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面倒事は回避していくスタンス

「どういうつもりですか?」


「くうっ、こんな力があるんだ。なにも、殺す必要なんて無いだろ」


 俺は右手の剣に手を添えたまま、護衛の男に問いかける。彼は両手でどうにか大剣を支えつつ、苦しそうに答えた。


 なんかこれ、俺が悪者みたいになってないか? ちょっと冷静にならんとな。


「そうですね、一旦、剣を引きましょうか」


 お互いが合わせるように力を抜いていき、剣を収める。周囲を見渡すと、確かに戦闘は終了していた。スズ達も俺のほうに向かってきている。

 護衛の男は一息ついて、軽く頭を下げて言う。


「まずは、礼を言わせてくれ。助けてくれてありがとう」


「こちらが勝手にやった事ですので、別に構いませんよ。それよりも、なぜ止めたのですか?」


「なぜって、殺さずに済むなら、それに越したことはないだろうに」


 彼は当たり前の事だとばかりに、そう答えた。

 確かに、それで済むなら、そのほうが良いけどね……。

 まあ、余計な揉め事は勘弁だから、相手に合わせるとしよう。


「そうですか。でしたら、野盗達の処遇に関してはあなた方にお任せします」


「良いのかい? ほとんど君達が倒したようなもんだと思うけど」


「良いんです。こちらは旅の途中で、余計な荷物は背負いたくありませんし」


 俺は面倒事を彼に丸投げする。


「それなら、お言葉に甘えるとしよう。皆にも礼をさせたいから、一緒に来てくれないか」


 言葉とは裏腹に、彼は俺の了解も取らずに、自分の仲間の下へと行ってしまった。

 仕方が無いから付いていこうとすると、ナオが何かを引き摺ってやってきた。


「ますたー、こっちおわったよー」


 ナオが引き摺ってきたものは、大剣に切り裂かれたのだろう残骸だ。

 下半身をどこに置き忘れてきたのか、その残骸の胴体からは内臓が飛び出し、血と糞尿の匂いが漂ってくる。

 白日の下に晒された、その人だったものは正視に耐えるものではない。見た目もグロいが、何よりも臭いが駄目だった。


 返り血を浴びて、そんな物を引き摺る幼女は、陽の光の下で何故かシュールに映った。これが夜中だったら、悲鳴を上げて逃げ出していたかもしれない。


「ごっ、ご苦労様。……あーっと、その右手のはポイしてきなさい。ついでに気絶している野盗も捕まえてきてくれ」


 どうにかそれだけ伝えると、ナオは「あいっ」と返事をし、その手の残骸を捨てに行ってくれた。

 

 ともあれ、ナオは無事に童貞を卒業できたようだ。いやこの場合、処女なのか?

 よく考えると、ナオってどっちなんだろな。今度、確認してみるか……俺が付いてるかどうか確認する、その光景は完全に事案だな。



 ナオが野盗に縄をかけて戻ってくるまでに、スズ&マシロとも合流する。

 マシロも縄でふんじばった野盗を3人、引き摺ってきていた。


「二人とも、怪我は無いか?」


「大丈夫、無傷。でもスズお姉ちゃんが……」


 確かに怪我は無いようだが、スズの顔が蒼白だ。


「スズ、おまえ……そうか、頑張ってくれたんだな」


「うん、アスラに守られてばかりは居られないもの、私がしっかりしなきゃって。覚悟はしてたつもりなのに……結構キツイね」


「俺が不甲斐ないばかりに、苦労をかけるな……」


 俺には、血で汚れた彼女を抱きしめる事しかできなかった。

 しばらく、その細い肩を抱いていると、遠くからこちらを呼ぶ声が、


「おーーい! イチャついてないで早く来てくれよー!」


 護衛の野郎である、空気読めや……。 


「仕方が無いから向かおうか、続きは後でな」


 そう告げて、俺達も馬車の方に向かう。

 歩いている間に、念のため相手を鑑定しておく。あくまで念のためだ。


 馬車の近くにいるのは、護衛の3人と商人らしい男女、それにその手に抱かれた赤子の、計6人。ちなみにノルン達4人は、馬車から少し離れた所に待機している。

 商人の男女はレベルは一桁台で、一般的なステータスなので省略するとして、護衛の3人のステータスは次の通りだった。


----------------

名前:ユーリ・フローレス

種族:普人族

モラル:272

レベル:37

筋力:62 (359)

耐久:60 (348)

敏捷:63 (365)

器用:45 (261)

精神:25 (145)

魔力:16 ( 93)

