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32:最下層_本性

ボス部屋の中央に横たわる死体にヨロヨロと歩み寄る獣人族の娘。

もしあの子が、そいつの連れでただの付き添いで来ていたのなら帰る手段を無くした事になる。

ボス部屋は攻略しなければ脱出用の魔法陣が出現することは無いし、道を戻ったとしても九階のボスは俺が攻略して既に一定時間経っている。今はボスが復活し九階へ戻る階段も消えているはずだ。


「オニイチャン...」

答えの無い骸を見下ろし呟く獣人。わからなくも無いがそんな風に呼ばせていたのか、なんていうかゲームの延長感覚だったのか、まあ、わからなくも無いんだがな、そのノリでいくなら当の本人が惨めに死んでしまっちゃあダメだよな。ダサいを通り越してサムいわ。


「オニイチャン...死んだの?」

どうすっかな、係わりたくないんだが、もし本当に帰る手立てが無さそうならどうにかしてやら無いとダメかな。

帰れないと悲観して目の前で自殺とかされても寝覚めが悪い。獣人の娘もそれなりに強そうだったから自分が挑戦するという選択もあるだろう。


自殺しそうなら、その場で眠らせて俺がここを攻略した後連れて帰るか。

挑戦するなら、失敗した時は二つの骸を地上に持ち帰って誰かに見つかるように置いておけばいいかな、あの男のハーレム要員でもいるならそいつらが何とかするだろうし、死体を見て関係者、町長か貴族か商人辺りの手の者が引き取っていくだろう。どこにも属していないなら冒険者ギルドが対応してくれるはずだ。


さすがに俺の存在を認識させるような選択肢は無い。

仲良くする気も無いんだし、恩を売る気も毛頭無い。さっきも言ったが既に力を持っている勇者と仲良くなれるとは思えないからな、助けるのは単純にどういう奴か分からない今の状態で見捨てた場合、俺の寝覚めが悪くなるから、そういう単純な理由で俺が自己満足のために勝手に助けるだけだ。


「オニイチャン...死んでんじゃ」


ズガンッ!!!

腹を思いっきり蹴る獣人の娘。


「ねーよ!!! このクソアホが!!!」


ドガンッ!!!

壁にぶつかる勇者の死体。


え?


え?


なにそれ?


ゆっくりと歩きながら壁の死体に近付く獣人の娘、いや、獣人。

「ナニガ、僕の嫁だ。この短小が!」

男の大事なあそこを踏みつける獣人。


ヤダ、ヤメテ!

思わず自分のあそこを手で守ってしまう俺。


グシャ!

思いっきり踏み抜かれ、何かが潰れる音がする。


キャー!

なんてクレイジーな娘なの!


「大きな口を叩いといてあっさり死にやがって...だから虚ろな影とは戦うなっていったんだ、このクソが!」

死体の頭をサッカーボールのように蹴る。首の辺りでボキンと何かが外れるか折れる音がする。



おっと、貴重な情報ありがとう。



グシッ! グチッ! グチャ!

執拗に顔を踏みつけている獣人。


「フゥ、フゥ、フゥ、チッ! 持って帰って奴隷として生き返らせるか。利用価値が半減だ。だから勇者というクズは使えないんだ、分不相応な力に増長し勝手に自滅する」


仰るとおりです。ケモノさん。


「運よく手に入れたスキルで調子に乗り、他人の考えた知恵をさも自分が考えた事のように自慢し、僕って凄いだろうだって? ケッ! スキルは弱小な奴に哀れみで与えられたモノだし、知恵は考え出して世界に広めた者達が凄くて、お前はそれを勝手に自分の手柄にしているただの詐欺師だカスが!」


はい、そのとおりです。

魔法がある世界で異世界の知識スゲーとか根本が矛盾していると思います。

魔法のほうがスゲーし、スキルがあるこっちのほうがスゲーです。はい。

知識無双とかは、僕のパパ凄いんだぞ以上に稚拙な自慢にしか聞こえません。はい。


うん。

勇者って嫌われるよねって、再認識しちゃったわ。

こんな奴ばっかりだったら取り合えず呼び出した時点で奴隷にしとこうとか思うよね。


じゃあ呼ぶなよって思うけどね。


気が済んだのか、死体をズルズルと引きずり部屋の外に出る獣人。

見ていると何かを取り出し地面に置く。魔道具かな?


「――――!」


何かを呟いたとたん地面に魔法陣が出現する。脱出用魔法陣の魔道具版か。俺は魔法陣の外に移動し、消えていく獣人と死体を見送る。



……相当嫌な目に遭ってきたんだろうな。俺もそうだったけど獣人とか想像上の生き物だったからな、さっきもそうだったが意識せずに順位が人ではなくペットの位置になっている。おそらく態度に表れるそれは本人達には相当なストレスになっているはずだ。ここでは自分達より異端なモノに異端な目でそれこそ下のモノとして見られるなどたまったものではないだろう。

犬とか明確に順位をつけるというからな、とか思ってる事自体根本的に人として見ていない事になるよな。なんか複雑だなあ。


肌の色だけではなく、人としての種自体が多様に存在しているこの世界。意識としてはこちらの方が確実に先を行っている。


………………あー、何考えてんだ俺。何か変な理屈をこねても事実は変わらない。


さっき、バカな勘違い野郎が奴隷に落ちただけだ。

ケモッ娘の態度を見ればバカな勘違い野郎で合ってるよな? 救いようが無いっていうのも加わるか。

ま、俺が気にすることじゃない。

ご愁傷様で終りだな。




さて、邪魔も無くなったし、今日はこの最下層のボス部屋何回かやって帰るか。


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