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一年B組の学園祭 ~暗躍する地味な没個性~ First Chapter(4)






 昼休みが終わって、午後の授業中。


 とりあえず、協力者候補として皇くんを狙い撃ちすると決めた僕は、機械的にノートを取りながらブツブツと作戦を考えていた。


 皇くん――こと、(すめらぎ)(みかど)


 通称『皇帝(こーてー)陛下(へいか)』。


 少し陰のある大人びた印象のある横顔が美形なクラスメート。夕焼けに照らされながら頬杖を付いて、遠くを見つめている姿がとても絵になる感じだ。


 肉付きが薄く、一見すると優男風なんだけど、スイッチを切り替えるように怜悧な空気を纏うので侮ったりしてはいけない。


 まあ、もっとも天城財閥麾下十二企業の一角――『皇グループ』を束ねる一族の一人で、若いながらもグループの一部を任されている若社長としての顔も持っているので、侮れるようなタイプでは絶対にないけども。


 性格的にも能力的にも人の上に立つタイプ。


 冷静沈着で取捨選択が明瞭で早く、不要と判断したものには一切頓着しない現実主義者(リアリスト)


 ………………。


「う~ん。」


 普通に考えても難易度が高いのに、現状のグダグダ感漂う学園祭の手伝いプリーズなんてお願いを聞き入れてもらえる未来が微塵も想像できない。


 ちらっと背後――教室後方を肩越しに見やる。


 長机の一つを占領している書類の束――というか、山……いや連なる山脈。


 ある程度のデータ化が進んでいても、やっぱり紙の需要も現役みたいだ。


 その山の向こうではパソコンで会議をし、電話で指示を出したりしながら、承認・未承認をほとんど一瞬で判断し、判子を押したりしている皇くんの姿があるんだろう。


 この学園は成績優秀者にはかなりの優遇措置が与えられるので誰に文句を言われるでもなく、選択授業で取っている政治・経済・経営に関しては教師から三年間免除のお墨付きをもらっているとかで、彼にとっての学園生活は『仕事』の延長線上にあるみたいな感じだ。


「う~ん。」


 どう考えても正攻法で『うん、いいよ♪』という返事はもらえそうにない。


 だったら、搦め手で攻めるしかないけれど、海千山千の詐欺師じみた大人(偏見です♡)を常日頃から相手にしている百戦錬磨の皇くんを簡単に罠に嵌められるとも思えない。


 ………いや、我ながらなんか発想が黒いな。


 うん。まあ、やっぱり気楽にいこう。


 ここで悶々と考えているだけでは何も打開策は思い浮かばないので、まずは当たって砕けてみよう。


 まずは皇くんを理解するのが第一歩だ。


 毎朝挨拶を交わしている程度の関係では理解が浅く、傍から見ている限りでは多忙そうだなぁ~くらいしか彼が見えてこない(・・・・・・・・)


