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妖夢幻想譚(中)






「いねぇな」


「ああ」


 月明かりに照らされた体育館の中央で、二人の少年はぼんやりと立ち尽くしていた。


 待てど暮らせど、怪異の〝か〟の字も出現しない。


「どうする?」


「少し情報を整理しよう。ちょっと待て」


 スマートフォンを取り出し、玲瓏女学院から発信されて、ネット界隈を賑わせている〝噂〟を確認していく蛟。


 今時の若者ならばスムーズに動く指の動きが妙にもたもたしているのは、こうした機械の扱いに全く慣れていないからだ。


 山奥でひたすら自分の身体を鍛えている脳筋種族――などと口さがない者たちに言われているように、大半の退魔士は現代文明には疎いのである。


 ちなみに、基本的に刃は〝斬る〟ことにしか興味がない。


 一般常識は蛟よりも身に付いているが、他にする者がいるのなら自ずから余計な行動をするタイプではない。特に仕事面においては。


 何故にこんな二人を組ませて『仕事』に赴かせたのか、むしろ上役の頭を疑うような人事であったが、そんな二人でも十分に務まる程度の仕事でしかないのである。


 少なくても、そう思われていた。


「しかし、こんな学園で生じた〝噂〟程度で〝魔〟が生まれるとはな」


 刀の唾をわずかに持ち上げ、鞘に戻す。


 夜の闇に澄んだ響きを慣らす動作を、刃は退屈凌ぎに繰り返す。


「舞台としては、学校は上等だからな。特にこの学園は歴史が古い。下地になる『想念』も相当に溜め込まれていたんだろうよ」


 不慣れな操作をしながら、どこか他人事のように蛟は相槌を打つ。


 学校という空間は、ある種の閉鎖空間だ。


 結界じみていると言い換えてもいい。


 数百人にも及ぶ生徒の数多の感情――俗に想念と呼ばれるものが、長い年月とともに溜め込まれている。それらは混沌とした無色のエネルギーのようなものでしかないが、無色であるからこそ如何なる属性でも得られるし、〝魔〟が実体化するための(うつわ)にもなりやすい。


 学校の七不思議などが定着し易いのは、何百人もの子供が毎日のように集まり、様々な感情を吐き出す学校という閉鎖空間――小さな世界(・・・・・)だからこそとも言える。


 不平、不満の矛先を逸らすために、怪談という刺激を求める。


 あるいはもっと漠然とした歪な妄想が生み出す悪意的な〝噂〟でもいい。


 自分ではない誰かを害する〝何か〟がいれば、面白い。


 だから、『名前』と『姿』と『爪と牙(チカラ)』を与えてみよう。


 そんな悪戯のような理屈で、人は〝魔〟を生み出す。


 もう一度繰り返すが――


 妖怪とは、あやかしとは、怪異とは――人間(ヒト)が生み出すものである。


 例えば、巷に蔓延する数多の妖怪。


 例えば、学校の七不思議などを代表とした怪談。


 人々の口伝(くちづて)によって長い年数を語り継がれたが故に、信仰の域にまで届いた〝噂〟。


 そういう存在が(・・・・・・・)存在する(・・・・)と大多数に信じられたモノ(・・)たちは、自ずと形を成していく。


 人々が強く願えば、〝怪異〟は望まれたとおりに具現化するのだ。


 幽霊の正体見たり枯れ尾花――という言葉が示すように、その正体はそんなモノ(・・)ではなかったのに、そうと信じた人たちが口伝(くちづて)に尾ひれや背びれをつけて、広く広く語られていくことで生み出されてゆく。


 土台となる信仰(・・)が強ければ強いほどに、強い『力』を持って。


 そのようにして、妖怪や怪異は生み出され、人の世に寄り添う形であやかしの世界も誕生した。


 しかし、近年になって、その大前提に狂いが生じ始めている。


 インターネットを代表とする情報化社会。


 世界の広さはそのままに、世界中にいる人々の距離はある意味において、恐ろしく身近なものへと変貌した。


 遥か彼方にいる誰かとも、簡単に繋がりを得られるツールによって。


 利便性はこの上もなく、技術の進歩は人間社会を著しく発展させた一方で、あやかしの世界にある弊害を生み出した。


 例えば、玲瓏女学院で広まった〝噂〟は、まさにその典型だ。


 そもそもの発端は、とある有名な女生徒が放課後に怪我をしたことだった。


 彼女はバレー部のエースであり、部活後も一人でこっそり居残り練習をするほどに熱心だった。


 彼女は居残り練習中に怪我をしてしまったのだが、その理由を周囲には口にしなかった。


 教師や顧問に秘密の居残り練習を禁止されてしまうのを恐れて、口を噤んでしまっただけなのだが、彼女が居残り練習をしていたとは知らないクラスメートたちは、適当な憶測を面白半分に口にした。


