序文
天城学園。
かつての『静かなる革命』を経て、世界の三分の二を掌握したとされる『天城財閥』が立ち上げた一つの『計画』により、設立された学園である。
豊饒の時代を迎えた世界に、さらなる飛躍をもたらす可能性を秘めた逸材を育てるために、学び舎に集ったあらゆる生徒に最高の環境と幅広い選択の自由の提供を約束している。
生徒たちは各々が多彩なカリキュラムの中から、己の志向にあった授業を選択する。
才能を伸ばすために。
または抱く夢を叶えるために。
己の中に眠る何かを見つけるために。
日夜努力をする生徒を教え導くのは、各分野で優れた結果を残したり、期待されているエキスパートの振るう教鞭であり、最新鋭の各種設備のサポートである。
天城財閥の全面的なバックアップの元、設立からの年数を経るほどに肥大化していった学園敷地内には、親元を離れた遠方からの入学者のための学生寮などの居住空間や各種店舗。下手をすれば在学中は一歩も学園の外に出なくても十分に生きていけるだけの様々な施設が揃えられている。
さらがら、学園という体裁の街の如しである。
現在において、生徒総数は一万を超えている。
一年生から三年生の各学年にA組からZ組までの26のクラスがあり、将来の選択肢の近しい者たちが集められた各クラスは、基本的に100~150人に分けられている。
近年の受け入れ人数の増加に伴い、各学年毎に校舎や施設が分けられ、生徒会などといった自治組織もまた各学年毎に設けられるようになっているのは、一つの特徴だろう。
某人物の言葉を借りるなら、〝アホみてぇにスケールのデカイ学校〟である。
生徒に求められるのは、学ぶ意欲。
学んで得たものを自らの人生の糧とすること。
願わくば、よりよき世界を築くための一助とならんことを望む意思。
敢えて付け加えるならば、毎日を楽しんで生きるための熱意。
それこそが天城学園が生徒に望む理念だ。
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そんな学園のとあるクラスには、問題児が集結している。
数多の学生を抱え込んでいるために一癖も二癖もある者も多いが、彼のクラスにおける問題児の〝質〟は、圧倒的に群を抜いている。
故にこそ、一年の頃に築き上げた数々の問題を踏まえ、二年に進級するや否や、二年校舎の特別教室等の並ぶ一角へと〝隔離〟されるほどの特別待遇で持て余されている。
例えば、世界の三分の二を掌握した天城財閥の隠れ御曹司。
例えば、天城財閥麾下十二企業に名を連ねる企業トップの子息令嬢。
例えば、例えば、例えば………。
上げればキリがないほどに有名な顔触れが揃っているし、そうした名立たる肩書きがなくとも、一般人からかけ離れたスキルを持つ者も、当たり前のように肩を並べている。
そのクラスに在る者は、即ち〝只者〟ではないと学園の上層部に認識されてしまっているも同然である。
そんな彼らが一堂に会せば、当然のように大小無数な騒動が起こるは必然。
これは、傍から見るととんでもない規模の騒動が、日常へと成り果てている彼らの送ってきた日々の断片を追いかけた物語。
あるいは、合縁奇縁な人間関係を生暖かく見守る物語。
もしくは、秘められた〝裏側〟を垣間見る物語。