通常スキル:体術Lv2 大剣術Lv4 小剣術Lv3 盾術Lv3 気配察知Lv2 生活魔法Lv2

----------------

----------------

名前:ディアナ・ミューレッグ

種族:普人族

モラル:264

レベル:33

筋力:35 (167)

耐久:37 (176)

敏捷:41 (195)

器用:56 (267)

精神:26 (124)

魔力:61 (291)

通常スキル:杖術Lv3 生活魔法Lv3 光魔法Lv3 土魔法Lv3 人物鑑定Lv2 料理Lv2 裁縫Lv2

----------------

----------------

名前:ラウラ

種族:普人族

モラル:13

レベル:30

筋力:43 (177)

耐久:46 (189)

敏捷:74 (305)

器用:64 (263)

精神:21 ( 86)

魔力: 0 ( 37)

通常スキル:体術Lv3 小剣術Lv3 弓術Lv2 隠密Lv3 気配察知Lv2 異次元収納Lv3 解体Lv2

----------------


 とまあ、3人ともブロンズランクの冒険者程度の実力はありそうだ。ちなみに見た目で判断するに、ユーリが戦士、ディアナが僧侶、ラウラが狩人だ。


 実力的にはコテツとアンズの2人だけでもどうにか出来そうだが、何より怖いのは姓持ちが2人も居るという事だ。バックにどんな権力者がいるのかわかったもんじゃない。


 これはやはり、下手に逆らわんほうが賢明だな。


「どうも、お待たせしました」


「やっと来たね、まずは名乗らせてもらおう。僕の名前はユーリ、ブロンズの冒険者だ! こっちの2人は僕の仲間だよ」


「ディアナです。あなた方のご助力に感謝を」


「あたしはアウラ! ほんと助かったよ、ありがとね♪」


 ディアナさんは金髪碧眼の長い髪が似合う正統派美女で、アウラさんは赤い短髪の活発系美少女だ。ユーリくんについては……イケメンの外見とか正直どうでも良い。


「私はアスラと申します、一応は冒険者です」


 一応は名乗り返すが、スズ達の名は出さないでおく。聞かれないなら話す必要は無いし、個人情報が大切なのは異世界でも一緒だからな。

 

「こちらで捕まえた野盗達も引き渡しますので、後はご自由にどうぞ」


 マシロとナオに合図を送り、7人の野盗を引き渡した。

 

「ありがとう、これで10人か。残りの4人は殺してしまったんだね…………なあ、君達の戦いぶりを見たけど、殺さずに無力化することも可能じゃなかったのかい?」


 確かに俺達なら出来ただろうが、リスクは有る。相手が完全に格下だとしても、不覚をとることはある。そして戦いにおいては、不覚をとった瞬間が、最後の瞬間となる事もあり得るのだ。


「そうですねぇ……出来たかもしれません。ですが、うちのパーティは人との戦闘経験が少ないもので、下手に加減するのも危険ですしね。それに相手は野盗でしょう?」


「野盗だから何だってんだ! 君は人の命を何だと思っている!? さっきだって意図的に殺そうと……」


「まあまあ、それくらいにしてください。せっかく無事なのですから皆さん、仲良くしましょうよ。申し遅れましたが、私、ブルーノと申します。しがない行商人でございます。こちらは私の妻と娘です」


 不穏な気配を察したのか、ブルーノさんが止めに入ってくれる。

 ブルーノ夫妻が丁寧に頭を下げて挨拶すると、ユーリくんは気まずげに黙った。


 にしても何でここまで言われないとならないんだ? 確かに俺は他人の命を軽く見がちだけど、それってそんなにおかしな事かな? ユーリくんも、そういうお説教は野盗共に聞かせてやればいいのに……。


 そう思ったものの、口に出さずにグッと堪える。これ以上、拗れたくは無い。


「話の続きは他の場所で、3人でしませんか? お供の皆様もお疲れでしょうから、妻にお茶の用意をさせますので、皆さんあちらにどうぞ」


 ブルーノさんの提案を聞いて、スズ達の一触即発な雰囲気に気づいた。

 スズ達はユーリくんを睨んでいるし、ディアナさんとアウラさんは俺の事をゴミを見るような目で見ている……俺、何かしたか?