 悪意はなかった。


 真面目で周囲からも信頼を得ている彼女が、口を噤む理由が気になっただけなのだ。


 面白半分に語られる憶測は、他の誰かに伝わるたびに装飾が付け加えられていく。少女が怪我をした理由という前提さえも置き去りに、そうであったらいいという願望混じりの作り話へと変貌していく。



 放課後、彼女は体育館で化物に襲われた。

 それがあまりにも恐ろしい怪物だったので、口を噤んでいる。



 玲瓏女学院の歴史は古く、校舎も趣のある造りなので、怪談を作るための土台となる雰囲気が満ち満ちている。


 そして、深層の令嬢たるべきお嬢様たちは好奇心満載で、刺激に飢えている。


 不意に与えられたその〝噂〟に飛び付き、次から次へと過剰なほどに装飾を施していく。


 ここまでならば、何処にでもあるような学園七不思議と大して変わらなかっただろう。


 だが、ある少女がネットを介して、この〝噂〟を全世界に拡散したことで状況は変わる。


 お嬢様学校として有名な玲瓏女学院から発信された〝噂〟は数多の注目を集め、新たに噂の装飾に加わった者たちが、また新たな注目を集めていく。


 数百が数千に、数千が数万に、数万が数十万に、数十万が数百万に……。


 語り継がれていく〝噂〟は既存の法則に従い、質量を持ち、血肉を得て、急速に実体化していく。


 歴史の積み立てもないのにありえない速度で、しかし、数多の人々に望まれて。


 人間(ヒト)を害するためだけに存在する〝魔〟が生まれる。


「………とはいえ、お前は〝嫌われ者〟だからな。

 案外とお前の接近に気づいて逃げ出したのかもな」


「だったら、面倒がなくなっていいがな」


 刀の唾を持ち上げ、鞘に戻す。


 キィン――と澄んだ音が響く。


「やはり、この体育館にそれらしい気配はないな」


 目を閉じて、耳を澄ますようにしていた刃が言う。


「そうか。お前の探査にも引っかからないとなると、本当に逃げ出したか」


「……もう消えたか」


 一時的な流行りで実体化したような『歴史』を持たない〝魔〟など、本来は怖れるには足りない。


 そんなものはか弱く、微かで、直に消え去る程度のものでしかないからだ。


 この学園の〝魔〟も興味半分で夜中に肝試しのようなノリで侵入した複数の女生徒が、その姿()に驚いて逃げ出した程度のものに過ぎず、その時点では追いかけて害するだけの余力もないような木っ端屑のような〝魔〟でしかなかった。


 実体化に至るまでの過程が急速に過ぎたとしても、人を無差別に殺めるほどの『力』を得るには、より多くの人々に語り継がれなければいけないからだ。


 ただし――


 それはあくまでも蛟や刃の視点であり、一般人では対処の仕方を間違えれば危険な存在であるのに違いはない。


 餓えた野犬に暗がりで襲われたら、運が悪ければ死んでしまう可能性もあるのと同じだ。


「………帰るか?」


「念のために情報を整理して、問題ないようならそうするか」


 弛緩した空気が漂う。


 危険を感知して逃げ出せるほどの知能がある〝魔〟ならば、放っておいてもそうそう害にはならない。

遠からず、あやかしの世界の内側に組み込まれるようになるだろう。


 しかし――


 人間の無邪気な悪意は、そんな安易な結末を望まない。


「………おい。やべぇぞ」


 この学園の〝噂〟が上げられたサイトを追っていた蛟の目が、ある段階から愕然と見開かれていく。


「どうした?」


「例の〝噂〟の収束点が、図書館に移ってやがる」


「図書館って………おいっ!」


 刃は舌打ちを漏らす。


 噂という媒体がもたらす時間差による情報の変動が、致命的な失態として凶悪な牙を剥く。


 本来であれば、他に誰もいない深夜の学園という前提がある以上、この程度の情報の変異は大きな問題にはならない。


 だが、彼らはイレギュラーな存在と遭遇している。


 しかも、その二人の目的地も直に聞いている。


「不味い不味い不味い……不味いぞっ」


 焦りを滲ませながらも蛟は、刃と一瞬のアイコンタクトを交わすと、ほとんど同時に身を翻して駆け出していた。


 だから、蛟は気づかなかった。


 傍らを前傾姿勢で疾走する今宵の相棒の口元が、歪な笑みを刻んでいたことに。


「……面白くなってきた」


 小さく呟かれたその囁きもまた聞こえてはいなかった。


 直後に。


 腹の底に響く重たい咆哮とともに、大地が大きく揺れたからだ。



 ● ● ●



 一週間前――


 夏休みに入る直前の教室で。


 噂を確かめようとした女生徒が夜中に体育館に入り込んで、化物に襲われたと騒いでいるのを添琉は耳にした。


 その時はまだあまり気にしてはいなかった。


 だが、その直後から校内で聞く〝噂〟には荒唐無稽なものが混ざり始め、インターネット上の書き込みサイトにも、誰かが面白半分に添えた化物のイラストが『明確な形』を与えるようなものになっていた。


