48:勇者
紙兵。
人の形を模った、忍術に使う触媒。
刀印。
拳を握り、人差し指と中指のみを立て刀剣の形に似せた印。
刀印は九字を切る時や術を発動する時に使われる。刀剣を模したこの印は主に戦う力の象徴として使われる。
人差し指と中指の間に紙兵を四枚挟み、忍術を発動する。
空蝉の術。音を成さない声で囁く。
刀印を袈裟に切る。
ヴン!
何かが高速に羽ばたく様な音とともに紙兵が掻き消える。
事切れたファムをアイテムボックスにしまう。供の二人はユウキに近すぎる、戦闘中に回収を考えるのは下策だ、上手く原型を留めて残る事を祈り存在自体を意識から外す。
「フジワラ、犬っころをどうした?」
聞いてくるユウキに、腰にあるポーチを叩き。
「魔法のポーチにしまったよ」
「人質のつもり?」
魔法の鞄系の魔道具は、設定された使用者本人以外が、中の物を取り出せ無いようにする事が出来る。
「いや、そんなつもりは無いけど」
「そうだよね、僕はもうそんな犬は要らないし」
俺とユウキは互いのスキルを知らない。
俺が知らないのは当然鑑定を持っていないからで、今わかってるユウキのスキルは、鑑定、スキル強奪、剣術5、弓術5、後はおそらく四属性の上位、炎氷鉄雷魔法と光闇魔法があるはずだ。
必中は武器固有のスキルを使っていたからユウキ自身は持っていない。問題は他にどんな隠し玉を持っているのか...
逆にユウキは、酒の席で俺を鑑定した時の間違った情報しか持っていない。
あの時は、それを見てワザワザ殺す価値の無い相手と判断したくらいだ。
これは俺のアドバンテージ。
「じゃあ、フジワラも死んでね」
ユウキが新たな剣を取り出す。さっきと同じ剣だ。マジかよ。
「ユウキ、その剣何本持ってんだ?」
「ソードスキル発動、必中! ん? 後二本あるよ」
「どこで手に入れたんだ?」
「とある迷宮でね、必中の剣はそんなに珍しくないんだよ。フジワラも簡単に折っていたけど脆くてね、必中を発動しても最初の一発だけしか乗らないし、力任せに斬りつけても折れるだけだしね。必殺の技でも持ってなければ宝の持ち腐れなんだよ」
俺は斬ったんだけどな。
「もしもの時用に、俺を生かしておいた方がいいんじゃないか?」
ユウキが首を傾げて考え込む。
「……フジワラ、僕が死んだらそのまま放置するでしょ?」
うん、放置するけど、何か問題でも?
「てか、ユウキ死ぬ可能性とかあるのか?」
面白いもので、上から相手を見下して会話してくる奴は質問に質問を返すと切れるが、自分以外の相手を平等にモノとして認識しているようなイカレタ奴は、会話自体を楽しむ傾向にある。会話が殺した相手を認識する付箋となるとかなんとか。ま、勝利を確信した者の驕りだな。
「多分、次、また僕に会う予感がするんだ」
まるで確信があるように宣言するユウキ。
それはただの勘と言う物ではないのだろうな、何か確信に至るような、
「スキルがあるのか?」
「アハ! 鋭いねフジワラ、その通りだよ。【悪運】これが僕の持つ最強で最悪のスキル」
「悪運!?」
悪い事態に陥っても運よく助かるということか?
それとも本来の意味である、悪いことをしても報いを受けないということか?
違うな、報いなどと言うのは神や仏のような絶対的な善の存在を肯定した世界の言葉だ。この世界には仏は判らないが神は実在しているし悪魔も実在する。善悪の観念が根本から違うなら悪運というスキルの定義も違うはずだ。
「何となくね、予感が働くんだ。もうすぐ死ぬような目に遭うってさ、このスキルが知らせてくれるんだよ」
「知らせてくれるなら、戦わなければいいんじゃないか?」
「アハ! そうだよね!」
楽しそうに笑うユウキ。
「だけどさ、死ぬような目にあって生き残ったほうが生きてる事を実感できるから!」
イカレテルな。
こいつが一人な理由が解った。
死の危険を楽しむ異常者。共に居て生き残れるものはいない。
【悪運】を持つユウキだけが今まで運良く生き残ってこれただけ、これを持たない仲間は皆死んでいく。
「なら余計俺を生かしておいた方がいいだろ、保険でさ」
「だーいじょうぶぅ! 次は勝つからねぇ」
スッと、ユウキが剣を水平に剣先をやや下に構える。フェンシングの構えといえば解り易いか。
「フジワラ、こんな場所に来なければ仲良く出来たのにね」
「上辺だけ仲良くってか? 反吐が出るな」
「アハハ! 血反吐を吐きな!」
「ファイナルスラスト!」
ユウキが、剣先を突き出し、一直線に向かってくる。
「今までそんな雑な戦闘しかしてこなかったのか?」
トスッ!
