人も喜ぶでしょう。なあ?」

「はい。こういった場合はいつも残るのが常ですから、おかわりが入って喜んでおりました」


 待機していた使用人によると、料理人は喜んでいるらしいですね。

 貴族となると夫人主体のお茶会ですかね。それだとあまり食べるわけではないのでしょう。双子は気にせずぱくついてますが、【魔化】かけるの私なんですよね。


 さて、結構長居した領主の館を後にします。おやつの時間ですが、情報が出る前に十分のんびりしたので良いでしょう。

 教会へ向かうためお屋敷を出ると、熊がいました。


「いよう姫様」

「ルゼバラムさんのPTが来ましたか。資料に心当たりがあるようなので、伯爵に案内して貰ってください。我々は予定通り教会へ行ってきます」

「了解だ」


 フォーセル伯爵一家に挨拶してお暇。

 そしてこんにちは教会。


「ごきげんよう、ビショップ・ベリエス」

「これはネメセイア様。いかがなさいました?」

「少々調べたいものがありまして、教会に必要な資料がないかと思いまして」


 ビショップ・ベリエスに今の状況を説明しておきましょう。


「なるほど。町で目撃されていた不審者達が持っていた資料の調査ですか。しかも外なるもの関係となると古書ですね……ふむ」


 鍵を持ってくるから案内しておけと言われたシスターについていきます。


 教会の隅っこに図書室というか、資料室というか……子供達用の絵本や聖職者の趣味用の本などが纏められた部屋があるようですね。

 その部屋の更に奥に、鍵のかけられた扉がありました。目的地はそこのようです。


「この先は扱いの難しい本や、かなり古い本を保存したりしているらしいです」


 立場やらの理由で詳しくは聞いていないのでしょう。物によっては知らない方が良いものもありますからね……。

 少しすると鍵を持ったビショップ・ベリエスがやってきたので、シスターは入れ代わり。


「えーっと確か古いのがこっちで……確かこの辺りが読めなかったような……」


 あまり来るところではないのでしょう。まあ読めもしない物をわざわざ見に来ませんか。来ても管理作業であって、読みに来ているわけでも無いわけですからね。


「どうやら記憶に間違いは無かったようですね。あるとすればこの辺りかと」

「感謝しますよ、ビショップ・ベリエス。では探してみるとしますか」


 鍵を私に預けて仕事に戻るビショップ・ベリエスを見送りまして、PTで本棚を漁りますよ。読めない本棚は私が。古い本棚は他の4人で。


 特にスキルも発動していませんし……無いですね?



〈〈情報が共有されました〉〉



「お、見つけたわー」

「何があったよ」

「『黒き豊穣の女神』……うっへ、パス」


 パラパラめくったスケさんから薄い本を受け取ります。


「……ん? 文字化けしていますね」

「あれ? 姫様もダメ?」


 アイテム情報は?


黒き豊穣の女神

 黒き豊穣の女神について纏められた本。

 ……中は誤訳などもあり、解読に時間がかかりそうだ。


「ニグラス関係の部分だけを訳してコピーした物ですか。問題は完全な写本ではなく、訳した方ということですね。これから原文を推測しろと……?」

「魔導書の他言語版的な物かー。なお、誤訳あり」

「そういう扱いなのでしょうね。なお、ありどころか満載」

「「どうするのー?」」


 これから原文の推測は時間の無駄でしょう。なら……?


