フルメタル・ランナーズ ~Prelude~ ②
央都地下都市・第五界層――
この『異界』は科学文明が高度に発達した近未来の成れの果てともいうべきものだ。
高度に発達した技術を用いた戦争は星に深刻な致命傷を刻み付け、深奥にて深い眠りについていた神獣を呼び起こした。
大海の覇者――グランギニョル。
人智を超越した怪物は、その身動ぎだけで大陸の四割を水没させ、人類の文明社会を崩壊へと導いた。
人口は激減し、数多の国が滅んだ。
かろうじて生き延びた人々はステンドグラスのように残る大陸で新たな集団を形成した。
あるいは、海の上に浮かぶ新たな街を造り上げた。
緩やかに時は過ぎ、生き残った人類は大きく三つの勢力に分かれていた。
惑星再生委員会。
賢人機関。
正統興国。
彼らはそれぞれの主張を以て、大海の覇者の殲滅を掲げた。
大海の覇者が護る『扉』を開き、新世界創世の資格を得るのだと――
神の怒りに触れてもなお、数多の困難に団結することはなく、人類は下らない争いを続けていた。
鋼鉄の鎧に身を包み、海に沈んだ世界の空で。
そして――
彼らもまたそれぞれの願いを胸に、ひとつの勢力に身を寄せて、創世の資格を得るべく戦いに身を投じていた。
● ● ●
『いつか……俺が、お前を殺す。
……だから、それまで生きていろ』
生きるためには、誰にだって理由が必要だ。
こんな世界だからこそ、理由がなければ生きていけない。
世界の大半は海に沈み。
滅びに瀕した人類は醜い争いを続け。
平和や平穏など泡沫の夢の如く儚きもの。
それでも。
あぁ、それでも――
彼の世界は貧しくても、確かな優しさに包まれていた。
親がいて。
友だちがいて。
満足に食べることは出来なくても、生きることに不満はなかった。
――あの日までは。
数十年をかけて、かつての大災害から復興しつつあった都市を襲った惨劇。
唐突に。
何の前触れもなく。
それこそ自然災害のように。
大海の覇者たるグランギニョルが、眷属を引き連れて降臨した。
空まで届くほどの無慈悲な大海嘯に家族が、隣人が――故郷が飲み込まれて逝く様を、彼は避難船の上で見ていた。
目を逸らすことなどできず。
心に致命傷を刻むほどに目に焼き付けていた。
胸に炎が宿る。
真っ黒な憎しみの炎が。
彼は運良く生き残った。
彼は死に損なった。
だから、死んでしまった者たちの分まで生きなくてはならない。
生きるためには、誰にだって理由が必要だ。
故に――
彼は沈み逝く都市を背に去っていく大海の覇者に、復讐を誓った。
傍らで泣き崩れる少女の小さな手を握りながら。
● ● ●
孤狼と01の帰還の報を聞き、武道は格納庫へと向かった。
全長三百メートル級の巨大な戦艦――『女神の祝福』の格納庫はだだっ広く、主力兵器である数多の『A・A』がずらりと並んでおり、整備兵が忙しそうに走り回っている。
さほど探す必要もなく、クリップボードに挟まれたチェックシートに記入している二人を見つけた。
『A・A』専用の戦闘服を着崩し、汗に濡れた髪を煩わしそうに掻き上げたりしている。
「おかえり。ご苦労様」
「ああ。」
素っ気ない返事で応じたのは、『01』こと水希縁。
書き終えたらしい書類を傍らの整備兵に渡してから、武道に向き直る。
わりと人畜無害そうな外見の優男なのだが、『一人軍隊』などという二つ名で呼ばれるこの特殊部隊でもトップクラスの実力者だ。
『A・A』乗りとして卓越しているのもさることながら、兵士――あるいは傭兵としての『生き残る』能力も群を抜いている。
この部隊における『最強』の一人は、間違いなく彼だろう。
人間離れしているという自覚のある武道でさえ、正面からならともかく、搦め手込みでの戦闘となると勝利の自信はない。
「おう」
面倒くさそうに書いていた書類を投げるように整備兵に渡した『孤狼』こと日歩宗次は、その場にあった空の弾薬ケースに無造作に腰かける。
灰色の髪に三白眼――凶悪そうな表情をした長身痩躯。ジャラジャラとしたシルバーアクセサリーを腰に下げているが、邪魔ではなかろーかと余計な心配をしてしまいそうになる。
「成果の方はどうだい?」
ともに今は『上』の住人。
ともに同じ年ごろ。
