22:サムライ
扉を開け、門番をしている騎士にご主人様が大変な事を教える。
慌てて、試験場へと駆けて行く騎士を見送り、オッサンを扉の外の通路に放り投げる。
いや、オッサンじゃなければ丁重に壁に寄りかからせて座らせてたよ、うんマジで。
念の為、眠りの呪文で眠らせておく。これで気がついて戻ってくることは無い。
「さてと」
試験場に入り、扉を閉める。
一方的な殺戮が行われている。ただ、目を見張る点は、ゴルジフが部下達の指揮をきちんと取っている所だ。
俺を殺すために潜ませていた騎士や魔術師が全員、呪いで暴走したガロッチとの戦闘に参加している。
てか、やっぱ貴族ってクソだな。
試験場に入った時点で、気配察知スキルを発動し全ての隠れている者を把握していた。
なので、思わずオッサンに皆殺しにするかもとか口走っちゃったもんな。
まあ、丁度いいのが対戦相手だったから利用させてもらったけど。
「なあ、ゴルジフさんよ、」
「―――――」
指揮で忙しいらしい。振り向いてさえくれない。
けど、呪いに餌を与え過ぎるともっと強力になっちまうぜ。
荒れ狂う炎自体が意思を持ち始める。
腕から伸びた炎が騎士を飲み込む。
振られた剣から炎が噴出し、魔術師を焼き尽くす。
「…………」
背中から炎の腕が生え、近付くものを捕まえて燃やす。
「…………クッ!」
ガロッチの周りに炎のダメージフィールドが形成される。
「…………オイ、ここを死守しろ」
部下に指示を出し。扉へと向かう。
早足に歩く。
歩く。
歩く。
タッタッタッタッ!
走る。
チョイ、
足が何かに引っ掛かり盛大に転ぶ。
「何逃げてんだよ」
擦り剥いた鼻を弾かれる。
「アウチッ!」
すぐ隣にフジワラが嗤いながらこちらを見ている。
怖い!
怖い!
怖い!
こいつは駄目な存在だ!
係わってはいけない存在。悪魔だ!
「なんだよ、その目は。まさか今頃気付いたのか?」
「ア、ア、」
「もっと人を見る目を磨いたほうがいいぞ」
「ア、ハ、ハイ」
「もう遅いけどな」
悪魔が嗤う。
「ア、ア、」
「最後まで指揮を取って朽ちるなら、助けてやろうかと思った」
「ア、ヘ」
思考が停止しているゴルジフは無視して考える。
………………
…………
……
アイテムボックスから魔道具を取り出す。
「契約しようか」
「ア、ヒ?」
ただの紙に見えるこれは契約書だ。
隷属の首輪という物がある。
本人の意思と血で結ぶ、強制力のある奴隷の首輪。
これはその機能の廉価版。
「俺がアレを倒してやる。だからゴルジフは俺に忠誠を誓え」
「ヘ?」
「別にゴルジフ家を乗っ取ろうとかじゃない。ただ俺の邪魔をしなければいい」
「ハ、ヒ」
「グズグズしてると、手駒がなくなるぞ」
健気に戦っている騎士達はもう残り少ない。
「ア、ア、フジワラがガロッチを倒したら契約に従う」
ゴルジフの目の光が戻る。しっかりしてんな、こいつもさ。
「ああ、いいぜ。俺が倒せなかった時点で契約無効だ」
「分かった。契約する」
血の契約が結ばれる。
ま、契約といっても一方的なものだ。
本来なら貴族が平民に行う非合理な契約。それが行われただけ。
今回は俺が貴族の立場なだけ。しかし、今までその立場にいたゴルジフは俺がガロッチを倒したら契約に従うと明言してきた。
小賢しいが、しっかりしている。おそらく今まで言葉巧みに契約したら金貨を渡すとか言って金貨の部分を曖昧にして隷属のみの契約をしてきたんだろうな。
どのみち契約は履行される。
大地の剣をアイテムボックスにしまい。
童子切を取り出し腰に差す。
うん。
いいね。
しっくり来る。
「フジワラ、サマ」
「ん? 言葉使いは今までのままでいいぜ」
「フジワラ、お前は剣術を使えないのだろう? なのになぜ剣を」
「ああ、そうだな。俺は剣術は持ってない、けどな」
童子切の鞘を持ち、柄に手をかける。
刀を横に、鯉口を切る。
「飛燕!」
騎士を掴もうと伸びた炎の手が切断される。
「そ、それは、」
「刀術を持ってるんだわ」
男がニッと楽しそうに笑う。




