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野盗共の後始末

「ふい~、助かったっす。ほんとギリギリだったんすよ」


「そうだな、危うく死ぬとこだったな」


「はい、危うくイクとこだったっす」


 どうにかディアナさんを引き剝がした俺とクルトは、ホッと一息ついて頷き合った。正直、クルトがどうなろうと知ったこっちゃないが、目の前で死なれるのは、さすがに寝覚めが悪い。


 って、さっきのこいつの台詞、何か変じゃなかったか?


「さすがのおいらも、あんな場面で興奮するのが駄目な事くらい分かってるんす。だから、必死に我慢したんすよ~。でも……ハァハァ、やっぱり、ディアナさんは最高っす。真面目に説教されるのも良いっすが、ああやって本気で責められるのも悪くないっすね」


 訝しげに思いクルトを見ると、顔は紅潮しており、息も荒い。てっきり死にそうになった恐怖で、頭がおかしくなったのかと思いきや、よくよく考えると、こいつが変態であった事を思い出す。


 これ、助ける必要無かったんじゃね? クルトよ、俺にはお前が何処に向かっているのか分からないよ……。


 俺は、熱っぽく語るクルトを放置し、ノルンやマシロが集まっているほうへと向かった。

 ちなみにスズは、クレアと話し込んでいるようだし、コテツとアンズは少し離れたところで、捕らえた野盗共を見張ってくれている。

  

「さてと、これで後は帰るだけだよな?」


「ん? 待ってご主人、向こうから声が……むむ、行ってくる!」


 俺はこのとき、ディアナさんのご乱心により精神的にドッと疲れていて、正直さっさと帰って寝てしまいたかったが、マシロからストップが掛かった。それと同時に、彼女は珍しく焦った様子で走り出す。


「あっおい、ちょっと!?」


「急がないとまずい、ノルンお姉ちゃんも来て!」


「あーもう、わかったよ! 悪いけど、ノルンも付いてってやってくれ。ただし、少しでも危険だと思ったら、すぐに引き返してくるんだぞ!」


 ノルンは任せてくださいとばかりに俺の目を見て頷き、マシロと共に全速力で森へと分け入っていった。マシロが自分から行動するくらいだ、いったい何を見つけたのかが気になるが、急ぎだと言うのだから事情は後で聞くとしよう。

 

「オルガさん、少し待たせてしまうけど大丈夫かな?」


「気にしないでおくれよ。それより、野盗共の荷物の回収はしなくていいのかい?」


「そういやそうだった。ナオとイリスで、アジトの中の物をてきとうに回収してきてくれ。オルガさん達はどうするんだ?」


「あたいらのぶんは気にしなくていいさ。あの子達3人を運んでやるつもりだから、馬車の荷台に余裕が無くてね。その代わりといっちゃなんだが、野盗共のほうはお願いしちまってもいいかい?」


「もちろんだ、野盗共や男の俺が一緒だと、彼女達も気が休まらないだろうしな。それと、野盗共から回収した物の分配は、街に着いてから話し合おうか」


「それでいいよ。それじゃ、あたいらはあの子達の面倒見てるから、準備が出来たら呼んでおくれ」


 ナオとイリスが野盗のアジトへと向かい、オルガさんも去ると、入れ替わるようにクルトがやって来た。


「さっきは、取り乱して済みませんでしたっす。おいらにも何か手伝えることは無いっすか?」


「そうだなぁ…………野盗共を乗せられるような、馬車とか荷車は無いか? 無いなら引き摺って帰るつもりなんだが」


「それなら近くに、行商人さんから奪った馬車が隠してある筈っすよ。案内するっすか?」


「そうか、なら全員戻ってきたら頼むよ。っと? 噂をすればマシロ達が戻って来たみたいだな」


 近くの茂みがガサリと音を立て、マシロとノルンが帰って来た。遠目にも、ノルンが何かを抱きかかえているのが見て取れる。


「お帰り2人とも。ノルン、もしかしてその手に抱いているのって……」


「はい、お察しの通り、ブルーノさんの娘さんです。マシロちゃんのおかげで、ギリギリ治療が間に合いましたので、今は落ち着いて眠っています。私はこれからブルーノさんの奥様に渡してまいりますので、詳しい話はマシロちゃんに聞いてください」


