33:最下層
ボス戦の準備をする。
手裏剣、それも苦無型の物だけを収納した魔法の鞄、鞄といってもポーチ程度の小さい物だ。それをアイテムボックスから取り出し装備する。
手裏剣は弓術スキルに分類される投擲で威力が倍以上に増幅される。十字手裏剣類を使わないのは眉間や目、心臓部分の魔石をピンポイントで狙うため、防がれにくく貫通力のある棒型の物を使う、棒手裏剣でも良いのだが苦無の方が威力が出るし、もしもの時は武器としても使える。
メイン武器は、童子切。サブで苦無。
後は大丈夫かな、入る前に呪文の強化を掛けるだけだな。
強化魔法の呪文の詠唱を始める。時間はある、正式な手順を踏むことで効果と持続時間も微妙に違ってくる。
ここに出る魔物は、たしか九階の魔物の上位版という事だ。
倒す順番はどうするか...やはり回復からかな、苦無の投擲による一撃で殺れれば後が楽になる。その一点を通せる隙があればいつでも投げれるようにしておこう。
次は魔法使いか盗賊だな、盗賊関係は上位職になるとクリティカルを意図的に出せるようになる。最悪なのは一撃死を持つクリティカルだ俺の童子切の追加効果にもついているが、これを相手に出されるとシャレにならない。意識が外れた瞬間に攻撃してきたりするし、魔法使いより盗賊を先に倒した方がいいか。
後は、戦闘の流れ次第か。
やはり不意打ちできない対多数の戦闘は面倒くさいな。
…………よし、行くか。
ボス部屋に入り、数歩進み立ち止まる。
ボス部屋というのはよく出来ていて、ある場所に一定時間立ち止まらないと扉が閉まらず魔物の出現効果が発動しないのだ。
まあ、当然の処置といえばそうなのだが、どこにいてもいいならば俺は入ったと同時にボスの出現場所へ移動し出現と同時に乱舞技を発動し一瞬で決着をつける戦法を取る。
魔法もそうだ。既に効果の発動している魔法は除外されるが、ボスが出現する前に高威力魔法の詠唱を始めてしまうといつまで経ってもボスは出現しない、下手をすると完成してしまった魔法をキャンセルすることになり術者は一気にマナが無くなってしまう事もある。
一般的なこのルールも、迷宮によっては違いがあるらしい。
消耗覚悟で色々試す冒険者もいて、運よく抜け道を見つけた場合、絶対的有利な条件でボスと戦闘できることになる。
そういう情報はまず表に出ない。自分達だけ命の危険を限りなくゼロにしてボス部屋を周回できるのだ。情報として一時の高価な金で売るより、永続的に儲かる方を選ぶのは当然の選択だ。
ま、取りあえずは正攻法だ。
正面奥が淡く輝きだす。
魔物が出現した!
重戦士が出現した!
狂戦士が出現した!
暗殺者が出現した!
大司祭が出現した!
大魔法使いが出現した!
確かに、上位の魔物だな。数が多いし!
「フッ!」
呼気と共に苦無を両手で一本づつ飛ばす。位置がよかったのか大司祭への射線が、がら空きだったのだ。
キンッ!
トスッ!
動きの素早いアサシンが間に入り一つを弾くが、もう一方が大司祭の眉間に刺さる。
ひとつ。
ドスッ! ドスッ!
続けて放った苦無がアサシンの目と耳に深々と刺さる。アサシンは黒い皮鎧を着ていたので胸ではなく顔のみを狙って投擲した。
ふたつ。
「ウオォォォ!」
重戦士が俺に挑発スキルを発動する。
レジストした!
童子切をつかみ。
「飛燕...二連!」
ドンッ! 爆裂歩法で飛燕の斬撃を追う。
向かう先には、盾を構えた重戦士。
その後ろにバスタードソードを両手で構える狂戦士と、さらに後ろで呪文の詠唱に入っている大魔法使い。
重戦士の構える盾に飛燕の斬撃が二つ、ガンッガンッ!
トンッ、トンッ!
盾に着地し、盾のふちを足場に宙に舞う。
「鉄の壁!」
宙に鉄魔法で鉄の壁を出現させ、さらにそれを足場にする。
「爆裂歩法!」
ドンッ! さらに上へ飛ぶ。鉄の壁は重力と爆裂歩法の爆発で急加速がかかった状態で、俺が落ちるのを待ち構えていた狂戦士に激突する。
半回転し天井に着地、ドンッ!
さらに天井を足場に爆裂歩法で地面に向かって加速する。
向かう先は、呪文を完成させようとしている大魔法使いの上。刀の背に手を添えてそのまま大魔法使いの脳天に落ちる。
みっつ。
…………
……
よっつ。
…………
……
いつつ。
…………
……
「ふぅ」
悪くない戦いだったな。
部屋の奥が輝き、魔法陣と宝箱が出現する。
「お、ラッキー!」
フジワラは、光魔法の巻物を手に入れた!




