35:各勢力
ゴルジフ邸:
執事がノックをし部屋へ入ってくる。
「若様、フジワラ様より荷物が届いております」
「ああ、そこに置いてくれたまへ」
飲みかけの紅茶をソーサーに置き、荷物の包みを解く。
中には火魔法の巻物とフジワラからの開封印の術が施された手紙。
指を浅く切り、印に血をたらすと封印が解除される。
手紙の内容は、
[約束の物と、今から名を挙げるものに護衛をつけてくれ]
人物の名前と建物の名前が記されている。
[もし俺が潰した勢力が出たなら、手を伸ばせ]
と終っている。
恐ろしい男だ。
既に動き出している勢力も判っており、それに対する対策を、自分では手の回らないことに関しては僕へ押し付けてくる。
既に逆らえない契約を結んでいるにもかかわらず、報酬も先渡しで寄越してくる。火魔法の巻物、市場に流せばひと財産になるが、欲しがっている貴族に流せば金では手に入れられない縁ができる。
しかも、自分が潰した勢力が出たなら、そこの利権も手に入れて勢力を伸ばせときたよ。
ゴルジフ家にとって良い事尽くめだ。こんなにされては裏切れない、いや裏切る理由が無い。そもそも僕はフジワラに不利な行動は取れないように制約されているのだ。
もっと酷い扱いを受けると思っていたのに、
「あんたは生かしておいたほうが便利だから、俺と俺の知り合いに危害を加えなければこのままでいい。あんまり自分ルールは作るなよ」
と笑いながら言われただけだ。殺そうとした相手を便利だからという理由で生かしておく。
フジワラと言う人物がよく解らない。
もしこの状況を作ることまでが、全て計算の内だったとしたら?
僕が最初の犠牲者だと思っていたけど、本当の犠牲者はこれから出るのではないのか?
僕はとてもラッキーだったのではないのか、と思うことまで手の内なのではと思ってしまう。
本当によく解らない。
紅茶のカップを手に取り、一口飲む。
「……温い。けど、美味いのか?」
もう一口飲む。
タリエリの館:
ここは町長であるタリエリ、この町を取り仕切る男の館。
「タリエリ様、例の男の情報が集まりました」
「そうか、では、報告を聞こうか」
「ハッ! お前達、入れ」
声に応答し、扉が開き数人の男が部屋に入ってくる。
衛兵姿の男、冒険者姿の男、町人風の男。全てが町長タリエリに雇われた者達だ。
名前はフジワラ。
所属はローラン王都の冒険者ギルド。ランクはD。
先日死亡したギルド長ギルバートのお気に入りで、剣術の指南を受け本人は刀術を操る。
既にゴルジフ卿と契約を結び、ブオトでの各種権利を獲得済み。
冒険者ギルドのギルド長セザールとも懇意にしており、ここ数日ギルド長室にて密談をしている様子。
本日、スキルの迷宮へ挑戦し、最下層を攻略済みとの事。なお、最下層の新情報をギルドへ提供し報酬を受け取っている。この内容から最下層を本当に攻略した事を確認。
「最後の報告の詳細を」
自陣営で獲得している冒険者で、最下層攻略組みに情報を確認したところ、ギルドへ伝えていなかった魔物の正確な情報をフジワラが持っていたことで、最下層の魔物と戦闘をし勝利した事実を確認。
「迷宮挑戦初日に最下層まで攻略できるものなのか?」
「Sランク以上の実力があれば可能という事です」
「Dランクと報告があったが」
「おそらく実力至上の思考なのかと、剣鬼と呼ばれたギルバートもそうだったと聞いております」
「実力はSランク以上ということか」
「はい」
それほどの実力ならば、スキルの巻物も量産できるな。
「手に入れたい。一度ここへ来るように伝言しろ」
「タリエリ様」
「なんだ?」
「ゴルジフ卿から、手出し無用とのふれが当館にも来ております」
ゴルジフ卿か、面倒だな。誰か卿を抑えられる貴族は...
「前回の管理者、火の一族と連絡は取れるか?」
「はい、迷宮の管理者の権利はゴルジフ卿に交代しましたが、迷宮攻略は続けているようですので」
「そうか、では、ゴルジフ卿を抑えてくれるか打診しろ、可能なら次の管理を早めてもよいと」
「ハッ!」
冒険者姿の男が意見する。
「タリエリ様、迷宮内で事故を装い殺してしまってはいかがでしょうか?」
「Sランクの実力を持つものだぞ?」
「ヘヘッ! ランクなど関係ない方法を取ればいいんでさあ」
「……独断でやったということでいいな?」
「へい、失敗する気はありませんがね」
マルガリータには一言入れたほうがいいか。
それに、この男はうちで貰う事をわかる様にしておくか。
「フジワラに付ける人数を増やせ、本人に判る様にしても良い」
「はい」
それぞれの思惑が動き出す。
そして、三大勢力の最後の一つ豪商マルガリータ邸。雑多な人種が溢れるここに、新たなモノが加わる。
勇者ユウキと獣人ファム。