 面と向かって会話をしてこそ、相手を理解するための第一歩。


 まずはクラスメート=知人の関係から、友人へとステップアップしよう。


「うん。よし」


 方針が決まったことで、肩の力が抜けた。


 ここから先は授業に集中しないと――――


「なんか悪企みでもしてんのか?」


 ――なんて思っていたら、隣から少しからかうような意図を含んだ声をかけられた。


「悪企みなんて、人聞きが悪いなぁ……」


 左側に視線を向けると、ラフに制服を着崩している灰色の髪に三白眼という凶悪な人相をした親友が、悪戯っぽい眼差しを向けてきていた。


 日歩宗次。


 家庭の事情で我が家に居候していた時期がある家族も同然の幼なじみだ。


 誕生日の都合で『弟』に当たるのだけど、飽きっぽい反面天才肌なので彼の『兄』扱いされると肩身が狭くなったりもする。


 言うほど気になることではないけども。


「お前がそういう目をしてる時は、矛先が向いた相手はロクな目に遭わないってのが、俺の経験なんでな」


 宗次のズボンに下げられたシルバーアクセサリーがチャリッと音を鳴らす。


「どんな目だよ」


 苦笑しながら、シャーペンをくるりと回す。


 飽きっぽいせいでいろいろと目移りする宗次の趣味の遍歴のせいで、昔からいろんなトラブルの渦中に放り込まれてきたんだから、そういう発言は僕こそが贈ってやりたい。


「難題を前にして、積極的にその解決に乗り出そうとしている時の目だな」


「さすがは宗次。家族を見る目が養われてるねぇ……」


「………っ」


 眉をピクリと動かす宗次。


 素直になれない天邪鬼な宗次は、ストレートな言葉に弱い。


 悪ぶっているのに、根っこは善人気質なのである。


「……最近は知り合いの骨董品屋に入り浸っているからな。それなり以上に観察眼が養われている自覚はあるぞ」


「まぁた、新しい趣味に移行したのかい?」


 ついこの間まで、ボトルシップをやってたはずなんだけど……。


 それがどういう経緯を辿れば、骨董品に行き着くのだろう。


 むしろ、そっちの疑問が根深い。


「壷はいいぞ」


「相変わらず、斜め上だなぁ……」


 これはそう遠くない将来、そのお店に連れ込まれて真贋判定ゲームとかやらされそうな予感がする。


 骨董品なら僕は壷よりも、西洋系の茶器が好みだ。


 母さんがそういうのを集めていて、いろいろと教えてくれたから。


「で?」


「で、とは?」


「何に首を突っ込んだかって聞いてるんだ」


「あぁ、それね。学園祭絡みで白石くんたちに協力することになったんだ」


「なんでまた?」


 訝しげに眉間に皺を寄せる宗次。


「端的に言うと、偶然の産物かな」


 お昼休みの出来事を簡単に説明すると、宗次は呆れたように嘆息した。


「またとんでもない無理難題に、首を突っ込みやがったな」


 机の上に脚を乗せて、あまつさえ組んだりする。


 長身で脚も長いので無駄に様になっているけれど、普通に授業中だぞ――なんて注意をしても無駄だし、このクラスにおいてはその程度は『個性』にすらならない。


 せめて、教室の隅で悪魔召還の儀式みたく、中のどろりとした極彩色の液体が湯気を立ち昇らせている怪しげな釜を囲んで怪しげな呪文を詠唱している『嫉妬団』の面々ぐらいでないといけない。


