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クルト……この害虫め、どうしてくれようか?

 野盗共を馬車に放り込んだ俺達は、学問都市への帰路についていた。


 元はブルーノさんの持ち物であった馬車は2頭立ての幌馬車であり、4人乗りサイズの荷台の中は、野盗共ですし詰め状態だ。

 その前方の御者台では俺とスズが手綱を握っており、他のメンバーは馬車の周りを囲うように徒歩で移動している。


 これまで手綱を握ったことの無かった俺だが、クルトが馬車を扱えるとの事で、御者台の隣に同乗してもらい教えてもらったのだ。

 約2時間に渡る苛烈な練習により、俺はどうにか馬車を操れるようになっていた。苛烈なといっても、主に被害を被ったのは俺ではなくクルトだ。

 荷台に乗っていた野盗共は、死んだように眠っていたし、身体能力が高まっている俺にとっては、ちょっとやそっとの揺れは問題にならない。

 結果、隣で教えてくれていたクルトだけが地獄の揺れに耐えきれず、今は野盗共と一緒に荷台に転がっているのだった。


 クルト……お前は貴い犠牲であった、どうか安らかに眠ってくれたまえ。


 とはいえ、馬車の操り方を覚えた俺がそのまま馬車を操って、学問都市へ向かうだけというのも勿体ない。

 そういうわけで俺は今、手綱を握ったスズを俺の膝の上にのせ、その小さなお手てを包み込むように掴んで、手取り足取り教えているところであった。


「おっ、少し先の地面がへこんでるな。スズ、手綱の左側を少しだけ引いて迂回するよ」


「んぅ、わかったわ。でも、やっぱりこの体勢だと、ちょっとだけくすぐったいわね……」


「そうか? このくらいいつもの事だろ。それより、ちゃんと前見てないと危ないぞ」


 俺の膝の上に座ったスズが落ちないよう、腰を押さえて前を向かせる。くすぐったそうに身じろぎする彼女を、微笑ましく見守っていると、荷台の方から怨めしそうな視線を感じた。


 きっと気のせいだ、クルト、あいつはもう死んだんだ……。


 文字通り手取り腰取り教えることで、スズの操車技術は短時間で驚くほどに上達していた。

 やはり、この教え方は効率がいい。唯一の問題と言えば、教える相手が可愛い女の子に限られるって事くらいだろうか。


 まあ俺が教えるとしたら、うちのパーティの子達くらいだから何の問題も無いな。



 その後は1時間半ほどで学問都市が見えてきた。ここまでで、スズの他にもマシロとノルンにも馬車の操り方を教えることが出来た。


 マシロとノルンにも手取り腰取り教えた訳だが、決してやらしい想いがあったわけでは無い。とはいえ流石の俺も、3人目のノルンに教える頃には、ちょっとだけムラっときてしまっていた。


「あの、アスラさんそろそろ街が……ぁっ駄目ですってば、続きは人の居ない所でゆっくりと、ね?」


「もう街かぁ……あとちょっとだけいい?」


「もうっ……少しだけですよ。ですけど、スズには内緒ですよ、後が怖いですから」


 そんなわけで、こっそりノルンに悪戯をしてしまっているのは不可抗力と言えよう。彼女も口では嫌と言いつつ、簡単に許してくれたし、心なしか嬉しそうにしていたのは気の所為では無いはずだ。

 ただ、スズに知られるのが怖いのは確かで、下手をすれば血を見る羽目になるかもしれない。こういうのも浮気って言うのだろうか?


 外で浮気をしてるわけじゃないんだ、ちょっとくらいならスズも許してくれる……はずだ。


 ノルンは何というか弄り甲斐が有る。これがマシロだと抵抗も無いだろうから、完全に俺が悪い事をしてるようにしか見えない。スズが相手だと更にヤバい、いつの間にか主導権が逆転し、気付けば自分が悪戯されていた……まで有る。

 ノルンであれば、適度に恥ずかしがってくれるし、拙い所ではしっかり止めてくれる。うちのパーティの良心と言っていいような存在だ。


 ノルン……俺の心の癒しのために、これから先もどうかそのままの君でいて欲しい。って、真面目な顔して、いったい何を考えているんだ俺は……。


 いかんいかん、心を落ち着かせねば(クンクン、ハスハス)、あーやっぱり落ち着くなぁ……。


 俺が何をしてるのかって? 悪戯と言ってもエロいことをしてるわけでは無い。ちょっとノルンの頭に顔をうずめて、髪の匂いを嗅いでいるだけなのだ。なんか、余計に変態っぽくなったような気がするな……。


 通報はちょっと待ってほしい、これにはちゃんとした理由が有るのだ。端的に説明すると、ノルンの緑髪からは爽やかなハーブのような香りがするのだ。これはたぶん樹人族の血の所為だろう。

