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51:あばよ

がつがつがつがつ!


「なあ」


がつがつがつがつ!


「俺さ、ちょっとほかの町に行こうと思ってんだわ」


むぐむぐむぐむぐ!

口一杯に肉を頬張りむぐむぐしながらこちらを見る。


「ばいばい」

「おぃ! すぐ帰ってくるから!」


むぐむぐむぐむぐ!


「でさ、やっぱ隷属関係が心配なわけよ」

「ごっくん!」

「聞いてる?」

「隷属の呪いに対抗できる呪いをかけろと?」

「そそ」

「わかってるのか? そのような呪い、そう日も持たずに暴走するぞ?」

「そんなに日はかけないで帰ってくるつもりだから」

「帰ってこなくていいのだ!」

「絶対帰ってくるから!」

「だが断る!」

「俺も断る!」




我の呪いは目に映るものを皆殺しにするぞ...


ああ、わかっている。


戻ってきても我には解けないぞ...


ちょ、まて!




ムラマサブレードの呪いに反応し、黒の呪いが発動する。


紅く輝いていたムラマサが、漆黒に染まり。


紅く染まりつつあった思考が、黒く染まる。


コロス。


目を開く。


コロス。


俺が立っている。


コロス。


ドガンッ!

足元で、大爆発を起こし真正面へと超加速する。

一瞬で俺に肉薄し、一瞬で爆発により爆ぜた肉と骨が再生する。


右手の童子切で斬りつける。空蝉が一つ剥がれる。


左手のムラマサで斬りつける。空蝉が一つ剥がれる。


一刀流の俺が反応し、反撃に移る。

疾風!

童子切で受け、ムラマサで斬りつける。


疾風...乱舞!

疾風は納刀が条件だ。両手が塞がっている俺は納刀が出来ない。

無数の疾風が四方八方から俺に襲いかかってくる。


全てを童子切とムラマサで受ける。


受ける。受ける。

受ける。斬! 空蝉が一つ剥がれる。

受ける。受ける。

受ける。斬! 空蝉を一つ剥がす。

受ける。受ける。

斬! 空蝉を一つ剥がす。

斬! 空蝉が一つ剥がれる。

斬! 斬! 斬! 斬!

その肉を斬る感覚に呪いが暴走する!

斬る!斬る!

呪いの暴走がピークに達し、限界以上の力が勝手に引き出される。

斬る!斬る!斬る!斬る!斬る!斬る!

斬る!斬る!斬る!斬る!斬る!斬る!

斬る!斬る!斬る!斬る!斬る!斬る!

斬る!斬る!斬る!斬る!斬る!斬る!


俺の全てを斬る。


…………………………

………………

……


パリンッ!


ムラマサが粉々に砕け散る音で気がつく。


意識が飛んでいたようだ。天井が見える。


体が動かない。筋や腱が切れているようだ、骨も折れている。

洒落にならない状態だ、普通ならまともな生活が出来なくなる損傷だ。


「ヒール!」


骨、腱と順にヒールで治していく。そう、光魔法で治せないものは無いのだ、凄いぜ光魔法。


そういえば、ムラマサは砕け散ったか。もしかしたら呪いが上書きされて通常武器になるかと期待していたのだが。


やはり呪いは怖い。どっちの呪いも意識を持っていかれてしまった。呪いを強めるために一定時間で切れるようにしてもらったからいいが、永続だったら俺終了だ。



上体を起こす。

扉は閉まったままだ。

コピーの俺は、どこにもいない。

その代わりに、豪奢な宝箱が一つ。


「うし」

立ち上がり、宝箱へと向かう。


罠は、掛かっていない。

「開けるか」

欲しいものを思い浮かべて開ければいいのかな?


いや、まて。

えっと、開けていいんだよな?

これで、目的のスキルじゃなかったら、俺もうコピーに勝てる自信ないぞ。

隷属の呪い対策用に掛けてもらった呪いも、コレクションとして取っておいたムラマサブレードの呪い対策として使ってしまった。

もう俺に、呪いは一切掛かっていないし、ムラマサももう無い。


つまりもう、開ける以外の選択肢無いんだよな...