 それでも(・・・・)


 添琉は強い『力』を持った怪異にはならないと常識的な判断を(・・・・・・・)していた。


 だが、わずか一週間で、その棲み処を体育館から図書館へと移すほどに〝噂〟を弄繰り回された〝魔〟は――


 添琉の想像を遥かに超える怪物へと変貌していた。


 最初に、視覚よりも先に嗅覚が反応した。


 刺すように鼻孔を刺激したのは、真夏の熱の篭もった部屋に何十日と放置された死体が放つ死臭のような耐え難いものだった。


 反射的に胃の中のものが込み上げてくるのを抑えるために、両手で鼻と口を覆う。


「―――――――――――――――――――――――――え?」


 それは声となっていたのか、それとも頭の中で点滅しただけなのか、そんな区別も付かなくなるほどに添琉の思考は真っ白に塗り潰される。


 それ(・・)は――巨大な黒い塊のように見えた。


 だが、それは図書館に凝る『闇』に覆い隠されていただけで、添琉の『瞳』はすぐに誤差を修正して詳細を把握していく。


 まず巨大な口があった。添琉はおろか、屈強な成人男性でも余裕で飲み込んでしまえそうな口が大きく開かれている。体臭のような死臭に重ねる腐臭で満ち満ちており、だらだらと新たに現れた生贄を歓迎するように涎を垂らし、鮫のように鋭い牙が並んでいる。


 べろりと舌で舐められた絨毯は、酸でもかけられたように煙を上げながら溶けていた。


 獣のようなでありながら、どの獣とも類似しない不自然で歪な体躯。長さも太さもバラバラで、起き上がって歩くことさえ困難なように思えるが、そんな常識の範疇に収まらないのが〝魔〟という存在。


 希望的観測など抱くことさえ愚かしく、常に想定外を警戒するのが普通だ。


 その背には穴だらけの蝙蝠のような翼があり、尻尾は何かのお約束のように蛇だ。ただし、一本などという生易しさなど微塵もなく、床を這うようにしているのは数百、数千にも及びそうな蛇の群れ。


 その口から放たれる鳴き声という名の怨嗟の合唱は、祭り囃子のようで。


 夥しいほどにおぞましいが、本当の恐怖は四つの凶眼を直視してしまった瞬間に、全身を貫いた。どれもが血走り、理性の欠片も感じさせない。狂気と憎悪と憤怒と嗜虐と暴食と好色……目の前にいる人間(ヒト)を欲望のままに貪り、害して殺めることしか考えていない――いや、それこそが本懐であり本能であるのだと身悶えるほどの悦びを感じている怪物の眼差しに捕らわれて、背筋が凍る。


 今宵はこれより恐怖劇。


 数多の人々に無邪気に望まれた妖夢が現実を浸蝕し、幻想(アクム)が具現する。




 ――悦び勇んで無惨に解体。

     人間らしい死に様など夢のまた夢。

       荒唐無稽に魂まで犯して磨り潰しましょう――




 あぁ。


 なんと凶々しい悪意に満ちているのか。


 蹂躙の幕開けを謳うように、〝魔〟は天地を揺るがす咆哮を大きく開いた口腔から放つ。


 これはダメだ――と、添琉は一瞬で判断した。


 まだ『名前憑き』ではないのを差し引いても、自分の手には余る。


「逃げなさい、みなもさんっ!!」


 その叫びは悲鳴も同然だったが、傍らの少女を庇うように添琉は一切の躊躇なく、一歩を踏み出していた。


「………あ、あぁ………っ」


 何よりもまず、見た目のインパクトが強烈な〝魔〟だ。


 心の準備をある程度していたとしても、とても耐えられるものではなく、ましてやまるで免疫を持たないみなもがまだ意識を保っていられる方が奇跡に近い。


 だが、そこまでだ。


 一瞬で恐怖に塗り潰された心は、みなもから立つ気力を根こそぎ奪い去る。ぺたんと尻餅を付いたみなもには、添琉の声は届いていなかった。


 あまりにも自然なその反応を責められるはずもなく、添琉は時間を稼ぐための手段を考えるために頭を回転させる。


 まず大前提としては、逃走しなくてはならない。


 戦うなどという選択肢は最初から存在しない。


 身を守る術はあったとしても、それは攻撃に活かせるようなものではない。


 あの〝魔〟を構築した〝噂〟の収束点は図書館に変異しているが、ここで哀れな被害者が遭遇したからには、怪談の舞台は学園全体にまで広がっている。最低でも学園外にまで逃げなくては、追われ続けるだろう。