「不審者達がどういったルールで翻訳してたのか……が、分かれば良いですね」

「『不審者達のメモ』がキーかなー」

「全部揃わないとダメなのでしょうね。不審者達がメモした翻訳ルールを洗い出し、これらを原文に戻す必要が……いや、原文にする必要はありませんか」

「原文にすれば姫様読めるでしょ?」

「読めますが……彼らが読めていないので、意味がないのでは?」

「む……? あー……こっちの目的は不審者達の残党の確保であり、外なるものの正確な情報じゃない。逆にすれ違う可能性も……いやでも、召喚だよ?」

「原文を読んで情報を得ても、向こうはそもそも読めていないので、お互いの情報一致はかなり怪しいですが……召喚に適した場が、複数あるとは考えにくい?」

「「条件が合ってないなら不発ー?」」

「……盛り上がりに欠けるってレベルじゃないわー。放っといても無事じゃん。イベント的に無いでしょー」

「無いですね。原文にできるならするべきですか」



〈〈情報が共有されました〉〉



「領主の館で見つけたようだな?」

「『嘆息の聖母』はマーテル・ススピリオルムですね」

「あ、あったわ。『涙の聖母』」

「マーテル・ラクリマルムですね。後はマーテル・テネブラルムですが」


 スケさんと話してる間にも探していたアルフさんが見つけましたね。


 しばらく探していると、『千匹の仔を孕みし森の黒山羊』が領主の館で発見されました。これはシュブ=ニグラスです。

 しかしその後はさっぱり見つからず。


「無いがー?」

「「無いー」」

「もう教会には無いのか? 領主の館でも2個だったな」

「こちらにもありませんね……」

「つっても、他にどっかあるか?」

「……普通に考えて、領主の書斎や教会のこんなところに不審者達のメモがあるわけないですよね。廃坑だけでなく、町にも拠点があるのでは?」

「「それもそうか」」

「「侵入した癖に忘れ物ー」」


 双子の言うように相当な間抜けになりますね。こんなところに苦労して侵入した癖にメモを忘れるとか、本ごと持ち去らないとか。


「となると空き家を無断使用かー?」

「案外引っ越して来ましたって堂々としてる可能性。でも実は無断とか」

「ちょっとユニオンの方で心当たりないか聞いてみましょうか。木材調査の途中で聞いたりしてませんかね」

「「うい」」

「「ういー」」


 ということで、ユニオンチャンネルで聞き込み。


『ああ、あったわ』

『あったな。でもあれ入れなかったよな?』

『今うちのPTで向かってる最中だわ。もうちょっと待って』

『領主になんか鍵持って無かったか聞くなり、不動産行ってみるのもあり?』

『それなら領主だな。この町での最高権力者頼った方が早かろ?』

『着いたけど、扱い変わってるな? 入れそうだぞー鍵かかってっけど。あ、扉壊せそうだな?』

『まあ待て、領主隣にいるから』

『ういー』


 町にも拠点があるようですね。これで残りが見つかれば解析が始まるでしょう。


「廃坑の探索も終わったようだねー」

「木材の紛失は彼らの仕業ですか。ただ、数が合わないようですね?」

「みたいだな。まさか廃坑で焚き火をするわけないし、町の方の拠点に隠してあるのか?」

「可能性はあるだろうけどー……んー……? 使いもしない廃坑に運んだ理由はなんだー?」

「いえ、もしかすると……」


 町の拠点にいるユニオンの人に木材があるか聞くと、無いそうです。


「町の拠点に木材は無い……ということは、町から盗み出し廃坑に運び、そこからさらに別の場所に運んだ後?」

「「召喚場所か!?」」

「他には思いつきませんね。おや、資料が見つかりましたか」



〈〈情報が共有されました〉〉



 全ての資料が集まった。

 狂信的とも言える彼らが何をしようとしているのか、確認しよう。

 シュブ=ニグラスか嘆きの聖母たちか選び、開いたUIを見ているか、座った状態で開いておこう。

 進行度はサーバーで共有され、解析速度はプレイヤーの知力と精神に依存する。

 全ての資料が集まっているので、解析速度ボーナスが最大。

※資料のあった場所にいる必要はなく、資料を持ち出す必要もないので、好きな場所で進めよう。


「なるほど、では片付けて出ますか」

『姫様、一旦集まろうか。このままクライマックス入ると思うんだ。座ってUI開いておけば他のことしてても良いようだから、作戦会議でもしよう』

「場所はどうしますか?」

『結構な人数いるからね……いっそ西の平原にしようか』


 ではセシルさんの言うように、一度集まるとしましょうか。