ともに同じ学園で同じクラスの同級生。
現在の境遇に至るまでの時間差はあるものの数奇な関係を築いたものである。
「問題ない。殲滅した」
「少しは逃げた奴もいるだろうが、施設の方を完全破壊しておけば、わざわざ探し出す必要もないだろうよ」
「それはなによりだね」
所詮は反重力推進システムも搭載していない旧式の『A・A』を主力としているような弱小組織に過ぎない。壊滅的な被害を受けてしまえば、再起は不可能だろう。『上』から降りてきただけの迷子に過ぎない彼女から得られた知識や情報も大局を動かすに足るものではなく、多少の情報漏洩は微々たるものだ。
救出できれば、それで最善の結果。
「……にしても、ああいう連中が増えたな」
不快さを滲ませた調子で、宗次が吐き捨てる。
「仕方あるまい。『仮面の軍勢』の台頭は、従来の三大勢力間の構図を大きく書き換えた。燻ぶっていた連中が『我も我も……』と血気盛んになるのも自然な流れだろう」
「煩わしいがな」
「それは否定しないが、こちらとしては地道に叩き潰すしかない」
「連中のいいように使われるのも不快だがな」
「だが、奴らが情報を流していなければ、無辜の迷い子は哀れに食い潰されていた」
「わかってはいるんだがな」
ため息交じりに、宗次は肩をすくめる。
「それにしても『仮面の軍勢』か……」
惑星再生委員会。
賢人機関。
正統興国。
数十年にも及ぶ『創世の権利』を賭けた三大勢力の戦争に介入してきた新興勢力。
今現在における規模は然程のものではないのだが巧みな戦略・戦術により、漁夫の利狙いに近い形ではあるが様々な勝利・快挙を成し遂げており、もはや無視できない勢力として注目されている。
人間同士で無駄に争いを続ける停滞した戦線を唾棄すべきものとし、彼らよって大海の覇者に護られた『扉』を開き、世界を新時代へと導くことを主張している。
無論、武道たちからすると綺麗事を並べるテロリストに過ぎないが。
今回の作戦は、裏からではあるが『仮面の軍勢』からの情報提供によるものがきっかけとなっている。
自らは動かずに、他を動かすことによって望む結果を得る。
決して愉快ではないが、武道はそれで救える者がいるのなら、それでいいと思わなくもない。しかし、縁や宗次は同意見ではないだろう。
それでも動く辺りは割り切りが出来ているのか、単にお人好しなだけなのか。
判断の難しいところではある。
「……あぁ、それで迷い子の方はどうなんだ?」
「なんとか大丈夫そうだよ。『上』に送り返せば、回復するだろう。薬物投与による意識の混濁もあるが、致命的なところまでは進んでいない。不幸中の幸いだね」
「そりゃなによりだ。連中の情報に動かされて、無駄手間でしたじゃ目も当てられん」
「しかし、相変わらず不思議なものだ。『上』と『下』の境界線を越えれば、『下』でのダメージを持ち越さないというのはどういう理屈なんだかな?」
「……『下』で生まれ育ったお前が理解できないことを、『上』育ちの俺にわかるわけがねぇだろ」
央都という世界の中枢である大都市の地下には、多くの者が知らぬであろう広大な迷宮が広がっている。
それは央都という『表』の輝きの『裏』にある『闇』であると同時に、深く潜れば潜るほどに境界線を揺るがす『異界』にも繋がっている。
第一界層。
第二界層。
第三界層。
第四界層。
異なる世界であるからこそ、階層ではなく、〝界〟層と呼称しているのは、単なる言葉遊びの範疇ではあるのだが。
今のところ、他の界層に踏み入る機会を得られていない武道だが、聞いた限りでは様々な形で滅んだ後の世界であるらしい。
さながら廃都の如く。
そして、第五界層は海に沈んだ世界。
これもまた滅びに直面はしているが、この『異界』に生きる人類は未だに存続している。怪物と戦い、その果てにあるものを求めながら、人間同士でも争っている醜悪な世界だ。『上』に比べれば、その総人口は半分以下どころではない。
そんな異界に降りてきた『上』の住人は、そこで死なない限りは『上』に戻れば、あらゆるダメージが回復するとされている。
精神面までは保証の限りではないし、明確なルールが提示されているわけでもないが、骨折程度なら問題ないのは確認済みだ。