 腰を抜かしたみなもと連れ立って逃げ出せる可能性は、極端に低いと判断せざるをえない。


 最低でも立って走れるまでにみなもが回復するまでは、この場で添琉が〝魔〟を足止めするしかない。


「………………っ」


 彼我の戦力差を測る。


 悪趣味な絵心に溢れた誰かさんの添えたイラストのおかげで、大衆の思い描く方向性が決定されたがために、より強固に実体化した〝魔〟の見た目は凶悪を通り越した害悪そのものだが、今はまだそこまで強力な存在ではない。


 その歪で巨大な体躯の質量――体重と鋭い牙の並んだ口は、厳然たる凶器ではあるが、実質的には野生の熊と遭遇したのと同じようなものだ。


 己を害し、殺められる牙と爪を持った存在ではあるが、冷静に対処すれば、爪と牙を回避して逃げ切ることは可能だ。


「あぁ、もう……」


 現状に対する分析は、甚だ悲観的なもので満ちている。


 予定外の想定外に遭遇。足手まとい――半ば無理矢理同行させておいて、この評価とは心苦しいにも程があるが――が一人いるために逃走が困難。


 現状の添琉には時間稼ぎが精一杯で、その稼いだ時間でみなもが正気を取り戻し、自力で学園の外まで逃走してくれなければ、遠からず詰んでしまう。


 楽観論を信奉するつもりはないので、中々に困難な苦境に立たされている。


「みなもさん、みなもさんっ! 早く、今すぐに学園の外まで逃げてっ!!」


 眼前の〝魔〟から目を離さずに、後ろのみなもに叫ぶ。


「で、でも………っ」


 震えた声には、躊躇が宿っていた。


 添琉を置いて逃げることに激しい抵抗があるのだろう。


 脇目も振らずに脱兎の如く逃げ出してくれた方がありがたかったりするのだが、その人間の善性を感じさせる振る舞いには素直に敬意を抱く。


 だからこそ、なにがなんでも逃げてもらわなくてはいけない。


 こんなところで死なせるわけにはいかない。


「わたくしは気にせずに、早くっ!!」


 再度、みなへと強く叫ぶが、その声を不快に感じように〝魔〟が動き出す。


「―――――――っ!?」


 身の毛もよだつ咆哮とともに、数多の蛇が絡み合う歪な尻尾が鞭のように振られる。


 当たってしまえば、口を開いた蛇が大喜びで噛み付いてくるだろう。


 そして、食い付かれてしまえば、食い千切られる――程度で済めば御の字で、最悪の場合はそのまま骨も残さずに食われてしまうだろう。


 物理的に本当にそこまでの『力』があるかどうかは、この場合においては関係ない。


 そんなものに食いつか(・・・・・・・・・・)れてどう思うかに(・・・・・・・・)左右されるのだ(・・・・・・・)


 人間は精神的な生き物だ。


 深い催眠状態にある時に、焼けた火箸だと告げて別の何かで触れば、火傷をする――そんな話を聞いたことはないだろうか?


 要はそれと同じ。


 あんな蛇の大群に食いつかれて、ただで済むわけがないと欠片ほどでも思ってしまったら、実際にそこまでの『力』がなかったとしても、人間の側が勝手に(・・・・・・・・)死んでしまうのだ(・・・・・・・・)



 ――そう。妖夢が生み出した(・・・・・・・・)幻想に(・・・)()を殺されて(・・・・・)