 ちなみに、さっきから釜の中には学園のイケメンランキング上位者の写真が放り込まれていたりするんだけど、補足以上の意味はない。


 あ。ズタズタに刺し傷のある室井くんの写真も放り込まれた。


 ドス汚く病んだ闇の温床みたいな一角は、完全に隔離されてるみたいな空気で、教師も見向きさえしない。


「そうかな?」


「自覚がないとは言わせんぞ」


「大変だとは思うけど、無理難題だとまでは思ってないよ」


「お前がそういうならそうかも知れんが、なんか展望はあるのかよ?」


「いや、今のところはさっぱり」


 首を左右にブンブンと振る。


 自信を持って、口に出来るような展望はまだない。


「おい。」


「ついさっきの昼休みに決まった話なんだよ。まだ一時間も経ってないのに、いきなり天啓みたいに全てが丸く収まるような名案を閃くわけがないじゃないか」


「あぁ、まぁ、そうかもな」


「とりあえずは現状把握を優先しつつ、ウチのクラスで何をやるかを決めるのが先決だとは思ってるけどね。あとは協力者の確保かな」


「協力者、ねぇ……」


 あからさまに面倒くさそうに言う宗次。


「宗次は協力してくれるよね」


 次に続く僕の言葉を予想しているような感じだったので、期待に違わないように言う。


「さっそく他力本願かよ」


「僕の十八番(オハコ)だよね」


「誇らしげに言えることか」


「僕の特技に近い感じになったのは、そもそもが宗次のトラブルを誘発する体質のせいじゃないかと思うんだよね」


「俺を塚原みてぇに言うんじゃねぇよ」


 手鏡を手に自分が最も美しく映える角度を研究している様子の我がクラス一の美男子(笑)に視線を向けながら、宗次が嫌そうに言う。


 うん。まあ、アレ……じゃなかった。


 彼と同類みたいに言われると微妙な気分になるよね。


「あっちの方が限度を超過してる感はあるけど、個人的な感覚では似たようなもんだよ」


 今までに宗次の『趣味』が巻き起こしたトラブルの数々を思い返しながら言う。


「地味にショックだな」


 宗次は手で顔を覆いながら、天を仰ぐ。


 本気で不本意そうだった。


「で、俺は何をすればいいんだ?」


「特に今は何も。」


 何かをする以前の問題で、何をするかを決めなくてはいけない段階なのだ。


 きっぱりと動きようがないというか、わざわざ動いてしてもらうことがない。


 宗次に皇くんのところに協力の嘆願に行ってもらったとしても、門前払いの未来しか見えないし。


「そうか」


 ほっとしたように肩の力を抜く宗次。


「でも、協力が必要になった時は、いろいろと頼むよ」


「お前の今までのアレコレを考えると安請け合いはしたくないが……」


「宗次の今までのアレコレを振り返ると、簡単には返しきれないぐらいの〝貸し〟が溜まっていると思うんだけどね」


「わかったわかった。ほどほどに頼むぞ。俺はいま骨董品で忙しいからな」


 適当な了承の返事をすると、宗次はそのまま居眠りの態勢に入る。


「はいはい」


 くるりとシャーペンを回して、中断していたノートへの書き込みを再開――


「さっきから何をブツブツと話しているんだ。授業中だぞ」


 しようとしたら、今度は右隣からお声がかかった。


 二人分ほどの距離を狭間に置いて、真面目にノートを取っているイケメン――中学二年から付き合いのあるもう一人の親友である御影翔悟が眉間に皺を寄せながら、をじとっとした眼差しで見ていた。


 長身痩躯で眉目秀麗。


 成績優秀で運動神経は抜群。天は二物も三物も与えたイケメン男子の標準仕様(スタンダード)


 おまけに、特技は家事全般で、趣味はデザート作りという主夫の素質もこれでもかとばかりに詰め込まれている。


 天城学園の『旦那にしたい男子ランキング』の上位に一年ながらも堂々と名を連ねている。


 当人はとっても嬉しそうだったのを申し添えておく。


「わかってるよ」


 ノートへの書き込みをしながら、僕は悪びれずに応じる。


 悪いと思っていないわけではなく、彼の言動はどちらかというと遠回しに宗次に告げている言葉なのだとわかっているからだ。


 寝たように見せていても、宗次は本当に寝入っているわけではない。


 宗次は天才肌だからわざわざノートを取らなくても、必要なことはきっちりと聞いただけで記憶しているのだ。


 素直じゃないから、悪ぶった態度を取りたがるだけで。


 ………まあ、翔悟の『忠告』に耳を傾けてはいないだろうけど。


 二人は犬猿の仲なのである。


 僕を間に挟んでいないと、すぐに揉めだすんだよねぇ……。


「だったら、授業中の私語は慎むべきだ」


「それに関しては不徳の致すところではあるけれど、君の横で君の肩を借りて完璧な熟睡をしている彼女にも一言あってしかるべきじゃないかと僕は思うんだよね」


 翔悟の肩に体重を預けて、気持ちよさそうな寝息を立てているのは羽柴美命。


 翔悟の幼なじみで、小柄で童顔でロリ巨乳という妹の友だちを彷彿させる体型をしていた――のだけど、最近は遅めの成長期がきたのか背丈がちょっとアップしている。


 長い髪を適当な感じに束ねているので、毎日の髪型が安定しないのが特徴だろうか。


 大人しくて引っ込み思案という内向的な性格で、成績はそこそこだけどやる気がちっとも存在せず、運動神経にいたっては完全皆無というわりとダメな感じを濃厚に漂わせるクラスメートである。


