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テンプレ共がやってくる

 雲一つ無い冬空の下、俺達は北へ北へと走っていた。

 目指すは学問都市、まずは全員でそこに向かう手筈だ。

 昨夜の話し合いで結局、学問都市まで全員で行き、俺とノルン以外はそのまま港湾都市へと向かう事に決まったのだ。

 

 それにしても、走っての移動はやはり冬場に限る。ただでさえ革鎧なんて、暑苦しい物を装備しているのだ。そんな物を着たまま、夏場に何時間も走るなんて考えたくもない。

 これは、あくまで俺達のような高レベル冒険者に限っての話で、レベルが上がることで肉体の耐久力が上がり、耐寒能力も上がっているからこそ言える事だ。


 今日は幸い晴れているが、この辺りだともう雪も降れば積もる季節だ。一般レベルの人達は、街で大人しくしているのが一般的であった。

 そのため、街道を往く人の数は少ない。工房都市を出発してから既に2時間は走っているが、道中見かけたのは、行商人の物らしき馬車を1台だけである。


 ちなみに、馬車を買うという話はあっさりと却下された。何故ならば、馬車を扱える人員がうちに居なかったからだ。

 スズ、マシロ、ナオあたりは別に意外ではない。しかし、獣人のコテツかアンズなら扱えそうと思っていたのだが、どうやら先入観があったようだ。

 コテツとアンズの故郷である獣国は、その国土の大部分が森におおわれているという。森の中で馬は走り難いため、馬に乗るという行為が一般的ではなかったのだそうな。


 このまま3時間も走れば学問都市へと辿り着けるはず。それまでは暇だが我慢である。

 走っている現在、お手軽な暇つぶしと言えば、妄想を膨らませる事くらいだ。これが前世であったならと埒も無い事を考える。


 聞いた感じでは、工房都市と学問都市の距離は100kmちょいといったところ。日本で言えば、東京-宇都宮間がだいたいそれくらいか?

 電車なら約1時間半、この間、本や携帯小説を読むなりして時間を潰せば、大した苦労も無い。まったく便利で進んだ世界であった。いや、正確には国であったと言うべきか。

 公共の場で、周囲の安全に気を払わずに小説に集中できるなんて、そんな安全な国は日本くらいな物だろうしな。

 

 小説と言えば、俺は異世界物の小説を結構読んでいた。あれは物語というよりも、RPGゲームに近い物がある。異世界に転生した主人公が、様々なファンタジー世界で冒険を繰り広げる。主人公が現代人であるため感情移入もしやすく、RPGゲーム世代の俺的に大ヒットだったわけだ。

 そんな物語のような状況に身を置いた現在だが、俺は冒険らしい冒険をしていないような気がする。まあ、する気も無いし、むしろ避けていると言っても過言ではない。

 

 例えば馬車に乗ってのんびり旅をしたとする。テンプレなら間違い無く、魔物や野盗からの襲撃を受けるだろう。そう考えると、馬車など使わないのが正解なのだ。

 


 そんな事を考えていたのがいけなかったのだろう。


「この先で戦闘の音……どうするご主人?」


 噂をすれば影、マシロが警告を発した。


「まずは偵察だな。スズ、マシロ、ついて来てくれ」


 隠密性と俊敏さを考慮した上の人選だ。

 二人が頷くのを確認した後、相手に気づかれないよう注意しながら先へと進んだ。


 間もなく、遠目に人同士が争う姿が見えてきて、身を伏せて様子を窺う。

 どうやら1台の馬車が、野盗らしき集団に襲われているようだ。

 馬車の周囲で防衛にあたっているのは、護衛の傭兵か冒険者だろう。


 飛び出したい気持ちをグッと堪えて、まずは参戦前の戦力分析を行う。

 護衛にあたっているのは3人、全員がレベル30以上だ。見たところ、戦士、狩人、僧侶といった感じでバランスが良く、善戦している。

 野盗の数は14人と、人数は多いがレベルはさほど高くは無い。最高レベルが31で、20台が4人に10台が5人で一桁台も4人いる。

 モラル値の表記は、見事に真っ赤(重犯罪)と言いたいところだが、4名ほど黄色(軽犯罪)で留まっている。みすぼらしい身なりを見るに、野盗になりたてなのだろう。

 

 さて、どうするか?