 PTリーダー全体に通達しまして、片付けたら鍵をかけて撤退。ビショップ・ベリエスに挨拶して鍵を渡し、西へ向かいましょう。



 もう結構いますね。

 そして寛げるように椅子やらござっぽい物、ただの木の板などが敷かれています。


「お姉ちゃんこっちこっちー」


 中央ぐらいにフレンドが集まっているようですね。

 妹が飛び込んできたので抱きとめます。


「やあ、中々進みが遅いよ」

「後は解析待ちですかね?」

「とりあえずできることはやった感あるから、恐らく?」


 セシルさん、スリスリしている妹はいつもの事なので気にしないでください。


「これで手に入る情報は召喚場所と、神話生物に対する対処法ですかね?」

「そう考えるのが妥当だろうね。ただこのゲームは剣と魔法のアクションだから、その辺りでTRPGとは確実に差が出るね」

「どちらも確実にレベルカンストなので、何かしらギミックがあると思うんですよね。退散の呪文があるとして、体力を減らすって条件あるでしょうし?」

「相手の体力を減らしてからアイテムとかを使うのは基本だよねー」


 妹が離れたので、公園などにあるような背もたれの無い、木の長椅子に座ります。多分プリムラさんが作ったものでしょう。


「さて、どちらを解析しましょうかね……」

「座ってからも貼り付く妹ちゃんを華麗にスルー……さすが姉か……」

「いつもの事ですからね。リーナどっちやってる?」

「ニグラスー」


 んー……まあ、どうせどっちもやるんでしょうからどっちでも良いか。ニグラスにしましょう。


「作戦会議とは言っても、情報はこれから出るわけだから、作戦の決めようがないんだけどねー」

「まあハロウィンチケットで欲しいのは交換してるだろうし、良いのではござらんか? のんびり解析進めるでござるよ」

「雑談と洒落込もうぜ!」

「雨降りそうな件について」

「それな。もうすぐ降りそうだが、結局どうなん?」


 天気予報、結局どうなんでしょうね。そもそも仕様を知らないので、何も言えません。


「夕方から雨確定。明日は雷雨になるようだが、時間がまだ不明とか」

「その魔法?は、どういう仕様なんです?」

「13時とか14時とか1時間毎の天気を調べるものらしいね」

「おや、調べスキーさんじゃないですか。それ14時半とかは?」

「やあやあ。分かるのは丁度の時間だけだとさ。そして調べる時間が先になるほど、精度が怪しくなっていくとか」

「補正云々はまだ不明ですか?」

「まだだねー。取得方法は《大気魔法》か《嵐魔法》の30以上だってさ」

「風系統ですか。私には無縁ですね……」

「種族的に取れないんだっけか。かなりのペナルティよね」

「その分光と闇が強いのでまあ……といった感じです」


 やはり私は覚えられませんか。まあ、種族的に天気の影響はあまり受けないので、良いと言えば良いのですが……。


「しかし雨か。狩りの経験値もなんともいえんし、大人しく解析進めろって事か」

「Sクリア狙った方が経験値美味しいでござるからなー」

「それな」

「雨なら今のうちに寝る場所用意するか」

「穴掘ろうぜ」

「やめろ」

「キャンプで学んだ」

「水没したやつな」

「『あれは酷かった』」


 面白かったですけどね、キャンプイベント。今なら私だけの場合、亜空間に避難すれば済むんですけど。


「そういや、猫とカボチャは?」

「『さあ……?』」

「終わった後に運営からネタバラシあんのかね?」

「この運営なら聞けば答えてくれんじゃね」

「『確かにな』」

「この状況メインはニグラスか聖母だろ? そう考えると確実にサブなんだが、タイミング的にあるとすれば今晩かね」

「かもな。クルー……何だっけ? 方程式は誰かチャレンジした?」

「クルーシュチャ方程式だな。あれ鯖共通じゃなくて個人だからむっり」

「やっても死ぬだけだろうしな」

「姫様やろうぜ?」

「ここでやっていいですか?」

「巻き添えよくない」

「被害は最小限にして死ぬべき」

「姫が死んでる時点で被害甚大だと思うんですよ」

「慌てるな、致命傷だ」

「今更慌てたところでもう遅いと」


 クルーシュチャ方程式。TRPGの方では方程式を解くとニャルになる。知識を植えられるとかではなく、『ニャルになる』なようですからね。


「SAN値飛んで、知力と教養がニャルの数値になるんだったかな。知識が貰える……とかなら何かしらのスキルわんちゃん?になるんだが……うん」

「SAN値飛んでる時点で個が死んでるので、恐らく即死判定ですよね。奴から逃げられるとは思えませんし」

「無理だろうな。わんちゃんあるのが同類になる姫様ぐらいだと思ってる」