 そう言って赤子を抱きかかえたノルンは、ブルーノ夫人やその面倒を見ているクレア達が居る方へと歩いて行った。


「あの子、崖の下で死にかけてた。拾ってノルンお姉ちゃんに直してもらったの。あのね…………かってしてごめんなさい……ボク悪い事した、かも?」


「いいや、お手柄だぞ。よくやったマシロ! さあこっちゃこい、褒めてつかわすぞよ」


 恐る恐る事情を説明したマシロを、手招きして呼び寄せ、耳の付け根や尻尾を撫でさすりながら存分に褒めてやる。マシロも気持ちよさそうに目を細め「うにゃうにゃ」鳴いている。


 それにしても、マシロが自発的に行動したのは初めてじゃないか? それだけ俺達に馴れてきたって事かもしれないし、それに、意外に子供好きなのかもしれない。


 俺はこれまで、マシロにペット(奴隷)としての行動以上は期待してこなかった。

 金で買ったって事もあり、マシロに対し引け目のような物を感じていたのだろう。服従を強いておきながら、仲間としての自主的な行動も期待する。そんなのは欲張り過ぎで、甘えでしかないように思えるのだ。

 仲間だとか家族だなどと綺麗ごとをぬかし、彼女を契約紋で縛っている事に見ない振りして甘えてしまえば、いつか致命的な間違いを犯してしまうのではないか? そんな恐怖が俺にはあった。

 だからこそ俺は、彼女が自分のペットである事実を忘れないように努めてきたのだ。少なくとも彼女を解放するまでは、彼女を対等の存在と認めるつもりは俺に無いし、自分が彼女を仲間だと思っているなどと、おためごかしを言うつもりも無かった。

 とは言え、期待してはいなくとも、望んでいない訳ではない。マシロが少しでも自分の意思を外に出してくれたのは、嬉しい事に他ならなかった。


 まあ、そんな事を言いつつも、何だかんだと流されて、色々とやっちゃってはいるんだけどな……。その辺りは、俺の不徳の致すところだ。



 とか考える傍らマシロを甘やかしていると、底冷えするような声が聴こえてきた。


「お兄さん……こんなところで、何をやってるんですかぁ?」


「ほんとに何やってるのよアスラ……もうちょっと空気を読みなさいな」


 振り返ると、ジト目で俺を睨むクレアとスズが並んでいた。


 ちょっとこの感じ、孤児院に居た頃を思い出して懐かしい、あの頃は平和だったなぁ……。とと、現実逃避してる場合じゃないな。


「いや違うんだよ、話せばわかるって。ほら、マシロが赤ちゃん助けてきたのは見ただろ? こいつさっき、自分からすすんで助けに行ったんだぞ、凄いだろ?」


「えっ? あれってアスラが指示したんじゃ無かったんだ……。そっか、偉かったんだね~マシロちゃん。よし、私もいーこいーこしてあげちゃおう」


「スズまで一緒になって……この2人は、もう、相変わらずマイペースなんだから」


 マシロとのじゃれ合いにスズが参戦し、クレアはその様子を呆れ顔で見ていた。


 にしてもマシロの毛並みはやはり最高だな。マシロの白い毛は、毛艶も良く太陽の光を反射し、白く輝いている。ふさふさの毛並みは、触れるとサラサラと繊細でありながらツヤツヤとした手触りも併せ持つ。さらにはモチモチの白い肌はぷにぷにで……。


「ん、白い肌!? って、ナオ、いつの間に帰って来たんだよ……」


「ついさっき。ますたー、わたしもほめて」


「あっ、ああ……荷物の回収は終わったんだな、よしよしご苦労様」


 褐色肌のマシロを撫でている間に、いつの間にやらナオが混じっていた。最初びっくりしたものの、俺とスズはそのままナオも撫でまわした。ナオの手触りはモチモチぷにぷにと、何というか美味しそうな手触りだ。けっして性的な意味ではないので、そこだけは勘違いしないでほしい。


