19:狂人
無言で歩くオッサンに着いていく。
「なあ、貴族様からオッサンのところになんか来たか?」
「無いな。しかし、こちらで把握しているフジワラの情報は全て渡っていると考えた方がいい」
「ザルだなー。内通者がいるのか?」
「内通というより関係者がいるといった方がいいだろう」
「ザルどころか、直通かよ! しっかりしろよオッサン」
「ここまでくるとどうしようもないわ」
「放り投げかい!」
「ハッハッハ、笑えてくるわ」
「まあいいや、ところでオッサンは最終試験見ていくのか?」
「そのつもりだ」
「そっか、最悪貴族の関係者皆殺しにするけど目を瞑ってくれよな」
「さすがにそれは笑えんわ!」
「てへ!」
「…………喰えない男だな、どこまでが本気かも判らん」
試験場に着く。
「…………」
無言で通せんぼする騎士二人。
「ワシも試験を見届ける。問題あるか?」
「だってさ、俺は通っていいだろ。どいてくれ」
「…………」
無言で退く騎士二人。なんだそりゃ!
扉を抜けると感じる、どす黒い気。
嫌な気だ。
わだかまっている所を見れば、一人の男がいる。
一目瞭然、今日の相手だ。
何人か会ったが、魔物を斬ってきた者と、人を斬ってきた者で違いが出る。
特に人のみを斬り続けてきた者は、存在自体が人に不快感を与える。
正に目の前の男がそれだ。
こちらを見る目には狂喜が宿っている。
人を斬れることに喜びを感じる狂った者の目。
セザールが居心地悪そうにしている。
そうだな、あの目は堪らないな。
「オッサン、俺から少し離れてろ。魔物は平気でもああいうのは慣れてないだろ」
「あ、ああ。落ち着かん。フジワラ、お前は平気なのか?」
「あー、そうだな。平気かな」
「凄いな、ではワシは少し離れておく。頑張れよ」
「ああ」
まあ、平気なわけ無い。狂人に見つめられて平気でいられる奴がいるのだろうか?
ほっほ、そんなに見つめられるとおもわず殺しちゃうぞ。
そう言いお茶目に笑うじじいの顔が思い浮かぶ。
「ブッ」
おもわず吹き出す。
そうだな。
男を見る。
ただの狂人だ。
そう、大したことの無い、ただの狂人だ。
「よー、試験受けに来たぜー」
少し離れたところにいるゴルジフ卿に声を掛ける。
俺に気付きこちらへ来る。
「よく来たねフジワラ君」
あら、口調が戻ってる。なんだ? もしかしてここでどうにかするつもりか?
てか、どうにかするつもりなんだろうな、あんなの連れ出してきてるんだから。
しかし、自分も怖がって近づかないとか、ちょっとあいつのに同情しちゃうぜ。
「試験の相手はあいつかな?」
「そうだよ、やはり分かるものなのかね」
「いや、あんたも近付き難いんだろ? 誰でも分かるわな」
「フフッ! 君に勝てるかな?」
自信満々だな。
「そうだ! ルールについて説明しなくてはね」
なんか変なルールでも思い付いたのかね。
「見たまえ、あれが公式ルールだよ!」
壁を指差す、ゴルジフ卿。
最終試験公式ルール:
その一・剣術スキルのみ使用可能。
その二・どちらかが死ぬか審判が降参を認めるまで試合続行。
「俺、剣術スキル持ってないんだけど?」
「んんんん? そうなのかね、それは残念だね」
「いや、あんた昨日聞いたじゃん」
「んーんー、覚えてないね」
「マジかよー、格闘術で戦っていい?」
「んんんん? それはダメだね公式ルールに則ってもらわないとね」
「えー、じゃあ俺スキル無しで戦えってこと?」
「ウフフフ、そうなるね」
おい、ゴルジフちゃん。感情押さえきれてないぞ。ウフフとかキモいぞ!
「小僧、安心しろ、殺さないように殺してやる」
どす黒い気を垂れ流す男が言う。意味わかんねー。
「ノンノン! ガロッチ、死なない程度にいたぶって降参させるのだよ」
「お前らそういう話は俺の居ない所でしろよ」
なんなんだ、いったいよ。
「ゴルジフ卿、いつからこんなルールが出来たのですか?」
オッサンも話に割り込んでくる。
「んん? セザール、何で君がここにいるのかね?」
「ワシは冒険者ギルドのギルド長だからな。冒険者の試験に立ち会うのは当然のことだ」
「今まで来たこともなかったのに?」
「…………」
黙り込むオッサン。一撃で論破されんなよ!
「文句があるなら、試験を受けなくてもいいのだよおお」
「いや、受けるから大丈夫」
「そうしたらスキルの迷宮に潜れないんだけどねえええ」
「いや、だから受けるって」
「どうするのおおお?」
「人の話聞けって」
「ん?」
「だから受けるって、剣術スキル無いから普通に剣で戦うけどいいんだろ?」
「うん。いいよ。けど他のスキル使った時点で失格だからね」
「了解だ」
大地の剣を取り出す。
これを使うのは久しぶりだな。
大地の剣、大地の鎧、大地の籠手が揃うことでセット効果が発動する。
おっと、そういえばそうだったな。同じシリーズの装備が三つ以上でセット効果が発動するんだった。
防御力が上がっちまったぜ!
「ケヒッ! 小僧、装備に頼るか」
言いつつ、炎を纏った剣を取り出す。あれは呪い装備。
「あんたも人のこと言えねーと思うが、しかも呪い装備かよ」
「キヒッ! 解るか、同胞の血を吸わせないと暴走する呪いよ」
狂人に相応しい装備といえる。
「んふ、準備は良いかな?」
満面の笑みで聞いてくるゴルジフ卿。
「ケヒッ!」
「いいぜ」
「始め!」




