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40:忠告

夜も更けてきた時間帯。

そろそろお開きだ、特に女性陣には護衛をつけて帰っていただく。

「セザールのオッサンよ、ちゃあんと皆さんを送り届けろよな」

今回来た女性は皆冒険者ギルドの職員だ、ギルド長が責任を持って送らなくてはならない。

光魔法の状態回復でオッサンの酔いを強制解除し、他にも護衛する男性職員を指名させ酔いを強制解除していく。

「せっかくの酔いがあぁ、これでは酒を飲んだ意味がないぞ、フジワラよ」

「知るかよ、それより変なのが彷徨(うろつ)いてるからきちんと守れよ」

「どうせお前目当てだろう」

「そうだよ、だからだろ」

「フンッ! わかっておるわい」

さりげなく腰の鞄を俺に見せるオッサン。

「なんだ、持ってきてるのか、じゃあ大丈夫かね」

「あたりまえだ」

セザールは魔法の鞄の中に戦斧(ウォーアックス)を入れてきているのだ。


「フジワラさん、またお食事誘ってくださいね」

「楽しかったです」

と、王都のケーキをいたく気に入っていただいた女性陣に声を掛けられる。

「ああ、今度この町の美味しいスイーツ屋さんを教えてくれ、そしたらギルド寄る時お土産持っていくよ」

こういうのは、ここに住んでいる人の方が詳しいし、女性なら尚更だ。

「え、本当ですか?」

「ああ、食べたいスイーツのある店でもいいぜ、俺が食べてみて美味しかったらギルドにお土産持っていくよ」

キャー、と黄色い歓声が上がる。

王都に持って帰るお土産を手に入れたいし、これでギルド職員のポイントが上がるなら一石二鳥だ。潜在的味方というのは、作っておいて損はない。


ドンッ!

とセザールのオッサンが物理的に会話に割り込んでくる。

「物で人の好感を上げようなど、下種(げす)のすることだぞ!」

「はいはい、そうだな。オッサンにも旨い酒買ってきてやろうとしたけど、要らないということだな」

「ナヌッ! マテマテ、酒は別腹だ」

「なんだよそれ、いいからさっさと行けよ」

オッサンを急かす。


手を振る女性陣に手を挙げて答え、酒募集中と叫ぶオッサンは無視し店に戻る。


「フジワラー、次行くぞつぎー!」

「行かねーよ、お前らも帰れ!」

門番逹、悪酔い軍団も(はな)が居なくなったので場所を変えるようだ。


屋台の店主であるドランツのオッチャンが声を掛けてくる。

「勘定はニイチャン持ちでいいのか?」

「ああ、幾らだ?」

「諸々併せて金貨五枚になっちまうが大丈夫かい?」

「ああ、大丈夫だ、問題ない」

と言いつつ金貨五枚をオッチャンに渡す。

「ニイチャンは若いのに金払いがいいな」

「ん、まあな、これでもいっぱしの冒険者だからな」

「コイツハヨー、迷宮の最下層を攻略しちまう凄腕なんだぜー、次いこうぜー、フジワラー」

「行かねーよ、お前らも帰れよな」

「凄いんだなニイチャンは」

「フジワラでいいぜ、ほら、お前らも帰れよな」

門番のおでこを平手で叩く。

「イテー! 何すんだよフジワラー、ん?」

おでこに張り付いている金貨に気づく。

「それ以上は自腹で飲めよな」

言い残し、大通りの雑踏に歩き出し、人波に紛れたとたん消える。



「オーイ、酒代貰ったぞー!」

嬉しそうに仲間のところに戻る門番。彼等の夜はまだ続きそうだ。



雑踏に紛れた瞬間に隠密で消えたのだ。

俺を監視していた者達が、慌て出す。


取り合えず、そうだな。





闇に潜み、息を殺していた者達に衝撃が走る。。

行きなり消えた。

出来ると聞いていたが、こうも簡単に見失うとは。

「どうしますか?」

…………分けよう。

「私とお前はバラの宿へ、他の者はここに残り監視を続けろ」

「誰をよ?」

「決まってい!!!」

違和感無く会話に入ってきた男を驚愕と共に見る。

そして、こんな距離まで接近されて気付かなかった事に恐怖を感じる。


フジワラ。

我々が監視していた冒険者だ!


「動くと殺す」


ただ立って、そう言っただけ。

手には何も持っていない、素手だ。訓練された我々四人に素手でそのようなことを言うなど馬鹿げている。


しかし動けない。

訓練してきた者だけにわかる、直感のようなもの、動けば本当に殺される。その事実だけが理解出来る。


「今回はただの忠告だ。帰って雇い主に伝えろ」

「……な、にを」

「俺に手を出すな。後、俺の周りにも手を出すな。もし手を出したら潰す」

「バカ、な」

「それに、知らなかったは、聞く耳持たないと言っておけ」

「そんな事を、我々が伝えるとでも思っているのか?」

「なんだ? 死ななきゃわからない口か? お前達の方が物分かりが良さそうだから先にしたんだがな。まあいい、伝えないのも選択の一つだ。さっき、知らなかったはダメと言ったしな、お前たちが伝えなかったというのも含まれる、後は好きにしろ」

歩きながら視線の外に移動するフジワラ、視線から外れた時点でそう言い残し、消える。


まるでそこに居なかったかのように、一切の気配も痕跡も何もかもが消えている。

幻だったのでは、と思い部下を見る。皆固まってこちらを見ている。


その場に座り込む。

ドット汗が出てくる。

言葉が出ない。


「……」


これは黙殺していい情報ではない。

極稀に手を出してはいけないバケモノが存在する。アレはその類いかもしれない。


マルガリータ様に伝えなくては。


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