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塚原少年の事件簿 FILE―① 天城学園・最初の事件(前) 『本格ミステリーを期待してはいけない』






 俺様の名前は、塚原(つかはら)京四郎(きようしろう)


 天よりいくつもの『ギフト』を貰って生を受けた美男子(・・・)だ。


 もう一度、言う。


 俺様は美男子(・・・)だ。


 なによりもまず容姿が優れていることを明言しておく。


 そう。容姿が優れている(・・・・・・・・)。 


 大抵の女が『きゃー☆ キャー♡』騒いでやかましいと思うぐらいには、俺の容姿は優れているんだよ。


 何よりも大事なものを、真っ先に与えてくれた神様には感謝だ。


 優しい神様、サンキュー♪


 他にも。


 文武両道というのか。


 運動神経も並を遥かに凌駕しているし、頭脳もいっそ呆れてしまうぐらい明晰だ。


 おいおい。おいおいおいおい。優しい神様よ。


 あんたいくらなんでも優しすぎじゃね?


 ――なんて思うぐらいには、恵まれた人間として生を受けた。


 ま、生まれた家はただの一般家庭だったがな。


 善良な両親に、ほどほどの愛情を注がれて育ってきた。


 ま、不満があるわけじゃない。


 どこぞの金持ち連中みたいに、立場までも恵まれた状態ってのも詰まらんからな。


 この恵みに恵まれた『才能』を活用して、『上』へと伸し上がっていくサクセスストーリー的な人生を歩んでいくのも悪くはない。


 むしろ、面白い。


 だが、こんな俺にも一つだけ『欠点』がある。


 ありとあらゆる意味で人間的な魅力に溢れた俺様が恵みに恵まれすぎているがゆえに人生イージーモード過ぎんだろ――――などと、怠けないようにしているかのように、俺様は『トラブル』に巻き込まれ易い。


 それも近くにいる奴も巻き添えになる率が高いタイプだ。


 まるでコントのような時もあれば、文字通りの意味での事件であったりもする。多種多様種々様々な『厄介事(トラブル)』を誘発してしまう体質なのだ。


 ちなみに、発生した『厄介事(トラブル)』からは逃げられない(・・・・・・)


 特に事件性を孕んだものに関しては、ちゃんと解決する――あるいは、させない限り、俺様はその『物語』に捕らわれ続けてしまう。


 いまいち凡人には意味の伝わりにくい面妖な表現になってしまっていると思うが、それに関して詳しく説明するのはまたの機会にさせてもらうとしよう。


 今回の話にはまったく関係がないからな。はっは。


 とにかく。


 俺様は『厄介事(トラブル)』からは逃げられない――ということを覚えてくれたらいい。


 道を歩いていれば悲鳴が聞こえて、車が事故を起こせば訳ありの美少女が助けを求めて縋りつき、喫茶店でブラックのコーヒーを優雅に飲んでいれば強盗が押し入り、知り合いの警官にドライブに連れられていかれたら殺人事件の起こる『クローズドサークル』巡りで、船に乗ったらアクション映画も真っ青な展開の目白押しで最後に沈没のお約束も外さない。疲労困憊で事務所に帰れば、止めとばかりに胡散臭い笑顔の――あるいは今にも死にそうな顔をした依頼人が待ち構えている。


 そんな『厄介事(トラブル)』に塗れた人生を歩む俺様だが、いつの間にか一つの『肩書き』を与えられていた。


 美男子?


 それは生まれたときからさ☆ ふふふ♪


 あぁ、いや、失敬。自明の理をついつい言ってしまったよ。


 要するに『探偵』――それも『名』の付く『探偵』だ。


 頭脳明晰な俺様に相応しい称号ではあるのだが、個人的にはあまり好きじゃない。


 何故なら、『厄介事(トラブル)』誘発体質の俺様が行く先々で『事件(トラブル)』を起こすからこその称号みたいなものなのだから、ぶっちゃけてしまうと『死神認定証』も同然だ。


 たまにうんざりもするが、これも美男子の宿命という奴なのだろう。


 ……まったく、やれやれだぜ。



 ● ● ●



 放課後。


 場所はクラブ棟の『探偵部』部室。


 俺様は窓際に置いた俺様に相応しい豪奢な椅子に腰かけ、西日に染まった空を見上げながらブラックのコーヒーを優雅に飲んでいた。


 騒がしいクラスの連中の騒ぎを傍観したり、巻き込まれたり、巻き込んだりしたりと慌しい時間を過ごしている俺様の心安らぐ憩いの一時だ。


「……ふぅ」


 美男子が映えるように顔の角度を計算し、ややアンニュイな吐息を漏らす。


 ―――――これだっ。


 この角度とこの表情が、俺様の美男子を最も際立たせる至高の瞬間だ。


 また罪な男になってしまったぜ。


 ………まあ、もっとも、今の部室には俺様ともう一人しかいないし、もう一人の部員はこっちを見向きもせずに自作の本(・・・・)を読んでいるが。


 名は――黒桐(こくとう)茉莉(まつり)


 なんか知らんが、入学初日のクラスでの自己紹介の場で『俺様の傍を離れない』とか情熱的な告白をしてきた女だ。


 烏の濡れ羽色とでもいうべき黒髪で、どこか達観とした雰囲気が大人びていると見なされそうな印象の持ち主だ。


 俺様の隣に立つというなら、もう少しいろいろと育てたり磨いてもらいたいところだが――胸部とか――黒桐があの『黒桐』であるのなら、俺様に恋愛感情を抱いているなどという事はあるまい。


 いや、熱烈なラブコールを送られてはいるが、それはあくまでも俺様の『厄介事(トラブル)誘発体質』に向けてのものだろう。


 なぁ、殺人記(・・・)


〝強欲〟に罪を貪る〝暴食〟の黒桐さんよ。


七忌(ナナキ)』に憑かれたような奴が普通に学生として紛れ込んでいる段階で、この学園のイカれ具合がわかるというものだ。


 そういう意味では、あのクラスの連中も一筋縄ではいかない連中が揃っているし、不本意だが俺様も〝その一人〟にカウントされての配置だろう。


 元より退屈とは縁遠い人生を歩んではいるが、面白くなりそうだと思えるような顔触れが揃っているのは評価が出来る。


 おまけに、俺の知らない『領域』に首を突っ込んでいる奴もいるのだろう。


 俺様の『厄介事(トラブル)誘発体質』が、どんな化学反応を起こすか楽しみで仕方がない。


 今後に思いを馳せて、ニヤリと口元を吊り上げていると――


「塚原さんっ! 事件ですよっ!!」


 バンッとドアを蹴破るように開いた一人の少年が無駄に大きな声で、俺様の憩いの一時の終了を告げた。







塚原ウゼェ――と思ってもらえたなら、わりとうれしかったりします。

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