ミリアも自分を失うほどに壊れ切っているわけでもないので、なんとかなるはずだと楽観している。
可能な限り速やかに『上』に搬送し、『神の手』に委ねれば、きっと日常に還れる。
「異なる理屈……という奴か」
「ん? なんだ?」
「この『異界』は『A・A』を筆頭に、高度に科学技術が発達している。だが、『上の異界』に関しては定かではない。少なからぬズレを感じさせるものだ」
「流石に全ての界層を踏破してる男は言うことが違うね」
縁の生存能力の高さは、そうした経験から得たものなのだろう。
「俺はまだ第三界層までだな」
「君は好奇心旺盛だねぇ~、日歩くん」
死の危険性があるようなところに、ピクニック気分で足を運ぼうとする彼の神経はあまり理解できない。『A・A』を持ち込めるわけでもないので、なおさらだ。
「うるせぇよ」
ニヤリと唇の端を吊り上げる宗次。
「どちらにせよ、我々に理解できるようなことではなかろう。謎解きは暇な奴らに任せるとして、俺たちは任務完了の報告だな」
「そりゃ大変だな」
「ちなみに、指揮官殿は食堂でお待ちだよ」
「成程。少しはご馳走を振る舞ってもらえるのかね?」
「説教なら振る舞ってもらえるだろうな」
「うへぇ……」
整備兵たちに見送られる武道たちは口々に言いながら、格納庫を後にするのだった。
● ● ●
『俺の探し続けた『青い鳥』は、必ず〝ここ〟にある』
生まれた瞬間から、ハズレの人生を掴まされていた。
だからこそ、ずっと『何か』に飢えて、それを埋められるモノを探し続けていた。
アイツがそうかとも思ったが。
どうやら違うらしい。
いや、違うわけではないのだろうが、俺が探していたものではなかったというだけ。
願い、求め、彷徨い……。
辿り着いたこの『異界』に、きっと〝それ〟はある。
――必ずある。
そんな不可思議な確信がある。
だから……。
だから、だから、だから………。
血沸き肉躍るこの戦いの果てに、俺は〝それ〟を手に入れる。
手に入れた時、俺はやっと―――――――――
● ● ●
大陸の大半が水没し――
『A・A』が台頭したことにより、人類の主な移動手段は船が選ばれた。
輸送ヘリや航空機などによる移動手段もないではないが、主に安全地帯に限定されたものとなっている。
それというのも、反重力推進システムにより『A・A』は空を舞う翼を得、高速移動と遠距離攻撃も可能としているため、戦場における優位性は圧倒的な地位を確立しているからだ。
であるならば、その輸送には頑丈で容易に沈まず、数多の戦力を格納できる軍艦が選択されるのは自然な流れであった。
無論、大海の覇者たるグランギニョルとその眷属の脅威も忘れてはならない。
故に、船に潜水機能も必須となり、長期間の運用が可能なようにある程度の自給自足能力も求められる。
正統興国第十三特殊作戦部隊・通称『問題児部隊』に与えられた全長三百メートル級の最新鋭の戦艦――『女神の祝福』はそうした要求に応えられる代物だった。
今の静音性の高いステルス航行で海中を進んでいる。
ただし、このご時世では食糧事情だけは如何ともしがたく、味も素っ気もない栄養補給だけを目的としたレーション類が基本となる。ご馳走と呼べるものにありつけるのは本国に帰還した時か、補給を受けた直後ぐらいのものだ。
そのような軍艦の食堂に活気などがあるはずもなく、飯時を外れているとあっては人気もほとんどない。
そんな食堂の片隅でテーブルの上に書類を拡げ、レーションをもそもそと口に運んでいる少女が一人。
長い金髪に碧眼。整った顔には難しげな表情が浮かんでいる。
かっちりと軍服に身を包んではいるものの、年齢はまだ学生ぐらいであり、着慣れているというよりも着られている感が強い。
だが、そんな見た目で彼女を侮る者は、この船には一人もいない。
彼女こそが『女神の祝福』の艦長であり、第十三特殊作戦部隊の指揮官も務めている少女なのだから。
名をレイラ=ホーンウェル。
齢十六にして、三大勢力間に名を馳せる才色兼備の天才少女であった。
ただし――
そんな彼女も通称『問題児部隊』の面々には、大いに手を焼いているのだが。
「うぃ~す。帰還しました、指揮官殿」
