46:最下層
迷宮入り口に見知った顔がいる。
門番じゃないぜ。てか、門番一日毎の交替制かよ、だから昨日あんだけ飲んでたのか。
隠密を発動し会話を聞く。
「戻ってこないってどういうこと?」
「わかりません。時間的に五人は戻っていないとおかしいのですが」
「他の冒険者はどうなってるの?」
「中間層からの帰還組は何人かいましたが、最下層からは一人も戻っていません」
「最下層で何が起きてるの...」
隠密を解き会話に加わる。
「まあ、行って見ればわかるんじゃねーか」
「キャン!」
と鳴き、すごい距離を飛び退くファム。
「えー、なにそれ、ひどくね?」
「ボクに近付くなー! 大体ちょっかいかけるなと言ったのはキミだろー!」
「日常会話じゃん」
「いきなり現れて会話に加わるのは日常じゃなーい!」
「細かい奴だな、な?」
「え、いや、あの、私に振られても困ります」
「つれないな、もしかしてファムって偉いの?」
「あ、はい。ナンバー2です」
「マジで!?」
「コラー! 内部情報を迂闊に漏らすな!」
なんだかんだで、一緒に潜ることになった。
一から四階は、何もせずに素通りする。
五階のボス部屋も扉が開いており、下への階段が出ている。
そのまま下層へ行こうとするファムとお供二人に声をかける。
「悪いけど、俺ここのボスと戦闘したいんだわ」
ファムたちが振り返る。
「そう、それじゃあ」
先に行くねと、言おうとしたのだろう。それを言う前に俺が一言発する。
予感がある。
「おそらく、ここが分岐点だぜ」
「……なんの?」
「さあな、ユウキが俺の考えてるような奴だった場合、かな」
「……もしかして、ユウキがヤバイって話し?」
「あ、そうか。そっちも何か掴んだんだな?」
「!!! フジワラ、キミは鋭すぎるよ」
ファム達が戻ってくる。
「先に行かないのか?」
「おそらく死ぬんでしょ?」
「さあな」
ファムが笑う。
「なんだよ、気持ち悪いな」
「フジワラは優しいんだね」
「キモ! 犬キモ!」
そういい残し、階段の消えたボス部屋に入っていくフジワラ。
「ファムさん、どういうことです?」
同行者が聞いてくる。
「待ってれば俺が何とかしてやるって言ったんだよ、フジワラは」
「そうなんですか? 私には判りませんでしたが」
「ボク達や、この町と係わりたくないと公言しているフジワラが、あのタイミングでボク達を引き止める理由は無いんだ。むしろ何か問題が起きた時、ボク達は足手纏いになる可能性がある」
「え、私達が足手纏いですか?」
ファムを含め三人とも最下層へ到達できる実力を持っている。
「ボクはさっきフジワラに手も足も出ずに十数回殺されたところだよ」
「え?」
「わかるだろ、格の違う殺し屋がたまにやってくるやつだ。だけど、リアルさが全然違う。あんなのは人の域を超えた実力がなければ出来たものじゃない。彼は……バケモノだ」
プルプルと体が震えだし、尻尾が股の下にペタンと丸まってしまう。
「ファムさん...」
扉が開く。
どこから出したのか、刀を腰に差したフジワラが立っている。
「じゃ、行こうぜ」
八階辺りから通路に魔物が湧いたままになっている。
「魔物の討伐は我々が」
と、申し出るファムの付き人たちを制して。
「飛燕!」
スパンッ! と魔物の首が飛ぶ。
そのままゆっくりと歩き出す。
「――――」
「――――」
「ボク達でどうにかなる相手に見える?」
ブンブンと首を振る付き人たち。
「何してんだ、行くぞー」
「うん」
「はい!」
「はい!」
九階のボスを倒し、後は最下層である十階に降りるだけだ。
「ちょっと確認しとくけどさ、あんた等、ユウキを抑える手段あるの?」
顔を見合わせるファム達。
「ある、けど」
「なに?」
「それは、いえないよ」
「隷属契約むすんだ?」
間髪いれずに質問する。急な質問には思わず本音が出るものだ。
「それだったら、こんな事になってないよ」
平然と反すファムだが、あとの二人の表情が真実を物語っている。
「そっか、じゃあ、初手はそっちに任せるわ」
「え、いや、だから」
「いやいや、後ろの二人の表情がそうですって言ってたぜ」
バッと後ろを振り返り、うーと唸るファム。どんな表情をしているのか見てみたい気もする。
状況次第という事で話がつく。
まあ、状況次第なんてどうするか決まってないと同じなんだがな。
階段を降りながら聞く。
「操る事が出来たら、俺を襲わせる?」
プルプルプルと顔を振るわせ。
「キミには手を出さないよ」
と言うファム。
「まだ、が抜けてるんじゃないか」
言いつつ最下層に足を踏み入れる。
何も居ない。
進む。
魔物も冒険者も何の気配もない。
進む。
ボス部屋が見える。
進む。
扉が閉まっている。誰かが挑戦しているようだ。
「アッ!」
ファムが扉のそばを指差す。今まさに迷宮に吸収される冒険者の死体。
「一体何が...」
静か過ぎる迷宮に不安を覚えるファム達。
ボス部屋の扉が開く...