「主殿! ナオ殿と共に、野盗共の荷物は粗方回収して来たでござるよ」


「そうか、イリスもご苦労様。いつもありがとうな」


「お安い御用でござるよ。それででござるな…………拙者もその……なでなでが」


「ん? そっか、いいぞ、遠慮しないでこっちにおいで」


 俺が手招きすると、イリスも嬉しそうに小走りでよって来る。


「まったくなでなでしたいなら、言ってくれれば代わったんだぞ。俺は野盗共を馬車に放り込んでくるから、ここは任せるよ。存分になでなでしてやるといい」


「えっ、あっ、そっちでござるか!? 拙者は、うぅ……わかったでござるよ……」


 俺はイリスの為に場所を開けてやり、所在無さげにしていたクルトを連れて、野盗共の下へと向かった。


 振り返って見ると、イリスが涙を流してナオとマシロを撫でているのが見えた。涙を流すほど撫でたかったのなら、今度は最初からイリスも誘ってやろうと思った。



 野盗共のところでは、コテツとアンズがしっかりと見張っていてくれた。こうやって2人が裏でしっかり、働いてくれているからこそ、俺達は楽しく暮らせているのだと実感した。


 いわゆる縁の下の力持ちって奴だな。


「2人ともご苦労様、俺達が今幸せなのは2人のおかげだよ。いつもありがとう」


「そんな主様、私達には勿体ないお言葉です」


「そうですぞ、我らが主殿に従うのは当然の事、礼など不要なもの」


「そう言うなって、2人とももうすぐお別れだからな……。もう少しの間だけど、よろしく頼むな。クルト、この2人と共に、野盗共を馬車まで運んでくれるか?」


「了解っす、お2人ともよろしくお願いするっす」


 コテツとアンズが頷くのを確認して、俺はそこから去ろうとした。


「まっ、待ってくれ! 頼む、どうか俺達を解放してくれ!」


「何言ってんだ? そんな虫の良い話、誰も聞きはしないぞ。それに、唯一聞いてくれそうな奴は、お前らが殺しちまったみたいだしな」


 さすがにユーリくんも重犯罪者の解放はしないだろうがな。


「……ならせめて、この場で俺達を殺してやくれねーか?」


「それも断る、お前たちを生きたまま街で引き渡すと、報奨金が出るらしい。今回は他の冒険者パーティと合同だから、俺の一存で決めるわけにはいかないよ」


「そう言わずによう。そうだあんた、俺達みたいな重犯罪者がそのあと、ほんとはどうなるかって知ってるか?」


「話を聞かせて、同情でも買おうってか? だが断るよ『スリープクラウド』!」


 俺は野盗共に何度も魔法をかけ、まとめて寝かしつけた。相手が動けない状態の格下なら、『スリープクラウド』ってほんと便利だ。


「良かったんすか? お頭の話を聞かなくて」


「良いんだよ、俺は野盗の話を信じられるほど、素直ないい子じゃ無いからな。それに、下手に話なんて聞いて詐術にでもかけられても困るしな」


 まあ、話を聞いたところで、街で引き渡す事は変わらないだろうな。クレア達だって、誰も連れて行かずに討伐完了しましたなんて言っても、信じてもらえないだろうし。

 重犯罪者がどうなるかなんてのが気になるなら、姪っ子ちゃんの護衛の報酬代わりに、ニアちゃんに教えてもらってもいい。そうすれば、ホントかどうか分からない野盗の話を聞いて、裏を取る必要も無いし、二度手間にならなくてすむ。


「主様のおかげで、運び安くなりましたわ。このまま馬車まで、運んでしまいますね」


「ああ、コテツ、アンズ、それにクルト。馬車の準備をして、そのまま森の外で待機しててくれ」


 3人が頷くのを確認した俺は、クレア達にこれから帰る旨を告げに向かった。

 

 今度こそ帰れるよな? フラグとかじゃないぞ、俺は本当にさっさと帰って、はよ寝たいんだ。



ちょいちょい更新が、一週間ペースから遅れてってますので、次回は火曜更新に戻せるようがんばります。

それにしても想定より話が進んでない、これも全てクルトのせい。遊びで変態属性追加したら、余計な動きをし出しました……。

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