敬意の欠片もない――が、軽い親しみを宿した声で、適当な敬礼をしながら宗次が食堂に入ってくる。
その後には、武道と縁が続いている。
「おかえりなさい。
とりあえず、そちらに座ってください」
読んでいた書類を裏返しにして、レイラは彼らに視線を向ける。
「へ~い」
「はい」
「了解しました」
それぞれが椅子に座る。
「まずは無事の帰還に安心しました」
「まぁな」
「容易いことだ」
「………………。」
疲れた顔を無理矢理笑顔にしている感のあるレイラの言葉に、宗次は気にした素振りもなく、縁は当たり前のように応じ、武道はそっと視線を外した。
「でも、こちらで作戦を立案している段階で、勝手に船を降りての独自行動。及び『A・A』の無断使用。あまつさえ、妖精――エリーさんまでも動員したことに対する言い訳を聞かせてもらえますか?」
にっこり笑顔。
ただし、全体的に笑っていない。
間違いなく怒っているのが誰の目にも明らかなのだが、三人はそれぞれの形で意に介していない。
「これは明確な命令違反ですよね?」
そう。今回の作戦は、概ね上からの命令を待たずに、武道たちが独断で動いたものだ。
情報提供先が『仮面の軍勢』という時点で、いろいろと裏を勘繰り、上が二の足を踏んでしまうのは自明である。連中はブラフも織り交ぜた情報をばら撒くことで、敵対勢力に混乱を生み、その隙を狙って漁夫の利を得るのが常套手段なのだ。
指揮官であるレイラや副官たちが慎重になるのは当然であろう。
「それは違う。そもそもあの段階では何も命令などされていないのだから、何も違反してはいない。俺たちは急遽訓練したい気分になったから、使用許可を後回しにして近くで『A・A』を使った演習を行っただけだ」
「そういうことだな」
言い訳にすらなっていないことを言う宗次。
いつもの事だと言わんばかりに、指揮官の憤慨を受け流す縁。
「ごめんなさい。居ても立ってもいられずに、つい単独で敵地に潜入しました。作戦を少しでも有利にするための情報収集だけのつもりだったんですけど、それだと迷い子が手遅れになりそうだったので、自分の判断で動きました。敵戦力は予測の範疇であり、彼らの援護があれば殲滅は可能として、救援を要請したんです」
武道だけは真面目に頭を下げる。
彼なりの理由は、あくまでも個人のものである。
軍属であるならば組織の方針に従うのが道理。
ましてや、独断での単独行動など言語道断というべきではあるが、待つことで失われるものに耐えられなかったのだ。与えられた情報がブラフであったならば、それでよし。だが、事実であったならば、それを見過ごす理由などありはしない。
「たまたま近くで演習をしていたのが功を奏したな」
「うむ。」
「ピーキーな侍型の実戦データも得られたので、技術班は喜んでいたぞ」
「あ~~~~~もぉぉぉぉ~~~~~~~~~~っ!! どうして、そういつもいつも私の指示を待たずに勝手に行動しちゃうんですかぁぁぁっ!!」
こめかみの辺りをピクピクさせながら、彼らの話を聞いていたレイラだったが、あっさりと我慢の限界を迎えた。
テーブルをバンと叩いて、書類を舞い散らせながら腰を浮かせる。
明らかに怒っていますという態度だが、見た目に威厳が足りていないために、宗次と縁はやはりどこ吹く風と受け流し、申し訳なさそうにするのは武道だけ。
その武道とて反省はしても後悔はしていないので、実質的に彼女の言葉は誰にも届いていなかった。
食堂で休憩していたりする隊員たちが同情的な視線を向けてくるのが、やたらと悲しいレイラだった。
「上の連中がトロトロやってるから?」
ともあれ、レイラの訴えに応じる宗次。
軍属のセリフではなかった。普通に懲罰ものである。
とはいえ、『問題児部隊』などと揶揄される所以でもあるので、今さら武道たちは驚いたりはしない。
「せめてもう少しマトモな言い訳をしてくれませんかねっ!」
「お前らの判断を待ってると、哀れな迷い子が精神崩壊して、ついでに人生終了になるから、そうならないように先手を打ったんだよ。先手必勝とはこのことだな」
「味方にも先手を打たないでくださいっ!」
