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16:勧誘と罠

ポールとセザールのオッサンを見送り扉を閉める。

「待たせた」

ゴルジフ卿に声を掛ける。

「構わんよ。ここではなんだし、場所を変えようかね」

ゆっくり話がしたいようだ。まあ、付き合うか。


応接間と呼べばいいのか、オシャレなテーブルと椅子のある部屋に案内される。

「何か軽く食べるかね。お茶と軽食を用意したまへ」

質問しといて返事を聞かずに先に進めやがった。なにか盛るつもりか?

「腹は減ってない。それより、話というのを聞かせてくれ」


「そうかね、別に毒を盛ろうなどとは考えてないのだがね」

「そうか、だが何かあった後で、部下が勝手にしたとか言われても困るからな」

周りにいる騎士共が気色ばむ。

「……そうだね、君はどこかの家の子息なのかな?」

「家というのが貴族を指すなら、俺は平民の出だ。慣れているのはコレのせいで色々と貴族にちょっかいを掛けられているからかな」

コレとは光魔法のこと。


「それもそうか、ローランにいて蘇生魔法が使える冒険者など引く手数多だね。しかしDランクにいると言うことはどこにも属してないのだろう?」

「ああ、そうだな」

「………………フジワラ君、君を客として我が家に招き入れたいのだがね」

客と来たか。配下として雇いたいではなく、客として招きたいと。

「立場は、」

「招く以上礼を尽くすし、言葉遣いもそのままで問題ないよ。ただ対等というわけにはいかないね」

「では、断らせてもらう」

「ずいぶんあっさりと断るね」

「ああ、人の下には付かないと決めているんでね」

特に貴族の下などにはもってのほかだ。


雰囲気が変わる。


「僕はこれでも自分は人より寛大だと自負してきたのだけどね」

じゃあ、意見しただけの冒険者をあっさり殺すなよ。

「殺してしまうと光魔法のレベルが下がると思って気を遣ってたんだよ、君のためにね」

意味がわかんねーんだけど。

「君も困るだろう? せっかく苦労して上げたレベルが下がるのは」

「生き返った時点であんたに強制隷属させられてたら、何の意味も無いだろう」

「いやいや、僕の下僕になっても君の事は大事にするよ、戦えて回復も出来る人形なんてそうそう手に入らないからね」

下僕とか人形とか、趣味わりーな。


ていうか、俺のこと殺せると思ってるところが笑えるんだけどな。


「じゃあ、殺してみれば?」

殺そうとした時点で俺も相手を殺すけどな。

「大層な自信だね」

「別に、殺せると思っているならやってみればと言っただけだ。相手の力量も測れず戯言を抜かすなら身をもって知ればいい、殺しに来る相手を生かしておくほど俺は優しくないけどな」

「ゴミの癖によく言うね」

口が悪いぞゴルジフさんよ。

「クソにゴミとか言われたくないね」

俺のお口も暴走気味だな。



このまま行くと流れでこいつも殺しちゃいそうだ。



「あー、そうだ」

「…………?」

「言い忘れてたけど、俺エリック王子と面識あるんだわ」

わたくし王家の方から来ました的な!

「!!! なん、だと」

「それに、ローラン王家縁の者と親しくしててさ、武器とか下賜(かし)されたりしてるんだわ」

本当は、何でもするからそれ下さいって頼み込んだんだけどな!

「嘘を、つく、な、よ?」

「いやいや、ローラン王家にフジワラって知ってる? って質問してみ、まあ、ゴルジフ家が質問とかできる身分ならだけど」

ゴルジフ家は伯爵といっても下級の部類と判断している。理由は名前だけの騎士しか就いていない。騎士としてはそれなりだが、飛び抜けた者が居ない。ある程度の貴族になると必ずそばにとんでもない化け物がついていたりするのだ。つまり質問など出来ない!

「ムヌヌ」

ま、実際俺のパーティーメンバーの一人は先頃ローラン王家の一員になったからな。嘘は言ってない。



「と言う事だから、俺、合格で良い?」

ついでに明日の試験もパスさせていただこう。

「…………ダメだ、です」

敬語?


「試験は公式に決められたルールです。たとえ王家と縁がある方といってもルールは守ってもらいます」

「さっき、俺のこと試験しないで合格させたじゃん」

「一日目の試験は良いのです」

「そのルール今作っただろ?」

「公式ルールです」

「……わかった。明日ここに来ればいいのか?」

「はい」

頭を下げて、お待ちしていますと言うゴルジフ卿。


妙にしおらしい。何かありそうだ。けど、どうでもいいか。


「じゃあな」と言い、部屋を後にする。







――頭を上げる。

「ゴミ屑が!!!」

王家の名を出してきた。こちらがそうやすやすと確認など出来ないのを見越した上でだ!

「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス」


殺してやる!!!


「ガロッチを呼べ! 仕事だ!」

「ハッ!」


フジワラ、クソゴミが!

剣術を持ってないと言っていたな、丁度いい。

公式の場でボロ雑巾のようになるまでいたぶって、命乞いをさせながら殺してやる!


もし本当に王家にパイプがあったとしても、公式の試合で、正当なルールの下でなら問題なく殺せる。


最終試験公式ルール:

その一・剣術スキルのみ使用可能。

その二・どちらかが死ぬか審判が降参を認めるまで試合続行。


「試験会場の壁に貼っておけ、フフフッ、楽しくなりそうだ」


「僕がルールだ!!!」


ババーン!

と扉を開き歩み去る、ルールブック卿。


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