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混血種と魔王の種

 本以外は無価値とばかりに、こちらを一顧だにしなかった自称ニアちゃん17歳。そんな彼女が、今は射殺さんばかりにこちらを見ている。そのギラついた大きな瞳には、嫌悪と興味が不思議と同居していた。


 混血種について知りたい理由か……さて、どう答えるべきだろうか?

 混血種は一般には忌み嫌われているわけで、それを考慮すれば何か適当な理由をでっち上げるべきなんだろう。嫁が混血種だからとか言ったら、良くて変態、最悪は何かあくどい事を考えてるんじゃと誤解されかねない。

 とはいえ、彼女が一般の部類に入るとは思えないし……まあ、真意が分からない以上は正直に答えるのがベストかな? 後で嘘ついてたとバレたりしたら最悪だしな。


「実は、私の妻が混血種でして、それで色々知っておきたいのですよ」


「はえ~、それじゃ、そっちのおねーちゃんが奥さんなのなの?」


「いえ、彼女とは別の娘ですね」


「他の娘のための調べ物を、自分に好意を寄せる女性に手伝わせてるって事で良いのかな? 鬼畜なおにーちゃん」

 

 急に真面目になったニアちゃんが、傍らの杖に手を掛ける。

 つうか何で、好意を寄せてるとか解るんだ? 年の功って奴?


「違うよ~、女の勘ってやつだよ。どうやら本気で死にたいようだね、お・に・い・ちゃん」


「まっ、待ってください! 彼女はまだ妻でないというだけで、結婚を前提に付き合ってるところなんです! ですので彼女のためでもあるんです」


 こちらに杖を向けたニアちゃんは、途端に微妙な表情に変わる。

 とっさに言い訳をした俺だが、良く考えなくても最悪な言い訳だ。クズ過ぎて自分でも弁護できない。


「おにーちゃん、自分で何言ってるかわかってる? 他に奥さんが居るのに付き合ってるって言ってるんだよ。ニアね、それって駄目な人のセリフだと思うの」


「ですよねー……もうこうなったら正直に全部話しましょう! 私の身内に今、4人の混血種の女性が居ます。その内、3人とは既に関係を持っておりまして……3人とも幸せにしてやりたいんですよ」


「その3人は良いとして、残りの1人はどうするのかなぁ?」


「もちろん、最後まで責任を持って面倒見るつもりです。彼女に相応しい相手を見つける手伝いをしても良いですし、彼女が望むのであれば私が相手になります」


「私達のこと、そこまで真剣に考えてくれてたんですね……アスラさん……」


 そう呟いたノルンが、そっと背中に抱き着いてきた。

 それを見たニアちゃんが呆れたように、戦意を緩めた。

 

「ほえ~、本気で言ってるんだ。まあ本人達が良いならいっか。あれ? でも、ちっちゃい混血種ちゃんとばっかり付き合ってるってことは、おにーちゃんって、もしかしてロリコンってやつぅ? はっ、ほんとの狙いはニアの身体なの!?」


「そんなわけないでしょう! それに私はロリコンじゃない……無いはずなんですが、最近は、その自信が砕打ち砕かれる毎日です……」


「ちぇ、ノリ悪いな~。まっ、おにーちゃんも苦労してるみたいだし、許してあげよう。んでさ、混血種について知りたいんだよねぇ? ならニアが今回だけ特別に教えてあげちゃうよ~、そっちのおねーちゃんとは他人の気がしないからね」


 俺の瞳から力が失われていくのを見て、完全に戦意を収めたニアちゃんが、そう提案してくれた。


「えーと、申し訳ありません。以前お会いしたことがありましたでしょうか? 私には、どうも覚えが無いのですが……」


「おねーちゃんとは直接関係ないんだ~。ニアの昔の仲間の子供にね、おねーちゃんと同年代の似た境遇の子がいるんだ~。だからかなぁ、おねーちゃんには幸せになってほしいんだよ」