「多分舌打ちして帰りますよ」

「それはそれで草。見てみたいわ」

「周りに俺らいると絶対こっちに来るだろうけどな……」

「『ほんそれ』」

「奴が何もしないで帰るとは思えんからな」


 深淵の者達は基本的に暇してるでしょうからね……。


「クトゥルフ系詳しくないんだが、ニャルってなんなん?」

「ニャルラトホテプ、ナイアルラトホテップなど言われる存在ですね」

「ほう?」

「ニャル子の元って言った方が通じる可能性。このゲームは原作寄りなので、当然あんな可愛くないが」

「ああ、あれか」

「簡単に言ってしまえば、トップレベルの強さを持つ癖に、人に知識を与えて狂わせて遊ぶのが大好きな傍迷惑な存在です」

「這い寄る混沌や無貌の神とも言われるな。千の異なる化身はそれぞれに性格が違い、同時に存在が可能。お互いがバトルする事もある……らしい」

「彼はぶっちぎりで頭が良く、自分以外の全てを蔑んでいると言えますね」

「碌なもんじゃない厄介な奴というのは分かった」

「それだけ分かってれば十分だ」


 完璧に理解できたら間違いなく同類でしょうからね。



〈〈情報が共有されました〉〉



不審者達の資料の解析が進んだ

 姿を見せておらず何もしない神々より、遥か昔から姿が目撃されている神話的存在……外なるものを召喚しようとしている。

 何もしない神より、目撃されている外なるものに祈りを捧げよう。支配者は圧倒的な強者であるべきであり、頂点に君臨して貰いたい。

 ……と、盲信している。


「さて、その祈りは誰がためのものか……。彼らを王にでもするつもりと? 正気とは思えませんね。第一強さと政治能力はイコールでは無いでしょうよ」

「まあ、うん……狂信者ってこんなもんだよね」

「全員深淵にでも放り込んであげましょうか。喜びのあまり咽び泣く事でしょう。彼らもおも……久々の客人に喜んでくれそうですし」

「今玩具って言ったかな?」

「はて、気のせいでは?」

「お姉ちゃんこれ、キャラ的に大丈夫?」

「んー……ダメかも? これを知って放置するのはちょっと問題かな? 割と本気で深淵送りにするべきか……」

「どこが引っかかるんだい?」

「いやもう……根本的に? 今まで接してきての推測ですが……」


 これ、ステルーラファミリーとしては喧嘩売られてますよね。

 外なるものは基本的に神々の信仰者。特にこのゲームでのクトゥルフ系はステルーラ様にお世話になっている。

 TRPG側ではステルーラ様の元であろうヨグ=ソトースと、ティンダロス系統は敵対関係ですが、知っての通りそんな事もなく。ティンダロスの大君主、ミゼーアは世話焼きさん。


 遥か昔の時代に副神ステルーラ様の信仰者が『進化した結果』、クトゥルフ系統への進化を遂げた。クトゥルフ系統に進化したのは、ステルーラ様の元ネタが副王ヨグ=ソトースだからでしょう。

 進化前の種族が人間かは分かりませんが、人ではなくなった者達のために深淵という異界を用意し、彼らを移した。人間は他種族に厳しいですからね。元々が人だった者となれば、尚更不気味がるでしょうし。

 この場合、元々信仰していた神に深淵という居場所を与えられ、他にも自分と同じ境遇の同胞と会わせてくれた。

 個人からすれば神々直々の救いになると思うんですよね。だからこそ彼らは感謝していて、あのニャルラトテップすら見下す事もなく従っている。


「つまり、彼らが全て遥か昔に私のような進化をした個体……というわけですね」

「生まれからああではなく……って事?」

「そもそも『外なるもの』って言葉通りの意味の不老不死である、輪廻から外れた者達を指すからね。私を含めたクトゥルフ系統は、『外なるもののステルーラファミリー』というのが正解」

「ファミリー……」

「《識別》すると分かるんだけど、私達って科の部分が信仰対象なんだよね」

「科……ああ! 英語だとファミリーか」

「これが私ので、えっと……これがワンワン王の」

「へー……ほんとだ。ステルーラファミリーだ。ミゼーアが下級は詐欺でしょ」

「それは思うけど、種族的にはティンダロスの王だからね。ティンダロスの王という種族の中で、トップだから大君主と呼ばれている」


 この推測が合っていた場合、完全に逆鱗に触れるので、今回の主犯である狂信者達に召喚されると暴れるでしょう。召喚者だけを殺して満足するか怪しいです。


「これだと召喚させて自滅して帰ってもらうという、ある意味楽な手が使えないんですよね。結局召喚阻止をするしかありませんか。嘆きの聖母たちなら案外説得できそうですけど、ニグラスはまだ会ったこと無いので謎ですね……」