 樹人族はその名の通り、樹木の精霊が起源とされる種族のため、その特性も植物に近い。樹木のように長命である代わりに、他の種族のような活力は持たない。日がな一日、日向ぼっこで光合成をしているような種族らしい。

 実際にノルンも休みの日には、その長い緑髪を広げて庭で日向ぼっこをしていたりする。あの緑髪は、葉っぱのような物なのだと思う。


 そんなわけで、彼女の髪はいわば極上のハーブであり、アロマテラピーに近い効果が有る、と俺は思っている。別に俺が、少女の頭皮の匂いが好きな変態というわけでは無いのだ、たぶん……。


「流石に街までもう間もなくですので、離してくださいね」


「あっ、ああ、そろそろ隠さないとか」


 俺は離れ難い気持ちを抑えて、ノルンの頭から顔を離して、彼女の特徴的な長い耳が隠れるよう帽子を被せてやった。


 すると、タイミングを見計らっていたかのように、荷台から声がかかる。

 

「あの~お取込み中のとこ悪いんすけど、もしかしてこのまま街に入るんすか?」


「ん、クルトか? 何だいきなり」


「拙いって言うかっすね。たぶん、おいらは街に入れないんすよ」


 あっ、そういやそうか、クルトのモラル値はマイナス値だ。ギルドに運び込まれたときは緊急事態だから入れたのだろうが、傷が回復した今では、モラルチェックで引っかかってしまう事だろう。


「そういやそうだな………どうする? 今からでも馬車から降りるか? 逃げるって言うなら追いはしないぞ」


「えっ、兄貴が助けてくれるんじゃないんすか!?」


「誰が兄貴だ、誰が!?」


「えっ、アスラさんて天使様のお兄様っすよね? ならおいらにとっては兄貴も同然なんすけど」


 そういや、こいつはナオに近づく害虫だったな……。よし、いっそここで駆除してしまおうか、それなら面倒も無いしな。

 俺は剣の鞘に左手をかけ、右手で剣の柄を、


「すっ、すんませんしたーーっ! おいら調子に乗ってましたっすーーーっ!!」


「ちっ……んで、クルトはこれからどうする気なんだ?」


「そっすね……どうにか、ディアナさん達を支えてあげたいんすけど、このままだと、衛兵さんに捕まるしかないんすよね~。何とかならないっすかね?」


「うーん……無理じゃないかな、諦めてさっさと逃げれば? 言っちゃ悪いけど、クルトが残ったとしても彼女達にとってはたいして変わらないだろ」


 少々の無理をすれば何とかなりそうな気もするが、危ない橋を渡ってまで彼女達を、ましてやクルトを助けたいとは思えなかった。簡単に助けられるなら助けても良いんだけどさ……。


「そんな事は百も承知っす。それでも、ここで逃げちゃダメなんす。例え結果的に無理でも、志を持って行動しろとユーリの兄貴に教えられたんすよ。おいら、どうにか許して貰えないか、衛兵さんに頼んでみるっす!」


「そっか、まあがんばれ。俺も少しは口添えしてみるが、あまり期待はするなよ」


 まるでユーリくんが乗り移ったかのように、熱く意気込みを語るクルト。見逃した野盗の4人の内、1人だけだが、こうも改心したという事が、ユーリくんにとって本望なのかは分からない。

 死人に口は無く、生者にそれを聞く耳は無い。俺には、彼の言葉を代弁する資格は無いし、彼のために何かをしてやる義理も無い。

 それでも、彼の意志を継ぐクルトを助ける事で、少しでも救いになるのなら、ちょっとくらい頑張っても良いかと思ってしまった。


 


 街に着いて間もなく、入門時のモラルチェックが始まった。

 クレア達と合流した俺達はまず、野盗共を衛兵に引き渡し、夜盗6人で金貨20枚の報奨金を受け取った。額は人物鑑定のスキル持ちがレベルとモラル値で査定したようだった。

 レベル41の重犯罪者である頭目が金貨6枚、その手下3人はレベル30前後の重犯罪者で各金貨4枚、レベル10程度で軽犯罪者である成り立て野盗2人が各金貨1枚だ。


 野盗を運ぶ間のリスクを考慮すると微妙だが、金貨20枚と言えばけっこうな額である。しかも、クレア達への野盗討伐報酬の金貨10枚も、冒険者ギルドからしっかり支払われるらしい。

 こんな事なら、もっと捕まえてくれば良かったかな? いや安全第一だ、欲張ると碌なことは無いからな。


 それにしても、こんな大金がどっから出てるんだろな? 治安を守るためとはいえ、額が大きいような気がする。それに、レベル差があるとはいえ重犯罪者が軽犯罪者の4倍というのは解せない。まっ、その辺はあとでニアちゃんに聞けばいいか。


