出発の前にすべきこと
4ヶ月以上ぶりの投稿でお久しぶりです。
長らくお待たせしてしまい申し訳ありません。
「集まってもらったのは他でもない」
「何かっこつけてるんですか、まったく……」
食後のお茶を飲みながら俺が切り出すと、ノルンに真顔で突っ込まれてしまった。
いや、ちと言ってみたかったんだよねこれ。
いつもなら朝食後は、食休みがてら自由時間にしているところを、今日に限っては皆に残って貰っていたのだ。
「それで話ってのは、この後の事であってるかな?」
「ああ、工房都市へ行くって話はしたと思うけど、実はこの機会に帝国を経由して迷宮都市へと向かおうと考えているんだ」
「……それ、初耳なんだけど」
スズに今後の予定を答えると、だんだんと彼女の紅い瞳が細まっていくのが見て取れた。
うむ、今の今まで伝えるのをすっかり忘れていたんだよね……正直すまんかった。でもまあ、たまにこうして、スズのジト目を拝むのも悪くないよな。
「急でごめんな。どうしても無理なら考え直すけど、どうかな?」
「う~ん……やっとご近所さんとも、仲良くなれそうだったんだけなぁ」
「うそっ!? てっきり、ご近所さんには避けられてると思ってたけど。こないだも、出かける時にヒソヒソと噂されてたみたいだったし……」
「それ、ご主人がいたから、子供を隠せって言われてただけ」
陰口叩かれてたの俺だったのかよ!
しかも、有らぬ誤解を受けていたようだし。マシロも知っていたなら、教えてくれれば良かったのに……。
まあなんだ、スズ達が迫害を受けて無かったようだから、良かったと思っておこう。
ちなみに、後でどんなご近所付き合いをしていたのかを聞いたところ、魔物の肉をおすそ分けして野菜を分けてもらったりとか、近所の清掃活動に参加してたりしたそうだ。
普人族主体のお国柄、混血種の差別が根強いため、どうしても合わない相手も一定数はいるらしい。それでも、比較的には良好なご近所付き合いが出来ていたらしい。
それに比べて俺は、近所にどんな人が住んでるのかすら知らない。前世では同じアパートにどんな人が住んでるとか気にしたことが無かったけど、一軒家でこれは流石に無い。これじゃ、家庭を顧みないダメ夫みたいじゃないか……反省しないとな。
「あーそれなら、少し出発は延ばしたほうがいいよな」
「それは大丈夫だよ、この後ちょっと挨拶してくるから。それに、何かよほどの理由があるんでしょ? 面倒くさがりなアスラが冬場に旅するなんて、そうじゃないと考えられないし」
うぅ、図星すぎて否定のしようがない。本音を言うと、もうしばらくここで、まったりワイバーン狩りをしていたいのだが、そうも言っていられない事情があった。
「そっ、その通りだ。少し調べてみたんだけど、どうやら王国が戦の準備をしているって噂は本当らしい」
「それは真ですか主殿!? 相手はまさか……」
どうも王国は、装備品に加えて食糧の買い付けも始めているらしく、ギルドや酒場で噂を聞く限り、戦の準備をしているというのは確かだと思う。問題となる戦の相手は、十中八九は獣国であろうから、コテツが焦るのも無理の無い。
まあ、俺としては獣国に攻めるんであればすぐさま困るってことはないが、万が一、帝国と王国が交戦状態となった場合、少し困ったことになる。各国の配置を考えるに、商都連合に閉じ込められかねないのだ。
「相手は獣国だろうね。そこでなんだけど、もうすぐコテツ達との約束の5年になるけど、解放されたらお前達は何をしたいんだ?」
「……普人族の主様に恩を仇で返す事になるかも知れません。それでも、私達は祖国を守りたいと思っております!」
「アンズ!? それは……」
コテツが止めに入るが、別に俺に気を遣う必要は無い。スズという嫁のいる俺にとって、普人族至上主義の王国は敵でしかないのだから。
「良いんだコテツ。侵略に手を貸すというなら話は別だけど、防衛したいと言うなら止める理由は無いよ」
「だが主殿、某達は未だ恩義に報いることあたわず」
「俺としてはもう十分だと思っている。それに恩義とかを抜きにして、お前たちがどうしたいのかを知りたいんだ」
俺の言葉を受けたコテツは暫く苦悩した末、深く頭を下げた。
「かたじけない。某も故郷に残してきた子供達の為にも、主殿のお情けに甘えさせて頂きまする。このご恩はいつか必ず」
「そうか、って子供いたの!? ああうん、そりゃいるよね夫婦だもんね……。まあ、それは今は置いとくか。それで一応確認なんだが、結構死ぬ確率が高いと思うけど本気で行くのか? ってこれも愚問だな、子供いるんじゃなぁ」
「はっ! 覚悟の上です」
にしてもコテツに子供ねぇ……そう言われると、コテツが頼もしく見えてくるから不思議だ。まあでも、本気で死を覚悟しちゃってるコテツの顔を見てると、やっぱり危なっかしく思えるな。
「アンズさん、コテツさんが無茶しないよう、しっかり見張っててね! 二人が死んじゃったら、きっとアスラが哀しむから」
「ご安心下さいスズ様。無茶しようもんなら、ひっぱたいてでも連れ戻して、必ず生きて戻りますので」
と、俺が言うまでも無くスズが釘を刺す。やはり女性陣は頼もしいな。
「そうと決まれば、生き延びるためにも戦の準備を整えておかないとな。必要な物資は、この旅の間に買い揃えるといい。資金はもちろん出すぞ」
「流石にそこまで甘えるわけには……」
「あなた、それはもう今更ですわ。ここまで来たら、万全の準備を整えて、生きてご恩を返すことを考えるべきですわ」
「そうだぞ、獣国の防衛戦が終わったら取り立てに行ってやるから、二人とも遠慮は無しだぞ」
冗談混じりにそう言うと、二人とも微かに笑ってくれた。
実はこのタイミングでこの話をしたのはこれが理由だったりする。サプライズで解放してやっても良かったのだが、それだと身一つで放り出すことになってしまう。
流石に戦に付いていくとまでは言えないが、物資援助くらいしてあげたいと思う程には、情が移ってしまっていたのだ。
ちなみに、アンズに異次元収納のレベルを上げさせたのもこの為だ。レベル3だと容量はだいたい300kg。国と国との戦に、たかが300kgの物資と二人が合流したところで、戦局に大した影響はないだろうが、それでも身一つで行くよりはマシだろう。
さて、話も概ねまとまったし、午後に出発するとなると、ゆっくりもしていられない。
ご近所さんへの挨拶に、冒険者ギルドでの報告と家の返却、あとコテツ達に持たせる物資の調達。出発前にしておきたいことはこの3つかな?