「嘆きの聖母たちって、見た目は人間3人だからまだワンチャンありそうだけど、ニグラスは……無理じゃない?」

「狂信者数十人程度じゃサイズ的にもあれでしょう……」



〈〈情報が共有されました〉〉



狂信者達の資料の解析が進んだ(シュブ=ニグラス)

 シュブ=ニグラスには黒い仔山羊という奉仕種族が存在する。

 黒い仔山羊はシュブ=ニグラスへ贈り物をし、シュブ=ニグラスに祝福されしものに作り変える。


「んあ~……進むごとに情報が小出しにされていくタイプか」

「つまり途中で最低限の情報は揃う可能性があるな?」

「上げれば上げるだけ最後が楽になるタイプだろうな」

「不審者から狂信者に変わってるの草」

「マジだ」

「ニグラスな以上黒い仔山羊はまあいるだろうとは思ったが、シュブ=ニグラスに祝福されしものだと?」

「贈り物(意味深)……見たくねぇ……」

「中途半端に人の形残ってるのが一番あれなんだよなぁ……」

「祝福されしものは確か外見ランダムだったな? 全年齢である以上、ほぼ人か原型無いかのどっちかじゃね?」

「このゲームがそこのところ優しいとでも?」

「ん゛ん゛~……望み薄か」

「だろうよ」


 まあ、ショゴスがあの様ですからね。耐性ないとフィルター無しは無理でしょう。



 予告通り夕方頃に雨が降り始めたので、いつも二の腕辺りから後ろに回している外套で全体を包みます。

 外套ではなく【防水結界】などでも良いのですが、まあ……使ってあげないと。


 解析は順調といえるのですが……嘆きの聖母たちの情報が出ない?


「嘆きの聖母たちの方が更新されなくね?」

「とりあえず50の区切りでどうなるかだな。情報共有頻度からして、この鯖は恐らくニグラスルートと思って良さそうだが」

「だな。聖母たちとニグラスでだいぶ貰えてる情報量が違うわ。確定か?」

「とりあえずキャンプファイアー組んできたわ」

「おう、おつかれ」


 忘れてはいけないキャンプファイアー。勝手に住人が組むっぽいですけど、Sを目指すならやっといた方が良いだろうということで、魔法型じゃないユニオンメンバーが運搬と組み立てに参加。

 終わったので再び解析に参加ですね。



〈〈情報が共有されました〉〉



狂信者達の資料の解析が進んだ(シュブ=ニグラス)

 召喚に適した場所が判明した。

 ハワードの町周辺では、東の森の奥にある山を探してみよう。

 召喚時間の予想は3日目の18時頃と思われる。

 万が一のため、更に調べて彼らに対する対策を探そう。

 これから先は解析に時間がかかりそうだ。



〈〈召喚に適した時間帯の情報を入手しました〉〉

〈〈クライマックスフェイズ開始までのカウントダウンを開始します〉〉



「『うおおおおおお!』」

「これ、ニグラスの資料解析が50%行くのが遅いと、このカウントダウン余裕無かった可能性が高いな?」

「そうな。これ解析間に合わなかったらどうなるんだ? いきなり召喚されるのか、ギリギリでカウントが表示されるのか……」

「東からニグラス来て防衛戦になるの? 無理じゃね」

「SAN値が無いから無事に逃げるだけは可能だろうが、町が壊れてクエスト的には失敗やろな。とても嬉しくない」



〈〈情報が共有されました〉〉



狂信者達の資料の解析が進んだ(嘆きの聖母たち)