 それよりも今はクルトだ。あいつは案の定、モラルチェックに引っかかって衛兵に捕まってしまったのだ。

 今は別室で、クルトの免罪を願い出ているところだ。

 

「このクルトは今回の野盗退治に多大な貢献をしたんですよ。恩赦とか、そういったのは無いんですか?」


「恩赦ねぇ……貢献したっつっても、こいつが野盗だったのは事実なんだろ? それじゃあ、解放してやるのは無理だな」


 一応、俺も口添えはしてみたが、にべもなく返されてしまった。

 まあそうだよな。そう簡単に赦していたのでは、衛兵なんて務まらないだろうし。


「そこをなんとかお願いするっすよ、これからは心を入れ替えて真面目に生きるっすから!」


「犯罪者は皆そう言うんだよ。それを真に受けて、痛い目を見る新人が毎年1人はいるんだよなぁ……困った事にさ。まっ、大人しく犯罪奴隷として働くんだな、真面目に働きゃ雇い主も悪くは扱わんだろうさ」


 やっぱ無理だよな、犯罪奴隷かぁ……ああ、それなら別に助けなくていいのか。


「えっと、その犯罪奴隷ってのは、俺達でも買い取る事はできるんですか?」


「そうだな……こいつなら金貨3枚だ。もちろんこいつが再度、犯罪を起こさないよう、最後まで面倒を見る事が条件だぞ」


「それじゃ兄貴……もしかして、おいらを買い取ってくれ「それは無い!」」


「でもまあ、当たらずとも遠からずってところだよ。クレア、アウラさんとブルーノさんの奥さんを連れて来てくれないか?」


 「ひどいっす」と打ちひしがれているクルトを無視し、クレアに2人を連れて来てもらうように頼んだ。


 金貨3枚なら出しても構わないのだが、流石にこんな野郎を、最後まで面倒見るとか無い……。だが、彼女達にとっては違うかもしれない。


「お兄さん、2人に来てもらったよ」


「あたしらに用が有るって聞いたですが」


「あの……この子を助けてくださって、ありがとうございました! えと……お礼が遅くなってしまって、申し訳ございません」


「いえ、気にしないでください、奥さんも大変だったでしょう。それより、奥さんに一つ提案と、アウラさんにはお願いが有るのですが、良いでしょうか?」


「はい、その……なんでしょうか?」


「あたしに出来る事ならがんばる、ですよ」


 アウラさんは普通に接してくれているが、ブルーノさんの奥さんには男の俺への怯えが見えた。

 やっぱりこれは、奥さんのほうに必要だよな。


「奥さん、費用の方は俺が持つから、このクルトを犯罪奴隷として使ってやってはくれないか? そしてアウラさん達には、奥さんとクルトが馴染むまでの間、見守ってやって欲しいんだ」


「え……あ……」


「アスラさん、彼女を見守るのは構わないですが、こんな男はいないほうが良いんじゃ?」


「確かに今の彼女のためを想えば、不要かもしれない。だが、アウラさんだって何時までも見守ってる訳にはいかないだろうし、奥さんだって男が怖いままじゃ、社会復帰なんてできないぞ? 荒療治になるかもしれんが、こいつをこき使いながらでも、男に慣れるといい」


「ううっ…………確かに、このままじゃいけませんよね……分かりました! 私、この子のために頑張ります!」


 奥さんは自らが抱いた赤子を、ギュッと抱えて決意したように答えた。

 

「その意気だ。クルトもそれで良いな? お前じゃディアナさん達の役には立てないが、奥さんの為に働くことは出来るだろ。せいぜい、馬車馬のように働いてくれや」


「もちろんっす。おいら目から鱗が落ちた気分っすよ、これならおいらにも罪滅ぼしが出来そうっす。流石は兄貴っすね、おいら精一杯がんばるっすよ!」


 ふい~、これでどうにか丸く収まったかな? 

 クルトは罪滅ぼしが出来、アウラさんは冒険者に戻るまでのリハビリが出来る。ブルーノさんの奥さんが社会復帰するには男手は有って困る物ではないし、俺は面倒事に関わりたくない。

 各自の事情を鑑みるに、この辺りが、最良な落としどころだろうな。


 まあ、出来るだけの事はしたんだ。これで今夜は、心置きなく眠る事が出来るだろう。

 今日はほんとに疲れた、明日からしばらくはゆっくりしようかなぁ……。


サブタイは作者の心情です……。ちょい役のはずのクルト君が、ステータスが出てたユーリくんよりも目立ちやがりました。

やっとこ今回でお別れ……のはずです。

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