俺の心臓に剣先が潜り込む。
「アハ! 手も足も出ないのによく言うよ、アハハ!」
「そうだな、」
ユウキの後方から俺が同意する。
「え?」
胸を貫かれた俺が人の形をした紙になり、ひらりと落ち、三枚に分かれる。
「火遁、業火の陣!」
三枚の紙兵が忍術を発動する。
ゴウッ!!!
炎がユウキを包み込む。
ヴン!
燃え盛る炎。
並の者なら骨まで燃え尽きる業火。
炎の中に人影がある。
「アイスフィールド!」
地面と共に炎が凍り、砕け落ちる。
肌は焼け、皮膚も剥がれ落ちたユウキが立っている。
「痛い。アハ。痛い。アハハ。フジワラ、今のはなに?」
「さあ?」
「アハ!――――言えよ!!!!! このクソが!!!!!」
焼け爛れた目が修復されつつある、時間回復かHP回復を持っているのか。
「敵に塩を送るバカがいるかよ、悪運のおかげで生き残ったか?」
「フザケルナ!!!!! オマエはゴミみたいなスキルしか持ってないはずだ!」
「はっ! あんなチンケな鑑定で俺のスキルが見れたと思ってたのかよ、めでてーなユウキ君よ」
「アアアアアアアア!!!!!!! ゴロズ!ゴロズ!ゴロズ!ゴロズ!ゴロズ!」
俺は出来ればお前を殺したくないんだがな。変なスキルを強奪しちまう可能性があるからよ。
「ソードスキル発動ォォォ!!! ヒッチュゥゥ!」
必中の剣を両手に持ったユウキがこちらを睨む。
「僕を馬鹿にした礼をするぞ、爆発する前に鑑定したんだ! あれはあの紙を斬れば爆発しない」
マジかよ、狂ってる振りして冷静だな。
「それで?」
「見ていたぞ! 僕が燃えてる時にあの空蝉というのをまた唱えていただろう!」
バレテーラ。
「気のせいだろ?」
「アハ! アハハ! ヘハハハ!!! 二刀流スキルだ!!! ファイナルスラスト、ダブル!!!」
ドスッ!
右手の剣が俺の胸に刺さる。
隣の俺が童子切を抜く。
「ヘア!」
変な声を上げユウキが左の剣で俺の胸を突く。
両剣に胸を貫かれている紙兵。
後ろの俺がユウキの胴を薙ぐ。
「アヒャア!」
ユウキが奇声を上げながら前に転がり、刃が骨まで届かない。
「五連突き、ダブル!」
「霞!」
二刀流による十連続の突きを、忍術スキルの技で避け後方へ移動する。
必中が発動した状態だったら霞は技自体がキャンセルされていただろう。
「風遁、鎌鼬!」
忍術はマスタークラスになると避けた後に追加で術を発動できる。
キンッ!
キンッ!
真空の刃により、ユウキの必中の剣が折れる。
これで手持ちの必中の剣は全て使いつくした事になる。
嘘をついていなければ、だ。
呆然と立ち尽くすユウキ。
隙だらけだ。体が動く。
「悪いな、」
童子切でユウキの胸を貫く。
「ア!?」
「お前は危険すぎるから、生かしておけない」
「ア...ハ、フジワラ、」
「ん?」
「このまま、迷宮に...」
「ん、」
「蘇生しない、で...」
「ああ、」
「トモダチに、なりたか...」
「そうだな、」
最強で最悪か、本当は仲間と一緒に死にたかったのか?
望み通りにするぜ。ユウキ。
じゃあな。
スキル強奪発動!…………炎魔法取得!
スキル強奪発動!…………氷魔法取得!
スキル強奪発動!…………鉄魔法取得!
スキル強奪発動!…………雷魔法取得!
スキル強奪発動!…………光魔法取得!
スキル強奪発動!…………闇魔法取得!
スキル強奪発動!…………HP回復取得!
スキル強奪発動!…………MP回復取得!
スキル強奪発動!…………スキル強奪取得!
……ったく、空気を読まないスキル強奪だぜ。