「だから、俺たちは腕が鈍らないように訓練してたんだって。そしたら、武道から救援要請が来たから仕方がないんだ」
「どう考えても計画犯の手際ですよね? 整備班にも根回しが済んでましたしっ!?」
「そこまでわかってるなら、ちょちょいと書類を捏造して、最初から『計画通り☆』な感じにしたら万事問題なしだよな。これでまたあんたに功績が溜まるな。昇進おめでとう♪」
「止めてくださいっ! こんなおっきい船と五百人単位の人を指揮するだけでも私には荷が重すぎるんですよっ!!」
「いつもの事だろう?」
「あんたの地位が向上すれば、それだけ俺たちは好き放題できるしな。なにしろ、正規の命令系統からはある程度まで独立している部隊だ」
「誰のせいですかっ!?」
以前より似たような事例を頻発させているために、正規の部隊から外れた位置に置かれ、難易度の高い作戦行動ばかりを上から命令されるようになっているのが、第十三特殊作戦部隊の実情である。
端的に、厄介払いと厄介事の押し付けがセットになった捨て石部隊ともいえる。
ただし、普通に無理難題な作戦を幾度となく成功させ、死地からの生還も繰り返しているために指揮官の功績はやたらと称えられ、昇進を重ねていたりする。
レイラとしては決して望んだ地位ではないのだが、いつの間にか完全に逃げ道を塞がれた形であった。
部隊のみんなに。
「まぁ、結果オーライだからいいじゃねーか」
「それで片付けるために、私はこれから大量の書類を処理しなくてはいけないのですが……」
恨みがましく宗次を見つめるレイラだった。
「俺たちのために頑張ってくれよな」
「うるさいですよ」
しかし、そうしていたところで事態はいくらも進展せず、こちら側には損害もなく無事に作戦も終了している。
結果だけを見るなら最善だ。
三大勢力の均衡を崩した『仮面の軍勢』の台頭は、燻ぶっていた中小組織に余計な熱を与えてしまっている。今回の一件もそうした連中の暴走に近いものであり、それは各地で頻発している事態でもあった。
遅かれ早かれ対処が必要だった事例であり、小さな火種を消せたのは喜ぶべきだろう。
「とにかく、そういうわけですので、ちゃんと辻褄を合わせた報告書を提出してください。二時間以内でお願いします。特に日歩くんは以前のように適当に書くと艦内のトイレを全部掃除させますからそのつもりでお願いします」
「そりゃ大変だな」
「「イエス、マムッ!」」
どこまでも他人事風味な宗次と敬礼を返す武道と縁。
艦長兼指揮官の苦労は絶えないのであった。
● ● ●
『……まぁ、そうだね。
オレは大事な友だちを守れるだけの『力』が欲しかったからかな』
生きるためには、誰にだって理由が必要だ。
それと同じくらいお金も必要だ。
彼は孤児院育ちだ。
本当の両親の顔も名前も知らないが、それを不幸だと思ったことはない。
孤児院という単語から想像するものよりも遥かに立派なところで、同じ境遇の家族と仲良く育ててもらえた。
それなりの年齢になったところで孤児院を出てからは、それまでの環境から一変した過酷な生活に身を置くことになってしまったが、生きるためには仕方がなかった。
……実のところ、うっかり騙されてしまったっぽい。
そうでもないと『傭兵』なんて選択肢はないのだと思うけれど、お金を稼ぐためにはいろんな意味で手っ取り早そうだと思ってしまったのだから仕方がない。
ある意味では迂闊と自業自得のコンボでしかない。
ともあれ、不幸中の幸いで今もまだ生きている。
いろんな才能というか……常人離れした身体能力が開花もした。
深く。深く。深く。
どこまでも深い世界の中枢の地下にある迷宮の最奥を目指して、この海に沈んだ『異界』にまで辿り着いた。
終わりかけた世界の復興とか。
大海の覇者を倒して、新世界の創世とか。
正直なところ、そんなのにはあんまり興味がないけれども……。
孤児院にいた頃の二人の親友とはまた違った形の――
戦友たちとともに。
幼なじみに誇れる自分でいるために今日も戦いだらけの異界で生きている。
後編と言ったな?
アレは嘘になってしまった。
………………ごめんなさい。許してください。
でも、この話投稿した時点でいろいろとアレにはなっちゃいましたけども。




