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図書塔のヌシは、目尻が気になるお年頃

 学問都市へと着いて翌日の早朝、俺は街門の外でスズ達を見送っていた。


 昨夜は、別れを惜しむようにスズと2人きりで過ごした。エロいことはしていない……ちょっとしか。

 子作りの件についても話をし、今回の旅が終わったら、腰を落ち着けてじっくり取り組むということになった。まあ、やることは今までと変わらないわけだが……。


「アスラさんの事は私に任せて、スズはゆっくり(・・・・)してきてくださいね」


「…………ねえノルン、やっぱり私の代わりに行ってくれたりしない……?」


「私の代わりがスズに出来るなら、考えてあげても良いですよ。当然、上位文字も読めるんですよね?」


「うぅ……ノルンが意地悪する、アスラも何か言ってよぉ」


 上位文字とは、日本語で言う漢字のようなものだ。


 この世界には下位文字という、平仮名にあたる文字も存在し、一般人が目にする物は全て下位文字で書かれている。冒険者ギルドにある依頼の張り紙や、店の看板や標識などがそうだ。

 そのため、下位文字の識字率は意外に高い。うちのメンバーで言えば、ノルンは当然としてスズとマシロも習得している。

 一方、上位文字は正式な書類や、難解な書物で用いられる文字である。主に使用するのは、貴族や文官、聖職者といった者達だ。ノルンも、エスト教の教典で使われていたため、習得したのだと言う。他のメンバーは当然のように読むことが出来ない。


 図書塔に収蔵されているような本は、上位文字で書かれている可能性が高いとのこと。

 転生時に無理矢理詰め込まれたため、俺も上位文字を読めるが、サポートとして残ってくれる者も読めるに越したことはない。

 そのため、今回ノルンが残って、スズが別動隊の指揮を執ることは適材適所なのだ。


「諦めろスズ、今回ばかりはノルンが全面的に正しい」


「アスラまでそんなこと言って……私と別れるのが寂しくないの?」


「寂しいに決まってる、でも今回はお前が言い出した事だろ? だから我慢して送り出してやってんだぜ」


「うぅ、そうだった……私のばかぁ…………しょうがいかぁ、行くしかないよね」


 いつもはしっかりした嫁が、いざ別れるとなるとこうもポンコツになるとは……。なんかだんだん心配になって来たぞ。


「気を着けて行ってくるんだぞ。知らない人に話しかけられても付いていかないこと、それに、変な人や野盗に絡まれたら遠慮することなんてないからな」


「わかってるよぅ、変な人や野盗は切って捨てればいいのね? 知らない人も?」


 うちの嫁、マジ鬼嫁。あっ鬼人の血も引いてるんだった、ならしょうがないよね……。 


「じゃなくて! さすがにそれは拙いから! マシロ、スズのこと頼んでいいか?」


「ん、大丈夫。変なの今だけ、きっとすぐ戻る」


 だよなぁ、いくらスズでも知らない人を切ったりはしない……はずだ。


「アスラ殿、拙者にはお願いしないのでござるか?」


「イリスは別の意味で心配だからなぁ……ノルンも居ないわけだし」


「ぬぅ、最近、拙者の扱いが酷いような気がするのでござる……」


「そんな事は無いぞ、最初っからこんな感じだろうに」


 俺の素っ気ない言葉に、イリスは「それはそれであんまりでござる」と呟きつつも引き下がる。

 なんか収拾がつかなくなってきたな……。


「とにかく、さっさと用を済ませて帰ってくると良い。俺達の方は大丈夫だから、無理せずに気を着けて行ってくるんだよ」


「わかった……急いで帰ってくるから、それまで良い子で待っててね。ノルン、くれぐれもアスラのこと頼むわね?」


「はい、私が体を張ってでもお守りしますので、安心して行ってきてください」


 俺達と別れたスズは「それが安心できないんだけどね」と呟きながら、東の港湾都市へと走って行った。心なしか、いつもより走るペースが速いので、付いていく皆が大変そうに見えた。



