地の底での激闘(後編)
そろそろ戦闘開始の時間だ、行くとしよう。
スズ達が走り出すのを見て、俺も敵の背後から忍び寄る。前方から走り寄る気配に気付いたランドドラゴンが、スズ達に気を取られている隙に、俺は後方から太刀の一撃を加えた。
敵の背中を斜めに切り裂いた太刀には、重い手応えが返って来る。すぐさま離れて相手の様子を見るに、ランドドラゴンの皮膚からは血が流れ出ており、軽い傷では無いはずだが、致命傷には程遠い。
高防御の地竜の防具セットにその素材が使われるだけあって、地竜の鱗と皮は、流石に硬い。黒鋼の刃で切り裂くことは出来たが、威力はかなり減衰してしまっただろう。
正直、初手で勝負を決めたかったのだが、それは欲張りというものだったようだ。
奇襲を受けた地竜は直ぐに、大きな頭を巡らし、後方に位置する俺をその視界に収める。スズ達も攻撃を始めていたが、マシロの黒鋼の矢は弾かれており、コテツやナオの攻撃もほとんどが硬い鱗に阻まれ、傷を負わせることができていない。スズの闇魔法を纏った小剣だけが辛うじて、地竜の表皮を薄く切り裂き、僅かな出血を強いている。
回避を意識した攻撃では力が乗り切らないが、体重を乗せた捨て身の攻撃でもすれば、コテツの攻撃だって効きはするだろう。ただ俺としては、薄皮一枚を切るのに捨て身になられるよりは、戦場に立ち続けて貰ったほうが、標的も分散して有難いので、これでいい。
少しの間、様子を見ながら戦って、解ったことだが、地竜の攻撃パターンは主に、巨大なアギトでの噛み付きと、短めの前足での引っ掻き、長い尻尾を使った薙払いの3種類のようだ。
噛み付きと、引っ掻きは攻撃範囲が狭いので、相手の動きを見てからでも充分に回避可能だ。薙払いだけは攻撃範囲が広く、避けにくそうで厄介だった。
まあ、尻尾にだけ気を付けておけば大丈夫だろうと、今日何度目かになる、スズ達と俺の挟撃を加えた際にそれは起こった。
スズ達の攻撃を受けた地竜が尻尾での薙ぎ払いを、スズ達に向けて放つ。それを見た俺は、ここぞとばかりに体重を乗せた大上段からの一撃を加えようと動いたのだ。
そこで誤算だったのが、尻尾を振り切った地竜が、そのままの勢いで俺の方向に完全に向き直ったことだ。太刀を振り下ろす瞬間、地竜の瞳が喜色を称えたような錯覚を覚えた。
太刀から手元に返って来る、骨を断ち切った手応えと共に、俺の肉体は強い衝撃を受けて吹っ飛ぶ。冗談でも大袈裟でも無く、俺は地面とは水平に吹っ飛び、洞窟の岩肌に叩きつけられた。
「ぐふっ……」
「アスラ!!」
「くっ、イリスさんも加勢に行ってください! 『ウィンドカッター』!」
俺が意識を失っていたのは一瞬だった。目の前では、巨大な地竜と、その行く手を遮るように小さなスズが対峙している。
どうやら地竜は、スズ達の攻撃を無視し、最初に俺を倒すように決めたようで、俺が攻撃をした隙に、捨身の体当たりを敢行したようだ。さっきの薙ぎ払いはフェイクで、俺はまんまと引っかかったというわけだ。
痛ってぇな、左腕も動かないし、たぶんこれ折れてるな、太刀はもう振り回せないし……ぶっちゃけもう帰りたい。これは撤退するか?
ノルンからの魔法攻撃により、地竜の動きは鈍ったものの、俺から地竜を引き剥がそうと必死で攻撃していたスズは、尻尾での一撃を避けきれずに吹っ飛ばされてしまう。
スズが抜けた穴を埋める様に、イリスが立ち塞がったが、そう長くは保たないだろう。
「逃げろ……スズ……お前達だけでも……」
俺の身体は激痛を訴えており、なかなか言う事を聞いてくれないでいた。ノルンとマシロが回復の為に、俺の元に来ようとしてくれているが、後方に位置していた関係上、直ぐには来れそうにない。
「まだ……戦える……アスラは私が守るんだ!」
俺の目の前では、どう見ても俺より重症のスズが、足を引きずって再度、地竜の元に向かう。
ああ、自分の嫁に守られてるなんて、我ながら情けねぇ。ちったあ、気合い入れろ俺!