 翔悟がいろいろと面倒を見ていなければ、とっくに引きこもりになっていただろうともっぱらの評判だ。


 うん。僕もそう思う。


「美命に関してはもう諦めている。

 俺があいつの分も頑張ればいいだけの話だ」


 憂鬱そうな吐息を漏らしながら、二つのノートにシャーペンを走らせている。


 面倒見のよさもここまでくれば天晴れだけど、それが美命を堕落させている要因の一環であるのも事実なので、なんともコメントに困る。


「いや、それじゃいかんでしょ」


 苦言を呈するつもりで口を開いてみれば、


「わかってはいる。わかっては……いるんだっ」


 苦悩を絵に描いたような表情で、翔悟は苦しげに声を吐き出す。


 途轍もなく無駄なシリアスだった。


「ともあれ、あいつと何を話していたんだ」


 しかし、それも数秒と続かない。


 さっきまでの会話を完全にリセットしたような気安さで、翔悟が問いかけてくる。


 深く考えたくないんだね。


「ついさっき私語を慎めといった口から、私語を継続させる言葉が出るとは思わなかったよ」


「多少の息抜きは必要だ」


 ため息を吐く翔悟の視線は、教室の片隅で今も行われている『嫉妬団』の悪魔召還の儀式(?)に向けられている。


 まあ、あんなん見ると気も抜けるから、ついでに息も抜きたくなるよね。


「それに、お前が考え込んでいる姿を見ると妙な不安に駆られる。早めに事情と状況を把握して、心の準備はしておきたい」


「僕がトラブルメーカーみたいな言い方は止めて欲しいなぁ……」


「そうは言っていない。お前はどちらかというとトラブルを解決するタイプだが、ふと気づけば物事の中心近くに無風状態で居座っているようなところがあるんだ。ある意味においては、トラブルメーカーよりもタチが悪い」


「いまいちよくわからない例えだね」


 あと、フォローされてるような感じで、結局は貶されたような気がするんだけど。


「それがお前ということだ」


「ふぅん……」


 やっぱりよくわからない。


 とりあえず、僕の置かれている現状の説明を求められているのだから、そっちを優先しておくのが無難だろう。


 翔悟にも後々には協力をしてもらうつもりだし。


「――というわけなんだ」


 そんなわけで、宗次にしたのと同じ説明を手短にした。


「また途方もない無理難題に飛び込んだものだなぁ……」


 宗次と似たような反応だった。


「翔悟もそう思うのかい?」


「こんな個性の塊みたいな連中を一丸にまとめられそうなイベントを考えるだけでも億劫なのに、さらにこんな個性の塊のような連中と一丸になって学園祭に望むとか、考えただけでも頭が痛くなるぞ。発生するのが確定したトラブルの対処に奔走しているだけで、何も出来ずに学園祭があっさり終わりそうだ」


「……ふむ。」


 翔悟の言葉には、一理ある。


 やはり懸念となるのは、団結を阻害するクラスメートの個性と人間関係ということか。


 企画するイベントの内容次第だけど、人員の配置にも相当の気を遣わないと学園崩壊は少し言い過ぎにしても、教室の消滅ぐらいは普通に起こりそうだ。


 普通の学校とかなら懸念にすらならないことを心配しなくてはいけないのが、ウチの学園の――もとい、ウチのクラスの特異性なんだよねぇ。


 普段なら巻き込まれないから放置しておけばいいんだけど、今回のようなケースだとそういうわけにもいかない。


 みんなに自制を促せるだけの大きな後ろ盾が必要だ。


 それも一枚だけでは到底足りない。


 やれやれ。前途多難だなぁ……。


「それで何か展望はあるのか?」


「一応、少し考えていることはあるよ。

 でも、まずは地道に一つ一つ積み上げていくしかないね」


 軽く肩をすくめる。


「俺に何か手伝えることはあるか?」


 頼むでもなく言い出してくれる親友に、素直に感謝です。


「今は特にないかなぁ……。

 まだまだ準備段階だし、何をするかも決まってない段階だからね」


「わかった。俺の手が必要になったら、いつでも言ってくれ」


「今は手じゃなくて、企画のアイデアを出してくれるとうれしいかな」


「個人的には、室井たちの企画案――『喫茶店』あたりが無難だと思っているがな。学園祭は五日もあるんだ。奇を衒ったイベントを企画したとしても、それ一つだけでは余程でない限りは五日も保たせることはできない。何が受けるかも不透明な昨今の風潮で賭けに出るよりも、ウチのクラスの無駄に豊富な悪い意味での話題性を武器にした集客力に賭けるのが無難な選択じゃないか? 喫茶店のノウハウに関しては水城を頼ればいいし、俺でもそこそこは出来る自信がある。あとはメニューの問題だが、そこら辺は『商売人』どもに任せる方針にすればよさげにしてくれるだろ」