物資調達に関しては、何が必要かを考えて、時間があればこの街でも少し買って行きたい。まとめて一ヶ所で大量に買うと、怪しまれるかもしれんしな。
「ふうむ、この後は三手に別れて行動するか。俺はご近所様に会わせる顔がないから、ギルドで家の返却と、出発の報告をしてこよう」
「なら、私はご近所さんへの挨拶に行って来るね」
「頼んだよスズ。あとはコテツ達へ持たせる物資なんだが、何が必要か決めて、時間があれば一部を購入しておいて欲しいんだが。ノルン、頼んでいいか?」
「確かに量が量ですし、少しずつ買い揃えて行った方が良さそうですね……分かりましたお任せください!」
とまあ、今後の方針も決まったので、全員席を立って行動を開始した。なお、話し合いの間、所在無げに座っていたイリスも、ノルンに付いて意気揚々と出ていった事を述べておこう。
ちなみにナオは相変わらずマイペースだった。話し合いの間はスズとマシロの間をいったり来たりしてじゃれついてたし、今は俺の背中に引っ付いている。
まあいいか、ギルドにはこのまま俺とナオで行くとしよう。
荷物をまとめて家を後にした俺達は、集合場所を北門付近の酒場に決め、三手に別れる。俺とナオがギルドへ、スズとマシロがご近所への挨拶へ、残りのメンバーは商店通りに向かった。
冒険者ギルドまでの道のりを、ナオを背中に張り付かせたまま進んだが、何のトラブルも無く目的地に到着することができた。
ギルドへと入り、いつもの窓口の受付嬢に話しかける。おばちゃんとは言え受付嬢には変わりないよね。
「あの~、今お時間大丈夫ですか?」
「おぁ!? ああ、あんたかい。びっくりさせんじゃないよ!」
そういや今日はナオと二人きりだから、固有スキルが仕事しちゃってたんだった……。スズ達がいれば話は別なんだが、そうじゃないと目立たない効果が自動発動するんだよね、地味に不便だなこれ。
「えーっと、これから工房都市へ向かいますので、借りていた家のカギをお返しします」
「確かに受け取ったよ。じゃあ、代わりにこれが例の紹介状さね。<革公房マリアンヌ>っていうお店だよ、有名だから場所は現地で聞きなね。あーそう言えばこないだ……」
「ありがとうございます! 今まで本当にお世話になりました!」
長話の気配を感じた俺は、勢いよく頭を下げてから逃亡を図る。がしかし、おばちゃんからは逃げられない。結局、どうでもいい話が2時間ほど続いてから解放された。用件だけなら2分で終わったのにな……。
合流予定の酒場に着くと、既にスズとマシロがいて、テーブルの上には何品かの食事が並んでいた。俺達も席について、食事をつまんでいると、間もなくノルン達もやってきた。
「皆おつかれ、食べながらでいいから、各自報告を頼むよ」
昼食がてら食事をつまみながら各自の話を聞く限り、ご近所さんへの挨拶はつつがなく済んだようだ。
コテツ達の物資については、必要な物をあらかたリストアップして、鉄の矢を400本だけ仕入れてきたそうだ。ちなみに必要な物資はコストと性能を鑑みて、次のようなものを考えているらしい。
・スティールスピア10本:金貨13枚、重量90kg
・ロングボウ10張:金貨3枚、重量30kg
・鉄の矢4000本:金貨2枚、重量120kg
・食料、その他:金貨2枚、重量60kg
さすがに量が量なので、装備の材質を1ランク落として鋼にし、消耗品の矢は鉄にしたそうだ。これで合計が金貨20枚だから、コテツとアンズの所持金で金貨15枚、残りの金貨5枚をパーティ資金から出すことに決まった。
余談だが、異次元収納スキルについてだが、収納中の時間経過と容量に関してある程度わかってきている。
重量はレベル1で1kg、レベル2で20kg、レベル3で300kg、レベル4で4t、レベル5で50t。
経過時間は外での1日が、レベル1で12時間、レベル2で4時間、レベル3で1時間、レベル4は10分、レベル5で1分になるらしい。
つまり、レベル3のアンズの場合、1ヶ月もつ携帯食が2年保つようになるということだ。これで我が軍はあと2年は戦えるということだな。いやさすがに、量的に無理か。
何はともあれ、これでやっと出発できる。今度こそは工房都市へ出発するぞ!
直ぐにペースは戻らないとは思いますが、春に向けて徐々にペースを上げていきたいと思っています。
今後ともよろしくお願いします。