俺は、どうにか動いた右手で、下級ポーションをこぼれるのを無視して、勢いよく呷り、立ち上がる。さっきよりはマシとはいえ、身体は依然、痛みを訴えているが努めて無視する。
吹っ飛ばされた時に放り出した太刀を探す余裕は無いので、収納してあったダマスクソードを右手に持ち、無理矢理に身体を前に動かした。
気合いを入れれば、身体という物は意外に動くものだ。というよりは、久しぶりの大き目の怪我に俺がヘタレていただけで、実際には大した怪我じゃなかったのかもしれない。
一度動き出した俺の身体は、驚くほど機敏に動き、スズの前に躍り出る。
「ありがとうスズ……後は俺に任せてくれ、『エンチャントウィンド』!」
「アスラ……私も……」
「『ハイヒール』! はぁはぁ……済みません遅くなりました」
「助かったよノルン! スズの治療を頼む!」
危険を冒して走り込んできたノルンの回復魔法により、身体の痛みがスーッと引いていく。流石にすぐさま左腕が使えるようになるといったことは無いが、これで動くのに支障は無いはずだ。
スズをノルンに預け、俺は戦線に復帰する。地竜もかなりのダメージを受けているが、こちらもイリスとナオが前線をギリギリのところで支えており、マシロとアンズが後方からサポートをしているのみだ。当初、前線で活躍していたコテツは、満身創痍で戦線を離脱したのだろう。
動きの鈍っている地竜に躍りかかった俺は、風を纏った剣で敵を切り付ける。太刀の時に比べて、手応えは殆ど無いと言っていいが、地竜の体表からは血が噴き出る。そう、肉まで剣が達しているのだ。
黒鋼製の刃とダマスカス製の刃では、通常は黒鋼製の刃のほうが切れ味が良い。ただし、これは魔法の有無で容易に逆転する。だからこそ、魔法が使える俺とスズ、マシロにはダマスカス製の小剣を渡しているのであった。
手応えがあるイコール、威力があるでは無い。いつの間に俺は、攻撃に手応えなんてものを求めたのだろう? まあ、今は考えてる場合じゃないな、目の前の敵に集中だ。
右手の剣は、地竜の皮膚を容易に切り裂く。手応え……手元に跳ね返る力が小さいため、俺は最小限の隙で攻撃を続けて行く。ただでさえ動きの鈍った地竜は、俺の動きに付いて行くことが出来ていない。
素早い動きで翻弄しつつ、右足の付け根に何度目かの攻撃を加えると、自重に耐えきれなくなった地竜が崩れ落ち、動きが一瞬止まる。その瞬間を逃さずに、後方から弓矢の一撃が、地竜の右瞳に吸い込まれた。
マシロからの遠距離攻撃を受け、痛みでのたうち回る地竜に巻き込まれないよう、俺も遠距離から風魔法での攻撃を加えて行く。
しばらくして、地竜の動きが収まって来たら、右手の剣を深々と頭部に一突きし、止めを刺した。
戦闘が終了する頃には、スズの治療は既に終わっており、コテツは満身創痍ながら命に別状は無かった。ノルンとマシロに各員の治療を任せ、俺とナオは地竜の回収を始める。俺は地竜の残骸を集めながらも、今日の戦いについての反省を行っていた。
今回は手強い相手であったが、それでも、本来はここまで苦戦するような相手では無かったはずだ。この苦戦は単に俺の油断が招いたものだろう。
まず、武器の選択を間違っている。大型相手に太刀という選択は悪くは無いのだが、黒鋼の太刀にはエンチャントの効果は薄いため、どうしても切れ味という点で、ダマスカス製+エンチャントには劣るのだ。今回のような硬い相手には、切れ味も有り、隙も少なくなるダマスカス製の武器を選ぶべきだった。
それ以前に、もう2,3個レベルを上げてから来ても良かったのだ。確かにパラメータの補正値的に、俺はレベル53の地竜を上回っている。パラメータ2倍はレベルで言うと約15レベル相当で、俺はレベル56程度と考えても良いが、自分の格下としか戦っていなかった俺には、戦闘経験が圧倒的に足りていない。
スズ達の加護は、パラメータ1.5倍で約9レベル相当で、スズはレベル46程度のパラメータといったところだが、やはり経験不足は否めない。元からレベルが高く、戦闘経験が豊富なコテツとアンズはレベル37と、敵とのレベルが離れすぎているし、イリスは加護に慣れておらず、力を充分に使いこなせていない。
これだけの不安要素があったというのに、俺は何時からこんな危ない橋を渡るようになっていたんだ?
いかにもファンタジーな魔物、ワイバーンを地に堕とした時、言い知れぬ高揚があったのは覚えている。俺は自分の力に……強敵を倒すことに、酔い始めていたんじゃないだろうか? 長大な武器を持って、巨大な魔物を倒すのは、男の浪漫と言っても良いが、それに捉われて、戦うべき時を見誤り、戦い方すらも見失う。
これは反省しないとな、他人の事を戦闘狂だとかどの口で言うんだって話だ。
地竜の回収が終わり、俺が1人でうだうだ考えていると、治療を済ませたノルンとイリスがやって来る。
「魔法での治療が完了しました。後は歩きながらでも体力を回復すれば、戦えるようになるはずです」
「そうか、お疲れ様。安全なところが有れば、そこで休憩しようか」
「この先の白龍様の寝所には魔物は入れぬ故、直ぐに案内するでござるよ」
傷は塞がったが意識は戻っていないコテツは俺が背負い、イリスに先導されて先に進む。やはり、地竜が居座っていた部屋の奥に、先に進む通路が有り、その突き当りに目的の場所があるらしい。
なんとかこれで、目的も遂げられそうだ。今回は反省すべき点が多々あったものの、今日のところは一人の犠牲者も出さずに済んだ幸運を、喜んでおこうと思う。
更新が週1ペースになりつつあります……。今週の言い訳としては、ネトゲ始めちゃいました。黒〇砂漠はヤヴァイです、やっとこある程度放置できるまで育ちましたが、真面目に育成すると、時間がいくらあっても足りない。今は釣り放置しつつ、後書き書いてます。