〝魔〟と対峙するには、まず〝心〟を強く保たねばならない。


 不安や恐怖などの〝負〟の想念は、〝魔〟を肥え太らせる格好の餌だ。


 負けるものかと――恐怖に抗う克己心がなければ、そもそも土俵に立つ資格すらない。


 そういう意味では、添琉とみなもの間には、仕方のない部分が大いに含まれてはいるが、明白な明暗があったと言えるだろう。


「んぅ……っ。」


 尻尾の一撃を紙一重で回避した添琉だが、その尻尾に隠れて伸びていた前脚の追撃に弾き飛ばされていた。


「――――――――あっ!?」


 ほんの一瞬の判断で後ろに跳んでいたためにいくらかの衝撃は逃がせたものの勢いまでは完全に殺せない。


 本棚の一つに背中から激突し、息が詰まる。


「――痛っ」


 慣れない痛みに呻くが、動きを止めていられるような余裕はない。


 すぐに身体を起こして、全力でその場を離れた直後に、上から振ってきた『魔』の尻尾の一撃が本棚を断ち割っていた。木屑と大量の本がバラバラと舞う。


 頭上に手をかざして視界を確保しながら、添琉は走る。


 幸いにも『魔』の注意を引くことには成功したので、みなもを危険からわずかでも遠ざけられた。


 だが、その代償として、添琉は図書館の奥へと進んでおり、出口に向かうには立ち塞がる『魔』を回避しなくてはいけないという位置取りになってしまった。


 はしたなく舌打ちを漏らしそうになりながらもギリギリで堪え、添琉は自分の身体能力で選べる最善の逃走経路を算出するべく頭を回転させる。


 ――が。


 悠長に待ってはくれない『魔』の繰り出される猛攻を回避していると、経験不足の添琉ではどうしても奥へ奥へと追い詰められていく。


「う、くぅ……っ」


 焦りは添琉から冷静さを着実に奪っていく。


 添琉は本質的に戦う者ではないというのに、時間を稼ぐという目論みにおいては善戦をしたと言えるだろう。


 だが――

 

 決定的な打開策を持たぬ彼女に、致命的な瞬間は訪れる。


「―――――――――っ!!」


 床に散らばっていた本を踏みつけ、添琉は大きく体勢を崩していた。


 目と鼻の先を通過していく暴風の鋭く尖った先端が袖を引っかけ、添琉の体重をものともせずにそのまま軽々と虚空に放り上げていた。


 滞空中のささやかな無重力体験。


 すぐに重力に捕まり落下するが、現在の高さは軽く十メートルを越えている。図書館の天井が高いからこそ、叩き付けられずに助かったようなものだが、このまま落下しても受けるダメージは甚大。


 なによりも大口を開いた〝魔〟が、大悦びで待ちかねている。


「添琉さ―――――――――んっ!!」


 みなもの叫びが、伸ばされた手が、不自然にゆっくり感じられる時間の中でよく見える。その大きな瞳から零れ落ちる涙の一滴さえもが認識できるのは、極限の集中が成せる業だ。


 余命数秒。


 迫り来る絶対的な死を、添琉は正面から見据えていた。


 その手が何処(いずこ)から〝何か〟を――――



 ほんの刹那の後に何かが(・・・)起こるであろう前兆を遮ったものがあった。



 乱入と言うべきか、それとも突撃と言うべきか、あるいはその両方と言った方がしっくりきそうな勢いで、四肢に〝光〟を纏った少年――沙耶守蛟が図書館に駆け込んでいた。


「おらぁぁぁぁぁっ!!」


 四つん這いで四足歩行をしているのではと錯覚しかけるほどに、上半身を前傾させた彼は文字通りの意味で獣のようだった。


 廊下で語らった時は、どこか緊張感の欠ける軽い雰囲気の持ち主だと思ったが、祓うべき〝魔〟と対峙した彼は、見紛うことなき退魔士としての顔を覗かせていた。


「破邪光天義流・退魔の法――光牙っ!!」


 闇を祓う破魔の光が、瞬いた。


 正面は避け、胴体部の側面にまで回り込んだ蛟は、光を纏った手足で連続攻撃を放っていた。鍛えられた肉体は淀みなく動き、鋭い攻撃を瞬時に五つ叩き込む。


 その効果は絶大だった。


 ――ギャウオォッ!?


 悲鳴というよりも絶叫に近しい鳴き声を上げて、〝魔〟が数メートルも弾き飛ばされる。手近な本棚が巻き込まれて薙ぎ倒され、非常に騒々しい倒壊音が響き渡る中。


「ひぁ……」


 落下を継続していた添琉もまた、もう一人の少年により救われていた。


 数メートルの高さから落下していた添琉を、まるで羽根のように刃が受け止めていた。


「よう」


「………あぁ、やっぱり、これは素敵な抱き方ですね」


 着地した刃の腕の中で、添琉が冷静に言葉を紡ぐ。


「密着度が高いですし、抱いてくれた人の顔がよく見えますからね。わたくしを含む多くの女性が夢見るように憧れるのも当然と言うべきなのでしょう。その初めてのお姫様抱っこを、まさか変態さんに奪われてしまうとは思いませんでしたけれど……」


 ふぅっとわざとらしくため息を漏らす添琉の態度は余裕綽々であり、言葉の端々に含められた落胆など微塵も感じない。


 だからといって、愉快な気分になるはずもなく、刃はげんなりする。


「………言ってる場合か。てか、誰が変態だ」


「まだわたくしの中では、完全に誤解が解けてはおりませんので……」


 なにしろ、あの(・・)水城だ。


 伝え聞く噂が本当ならば、変態などという言葉では到底収まらない。


「なにはともあれ、助けて頂いたことには感謝いたします」


「気にするな。借りを返しただけだ」


 正直なところ、その程度で返したつもりになられても困るというのが本音だが、添琉はそうした内心は一切表に出さずに、自分の足で床に立つ。


 もう少しぐらいはお姫さま抱っこを満喫したい気持ちがなきにしもにあらずだが、そんな状況でもないし、やはり相手に不満がある。


「それで、この状況をどう説明する?」


 刃が指を差した先では、蛟が〝魔〟を相手に一歩も引かずに、一進一退の攻防を繰り広げている。全身に破魔の光を纏い、特に両手両脚を一際強く輝かせての格闘技は、〝魔〟に効果的なダメージを与え続けている。


