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31:最下層_遭遇

カワユス!

獣人カワユス!


隠密で近づき、前から後ろから下から下から、もう一回下から獣人ちゃんを眺め回す。


「!!!」


ビクッと俺の気配に気付いて周りをキョロキョロと見回すが、隠密レベルマックスの俺を見つけることなど不可能!

特等席で初めてのケモッ娘を堪能する。お触りしたいがさすがにそれをすると気付かれてしまうので、ジッとガマン。


獣人というのがいるとは聞いていたが、実際見るのは初めてだしこんなに可愛いとは予想外だった。

俺が今まで会った人間以外の種族はエルフだけだ。当然、魔物は抜かしてだぜ。

エルフもスゲー可愛かったけど生意気なんだよな、ドサクサに紛れて俺を殺そうとするし。


いやまて、俺が仲間だと思っているエルフやオネイタマやネコは、結構な確率で俺を本気で殺そうとしてくるよな。

え、あれ? もしかして、仲間じゃないの? あ、ネコは仲間じゃないな、敵だ!


いやいや、まてまて、惑わされるな!

今はケモッ娘観察が最優先事項だ!

雑念を捨てろ俺!!!


チョン!

尻尾を触る。きゃ、お触りしちゃった!


「キャン!」

と鳴いて尻尾をナデナデするケモッ娘。カワユス!


怯えた表情で周りをキョロキョロ見回しながら、壁際に移動するケモッ娘。



……あー、、演技上手いよな。



怯えたように尻尾を丸め、その場にうずくまり。

「ソニックシザース!」

音速の蹴りで周囲に衝撃波を発生させる。



……反対の壁際からその姿を眺める。



なんか、腹黒ッポイな。

わざわざ怯えた表情で壁際まで移動して範囲を絞ってから、壁以外の残った空間をカバーする前方範囲の格闘技で見えない相手を確実に殺しにくるとか。調子に乗ってまとわりついていたら死んでたかもな。可愛い顔して怖い怖い。


ま、大体ここに居る時点で普通なわけないよな。残念!

見れば、ボス部屋の扉が閉まっている。今、このケモッ娘の連れが挑戦中なんだろう。

どんな奴なんだろうな、ケモノ男とか、同じケモッ娘とか、まさか勇者とかだったりして、あーやだやだ。

全身を舐め回す様に確認したけど、隷属の首輪関係の物は無かった。ボスに挑戦中の奴と対等な関係なのか、いや、俺はあの子が獣人という事で、ペット的な感覚で初めから下に見てないか? あの子がご主人様というのもありえる話なのだ。


周りを見回す目が怖い。あの目は愛玩犬というより猟犬、というか狼なんじゃないの?

お、狼っ娘。イイネ!





扉が開く。

終ったらしい。


中に入っていくケモッ娘の後から俺も中に入る。


死体が一つ。

挑戦失敗か、けど死体は残るんだな。まあ、ソロの俺には関係ない情報だな、失敗イコールこの世からの消滅だしな。


俺は見ず知らずの者に世話になるならそのまま消える。未練も後悔も残るだろうが仕様がない、ソロで行動すると言うことはそういうことなのだ。覚悟はある。


死体を見る。

一目でわかる。この地方では珍しい黒髪、生気のない開かれた瞳も黒、それは、東方の国の人間の特徴。

あれはおそらく俺と同じ、勇者と呼ばれるものだ。


死体では強さの判断が出来ないが、おそらくあいつは自分に負けたのではないか?

このスキルの迷宮の真のボスと呼ぶべき、自分のコピーに負けたのではないのか。

少し話を聞いてみたいが、今姿を現すわけにはいかないし、何よりこの死体とまともに話が出来るとも思えない。


俺の偏見が目一杯入っているが、勇者と呼ばれる男にはロクな奴が居ない。

俺がまともでいられているのは、[愛の奇跡]だが、俺以外の男は皆クズだと断言できる。

俺だって[真実の愛]に目覚めてなければ、ハーレムとか作って自堕落な生活をおくっていただろう。

ここはそういう事が出来る世界だし、そういう事が出来るスキルを俺たち勇者と呼ばれるものは持っている。


両雄並び立たずと言うが、俺も同意見で最終的には殺し合いになると踏んでいる。

俺は正直、こちらに干渉さえしてこなければどうでもいいと思っているが、相手はそうは思わないだろう。


勇者が勇者を殺すメリットがでか過ぎるのだ。


例えば俺、あいつらに会えずにたった一人でこの世界で生きていたとしたらどうなっていたか。

俺はスキル強奪というスキルを持っている。これはカードゲームでいえばジョーカー、しかもこのゲームは相手を殺すことで相手の手札から好きなカードをもらう事が出来る。殺しまくるほど無敵に近付く最悪のカードゲーム。


スキル強奪を持っていなくても、アイテムボックスを持っていれば同じ事になる。

異空間に好きなだけ物を格納できるこのスキル。同じアイテムボックスを持っている者同士が殺しあった時、殺した者のアイテムボックスに殺された者のアイテム全てが引き継がれる。しかしこれは特殊な条件があるらしく相手をその場で消滅させる必要がある。つまり蘇生不可能な状態にするという事。

二つとも持っている俺は鑑定でもされてそのことが知られたら危険だから気をつけてね、と俺を鑑定した本人に言われた。だいたいその特殊な条件に気付く事が異常だし、そういう戦いをしたという事も異常なんだが、そんな貴重な情報を俺には教えてくれたあいつと俺の間には[愛]という心の架け橋が架かっているのだろう。


おっと、脱線したな。


つまり、勇者という人種は高い確率でシリアルキラー、連続殺人鬼に変貌する要素が多分に含まれている。

殺す事に愉悦を覚えるもの、特別な自分と同じ強さを許せないもの、他人の宝を奪う事に喜びを感じるもの、理由はそれぞれだが勇者という獲物を狩る勇者は多いのだろうというのが、俺とあいつの見解だ。


まあ、愛とかは冗談としても、こいつになら殺されてもいいと思える覚悟でも無ければ、勇者同士が共に行動または同じ空間に存在することなどありえない。


目的があってその空間に留まる事が必要ならば、なるべくバレない事、これが肝要だ。


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