 スズ達と別れた後、俺とノルンはまずは情報収集のために冒険者ギルドへと向かった。


 シルバーランクの冒険者というのは実に便利な肩書である。窓口で冒険者カードを見せるだけで、簡単な情報なら直ぐに教えてくれるのだから。


 今回聞き出した情報は、図書塔に関する事だ。


 まず、図書塔への入り方だが、ブロンズランク以上ならギルドカードの提示で簡単に入れるらしい。入館時に銀貨1枚が掛かり、何か問題を起こした場合、その都度罰金がかかるとのこと。


 次に、情報の持ち出しについてだが、本の貸し出しは受け付けていないが、書き写す分には問題無いようだ。しかしその場合、専用の紙とペンを購入する必要があるらしい。これがまた高価なんだとか……アコギな商売である。


 最後に、管理人の有無についてだが、警備を担当する人員は居ても司書は存在しないらしい。ただ、調べたい情報が見つからなかったら図書塔のヌシに聞くといい、と教えてくれた。気に入られれば色々教えてくれるだろうとも言っていた。

 ちなみに図書塔のヌシの居場所を聞いたところ、「ヌシの居場所は本を追えば見つかる」という謎な助言を受けたのだが、それ以上は何も教えてくれなかった。行けばわかるという事らしい。


 もし俺が有名冒険者とかであれば、ここで厄介な依頼を持って来られたリするのだろうが、何も無かった。俺はギルドで目立った活躍などはしていない。せいぜい、ギルドの為にせっせと依頼をこなした程度で、あまり名前を知られていないのだ。

 この街の規模なら、シルバーランクの冒険者は少なくとも30人くらいは居るだろうし、わざわざ馴染みのない冒険者に頼む依頼も無いのだろう。



 ギルドでの用が済んだ俺達は、そのまま図書塔へと向かう。

 

 入館料を支払い、ノルンと共に図書塔内部に入り込むと、そこは本の森であった。

 見渡す限りが本に埋め尽くされたその空間は、魔法の灯りでぼんやりと照らされている。


 塔内部が全て吹き抜けになっていて、陽の光で照らされた螺旋階段を昇りながら、壁一面の本棚から目当ての本を探し出す。正直、そんなファンタジー展開を想像していたのだが、全然そんなことは無かった。


 入り口の係員に聞いたところ、どうやら24階まで存在するらしい。試しに俺のイメージを伝えたところ、陽の光は本の大敵だし、フロアで区切らずに全館吹き抜けとか、「上のほうは怖くてしょうがないだろ」と素で返されてしまった。さもありなん……ファンタジーどこ行った。