 必要な情報が無いように思える。

 狂信者達が召喚しようとしているのは、嘆きの聖母たちではなさそうだ。

※この資料はここまでです。別の資料を解析しましょう。


「あ、聖母たちの解析ができなくなった」

「結局3人いることと名前しか出てないやん」

「心置き無くニグラスの解析ができるな!」


 問題は、ニグラスの解析スピードが目に見えて落ちた事ですかね。まあ、全員がこっちの解析に移るのを前提とした速度なのでしょうけど。

 最低限の情報は出たので後は対処法を探すわけですが、早めにこの段階に持ってこないと、この解析スピードで十分な情報が手に入らないのでしょう。

 逆に言えばこの解析を進めれば進めただけ、クライマックスが楽になるわけです。


「……解散しようか。雨も強くなってきたし、夜の見回りはどうしようか」

「解析を進めるべきですが、見回りしないのもあれですよね?」

「できれば見回りもしたいところだね」

「魔法型は解析、脳筋組は見回りが安定じゃね」

「木材の保管所に見張りも置いてみたいですね」

「ああ、残党対策な。保管所に空き家、坑道入口に見張りか」

「良いね。見張り組は座って雑談してれば解析にも回せるか。無理に捕まえる必要もないし。空き家と坑道は入り口が限られるから2PTもいれば十分そうだね」

「空も置ければなお良いですね」


 多少夜の配置相談をしていると雨も土砂降りとまでは行きませんが、パラパラ降りからレベルアップ。


「クレメンティアさんは元気ですね」

「植物でござるからなぁ……」

「エクレーシーの放電がヤバい」

「ウハハハ!」

「くんなぁ!」


 フェアエレンさんはエフェクトが雷のバチバチですが、雨で少々激しくなっていますね……影響あるの初めて知りました。水に浸かったらどうなるんでしょうね。


「レボリューションごっこするのはまだ早くないか?」

「どうせ明日の召喚時間少し前から雷雨だろ?」

「リハーサルリハーサル」

「そうか。確認は大事だよな」

「キャンプの時はガチ過ぎてそれどころじゃなかったしな」

「だが終わりだ。見回り行くぞ」

「うーい」


 今回も召喚阻止でそれどころじゃない気もしますけどね。早いうちに雷雨になれば、まあ余裕はありますか。


「さて、移動しますか」

「行くかー」


 今回は珍しく私とスケさん、トリンさんが教会で解析。アルフさんとアメさんが町の見回りに。


「そう言えば、昨晩は何かありましたか?」

「いや、俺らは全然」

「姫様が寝たから【ライト】が消えて、プレイヤー驚かせたぐらいだねぇ」

「そうだな。しかもこいつビビった相手に向かって走り出したからな」

「楽しかったデス!」


 なんてことを……ご愁傷様です。学校の怪談みたいになりますね……。

 教会の前でお別れ。行ってらっしゃい。解析組は座って引き続き雑談。錬金なら座りながらできるので、作りましょうかね。雨降ってると外ではできないんですよね。雨入るので。


「姫様今《錬金術》いくつなん?」

「カンスト目前なので、そろそろ3次にならないかな……と。蘇生薬は作成難易度が結構高いレシピなので、経験値美味しいんですよね」

「僕全然上げてないからなー。死霊側で微妙に上がってくけど」

「【暗黒儀式】が《錬金術》にも経験値入りますね」

「だよねー。僕はポーションも使えんし、武器も《木工》側だから《錬金》が結構空気。もう原木のままプリムラちゃんのところ持ってった方が早い」

「私も鉱石のまま持ち込みますね……必要素材を考えるとなんとも。木の場合はできる木材が減りましたっけね」

「1個多いの地味に痛いよねー」

「痛いですね……しかしやらないと上がりませんし……蘇生薬は良い感じです。トリンさん生産は?」

「全然やってないー。ポーションも使えないし、装備も特殊なのしかできない!」

「そう言えば、まだ霊体用の装備の開発はされていませんか?」

「まだだね。料理の【魔化】で料理は食べれるけど、装備はまだできない。多分特殊な素材がいるんじゃないかなぁ……」

「霊体は体に同化しないと話になりませんか」

「《霊体化》使用時に装備をその場に落とすことになるからねー」


 霊体系はレベル30から《半霊体》に加えて、《霊体化》と《実体化》を覚えるんですよね。

 《霊体化》は物理干渉ができなくなるけど《物理完全無効》を入手。普通に目では見ることもできない。デメリットとして魔法軽減が等倍になり、特殊な装備以外強制的に外れる。光や聖属性に関しては変化無し。