 異世界に来たからと言って勘違いしてはいけない、俺は超人でもなければ、不可能を可能とするような若さも持ち合わせてはいない。しがない小市民としては、出来る事はするが無理はけっしてしたくない。

 だが、今回に関しては相手のレベルも低く、危険は少ないように思う。それに帰りもこの道を通るわけで、むしろ奇襲が可能な今のうちに、危険は排除しておくべきだろう。


スズとマシロに目で合図を送って、一旦皆の元へと戻り、状況を説明する。


「『義を見てせざるは勇無きなり』でござるよ。早く助けに参りましょう」 


「別にそんなのは無くても良いが、今回は助けに入るつもりだ」


 勢い勇んで駆け出そうとする、イリスを宥めつつ俺は説明を続けた。


「野盗共は馬車を囲んではいたが、無理攻めはしていなかった。どうも、遠距離武器で着実にいくつもりらしい。今のところ膠着状態で、すぐに護衛が負けるという事は無いはずだ。俺達も、馬車から離れた敵から着実に倒していこうか」


「ますたー、てきはころす?」


 とナオが無表情で首を傾げる。仕草は可愛いのに話す内容が不穏すぎる、恐ろしい子だ……。


「正直言うと、お前達には人との殺し合いなんてさせたくない。だがな、戦いに身を置く以上、そうも言ってられないからな……。無理に殺す必要は無いが、加減する必要も無い」


「あいっ、ますたー」


「大丈夫、覚悟は出来てる……つもりよ」


 ナオの何でもないかのような返事に合わせて、スズも決然とした雰囲気で答えた。


 俺1人が手を汚すだけで済むならそうするが、俺だって四六時中一緒に居てやれる訳では無い。

 俺が居ない時、俺の手が回らない時が必ず出てくる。そんな時、敵を殺せるかどうかというのは大きな差だろう。


 大切な人の手を汚したくない、とは俺だって思う。だが、その気持ちはいったい誰の為なのだろう?

 相手の心を守りたいのか、はたまた相手の心の変質を自分が恐れているのか、俺は前者であると自信を持って言えない。

 だからこそ俺は、非情と知りつつその思いを無視する。これからもこの世界で、彼女達と共に生きていく、そういう決意の表れでもある。

 今回の事で、彼女達のうち誰かが心を病んでしまったのなら、責任をもって最後まで一緒に居てやるつもりだ。俺に出来る事はそれくらいしかない。


 それに今の俺達には、対人戦の経験が圧倒的に足りていない。そんな状態で、相手の命に構っている余裕なんてのは元々無かったのだ。


「まずは、俺とナオ、スズとマシロが二手に別れて、離れた所に居る弓使いに奇襲を掛ける。その後、イリスとノルンは馬車の護衛に、コテツとアンズは野盗の撃退に回ってくれ」



 全員が頷くのを確認して、俺達は足音を消して走り出す。

 さっき偵察のために隠れたあたりで4人を残し、二手に別れた。


 俺はまず、如何にも駆け出しに見える4人の野盗に狙いを定める。この4人はモラル値が軽犯罪者レベルのため、殺してしまうとこっちのモラルが下がってしまう。その為、場が混乱する前にサクッと無力化してしまおうというわけだ。