 何処か遠くを見ながら、そう言ったニアちゃんの表情は、17歳とはとても思えない哀愁に満ちていた。

 というか昔の仲間にノルンくらいの子供がいるとか、明らかに17歳じゃないだろとか、そういう余計な突っ込みはしない。何より怖いし。


 ともあれこうして、自称ニアちゃん17歳から知りたい情報を教えてもらえる事になったのだった。




 ニアちゃんから教えてもらった情報は大きく分けて3つ。一つは混血種が迫害される理由、もう一つは魔王について、最後に混血種の妊娠についてだ。おまけで錬金術のお勧めの本についても教えてもらった。



 まずは、混血種が迫害される理由についてだ。忌み児、混じり物、雑種、魔王の種、様々な忌み名を持つ混血種ではあるが、これもある意味、必然なのだと彼女は言う。


 理由の一つは、混血種が世に稀な存在である事だ。ただでさえ異なる種族の者同士が結ばれる事が稀な上に、異なる種族同士では子供が生まれる確率がグンと落ちるのだそうな。


 具体的な数字で表すと、人種として数えられる種族の総数、約1000万人のうち5000人にも満たないだろうとのことだ。最も多い普人族が850万ほど、最も少ない妖精族が3万ほどだと言うから、その差は大きい。

 ちなみにこの5000という数字は、ニアちゃんの推測であり、実際に表に出ている数字は500人ほどであるとのこと。一定以上の成功を収めた者達でない限り、わざわざ混血種とは明かさないため、正確な数字は分からないとのことだった。


 妖精族なんているんだなという感想と、人口なんて誰が数えたんだと思ったりもしたが、答えは意外にも身近な組織が関わっていた。冒険者ギルドが極秘で調査した事なのだそうな。ニアちゃんが何でそんな事知ってるんだと聞いたところ、昔の伝手で教えてもらったのだと言う。伊達に長く生きてない。

 ちなみにこの人口は、あくまでギルドが存在する6ヶ国、サウリア王国、エスト教国、シリル商都連合、ノーザン帝国、ヴェスター皇国、迷宮都市の人口である。そのため、ギルドのない獣王国や、魔族領、エルフ領、他にも国に属していない人々などの人口は含んでおらず、実際の総人口は1200万ほどでは無いかと言っていた。

  

 ともあれ混血種は少数派である。どの種族との混血であるか、といったふうにグループを細分化すれば、1グループの人数は更に少なくなるだろう。

 少数派が多数派に迫害を受けるということは、珍しくも無い事であり、混血種がその迫害をはねのけるには数が少なすぎたのだ。



 もう一つの理由は、混血種が優れた能力を持っているという事だ。一言で言えば嫉妬である。

 俺の鑑定で見てもわかるように、混血種のパラメータ限界は、その合計が他の種族を1割ほど上回っている。能力が1割も違えば、調べれば気づくのは難しくないはずだ。その上、いつまでも10代に見えるその若々しい容姿が、何よりも人の嫉妬心をあおる。


 混血種が生まれたときから強いのであれば、彼、もしくは彼女達にとってまだマシだったはずだ。自分で自分の身を守ることができるのだから。しかし、混血種の成長は遅い上に、成長に大量のエネルギーを必要とする。

 この世界ではレベルが1になる頃、普通の子供であれば10歳前後を一人前と見なすが、混血種はそれまでに15年以上かかってしまう。その上で、人一倍飯を食うのである。


 将来的には自分達を超えるだろう者達が、幼いうちは貧弱なのだ。その上、無駄飯食らいだと非難する大義名分だってある。出る杭は打たれる、そして出過ぎて打てなくなる前に叩いておこうというのも、悲しい事に人情なのだ。

 


 最後の理由は、魔王の種という忌み名にあった。この呼称はだいたい、80年くらい前から少しづつ広まっていったものらしい。ニアちゃんは「100年前は使われてなかったんだよね~」とも言っていたけど、ほんと何歳なんだろね、この人……。

 

 実際、この呼称が使われ出した10年後に、混血種の魔王が誕生したそうで、その後しばらく迫害が過熱した時期もあったらしい。

 ただこの魔王は、世界から種族差別を無くすために立ち上がった者で、別に悪逆の徒というわけでは無いらしい。

 初代魔王と呼ばれている魔人族の王が、普人族に敵対し、悪逆非道の限りを尽くしたのは本当らしいが、全ての魔王がそうとは限らないとのこと。特に最近は、普人族至上主義国家の敵の首魁という側面のが強いらしい。