「扉を開けば、極彩色のワンダーワールドが展開されて、本当にびっくりしましたわ」


「それで済むとは思ってないだろ?」


 刃の口振りは、もう添琉を一般人とは見ていない。


 世間一般に広く浸透している『常識』という枠組みから、踏み外している(・・・・・・・)者を見る目だ。


「………………………仕方がないですわね」


 逡巡はほんのわずか。


 この状況下で下手な言い訳をする無意味さを悟り、かといって長々と自分の立場を説明する気にもならなかったので、端的に告げる。


「人の世とあやかしの世を繋ぐ者として、〝魔〟の討伐を生業とするあなたたちに助力をお願いします。アレは今宵、この場で討滅すべき〝魔〟です」


「繋ぐ……者、だと?」


 添琉が見つめる先にある刃の瞳が怪訝な色に染まり、直後に大きく見開かれる。


「――――っ、お前まさかっ!? 古都を統べる妖狐――葛の葉の愛娘かっ!」


「一部ではそのように認識されているようですが、個人的には妹ぐらいのつもりです」


「………いいだろう」


 疑問と疑念が浮かぶ眼差しを束の間だけ閉じた刃が、次に眼を開いた時。


 その瞳は透徹した光のみを宿していた。


 素直で、真面目で、純粋で、でも何処かが捻れた光。


 人間としては、致命的なまでに何かを踏み外している(・・・・・・・・・・)者の目。


「もとより今宵はそのつもりでこの学び舎に足を踏み入れた」


 腰に下げた刀の唾に指を添え、わずかに持ち上げる。


 柄を握り、ゆっくりと刀身を露わにしていくように抜き放つ。


「あんたに頼まれるまでもなく、受けた依頼を遂行するのみだ」


 その口元が歪んだ笑みを刻む。


「……任せます」


〝水城〟の刃が、抜き身の刀を手にしただけで、添琉の本能が最大音量で警鐘を鳴らす。


 全身に浮き上がる冷や汗が、絶え間なく伝い落ちていく。


 息が苦しい。


 あの〝魔〟よりも、よほど怖ろしい。


 名は体を現すというが、文字通りの意味でこの少年は『刃』だ。


 ただ――


 添琉に背中を向けて、相方が戦う戦場に身を投じる寸前。


「そこで腰を抜かしている小娘と一緒に、さっさと逃げろ。

 あんたが見ても楽しいものは、この先には何一つとしてありはしない」


「………………。」


 不器用に告げられたその言葉に、水城の一族としては不純物(・・・)と見なされるであろう彼の『人の心』を垣間見た。


「水城、刃……」


 みなもの元へと向かおうとしていた添琉は少しだけ足を止め、その名を呟いていた。


 微量の哀れみにも似た不確かなものを混ぜて。



 ● ● ●



 昔々……正確な年数がわからない過去に、一人の『剣客』がいた。


 彼だったのか。


 彼女だったのか。


 それすらも定かではない。


 刃物のような存在であり、その役割を全うするように、ありとあらゆる総てを斬ることでしか理解できない破綻した感性の持ち主でもあった。


 最初は野生の動物を斬っていた。


 生きるための糧を得るためではあったが、そこに愉悦も同時に存在していた。


 成人する頃には、世間は戦の時代に飲み込まれていた。


 彼の者は悦び勇んで、戦場に身を投じて人間を斬って、斬って、斬って、晴れ晴れとした気持ちで戯び呆けた。


 戦乱は飽き果てることなく続いたが、彼の者は人間を斬るのに退屈を感じるようになった。


 同じことの繰り返しよりも、もっと新鮮な感覚を得られるモノ(・・)が斬りたいと戦場を後にして、しばしの時を彷徨う。


 やがて――


 いつしか、彼の者は世界には人間以外のモノ(・・)が存在しているのに気づいた。


 気づいてしまえば、そんなモノ(・・)はいたる所にわんさといた。


 彼の者は悦び勇んで、刀を振るった。


 千差万別。


 多種多様。


 退屈など感じる暇もなく、容易に斬れぬモノ(・・)との戦いに身を投じ、己が刃を研ぎ澄まし、磨きをかけ続けた。



 ――あぁ、なんと悦びに満ちた桃源郷。



 彼の者は斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬り続けて、最果てにまで(・・・・・・)辿り着いた(・・・・・)