 野盗共との距離は、弓の射程範囲くらいに近づいたが、相手が気付いた気配は無い。流石に攻撃を加えれば気付くだろうが、隠密はやはり優秀だな。


 俺は走りながらも駆け出し4人の足を狙って、投剣を放つ。両手で1本ずつを2回、計4本の投剣は狙い違わず、駆け出し共の太股に突き立った。


「くそっ、いでぇぇー! ちくしょうっ何処からだ!?」


「ナオ、蹴りだ」


「どーーーん」


 見事なドロップキックであった。蹴られた野盗は冗談のように飛んでいく。

 気の抜ける掛け声でドロップキックをかましたナオは、空中で体勢を立て直して着地すると、即座に別の相手に向かっていた。

 俺も、駆け出し野盗に蹴りをかましていく。流石に俺のドロップキックじゃ相手が死にそうなので、もちろん手加減はしている。


 駆け出しの4人は1分と経たずに沈黙した。

 死んではいないはずだ……たぶん。なんか、ピクピク痙攣してるし暫くは大丈夫だろう。

 

「義によって助太刀致す!」


 奇襲が成功してすぐ、威勢のいい声と共にイリス達4人も参戦する。

 周囲を見渡すと、盗賊達は総崩れ。スズとマシロのほうでも2人無力化済みで、更に2人の弓持ちを相手取っているようだ。

 残るは6人、後方で支持を出してるボスが1人、弓持ちが1人に、斧や剣を構えて馬車を囲っているのが4人だ。


「残り1人は任せた、俺はボスの相手にする!」


 残る弓持ち1人をナオに任せて、俺はボスへと向かう。


「何だテメーらは! おいお前ら、下がって俺様を守れ!」


「無理っす兄貴、こいつら強すぎてそんな余裕は……」


 馬車を囲っていた4人は、コテツとアンズが2人で相手をしていた。珍しくコテツが無双をしている。馬車を囲う野盗のレベルは20台、コテツとアンズのレベルは39だ、当然の結果と言えよう。



 俺は剣を構えて、野盗のボスへと迫る。

 王国では自分の独占欲の為に人を切り、教国では近親憎悪に駆られて人を切ろうとした。そんな俺が、今更、野盗を切るのに言葉も情けも不要だろう。


「こうなったら、俺様の竜殺しの斧を喰らいやがれ!」


 野盗が重そうな斧をブンブン振り回すが、力任せでしかないそれは、俺の身体に掠りすらしない。これなら、今まで戦ってきた魔物と大差ない。


 そんな冷めた感想を浮かべつつ、剣を振りかぶって振り下ろす。


「くっ!?」


 俺はその結果に愕然とした。

 切れたのは薄皮一枚のみ、野盗の腕から血が流れてはいるが、軽傷と言っていいだろう。

 俺は野盗を殺すつもりで剣を振り下ろしたはずだし、野盗がかわした訳でもない。 

 

 今更、お天道様へ顔向けできない、なんて心の底では感じているのか俺は?

 他人を殺してでも身内の安全を図るという俺の決意が、陽の光の下ではこんなに容易く鈍るというのだろうか。

 まったく、日本の道徳教育は恐ろしい。もはや呪いに近いものが有るな。


 これではダメだと、俺は再度切りかかろうとするが、


「ひぃ、降参だ! 降参するから殺さないでくれぇ!」


 野盗のボスは完全に逃げ腰で、俺から逃げ回るばかりだ。

 

「そう言って助けを求めた人達を、お前達は助けたのか?」


 誰に言うでも無く、俺は呟く。

 これは自己暗示のようなものだ、言い訳と言ってしまっても構わない。

 一瞬、苦笑を浮かべた俺が、致命の一撃を振り下ろす。


--キィン!


 俺の剣が、確実に野盗の命を奪うだろう軌跡を描いた瞬間、それを押し止めた者が居た。

 阻んだのは、横合いから伸びて来た幅広の大剣。


「そこまでだ! その人にはもう戦意は無い、戦いは終わったんだ」


 野盗の命を救ったのは、襲われていたはずの護衛の戦士であった。



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