…………宝箱を開ける。


おっと、目の前にスキルの一覧が表示された。

よしよし、いいぞ。剣術から始まって、俺も知っている通常スキルが羅列されている。


慎重にスクロールしていく。間違って要らないスキルを選択でもしてしまったら目も当てられない。


うむふむ、こんなスキルもあるんだな。

「お、錬金スキルだ。これもいいよなあ」

エルフ族しか持ってないと噂されるスキル。世界にある魔道具屋の店主は皆エルフ族という話しだ。

「お、精霊魔法って、これ召喚系の魔法じゃねーの? 通常スキルにあるのか、やっぱこれもエルフ族が持ってるのかねえ、もしか、ドワーフ族とかもいたりするのかね」

興味深いスキルが並んでいる。

「ほんとに色々あるんだな、これだけあるとやっぱスキル強奪は危険視されるよなあ」

勇者魔法とかあるのかな? ライデインとか。


このスキルの羅列だけでも貴重な情報だ。目的のスキルを見つけたが、そのままスクロールし全てのスキルに目を通すことに...


「あ、なんか、ああ、ヤバイ、消える!」


オーノー!

急げ急げ、確かこの辺、えっとえっと、あーあーあー!


ギャー!!!







フジワラは空間魔法スキルを手に入れた!


ゲットだぜ、いえい!


空間魔法は、部屋のロックや、鍵の掛かった宝箱のアンロック、それにスキルレベルを上げないと使えないが、設定地点への転移が可能になる。

スキルレベル5で最大四箇所設定可能だ。超便利魔法だよな。寝る時部屋にロックの魔法を掛ければ、誰も侵入する事が出来なくなり安心して寝れるんだぜ。


取り合えず、転移を使えるようにしてローラン王都に転移先設定すれば、どこに行っても一瞬で帰れるって寸法だ。

いろんなスキルがあってちょっと目移りしたけど、やっぱこれだよな。旅のお供の必需品。っと、目的も果したし。



「う、うん...!」

ファムとその供二人を生き返らせる。

「よう、起きたらさっさと出ようぜ」

ファムが部屋を見回す...


輝く脱出用転移魔法陣と閉まったままの扉...


ボスを倒したら、脱出用転移魔法陣が現れ、扉が開くはず...


……………………

…………


「――!!! まさか、フジワラ迷宮を攻略したの!?」

「ああ、当然だろ」

「え、あれ!? ユウキは?」

「殺した。アイツが望んだので、そのまま迷宮に吸収させた」

「……本当に?」

「ああ、アイツは...もう居ない奴の事はいいだろ、とっとと帰ろうぜ」

「待ってよ! フジワラは何を手に入れたの?」

「は? 言うわけ無いだろ、てか、俺が攻略した事誰にも言うなよな」

「……わかったよ」


嘘付け、ま、どうでもいいがな。


「わざわざ生き返らせてやったんだ、恩に着ろよな」

「お金で解決したいんだけど」

「受けとらねー、てか、もうこの町に用無いから何かしようとしたらほんとに皆殺しにするぞ」

「……何もしないよ、最下層に潜れる冒険者はユウキのせいでほとんどいなくなったし、もうフジワラをどうこう出来る戦力はボク達にはないからね」


「そっか、じゃあ帰るぞ」

転移魔法陣に乗る。わずかな浮遊感の後、景色が変わる。


そこには、セザールのオッサンとゴルジフ卿を先頭に、凄い数の冒険者がいた。


おーう、注目されてる。なんでバレた?

「なんかあったのか?」

オッサンに聞く。

「フジワラ、お前スキルの迷宮を攻略したな」

「え、しらないよ」

「嘘をつくな、今この町で迷宮を攻略できるものはお前くらいしか思い浮かばん、しかも、迷宮が攻略された後にお前が出てきた」

「え、迷宮攻略ってなにそれ、おいしいの?」

「とぼけるな! 迷宮は攻略された時、一定時間各層のボスも含めた魔物がポップしなくなる、まさかお前知らなかったのか?」

マジかよ、しらねーよ、それじゃあバレバレじゃねーか!

「あ、そういえば、魔物出なくなったなーっておもった、うん、じゃ、俺はこれで」

「マテマテーイ、逃がさんぞ!」

転移魔法陣がひかりファム達が出てくる。

「あ、攻略したのあいつ等じゃね?」

「なに!?」


ファムに目で合図する。蘇生した礼を今返せ!


「おぬし等が迷宮を攻略したのか?」

「フジワラだよ」


………………は?


「オィィ! テメー、ザケンナ。何サラッとバラしてんのぉぉ!?」

「フジワラ、こんな状況で誤魔化しようが無いよ」

「ザケンナ! バーカバーカ! 煙幕!」


忍法、煙幕だ!

フロアが煙に包まれる。


隠密発動! 逃げるぜ!