 そして――



 彼の者は、神に挑んだ〝咎〟により呪いをかけられてしまい、末代まで世界に仇なすモノ(・・)を屠ることを定められる。


 それが――


 後に『退魔士』と呼ばれる者たちの祖となる咎人の一族――『水城』の始まりだった。



 ● ● ●



 一撃を当てて〝魔〟を怯ませ、一時的に距離を取った蛟の傍らに、刃は並び立つ。


「調子はどうだ、蛟?」


「見た目はアレだが、やはり生まれ立てだな。まだ『名前憑き』でもない雑魚だよ」


 多少は頑丈だが、滅せられぬほどではない。


 図書館から離脱しない限りは、この場に固定されているが故に逃げられる心配もない。


 様々な条件が重なった結果であるからこそ、その条件を一つずつ潰していけば、可能性は極端に減少していく。


 この学び舎に溜まった膿ごと祓い、破魔の法で場を清めれば、新たな〝魔〟を実体化させるまでには、そこそこの時間の猶予が生まれる。学園に元々溜まっていた『想念』をかき集めたがゆえの具現であり、その時点で大量に消費された〝モノ〟がすぐさま貯蓄されるはずもないからだ。


 そうこうしていれば、飽きっぽい大衆は新たな噂へと流れていくだろう。


 〝魔〟を紡いだ噂の根本を支えているのは、外界の有象無象が抱く『想念』だ。この学園の女生徒だけではどう足掻こうと、同じ現象を再現するのは不可能。


 故に――


 彼らが眼前の〝魔〟を討伐すれば、妖夢に浸蝕された幻想(アクム)は終焉を迎える。


「そうか。だったら、少しぐらい(あそ)んでもいいよな」


「………………好きにしろ」


 ため息混じりに呟き、ダンッと蛟が大きく後退する。


 場を譲っただけなのに、同時に刃の傍らから飛び退いたようにも見える。


 何故なら――


「では、これより――」


 妖夢に犯された浸蝕する幻想(アクム)を、さらに上塗りする極限の異常が顕現するからだ。


 パチンとスイッチを入れ換えたように、刃の表情から微かながらも存在していた人間性さえもが失われていく。



「 ――斬刃の神楽を、我は舞う―― 」



 そう在る為に願い、望み、成り果てた者が祝詞を口ずさむ。


 人の身でありながら、否、人の身であるからこそ、紡ぎあげられる幻想(ネガイ)に不純なものなど存在しない。



「 ――謡い、踊り、剣の煌く桃源郷へとこの身を捧げよう―― 」



 冷たく凍えた空気を纏い、能面の如き無表情の中で瞳だけが爛々と狂熱を帯びていく。


 恐ろしい。


 怖ろしい。


 畏ろしい。


〝魔〟よりもよほどおぞましい何かが、地金を覗かせている。


 これが――水城。


 退魔士の祖でありながら、やがて異端と弾かれた者。


 咎人の一族。



「 ――我は無謬の刃となりて、遍く総てを斬り捨てる剣なり―― 」



 森羅万象遍く総て。


 我よりも強き者も、弱き者も……全員諸共に斬り捨てたい。


 屍の山を築き、その頂の上に立ちたいわけではない。


 ただ己の剣こそが最強なのだと知らしめたいのだ。


 故に、我の目に止まる者たち総てよ。


 どうか斬られてはくれまいか?


