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今更、馬車っていうのもな

また2ヵ月以上空いてしまいました、申し訳ありません。


軽く前回までのあらすじは、

・冬になってワイバーン狩のシーズン終了

・そろそろコテツ&アンズとの約束の5年で、解放準備を開始

・貯め込んだ素材で装備を作りに、工房都市へと向かう



「なぁ、やっぱり馬車とか借りた方がよかったんじゃないか?」


「贅沢は敵ですよ、アスラさん」


「ノルンの言う通りよ、工房都市なんて走ればすぐなんだから」


「すぐって言ってもさ、かれこれ鐘一つ分(約2時間半)は走りっぱなしなんだけど……」


 やっと工房都市に向けて出発した俺達は今、ただひたすらに街道を北へと走っている。


 スズの言うすぐってのにはちょっと同意できないが、狩猟都市から工房都市への道のりが、馬車を使うまでのものではないのも確かではあった。

 距離的にはだいたい100㎞を少し超えるくらいだろうか。一般人であれば徒歩で2,3日はかかる道のりであるが、これが高レベルの冒険者であれば話が変わる。

 軽く走っただけで時速20~30㎞程度なら出すことは可能だし、それを長時間維持する体力もある。わざわざ馬車を使わずとも、ジョギング感覚で走れば、半日と掛からず着いてしまう距離なのだった。

 そのため、俺達のような冒険者にとって、自らの足を使った移動こそ最善と言えよう。しかしこの移動方法には、ただ一つ大きな問題がある。

 

「にしても暇だな……皆、何かないか?」


 そう暇なのだ。何時間もただ走りっぱなしとか、暇すぎるのだ。


 馬車さえあれば、移動時間は荷台に乗って暇つぶしくらいできるだろうに。

 ああ、でも俺ってば一応、父親ポジションなわけで、そうなると乗り物の操縦は俺になるのかあな……。


 俺の脳裏には、行き帰りの車の運転で疲れ切って、せっかくの旅行を満足に楽しめない日本の親父達の姿が浮かびあがっていた。


 あっ、コテツに任せりゃいいんじゃん。そうと決まれば、工房都市で馬車も見繕わないとな。


 俺が面倒事を全てコテツに押し付けようと画策している間にも、スズが話を進めてくれている。さすがは自慢の嫁である。


「う~ん、なら工房都市についたら何したいかとか話しとこっか。皆、街に着いたら何したい?」


「そうですねぇ……でしたら私は、折角ですしお爺様の教会で神様にお祈りをしておきたいですね」


「そういえばノルンって、シスターだったんだね。家で祈ってるのなんて見たことないから、すっかり忘れてたわ」


「ですね一応はシスターです。ただ正直、神様なんて信仰して無かったんですけどね。ですけど最近は、感謝しても良いような気がしてまして……」


 シスターなのに信仰無かったのかよ! 妙に金にガメツ……リアリストだと思ったら、職業シスターだったんだな。

 まあ、混血種とか差別される種族に生まれて、神を信じろってのも無理があるよなぁ。俺だったら絶対、神を呪うだろうしね。

 いやでも、恵まれない人ほど神に縋るってのも聞いたことがあるから、実際の所はようわからんな。


「へー、そうだったのね。何か理由でもあるの?」


「アスラさんのせいです。ほら、初めて会ったとき言ってたじゃないですか、神様と話してたって」


 教会で太陽さんと話した後、うっかり口を滑らせたんだったな。

 スズとノルンの話に耳を傾けていると、俺の話題が出てきたので俺も会話に参加する。

 

「ああ、うん、あれなぁ……そういやそんな事もあったな」


「あの時、貴方に出会えたおかげで今の私があります。神様とどのようなご関係かは知りませんが、感謝くらいするべきと思いまして」


「それは俺にも言えることだな、皆がいて今の俺がいる……そうだな、神様の事や俺の事についてはそのうち話すよ」


「はい! お待ちしておりますね」


「その時は私も一緒だからね!」


 俺は、満足そうにこちらを見るスズとノルンに、頷き返した。


 転生してはや5年だ。こっちの世界に馴染んでしまって、すっかり話すの忘れてたわ。まあ、その辺の詳しい事情については、もう少し落ち着いてから話すとしようかね。


「他にしたいことは何かある?」


「某たち二人には物資調達の続きを許可いただきたく」


「拙者も装備を見て回りたいでござるな」


 コテツ達の物資調達をするのはもともと決定事項だ。

 イリスの言う通り、俺も工房都市の優れた装備は見ておきたいんだけど、まあそっちはイリスに任せるか……少し、いや、だいぶ心配ではあるが。

 