フジワラは逃走に成功した!!!






バラの宿:

「お帰りなさいませ、フジワラ様」

ホッと落ち着く笑顔が出迎えてくれる。

「ただいま、セバスチャン」

これでセバスチャンの笑顔も見納めだな。


「俺、明日チェックアウトするからよろしくね」

「はい、かしこまりました。では、余分な宿代を精算します」

「あ、いいよ。チップとして俺の世話をしてくれたメイドさんとセバスチャンに三分の一づつで、残りの三分の一をシェフとかに渡しておいて」

「かしこまりました。ありがとうございます」

バラの宿は、良い宿だったな。うん。


「今日はもう誰が来ても取り次がないでね」

「はい」

「じゃあね、セバスチャン」

「はい、ありがとうございました」

さすが、わかってるね、セバスチャン。




マルガリータ邸:

ファムの報告を聞くマルガリータ。

「……そうかい、勇者様は別のキチガイだったというわけかい」

「うん、もうボクは勇者関係はコリゴリだよ、フジワラも怖いし」

「そうさね、勇者を上手く使いこなせれば巨万の富を得られると言うが、ほとんどが使いこなせず自滅するといわれてるからねえ」

「あんなヤツラ、制御出来る訳無いよ!」

「フリーで生き残ってる時点で制御不能ってことかね、仕方ないね」

「ボクはしばらくゆっくりさせてもらうからね」

「好きにおし、今回は手飼の冒険者も失ってしまったし、大損害さね」

ファムを見送り、煙管(きせる)をふかす。


漂う紫煙を遠い目で見つめるマルガリータ。




タリエリの館:

衛兵達が(あわただ)しく走り回る。

「装備は?」

「対魔法戦用を準備しろ」

「人数は?」

「中隊規模だ」

「町中で百人以上を運用するんですか!?」

「脅しだ。迷宮を攻略したといっても、さすがにこの人数を相手に出来るわけ無いだろう?」

「そういうことですか、わかりました」

「タリエリ様の命で拘束状が発行されている」

「時間は?」

「明日の朝、人が少ない時を狙う」


フジワラ包囲網が着々と敷かれていく。




冒険者ギルド:

セザールが鼻息荒く戻ってくる。

「お帰りなさいギルド長。どうでした?」

「ムフー! セバスチャンの奴に追い返されたわい!」

バラの宿に、フジワラさんを訪ねに行って追い返されたらしい。

「ゴルジフ卿はどうした?」

「先程帰りましたよ」

「なんじゃと、奴はフジワラのことなどどうでもいいのか?」

「あ、さっきフジワラさん来ましたよ」

「は?」

「ゴルジフ卿と何か話して帰りました。これフジワラさんからのお土産です」

「は?」


ロザリーから、欲しいといっていた酒を渡される。酒の包みに何か挟まっている。


もっとしっかりしろよな、オッサン。楽しかったぜ、あばよ!


「……これが別れの挨拶か、最後までフザケタ奴だ」

寂しくなるな...酒を持ってギルド長室へ歩き出す。





翌朝:

武装した衛兵に取り囲まれるバラの宿。


屈強な男に守られ、受付カウンターにやってくる町長タリエリ。

それを完璧な笑顔で出迎えるセバスチャン。

「タリエリ様、どのようなご用件でしょうか?」

「セバスチャン、フジワラを呼んでくれ」

「フジワラ様はもういらっしゃいませんが、」

「今朝まで滞在していると聞いている」

「はい、今朝までの宿代は頂いておりますが、フジワラ様は昨日夜半、当宿の用意した馬で町を出て行かれましたが」

「は?」

「はい、既に隣町を過ぎた頃かと」

「は?」





街道:

「アンロック!」

「アンロック!」

「アンロック!」

「アンロック!」

「アンロック!」

意味も無く馬上からアンロックを連発するフジワラ。

「スキルレベルあがんねーな、ちゃんと効果のある使い方しないとダメなのかな?」

MP回復1も手に入ったことだし、無駄にMP余らせるならと空間魔法のスキル上げをしたみたんだが、スキルレベルが上がり辛いのか、この方法が効果無いのかがわからない。


王都に戻ったら、空間魔法の先輩に色々聞こっかな!


にやにやしながら馬を走らせるフジワラ。


「いえーい! アンロック、アンロックアンロック、アンロック............」



彼はスキル強奪改を手に入れた事で世界の敵になったことを忘れてしまったのだろうか?


完。

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