「意外としっかりした意見をくれてありがとう。」


 そうか。翔悟は室井くんたちの企画に賛同しているのか。


 学園祭とか文化祭では、喫茶店は定番の企画だし、無難という言葉にも間違いはない。


 でも――


「どういたしましてだ。

 ……だが、この濃いクラスでやるのが、ただの喫茶店だとなんか物足りないような気もするけどな」


 僕の内心にある懸念みたいなものを、翔悟が見事に代弁してくれた。


「そうなんだよねぇ……」


 企画が決まらない一因は、間違いなくそこにある。


 個性的な面々が揃ったクラスの企画が、無難なものでいいのか。


 もっとド派手に度肝を抜くような素晴らしいイベントで、学園祭を大いに盛り上げて、集まった人たちを驚かせたい。喜ばせたい。楽しませたい。


 そんな気持ちがどこかにあるから、まだ時間がある内は(・・・・・・・・・)決めきれないでいるのだ。


「ちなみに、翔悟は演劇に関してはどう思ってる?」


「無理だろ」


「即答っ!?」


「どんな劇をやるにしても、演劇こそ文字通りの意味でクラスが一丸にならなければいけないものだ。必要なのは役者だけじゃない。道具を作ったり、衣装を作ったり、舞台を作ったりとしなければいけない裏方の仕事もたくさんある」


「う、うん。」


「現状の新婚バカップルをメインにした企画内容で、他の捻くれた連中が素直に協力すると思うか? 主役になれない目立ちたがりどもが大人しくしてると思うか?」


「うん。なんかこう無茶苦茶になりそうな予感だけはヒシヒシとしてくるよ」


「だろ? 演劇みたいなのをこのクラスの連中でするのは困難としか言い様がない。主に目立ちたがりどもが暴走するに決まっている。凄絶なまでにシュールなコントになるだけだし、初日の第一幕で舞台崩壊するところまでが見えたぞ」


 ………………………………うん。まあ、僕にも見えたよ。


 崩壊した舞台の上で、持ち前の豪運を発揮して無傷だった豪華な衣装を身にまとう塚原くんが高笑いしている様まで。


 演劇は正攻法だと無理っぽいなぁ……。


「貴重な意見をありがとう。

 なんだかんだで、翔悟もちゃんと考えてるんだね」


「そりゃあ、かなり大規模なお祭り騒ぎなんだ。どうせなら楽しみたいさ」


 今のままなら他所のイベントを回るだけになりそうだけどな――と続けた翔悟の横顔は、なんだか寂しそうで、詰まらなそうだった。


 ………………………。


 そんな親友の横顔を見てると、このままだといけないという思いが強くなった。


 僕に全部をひっくるめて逆転できるような秘策が思い付いたりするわけじゃないけれど、それでも今の停滞した空気を少しでも変えたい。


 そのために動くのは絶対に無駄なんかじゃない。


「そうだね。みんなが楽しめるように、僕もがんばってみるよ」


 くるくるとシャーペンを回して、尻のところを机にトンッと置く。


 ちょっと強く押してしまったのか、芯がにゅっと伸びた。


「和真ががんばり過ぎると凄い事になりそうだから、程々にしておけよ」


「なに言ってんだい、翔悟。そんな物凄い買い被りをしたって何も出ないよ」


「いや、俺はわりと本気で言ってるんだが……」


「はははは。」


 口だけで笑ってから、僕はノートにシャーペンを走らせる。


 あ。ここは今度のテストに出そうな予感。


 赤ペンを取り出して、書き写した箇所に赤丸をしておく。


「それじゃあ、お前が次にする動きを教えてくれ」


 なんだか懐疑的な光を宿した横目で、僕を見ている翔悟。


 そんな警戒されるような大事を起こしたような記憶はないんだけど。


 むしろ、アレコレと問題を発生させるのは宗次の方だし。


 巻き込まれている絵面で、僕を共犯者とか判断してるんじゃないだろーね。


 ――なんて思いながら、


「次の休み時間にでも、皇くんに僕個人の協力者になってもらえないかとお願いしにいくつもりだけど」


 普通に言ったのだけど。


「ダウトォォォォォォッ!! なんでいきなりそんな超大者を狙い撃ちで落としにいくんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 翔悟はガタッと腰を浮かしながら、普段の冷静さをかなぐり捨てた叫びを上げていた。