 《実体化》は肉体系ステータスが上がり、大体の装備が使用可能になる。物理軽減効果が無くなり等倍になる。同じく光や聖属性に関しては変化無し。



〈《錬金術》がレベル60になりました。スキルポイントを『2』入手〉

〈《錬金術》が成長上限に到達したので《錬金術師》が解放されました〉



「む、上がりましたか。3次を取りましょう」

「お、良いねー」



〈『称号:錬成師』が『称号:三級錬金術師』へ強化されました〉

〈『称号:三級錬金術師』が『称号:二級錬金術師』へ強化されました〉

〈『称号:二級錬金術師』が『称号:一級錬金術師』へ強化されました〉

〈『称号:一級錬金術師』が『称号:特級錬金術師』へ強化されました〉



《錬金術師》

 【森羅万象】

  必要素材数が他の生産スキルと同等になる。

[特級錬金術師]

 錬金術を使用して品質S級を生産した、ベテランに与えられる称号。

 錬金術使用時、消費MPの軽減。錬金術使用時、生産難易度低下。錬金術使用時、品質ボーナス。


「おー……必要素材が他と同等に……。3次まで持ってきて漸くですか」

「お、やっぱ同等にはできるのかー。となると、一応全てのデメリットは消せるのか……とは言っても僕は使わんしなー……」

「私も使わないー」

「金策には案外良いですよ? 料理でジャーキーでも作った方が楽ですけど」

「ジャーキー金策ヤバいらしいねー。まあ戦闘しない料理人は食材でお金なくなるらしいけど」

「私はメイン食材は自分で取れますから、お金はそんな掛からないんですよね。魚介系になると買わないとですが、生産は《料理》より《錬金》に本腰入れたいところです」

「《料理》は超えたらしいけど、《錬金》は姫様以上がいるんかね? 《錬金》による素材屋がワンチャンありそうだけど、結構な苦行だからなー」

「現状弟子入りしないとCまでしか作れませんからね……あの制限をなんとかできないものか。一応改良版錬成陣を師匠に渡したので、それ次第でしょうか?」

「そんな事してたのね」

「《古代神語学》とエイボンを使用した錬成陣改造ですね。……そう言えば旧き鍵の書になったので、更に改良ができるんでしょうか……? 今見ますか、暇だし」


 んー……【魔力錬成陣】が改良できそうですね……。師匠に渡したやつコピー取っておくべきでしたか。イベントが終わったら向こうの確認しに師匠のところ行きますかね……。

 寝るまで【魔力錬成陣】の改良でもしましょう。


「かっこいい!」

「ロマンあるねー」


 空中に展開した錬成陣の改良ですから、とてもロマンありますね。デコピンで吹き飛ばし、別の文字を魔力で入力の繰り返しです。



 ……【魔力錬成陣】の改良にとても苦戦しています。


「むぅ……? なんか変ですね」

「順調じゃ無さそうだねー?」

「エイボンで改良してた途中ですが、なんか根本から違う……というか、なんか別物に魔改造できそうな感じがヒシヒシと……」

「ほほう? 是非やろう。やるべき」

「ん~……一応複製しておきましょうか」

「まあ、姫様寝る時間だけどねー」

「おや……そんな時間ですか。寝ますかね……」

「おやすみ!」

「私も寝るー」


 昨日と同じ部屋でおやすみなさい。


 やあ、みんな。更新が遅くなってすまないね。祝! 100話!

 ところで、『over E』や『HEART CLOSET』というお店を知っているかな? そう、胸が大きな女性用のお店なんだ。

 どういう事かというとね……胸の部分を立体的にすることで、胸の下のラインを美しく見せたり、Yシャツで胸元が開くのを防げるんだ。

 つまり何が言いたいかというとだね……。


あ、3巻が発売しています。よろしくね。

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― 新着の感想 ―
書籍版読んで気付いたけど料理スキルを持って無さそうな双子が料理を手伝ってるな 爆発はしないだろうけど品質めっちゃ下がってそう
このシナリオ、クトゥルフ神話TRPGなら最後にSAN値残るのかな? くらいヤベえシナリオだよね。もう、前書きで呪われているくらいだから、間違いないよ。
[一言] >知識を植えられるとかではなく、『ニャルになる』なようですからね。 つまり……『ニャルようにニャルさ!』…と?(; ・`д・´)ゴクリ >第一強さと政治能力はイコールでは無いでしょうよ 類…
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