 このままってのは、確かに不味い。ブルーノさんが止めに入ったのにも頷ける。


 俺とユーリくんは、一足先にブルーノさんの奥さんにお茶を淹れてもらい、一服してからブルーノさんを交えて話し合いを再開した。

 ちなみに、スズ達とユーリくんの仲間は、ブルーノさんの奥さんと歓談中だ。スズとマシロが赤子に触れようとして、ノルンに窘められているのが見えた。


「さて、落ち着かれましたかな? ユーリさん」


「ああ、取り乱してしまって済まなかったブルーノさん。君にも悪いことをしたね……だがどうしても許せなかったんだ。野盗だから殺して当然っていうような態度が」


「ブルーノさん、この辺りでの一般的な野盗の処遇について、教えていただけませんか?」


「そうですなぁ、襲われた場合は殺してしまっても罪には問われません。捕まえた場合、街で引き渡せば、僅かですが報奨金も出ます。その後の野盗は、契約紋で縛られ死ぬまで重労働を課されますね」


 それってさ、死んだ方がマシって奴なんじゃない? まあ、人にもよるんだろうけどさ……。

 よく考えると、俺もマシロ達を無理矢理働かせてるわけで…………よし、マシロ達には優しく接しよう。


「だそうですが、ユーリさんはどう思われます?」


「僕が言いたいのはそういう事じゃないんだ! 罪に問われなくたって、人を殺すのはやり過ぎだって言ってるんだ。野盗だって僕達と同じ人なんだ、話せばきっと解り合えるはずなんだよ! アウラとだって解り合えたんだ、今回だってきっと……」


 まあ確かに、野盗が同じ人ってのには同意だ。たぶん、ユーリくんよりも俺のが近いんじゃないかな? もしも、チート無しで転生していたら、野盗になっていたんじゃ?と思ってしまうほどだ。

 前世の仕事はこっちじゃ役に立たんし、街での伝手も無い。チートが無けりゃ、生活苦でのたれ死ぬか、犯罪に手を出してただろうからな。


 そんな俺だからこそ、話せば解り合えるという考えは危険だと感じたのだ。前世のような更生施設や、専門家がいるならまだしも、この世界でそれを望むのは高望みというものだろう。少なくとも、俺には無理そうだ。


 まあ、アウラさんと解り合えたっていう彼なら、何とかしちゃうかもしれないけどね。

 にしても、俺が急に嫌われたのはそういう事か……アウラさんが前科持ちなら、野盗は殺して当然ともとれる俺の言葉に怒るのも不思議ではない。


「なるほど、素晴らしい考えだと思います。ならば、野盗達の事はお任せします」


「ああ、任せてくれ! 僕がきっと彼等を更生させてみせるよ!」


 俺の心にも無い言葉に、ユーリくんは意気揚々と答えた。彼の瞳は自信に溢れ、彼の言葉は希望に満ちている。

 俺は彼の眩しさから逃げたのかもしれない。まあホントのところは、議論するのが面倒だったからだと思うけどね。


 結局この後の話し合いで、捕らえた10名の盗賊の内、6名の重犯罪者は街へと引き渡すことに決まった。残り4名の駆け出し野盗に関しては、ユーリくん預かりで更生に努めるとのことだった。

 ちなみに、モラル値の判定を事前にディアナさんがしていたらしい。人物鑑定Lv2では対象の体を覆うオーラのような物が見えて、赤色なら重犯罪者、黄色なら軽犯罪者というように見分ける事ができるそうな。



 野盗達の処遇も決まったので、俺はスズ達と合流し、ブルーノさんやユーリくん達と別れた。

 少し寄り道してしまったが、遅くとも今日中に学問都市へ着くことはできるだろう。


 街道を走りながら、スズ達のモラル値を鑑定で確認しておく。大きく変化したのはコテツとスズ、あとは俺の3人、他のメンバーはたぶん1だけ増えている。

 コテツのモラル値の上がり具合を見るに、2人殺ったのはきっとこいつだ。何事も無かったかのように走っているのを見るに、人との争いには慣れているのだろう。


 一方、俺は野盗を殺し損ねたというのに、なぜ上がっているのだろうか?

 と、よく考えるとスズともう1人、野盗を土へと還した子がいたんだった。

 

 ナオである。ナオのステータスにはモラル値が無い、これを元々ナオがスライムだったからと考えていたが、そうじゃないのかもしれない。

 今回の事を考慮すれば、眷属であるナオがした行動が、俺のモラル値として還ってくるという事だろう。

 

 ともあれ、今日もモラル値は上がったんだ、俺の行動に間違いは無かったはずだ。


 一瞬、ユーリの純粋な瞳が脳裏を過ったが、モラル値を何度も見ては自分に言い聞かせた。

 俺が迷っていてはダメだ、既にもう、スズには手を汚させてしまったのだから……。



5/31) モラル値の変動有りにコテツを追加(撃墜数4、スズが1、ナオが1、あとはコテツ)

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