 授業中に。


 あ。熟睡してた美命が床に落ちたよ。


 あと、左側から妙な音が聞こえたので視線を向けると、椅子から腰を滑らせたっぽい宗次が奇怪な状態になっていた。


「机と椅子の間に嵌ったから、助けてくれ」


 あまつさえ、切なくなるような声で助けを懇願された。


 ………この状態の宗次を撮って、中学時代に散々なぐらい辛酸を舐めさせられていた委員長に写メを送ってあげたくなった。


 残念ながら、メアドを知らなかったから断念せざるをえなかったけども。


「なにをそんなに驚いているんだ、君たちは?」


「「そんなお前に驚きだよっ!!」」


 翔悟と宗次は血の気の引いた顔で、自殺志願者を説得する警察官のような必死さで左右から僕を揺さぶる。


「おま、お前っ!? 皇だぞっ! あの仕事バカの冷血漢だぞっ!」


「俺たちのことなんかアウトオブ眼中で、自分の世界に入り浸っている精神的な引きこもりみたいな奴だぞ」


「ただし、権力を持っているから怒らせたら社会的な抹殺なんか楽勝な奴なんだぞ」


「やめとけ。相手にするな。触れるな。そっとしておけ。住む世界が違うんだ」


「あいつには俺たちが乞食にしか見えていない。不快な思いをするだけに決まっているっ!」


 言いたい放題だね、君たち。


 なんか自動拳銃に弾丸を装填するような音が聞こえたような気がするから、そろそろ止めておいた方がいいと思うよ。


 ほら。怒りの感情が存分に表れた足音も近づいてきているしさ。


「大体、あいつは――――」


 ゴリッと。


 容赦の無い力の加えられた銃口をこめかみに押し当てられて、強制的に翔悟は黙らされた。


 ついでに、その光景を目の当たりにした宗次も。


「帝様に仰りたいことがあるようですが、まだ続けますか?」


 長い髪を三つ編みにした、冷たい瞳が印象的な少女が氷点下の問いかけを発していた。


 クラスメートなのに制服は着ておらず、タイトスカートタイプの黒服を着用している皇くんの秘書(見習い)の少女――伊瀬なのはさんだ。


 皇くんに崇拝レベルで心服しているので、宗次たちみたいに悪口を言っていると中々に手荒い対応をされてしまう。


 まあ、〝主〟を罵倒されれば、ある意味においては当然の反応と言えなくもない。


 実銃の部分以外は。


「いや、失礼。なんでもないです。はい。」


 血の気を引かせながら、両手を上げる翔悟。


 宗次も目を逸らして、口笛なんかを吹いている。


「ふんっ!」


 不愉快そうに鼻を鳴らした伊瀬さんが、自動拳銃を懐にしまって定位置――皇くんの傍らへと戻っていく。


「「ふぅ~っ」」


 翔悟と宗次は同時にため息を吐き、僕を見た。


「「やめとけ。普通に相手が悪い」」


「君たちって妙なところで息がぴったりになるよね」


 僕は半分呆れながら、床の上に放置されたまま未だに気持ちよさそうにスピスピと寝息を立てている美命を起こすために手を伸ばすのだった。


 ………あと、ホントにどうでもよさそうなんだけど、まだ授業中だということを思い出して欲しいかなぁ……。


 今さら過ぎるとは思うけど、こんなの授業中の出来事じゃないよね?



 ● ● ●



 そして――


 悲喜交々の無情の切なさを世界に訴える切ない授業が終わり、休み時間になった。


 僕は椅子から腰を浮かせて、ぐっと拳を握る。


「それじゃあ、皇くんに協力を頼みに行ってくるよ」


「「なんでまだ逝く気があるんだぁ―――――――――っ!!」」


 二人の親友は絶叫した。


「いや、何でと問われても、とりあえずの方針に従ってるだけだよ」


 ポリポリと頭を掻きながら、僕は書類の束に埋もれるように仕事をしているクラスメートの元へと歩いていくのだった。







 なんとなく地味な没個性の話には、傍らに女の子がいないといけないような感じがするので――ノクターン参照――ヒロイン的な立ち位置になる予定(←ここマジで重要♡)の『伊瀬なのは』が生まれました。

 普通にあいつの餌食になりそうな設定の組まれている女の子ですが、まだ覚醒(笑)してない時期のあいつには丁度いい塩梅だと思っています。

 さすがにアダルト展開は〝こっちでは〟なしですが、どうぞよろしくお願いします。


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