 今代の魔王である、ヴェスター魔王国の王も気のいい奴だそうだ。ニアちゃんが何でそんな事知ってるんだと(以下略)。



 次に、話は少し被るが魔王についても聞いた。

 ここ500年の歴史に残っている限りでは、今代の魔王が16代目にあたるそうな。先も少し述べたが、15代目の魔王が混血種で、今代の魔王が普人族であるらしい。


 16人の魔王の種族内訳は、普人族と混血種が各3人、魔人族と獣人族が各2人、樹人族と土人族、竜人族に妖精族の4種族は各1人だそうで、残り2人の種族は不明とのこと。わずかに残る文献の、外見の記述を見るに普人族では無いかとニアちゃんが言っていた。多くの文献は普人族が残した物であるため、都合の悪い事実を隠したのでは?とも言っていた。

 ちなみに俺が「土人って?」という非常識な質問をした時も、呆れつつも土人族の特徴を教えてくれた。土人とはいわゆるドワーフであるらしい。


 混血種の魔王が3人というのが多いか少ないか、混血種の少ない人口を考慮すると確かに多い。だが、混血種だから魔王になるのではない、まず間違いなく迫害が原因であろう。

 俺のその意見にニアちゃんも頷いてくれた。混血種だから迫害され、迫害された混血種が魔王となる、そして迫害が加速する。これは負の連鎖だ。


 どうすれば止められる?

 でも、俺みたいな一介の冒険者に何が出来るというのか?

 これを放置すると俺達はまだしも、俺の子孫達は……。

 

 様々な想いが胸に去来したが、俺はその想いに蓋をした。結局は、今できることをするしかないのだ。

 未来の子孫の心配より、今、スズ達との間に子供が出来るのかが一番の問題だ。



 そして、最後に混血種の妊娠に関して聞いて、愕然とした。

 結果から言えば、俺とスズ達の間に子供が出来るかは分からない、だ。


 例えば、両親が獣人族と普人族の混血種が、獣人族もしくは普人族との間に子を儲けた実例はあるらしい。だが、相手が全く関係無い種族となると、実例が無いとのことだ。

 少し前に、帝国で一つの研究論文が発表されたらしい。それによると、混血種は、両親のいずれかの種族、もしくは両親の種族が同一パターンの混血種とのみ、子を儲けることが出来るらしい。そしてその場合、子供の種族は、両親のいずれかの種族か混血種の、3パターンがあるとのことだった。


 それを聞いたノルンは、ホッとため息をついて俺に熱い視線を投げかけてきた。俺はといえばそれどころではない。

 俺が普人族であれば問題は無い、実際、ノルンは俺を普人族だと思っているのだから安心しているのだ。だが、俺の実際の種族は異世界人となっているのだ。

 異世界人が普人族に準ずる種族なら問題無いが、そうでないなら俺は混血種との間に子を作れないことになる。スズ達になんて言えばいいんだ……?


 今まで話さなかったけど、俺って実は異世界人なんだ。種族もそうだから、お前たちと子供は作れないけど、今まで通り一緒にいような…………言えるか! そんなこと。あー、なんか急にカミングアウトのハードルが上がったんだけど、最初っから俺が異世界人だって打ち明けときゃ良かったよ……。


 そう思いはしたが、もし自分の正体を打ち明けていたなら、ここで確実にノルンをがっかりさせていたわけだ。俺についてはイレギュラーな部分も多く、子供が出来るかもしれない。そうなると、無駄にがっかりさせてしまうわけで、かえってこれで良かったのだと、自らに言い聞かせる。



 結局この後、ニアちゃんおススメ錬金術本10選とやらを聞いたのだが、話半分に聞いていたため、半分も覚えていない。ノルンも聞いてくれていたことだし、大丈夫だろうきっと。


 そんな事より、スズ達になんて話そ……もう、正直にぶっちゃけちゃうかぁ。でも、それもなぁ……。


 大きすぎる難題にぶち当たった俺は、久しぶりに一晩飲み明かしたい気分で、図書塔を後にしたのだった。


毎度お読みいただきありがとうございます。

今回ちょっと説明回だったので、次回は下ネタ多めで行こうかと思っています。

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