03:屋台
壁の周りを一周した。
大きな街道はもちろんだが、小さな歩道からも壁の中へと入れる。内と外との出入りの制限は無いようだ。
一番大きな街道から町の中へ入る。
町の中で隠密は...そうだな、解除しよう。
俺の隠密スキルは最高レベルの5で熟練度も相当なものだ、なので人混みの中では俺の事を人と認識しないだけではなく、障害物として認識し相手から自然に避けていってくれる。
よって、人混みで隠密したら人にぶつかりまくって前に進めないとか間抜けなことにはならない。
しかし、目端の利く者はその不自然な人の流れに気付く。もし仮にそいつが鑑定持ちだった場合その空間を鑑定することで俺の隠密が見破られる。
もしくは単純に俺より実力が上の者が居て、隠密を見破られる可能性もある。
それこそ、ユニークスキルの巻物がドロップする確率程度しかない可能性だ。だが、可能性がある以上手を抜かない。もし本当にそんな奴等がいた場合、確実に目を付けられてしまう。そのリスクを考えればただの冒険者として歩いた方がましだ。
何処を目指すか。
まずは、宿か冒険者ギルドだな。
冒険者ギルドで、スキルの迷宮の情報を聞いて、ギルドと契約している宿を紹介して貰うというのが常道だが…
……先に自分の目で町を見て回りながら宿を探して、ギルドには明日行くことにするか。
流れから離れた場に立ち止まり周りを観察する。
大半がこの町に暮らしている町人。商人、旅人が少し、後は冒険者。腰に剣を差した奴や、鎧を着たままの奴、ローブ姿の奴も居る。これは迷宮で発展した町の風景。
繁盛している屋台を探す。
良い場所に位置取り人を雇い働かせている。屋台の域を少し超えた飲食店に目を付ける。
調理を仕切っているその屋台のあるじらしき男に気軽い感じに話しかける。
「オッチャン。それくれ。後、その肉のヤツと飲み物は何があるんだ?」
「オオ、ちょっと待ってなニイチャン。酒はイケるクチかい?」
「あー、酒は無理だわ。肉喰うしサッパリしたもので頼むわ」
言いつつ多めの銀貨をあるじの目の届く場所に置く。
「アイヨ! 好きなところに座ってくれ」
銀貨を受け取り、あるじが料理の仕上げにかかる。
席に着き、通りを眺める。個人所有らしき馬車を目で追いながら、回りの会話に耳を澄ます。
「ヘイ、オマチ!」
あるじが直接料理を持ってくる。
「お、早いな。それに旨そうだ」
「オウ! 味と早さがうちの自慢だ」
「値が張るのか?」
銀貨は情報量として多めに置いたのだが、ちょっと皮肉ってみる。
「そこそこだ」
ニカッと笑う。いい笑顔だ。
「そこそこか、ところで安全な宿と、一番高い宿と、良い宿を教えてくれ」
「バラの宿と、バラの宿と、憩いの宿だな」
ウホッ! 即答か。頭の回転の速いあるじだ。
「バラの宿はこの通りをしばらく行った右か?」
先程目星を付けた馬車を気配察知スキルで追跡したところ半数がそこへ停まっていた。個人所有の馬車で移動するような奴等は貴族か金持ちの商人か、高ランクの冒険者だ。この意見は俺の偏見が入っている。だが、そいつらの泊まる宿なら安全を保障され、宿賃も最高に高いのだろう。
「なんだ、ニイチャン知ってるんじゃないか」
「まあな、所でなぜ良い宿が憩いの宿なんだ?」
「ヘッ! 俺の宿だからな」
「そういうことか、けど、主が居ない宿屋とか胡散臭いな」
ニッと笑いながらオヤジに指摘する。
「ヘヘッ! 宿は俺の息子が切り盛りしてるんだ。だから俺は、屋台をしながら宿の宣伝をしてやってるって寸法さ」
「へー、その割にはバラの宿も薦めるんだな」
「高い宿はお薦めじゃねーと思うがな、ま、安全と値段は比例するからな。ここで店を出している以上、嘘はいえねー。信用に係わる」
「金があるなら、バラの宿が安全ってことか」
「ああ、ニーチャンは、俺の感だが、いや、その鎧と武器を帯刀してないのを見て判断したんだがな。間違っていたかい?」
俺がローブの下に着ている鎧は、大地の鎧。説明は省くが高級品だ。
そして、鎧は装備しているが武器を持って無い事を、魔法の鞄所有者と判断したと言うことだ。魔法の鞄は魔法のアイテム、いわゆる魔道具だ。鞄の中の空間を歪めて見た目以上の容量を収納でき、重さは鞄の重さのみという便利アイテム。簡単に言うとアイテムボックスの劣化版だ。アイテムボックス内は時間が停止しているが、魔法の鞄は緩やかに時間が進んでいく。高級な魔法の鞄ほど収納の量が多くなり、流れる時間が緩やかになる。
「すげえな、オッチャン。じゃ、説明する手間も省けたし、持ち帰りで料理全部頼むわ、それとお薦めを二十個で」
あるじの感の通り魔法の鞄で持ちきれない料理も持っていけるという事と、それだけの料理を持って行っても最高級の魔法の鞄だから時間の経過がゆっくりで問題ないと言う意味だ。
「オウッ! 腕によりをかけて作ってやるよ。また喰いたくなったら宿にも寄ってくれ」
「オゥ、旨かったらなー」
「さっきウメーって言ったじゃねーか」
「ハハハッ!」
笑って誤魔化す。
憩いの宿ならば、ここの料理を食べられるだろうから持ち帰る必要は無い。
つまり、そういうことだ。