06:町並み
鑑定とか持ってたら、ここですかさず鑑定して相手の強さが分かるのにな、とか思いながらセバスチャンを見る。
初老の域に達しているくらいか、戦士としては既に盛りを過ぎている。
襟元から見える首の太さは、標準。初老としては太いほうか、手はそれほどゴツゴツしていない。逆に指先が器用そうに見える。飛来する金貨を取った身のこなしと、この立ち姿。そしてかすかに感じ取れる魔力。
「失礼ですが、お客様は魔術師とお見受けしましたが」
思考を中断する。むこうも同じ事を考えていたようだ。
「ん? 最初来た時、見たままだ」
ローランの宮廷魔術師縁の者と言外に含ませる。
「先程説明しましたように、スキルの迷宮はソロ専用です」
「ああ、心配してくれるのか?」
後衛職の魔術師はソロの戦闘に向いていない。
しかもボス部屋はよーいスタートで戦闘が開始する。
魔術師などは呪文を唱えてる間にバッサリ斬り殺されるのが関の山。
右手を前に掲げ、人差し指を一本立てる。
ポッ! とコブシ大の火の玉が出現する。
「!!!」
絶句するセバスチャン。解るのか。
これは火球の魔法。発動すれば今いるこのフロアが火で包まれる。
人差し指を立てたまま、中指と親指をパチンッと弾くと火球が消滅する。
緊張を解くセバスチャン。さすがに笑顔が引きつっている。
「ファイアボールの呪文を詠唱破棄ですか。宮廷魔術師というのは恐ろしい方達ですね」
やはり、魔法にも詳しいのだな。
「もしかしたら短縮詠唱がお出来になるのかと思っておりましたが、まさか詠唱破棄とは、しかも初期レベルの呪文でなく高レベル呪文を...」
「あんたは、弓使いだろ? しかもマジックアローも撃てるんじゃないか?」
「!!!」
ふふ、驚いてる驚いてる。
「…………鑑定スキルをお持ちですか?」
おっと、そうなってしまうか。鑑定スキル持ちなどと勘違いされるのは好ましくないな。
「鑑定スキル持ちをローラン王国が一人で王都の外に出すわけが無いだろう」
「確かに、その通りです」
「あんたの指、タコとまでいってないが皮が厚くなっている場所。弓使い特有の手だ」
知り合いに弓使いが居る。もっと綺麗な手だが同じような感じだった。
「……」
自分の手をマジマジと見つめるセバスチャン。
「マジックアローは。俺は魔法の専門家だ、魔力の有無を見れば解る」
弓を使える魔術師という可能性もあったが、さっきのセバスチャンの言葉。詠唱破棄まで理解していたが発動直前の火球を消滅させた事まで理解が及んでいなかった。
発動している魔法の破棄。並みの技量で出来るものではない。しかしこれを理解できるのは魔法の知識の深い者のみ。よって魔法も使える弓使いと判断した。
「……御見逸れいたしました」
御見逸れさせてしまった。すこし調子に乗りすぎたか。
「この町特有のルールみたいなものがあるなら教えてくれ」
「はい...」
ん? 気配察知に反応がある。誰か部屋を出て階段を降りてくるようだ。顔を合わせるのも面倒だし切り上げるか。
地図を畳み、ローブにしまう振りをしてアイテムボックスにしまう。
怪訝な顔をしていたセバスチャンも気付く。おっと、まさかセバスチャンも気配察知スキルを持っていたとは、しかも俺よりレベルが低かったため俺が先に気配察知で気付いたのを気付かれてしまったようだ。なんという失態。
「では、出かけてくる」
「行ってらっしゃいませ」
一流の笑顔に見送られる。
「おい! 酒がきれたぞ。それと新しいメイドを遣せ。今のは飽きた」
「かしこまりました。代わりのメイドにお酒を運ばせます」
「うむ、頼むぞ。ところで誰か居たのか?」
「いえ、誰も」
「そうか、急げよ!」
「はい」
夜の街を歩く。
あのまま残ってたら何かイベント起きてたかな?
まさか、貴族の令嬢との運命的な出会いがあったとか!?
いやいや、貴族って時点でクソだよな。うん、華麗にスルーで正解だぜ!
さすがに冒険者でにぎわう町だ。夜も騒がしい。
隠密を発動し闇から闇へと夜の町を見て回る。