 かつて、そんな願いを抱いた『剣客』の渇望の具現。


 永き時を経ても受け継がれ続けた『斬刃の理』は、一切の劣化なく磨き上げられ、研ぎ澄まされている。



「 ――汝を殺す刃は此処にあり、いざ顕現せよ―― 」



 この世に仇成す幻想(アクム)を屠ることを、かつて挑んだ神に宿命付けられた呪われし一族の寵児が、嬉々として祝詞を謡い上げる。


 得体の知れぬ〝何か〟が、彼の手にする刀に宿っていく。


 あるいは、それこそが退魔士の真にあるべき姿。


 余計な不純物を削ぎ落とし、闇に生きる〝魔〟を屠り続けるための剣へと変わりゆく。



「 ――抜刀―― 」




 ――悦び勇んで無情に斬滅。

     幻想は夢から覚めるように消え去れ。

      荒唐無稽な仮初の魂は在る前の無へと還るがいい――




「―――――――――咎人(■■■■)の太刀っ!!」



 目に見えるような大きな変化は生じない。


 だが――


 添琉の『瞳』は、起こった変化を確実に視通していた。


 刃の肉体が強化されたわけではない。


 幻想に属する特殊能力が備わったわけでもない。


「……ぁ、うっ」


 ただただ『斬る』という想念が、添琉の『瞳』が視ただけで悲鳴を上げるほどの途轍もない密度で、彼の手にする刀の刀身に纏わり付いただけ。


 純粋無垢に透き通った想念は、今の世の理から(・・・・・・・)外れている(・・・・・)がために凶々しくもある。


 ある種の矛盾を宿した刀が煌きを放つ。


 蛟は、畏れを孕んだ笑みを浮かべ。


 みなもは、刃と〝魔〟を同じように恐怖の目で見つめながら震え。


 狂気と憎悪と憤怒と嗜虐と暴食と好色……目の前にいる人間(ヒト)を欲望のままに貪り、害して殺めることしか考えていない――いや、それこそが本懐であり本能であるのだと身悶えるほどの悦びを感じている怪物でさえもが、慄きながらわずかに後ろに退がる。


 添琉は――


「………………ぁ。」


 刃が手にする刀の煌きに見惚れていた。


 痛みで涙が滲んだぼやけた視界でも、決して見失わない『光』と『闇』を宿したひとりと一振りの『刃』に。


「さぁ、逝けよ?」


 刃は右手を引き、切っ先に殺気を収束させた刺突の体勢を取る。


 ダンッと床を踏み抜くほどの踏み込みで爆発的な推進力を生み、蛟ですら残像でしか捕らえられないほどの速度で〝魔〟へと突っ込んでいく。



 ――逃れられぬ。



 この敵には逃がすつもりが微塵もない。


 迫る必滅の脅威を前に、〝魔〟もまた断末魔に等しい咆哮を上げながら突進する。


 数多の蛇がのたうつ尻尾を、歪な前脚を、大きく開いた口に並ぶ鋭い牙を、何よりも自身を構成する質量での突撃を。


 蛟の攻撃により半分以上の『力』を削られておきながらも、乾坤一擲の攻勢は並の人間であれば十回殺してもお釣りがあるほどのものだった。


 しかし、刃の『斬刃の理』で強化された刀に秘められた『力』は、そんな〝魔〟の攻撃力を遥かに上回る。



 ――別銘・幻想殺し。



 その銘の如く、現実を浸蝕する幻想に対する致命の一閃が放たれる。


 まずは横に薙ぎ、次に縦に薙ぐ。


 歪な前脚の一つを両断したままに、牙の並んだ口も斬り捨てる。数多の牙が斬り飛ばされて、虚空を舞いながら消滅していく。


 途中で断たれた舌はしばらく床の上でのた打ち回ってから、灰のように崩れた。


 放たれた雄叫びは、悲鳴であり絶叫でしかない。


 まだまだ幼い身体と言わざるをえない少年。


 歪で異形な巨体を誇る〝魔〟。


 普通の人間がこの光景を見れば、少年の身を案じるだろうが、今この瞬間に勝利を握っているのは少年――刃だ。


 圧倒的という言葉すら生温い。


 紙でも切り裂くように、一切の抵抗の余地なく、刀身の触れた先から切り裂かれていき、本体から切り離された部位は途端に消滅していく。


 戦いですらなく、もはや作業でしかない。


 丁寧に解体していくように。少しでも長引かせるように。狙って末端箇所から削っている。四本の脚を断たれて、尻尾も失い、牙も大半を斬り飛ばされた〝魔〟は、まだ存在を許されているだけの状態でしかない。


 派手な哄笑を上げるわけでもなく、刃は淡々と刀を振るう。


 その口元を歪に吊り上げながら。


 傍から見ている蛟は『悪い癖』にため息を吐き。


 みなもは恐怖に近しい眼差しを刃に向けるほどだ。


 そして――


 添琉は魅入られたように、刀を振るう刃の姿を追いかけていた。


 剣としては至極真っ当。


 人間としては遍く異常。


 正気と狂気の狭間で振るわれた剣の煌きを、〝美しい〟と思ったから。


 思ってしまったから(・・・・・・・・・)


「――――終わりだ」


 最後に。


 一度、刃は刀を鞘に納める。


 達磨のようにされていた〝魔〟が断末魔の雄叫びを上げながら、それでも胴体を引き摺るようにして大口を開き、刃を飲み込もうと接近していく。


 健気な努力。


 あるいは愚直なまでに本能に従った特攻。


 それを嘲笑いさえせずに、刃は縮地の如き踏み込みとともに居合いを放つ。


 ――斬滅の一閃。



 ………………………………………………ォォォ……………。



 問答無用に両断された〝魔〟は、サラサラと砂が零れるように消滅していく。跡形もなく、痕跡もなく、在る前の無へと還って逝く。


 それが。


 玲瓏女学院に根付いた〝噂〟が生んだ妖夢の終焉だった。







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