「そうだなぁ、革公房で防具作成を依頼した翌日にでも、俺は教会に行くつもりだ。その間にコテツ達は物資調達を進めておいてくれ、イリスも一緒に見て回るといい。何か良いものが有ったら、俺にも教えてくれよ」


「「「はっ!」」」


 あと希望を聞いてないのは、無口コンビだけか。


「マシロとナオも何かしたいことはないか?」


「うーん……ボク、お魚食べたい」


「……おさなまたべるの?」


 おさなまか……幼な〇まならしょっちゅう食べてるけどな!

 すまん、今のは聞かなかったことにしておくれ……。


 くだらない考えに蓋をした俺は、ナオの頭を撫でつつ話を流す。


「お魚な! よし、後で一緒に食べような」


「アスラさん、工房都市は内陸側ですので、新鮮な魚は少ないかと思いますよ」


「それもそうか、そうすると港湾都市に行かないとか……学問都市なら、調べたい事もあるから、行くつもりだったんだがな」


「それなら、別行動にしよっか。アスラが調べ物をしている間に、私は港湾都市に行ってくるわ。私もいろいろと欲しいものもあるしね」


「へぇ、スズが何か欲しがるなんて珍しいな、いったい何が欲しいんだ?」


「ひ・み・つ・よ。ふふっ、楽しみにしててね!」


 そう言ってスズは、走る速度を上げて離れていってしまった。その時の彼女は、大人ぶってはいても、背伸びした十代前半の少女にしか見えなかった。

 

 ああ見えて、もうすぐ20歳なんだぜ……まぁ、あれで中身はしっかり者だから、魚に関してはスズに任せてしまおう。


 そんなこんなで雑談を交えながらも俺達は、何台かの馬車を追い抜きつつ、お昼過ぎには工房都市テリエへと着くことが出来た。


 まったくレベルが上がってくると、人間離れしていくよなほんと……。




 工房都市へ入る際のモラル値チェックは、問題無く通過することができた。

 まあ、フードで顔を隠したイリスが止められて一悶着ありはしたが、ギルドカードを見せるとあっさり通れたので、問題の内には入らないだろう。この程度はよくある事の範疇である。


 さて、工房都市に入ったのはこれで2度目なんだが……。


「ふあぁ、これは凄いでござるな」


 と、街に入ってからイリスが頻りに周囲を見回していて、完全にお上りさん状態である。まあそれも、竜人の村にこもっていたイリスにとっては、仕方ない事だろう。

 都市とは名ばかりの狩猟都市とは違い、工房都市は商都連合の中心地だ。

 通りに面した建物には細やかな飾りが施されており、町に住む職人たちの技術力の高さが窺える。それに、通りを歩く人々も色鮮やかな衣服を着ていて、どこか垢抜けて見えるのだ。

 

「もうイリスったら、ちゃんと前見て歩かないと危ないですよ。アスラさんも何か言ってあげてくださいよ」


「まあまあ、イリスはこの街は初めてなんだから大目に見てあげてくれ。まずは俺達で宿屋と革公房の場所を確認しておこうか」


「それなら、さっき門のところで聞いといたから大丈夫だよ」


「でかした! ならまずは宿屋で部屋を取ってから革公房に向かおう」


 それにしてもスズよ、何時の間にそんなコミュ力を……もしや、ご近所さんと付き合った結果だろうか?

