50:魔物
抜刀し、飛燕を撃つ。
疾風で、打ち消す。
歩きながら納刀する。
疾風は居合い技、抜刀から納刀までが一連の動作。
俺が、俺に向かってゆっくりと歩き出す。
じり、じり、と間合いが詰まる。
魔法、忍術、刀術、後は手裏剣による投術。
選択肢は色々ある、しかし、最速は居合い技の疾風。
もう少しでその間合いに入る。そうなれば選択肢が無くなる。
疾風の間合いならば、魔法、忍術、手裏剣、何をするにもその動作の一瞬の間に疾風が間に合う。
何かを仕掛けるなら今だが、既に一足飛びで間合いに入れる距離まで近付いた今、それさえも賭けになる。
俺も俺みたいに思考しているのだろうか?
間合いに入る。疾風!
ガキンッ!
互いの刃が打ち合う。
乱舞!
キンッ!
カカカカカカカカカカッ!キンッ!
無数の火花が飛び散る。
踏み込んだ足の下で火魔法の爆発を発生させる。後ろに飛び退くための爆裂歩法。
斬斬斬!
一瞬の隙に疾風で三回斬られる。四枚張った空蝉が身代わりとなり三枚剥がれる。
「火遁!」
残った最後の一枚を依り代に火遁を発動する。正式な火遁用の触媒ではないため、一枚だけだと業火の陣の様な大規模な忍術まで発動出来ない。だがこれで十分、火遁は範囲攻撃だ。もしあの俺も空蝉を張っていたなら全てが一気に剥がれる。
ここで追撃に剣技、飛燕などを放つと火遁自体を切り裂いてしまう可能性がある。
アイテムボックスから、苦無いを取り出し両手で二本放つ。
俺が水遁を発動し、火遁との相殺と計る。
…………触媒を使っていない!
忍術には魔力を消費しない代わりに紙兵や魔石などの触媒が必要になる。あの俺はそれを使っていないのに忍術を発動している。
魔物の特性か?
確かに俺が忍術を強奪したマスターニンジャは触媒を使っていなかった。魔物の心臓とも呼べる核が魔石だからなのか?
ジュッ!
と言う音と共に水蒸気が発生する。
空蝉の術! ヴン!
空蝉の術! ヴン!
月下...半月! ドンッ!
前方範囲の半月で水蒸気を切裂き、爆裂歩法で加速しこちらに向かってくる俺。
俺を視認出来たと同時に、苦無いを投擲し、抜刀し、
隼!
わかりやすく言うとガトツだ。突きスキルによりさらに加速する。
俺の投げた苦無いを投げ返してきた俺。つまりそういうことだよな?
確信が無いが、迎撃しないとな。
「五式!」
迎撃用の技、射程が極端に短くなるが、隼、飛燕、疾風などを連続で五回放つ事が出来る。
苦無いを二本弾き、隼は爆裂歩法からの威力アップのためこちらの隼では相殺出来ないと判断しそのまま受ける。
俺の喉を貫く童子切。喉を貫かれた紙兵が童子切にぶら下がる。
横に現れる俺、五式の残り三発を首、胸、腹に叩き込む。紙兵も何も残らないが無傷な俺が着地せずにそのまま通り過ぎる。
逃がさない。爆裂歩法、ドンッ!
こっちは空蝉が後三枚、あっちは一枚。空蝉を唱えなおす隙を与えたら元の木阿弥。
「隼!」
さらに加速する。
着地と共にドンッ! と俺に向かって突っ込んでくる俺。
「クソ!」
隼は失敗だ。技の発動中は他の行動をとるのが難しい。
突っ込んでくる俺の脳天を童子切が貫き、最後の一枚を消費し背後で俺が空蝉を発動する。
ヴン!
俺も空蝉を張りなおす。
「フゥ...」
おそらくこのままでは決着がつかない。
HP回復があるので、削りあいで決着というのは無い。
さっき手に入れたMP回復がある分、MPに関しては俺のほうが若干有利かもしれないが、触媒を消費している忍術は俺のほうがいつか種切れするのに対し、あっちは種切れが無い。
可能性を試す。
本人の能力とスキルをコピーする。
迷宮ならばそれもありだろう。しかしコピーといっても限度がある。
特にユニークスキル。
その中でも規格外のモノ。
鑑定?
スキル強奪?
いやいや、もっと規格外のがあるだろ。
時間を止めて、生きているもの以外なら何でも無限に入るという、四次元に繋がっているポケットかと叫びたくなる代物。
アイテムボックス。
この中身までコピー出来るのか?
さっき、ワザワザ俺の投げた苦無いを使ってきたコピーの俺。
中間層である五階で虚ろな影と戦わせる意味。本人や装備のコピー自体にある程度の時間が必要なのではないか?
確証としては全然だが、可能性としてはなかなかのモノだ。
試す価値はある。
これは、ある意味賭け。
命を懸けた賭けだ。
失敗したら確実に俺が負ける。
だが、勝算はある。俺が俺以上になる唯一つの方法。
「クソネコ、力を借りるぞ」
アイテムボックスから刀を取り出す。
「二刀流、手に入れておきたかったなぁ」
その禍々しい刀を左手に握る。
ムラマサブレード:
固有スキル:クリティカル
攻撃時追加効果:裂傷と呪いを100%発動
この武器は呪われています
ムラマサブレードの呪いが発動する!
その呪いは、善の侍を暗黒へと落とす!
装備者の魔物化だ!
呪いが俺を蝕む。
俺の体が...魔物へと...コピーの俺を倒せる...モノ...
次で終わりです。