 ちなみにどの階にどんな本が有るのか聞いたところ、知らんの一言で返された。マジでこの24階層を全て見て回らんとならんのか。

 やはりヌシを探すしか……いやいや、それもなんか嫌な予感がするしなぁ。


 俺がいつまでも迷っていると、ノルンに呼ばれる。


「ねえアスラさん、あれって……?」


 ノルンが指し示す先を見ると、何かがふよふよと宙を漂っているのが見える。よく見るとそれは本のようだ。


「本……ですね。追ってみましょうか?」


「本を追えば見つかる……か。これは行くしかないようだな」


 本を追いながら、本棚の森を突っ切り、階段を登り、上の階上の階へと進んで行く。

 途中で何度か本が合流していき、最上階の24階に到達するころには、目の前を飛ぶ本が10冊近くになっていた。


「どうなってるんでしょうね、この本たちは?」


「うーん、わからん。なんかの魔法じゃないか?」


「魔法を使うにしても、対象を認識できないと掛けようが有りませんよ」


「術者が隠れているわけでも無さそうだしな……何者なんだろな、噂のヌシってのは」


 こんな真似が出来る奴がまともなわけがない。正直、関わりたくは無いのだが、ここまで来たら後には引けない。


 本はとうとう、最上階の中心へと到着し、装飾過多なテーブルへと不時着する。テーブルの傍らには、ゆったりとしたローブを纏った小さな影が……。


「私はニアちゃん、17歳だー! きさまたちは何者だぁ?」


「なんでこんな小さな子がここに……?」


「…………」


 ……ヤバい奴が現れた。俺達は唖然としたまま動けずにいる。


 自称ニアちゃん17歳は、ぱっと見では10代前半に見える。水色の髪を肩まで伸ばした美少女だ。だが17歳と言われると、何処か違和感が残る。

 彼女は目の前に浮かせた本から、一瞬たりとも目を離さずに話を続けた。


「名乗らないなら見ちゃうよ~。ほむほむ……なかなか強いんだね、おにーちゃん。それに、そっちのおねーちゃんも面白そうだ~」


 もしかして今、鑑定されたのか?

 俺もお返しとばかりに、少女を鑑定すると、


----------------

名前:エウメニア

種族:普人族

モラル:782

レベル:71

筋力:16 ( 487)

耐久:19 ( 578)

敏捷:37 (1126)

器用:54 (1643)

精神:73 (2221)

魔力:94 (2860)

通常スキル:杖術Lv3 生活魔法Lv4 火魔法Lv5 無属性魔法Lv6 詠唱省略Lv6 人物鑑定Lv6

固有スキル:千里眼

ギフトスキル:スキル神の加護

----------------


 思わず吹きそうなるのを、どうにか堪えて平静を装う。何処から突っ込めばいいのやらだ……。


 まずはレベルだが、71とか未だかつて見たことが無い高さだ。

 パラメータに関して言えば、身体能力は大したことがない、と一瞬思いそうになった。確かに基礎パラメータ値は常人を大きく下回っている。だが、補正後の値は一番低い筋力でさえ、昨日会った戦士のユーリくんを遙かに上回っているのだ。

 そして特質すべきは魔力値だ。普人族の上限はたしか100のはずで、魔力値94はかなり上限に近い値だ。補正後の魔力値で放たれる火魔法の威力は、想像するだに恐ろしい。


 スキルに関してもかなり充実している。レベルと所持スキルからすると、スキルポイントが足らないんじゃと思ったが、そのあたりは【スキル神の加護】でどうにかしているのだろう。

 【千里眼】などというステキスキルまで所持している。通常スキルだけを取っても、Lv6スキルが3つもあるとか、もう勘弁してほしい。


 最後に、この精神値だが、どう考えても17歳のわけが無い……。この世界において精神値は年齢に比例する。たしかに個人差はあるものの、17歳で73っていうのは流石にあり得ない。

 ちなみに今まで見た中で、最も精神値が高かったのが、ノルンの祖父であるニコラスさんの64であった。それを考慮すると、この小っちゃい少女は、どれほどの歳を重ねてきたというのだろうか?


 あっ、良く見ると目尻に小じわが……。


「んぁ? そっちのでっかいにーちゃん! 今、どっこ見てるのかなぁ? このつぶらなお目目が見たいならぁ許すけど~、その周りとか言ったらぁ……ボカンッ! だぞぉ?」


 ボカンは勘弁だ、火魔法Lv5が見えてる分、洒落になってない。


「あっはい、綺麗な瞳のお嬢さんだなと、見ておりましたです!」


「ならよしだー。んでさ、どうせ本を探してるんでしょ? どんな事が知りたいのかなぁ?」


 彼女は俺達と話しながらも、本のページを手も触れずにめくって読み進めていく。何の魔法かは知らないが便利だなそれ……。


「申し遅れましたが、私はアスラと申します。混血種に関する本で、おすすめがあればお願いします」


「へぇ、混血種ねぇ、何でそんなことが知りたいのかなぁ? 理由によっては、ドカンッ! だぞぉ?」


 そう言って、初めてこちらを見た彼女の眼には、怪しい光が宿っていた。

 ドカンも勘弁だ、これは下手な回答は出来そうにないな……。


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