 こうしてたくましく成長していって、いずれは立派なおばちゃんに……。だめだ、これ以上考えるのはよそう。


 イリスの面倒を見るノルンを横目に、俺はスズの後について宿屋へと向かった。


 案内された宿屋は裏通りに少し入った所にあったが、重厚な作りのシンプルな建物であった。

 表通りの建物に比べて装飾が簡素なのは、その分の費用を別の所に掛けているのであろう。


 俺たちが泊まれるような頑丈な部屋だと、一泊の料金が1人部屋で銀貨7枚、2人部屋だと銀貨10枚、4人部屋なら銀貨15枚で済むようだ。

 

 取り合えず俺達は4人部屋を2部屋確保してから、すぐに革公房マリアンヌへと向かうことにした。




 革公房は、街の北側にあるらしい。

 目的地に近づくにつれ南側の華美さは薄れて行き、いかにも職人長屋というような、雑然とした通りに辿り着いた。

 通りには、汗と煤で汚れたツナギを着た職人達がいきかい、威勢のいい声が飛び交っている。そこには、狩猟都市の荒っぽさとは似て非なる、粗野な賑わいに溢れていた。


 そんな中、革工房マリアンヌの建物は原色が随所に取り入れたケバケバしい外観をしており、明らかに悪目立ちしている。

 

 うん、これは悪い予感しかしない。


 俺はいつでも逃走できるよう、皆にハンドサインを送ってから、そっと扉を開けた。

 

「らっしゃい! ちっ、なんだガキ共かよ……冷やかしなら帰んな」


 てっきり、厳ついオネエが待ち構えているかと思ったら、予想に反して厳ついモヒカンおやじが出迎えてくれた。


「えーっと、狩猟都市で紹介状を貰って来たのですが、ここがマリアンヌさんのお店であってますよね? マリアンヌさんはいらっしゃいますか?」


「紹介状か? とりあえず見せてみろ。ちなみに俺様がマリアンヌだ」


 マジか!? もしかしてこの世界の商店は、女性の名前を名乗る決まりでもあんのか?


「マッ、マリアンヌさんですか……よろしくお願いしますね」


 そう狼狽えながらも、どうにか紹介状をマリアンヌさんに手渡す。


「ちっ、女みてーな名前だって言いたいんだろ? しゃーねーだろ、店主が変わったからってそう易々と店の名前を変えるわけにもいかねーんだ。うちでは代々の店主がこの名前を引き継いでんだよ」


「なっ、なるほど、納得です」


 店長のマリアンヌはモヒカンおやじのことであった。名前は代々の店主が引き継いでいるらしい……なんて悲惨な。

 店の名前と店主の名前が違くてもいいじゃん、と突っ込みたい気持ちをグッとこらえ、無理矢理にでも納得したことにしておく。

 いいじゃないか名前なんて、ここは工房なんだ、腕さえ良ければ文句は言うまい。


 一応、鑑定で調べてみると、このおやじはドミニクさんと言うらしい。革細工スキルのレベルが3で、紋様術Lv2という珍しいスキルも所持していた。


「ふむ、亜竜を倒すたぁ、お前ら見かけによらず強えんだな。それで、何を作りたいんだ?」


「取りあえず、全員分、8人分の防具を作ってください。素材はランドドラゴン1体分とワイバーンが大量にあります」


「そらまた大仕事だな、その量だとちと人手が足らんな……準備しとくから明日また来てくれや。いやちょっと待て、もしかして亜竜の血もあんのか?」


「大量に余ってますから、明日持って来ますが、何かに使えるんですか?」


「ふふふ、それは企業秘密ってやつよ! まあ楽しみにしておけや」


 何だろこれ、ちょっとデジャヴュを感じるんだが、なんか嫌だ。言う人が違うとここまで違うのか、ぜんぜん萌えねえわ。


「そっすかぁ、それじゃ俺達はこれで!」




 相手にされなくて不満そうなおやじを置いて、俺達はさっさと宿に帰った。


 なんだか無駄に疲れた気がするけど、絶対あのおやじの所為だ。少し早い時間帯だが、今日はこのまま宿でゆっくり休むとしよう。


「さて、部屋割りなんだが……」


「もう……そんなの決まってるじゃない」


「ご主人、早く行こ?」

 

「さっ、行きますよアスラさん」


 スズとノルンに両手を引かれ、マシロに背中を押されて部屋に連行される。どうやら、そう簡単には休ませてはくれそうにない。


 うむ、なんだ、工房都市までの道中に「幼な〇まならしょっちゅう食べてる」と言ったが、すまん、あれは嘘だ!


 食べられるのは、だいたいいつも俺のほうだったよ……。



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