23:刀術
童子切。
鬼を斬ったとされる刀。
大地の剣や炎の剣も素晴らしいマジックアイテムだが、その剣の効果を冠するモノでしかない。
最上級、至宝は、効果ではなく固有の名を持つマジックアイテム。それこそが至高の存在。
男が歩き出す。
何の気負いも無く。散歩でもするかの様に静かに。
ただ、その左手は腰の鞘に添えられている。
炎の手が、伸びる。
「飛燕!」
美しい斬り口を残し炎が消滅する。
悠然と歩く。
炎の狂人が剣を振るう。ゴウッと炎の奔流が迫る。
「疾風!」
目にも留まらぬ剣撃が炎を真っ二つに割る。
ゆるゆると、
炎の腕が三方から迫る。
「疾風...三連!」
一瞬で、同時に斬り裂かれる炎の腕。
とん。と男が立ち止まる。
そこは炎の狂人の目の前。
炎の剣が、腕が、手が、全てが襲い掛かる。
「疾風...乱舞!」
目にも留まらぬ居合いの乱舞が全てを斬り裂く。
炎を斬られた狂人はそれでも平然と立っている。
狂人の狂った目を平然と見つめ返し男が笑いながら言う。
「消し炭のくせに硬いな」
そう言って太く笑う。
月の名を冠した技がある。
降り注ぐ月光の下、編み出されたそれは幾つもの派生を持っている。
「月下...」
その一つ。最大の攻撃力を持つそれは、初光射す三の月。
「...三日月!」
地に美しい三日月を描き出す。
チンッと澄んだ鍔鳴りの音と共に狂人が上下二つにズレる。
ゴルジフは、夢でも見ているかのようにその光景を陶然と見ていた。
男が振り返ると共に、二つにずれた消し炭がサラサラと崩れ落ちる。
男が歩いてくる。
何の気負いも無く。ただそこに在る物を斬っただけかのように。
その姿は、夢で見た英雄のように、御伽話の勇者のように。
「契約成立だぜ」
その言葉で、現実に引き戻される。
「あ、ああ」
フジワラを見上げる。
「なんだよ、そんな不安そうな顔すんなよ。俺は別に何も望んじゃいねーから」
「なにも?」
「ああ、俺はスキルの迷宮に潜れればいいんだよ。あんたには何も望まない。ただ、俺が強い事はあまり口外するなよ」
「あ、ああ」
「後、今後試験は正式なルールに乗っ取ってやれよ」
「はい」
出口に向かって歩いていく。扉に手を掛け。
「ああ、あとさ、そいつら生き返らせてやれよ。命を掛けてあんたを守ったんだ。ちなみに、俺を殺そうとして配置してたんだろ?」
「そうだ」
「ふふん、いい部下だな。大事にしろよ」
扉が閉まる。
フジワラ、冒険者か。
なぜか不思議と不快感は無い。
掌の上で命を弄ばれたと言うのに。
いや、違う、フジワラも常に命を賭けているのだ。
だからなのか?
いや、納得できない。
悩んでいても仕方が無い、生き残っている者達に指示を出す。
全員生き返らせるには幾ら掛かるだろう、頭が痛くなる。
「原形を留めているものから司祭の所へ運びたまへ、代金はゴルジフ家が出す」
部下の意外そうで嬉しそうな顔を見ながら指示を出す。
フジワラのスキルの迷宮への挑戦許可が下りた。




