話し合いは夕食の後で
竜人集落を後にした俺達は、イリスさんに先導されて森の中を進んでいた。
「イリスさん、白龍様の住処まで、どのくらいで着く予定ですか?」
「順調に事が運べば、4日ほどでござるな」
「4日かぁ、結構遠いんだな」
「いえ、道中は魔物が多い故、どうしても時間が掛かってしまうのでござる」
「なるほどね、まあ急ぐ旅でも無いし、無理の無いペースで進むとしよう」
この後の予定を聞きつつ、しばらく先に進むと、マシロから警告の声が上がる。
「ご主人、この先に何か居る」
「何が居るのか分かるか?」
「たぶん、ブラックタイガー」
「分かった、ありがとう。倒してから進むぞ」
一瞬、前世のエビを想像してしまったが、黒い大型の虎のことだと思い出し、気を引き締める。
魔獣の嗅覚や聴覚は優れており、感知能力は極めて高い。魔法を使う事で、それを誤魔化すことは可能だが、8人全員に掛けるのは時間も掛かるし、レベルも上げたいので倒すことにした。
「拙者は何も感じぬが、それは本当でござるか?」
「ああ、マシロが言うなら、何か居るのは間違いないはずだ。俺が先行するから、イリスさんは後ろから付いて来てくれ」
「ふむ、ブラックタイガーは手強い魔物と聞きまする、拙者が先行し、時間を稼ぐでござる」
「良いから、言う通りにしてくれ」
俺はイリスさんを問答無用で、後方のアンズに任せ、マシロと共に先頭を行く。相手はシルバーランク冒険者が討伐対象とする魔物だ。イリスさんの強さでは、少々厳しいものが有った。
しばらく先を行くと。マシロが止まるよう手で合図を出してきた。遠く前方の木の影に、大きな黒い影を視認することができた。俺は戦闘の前に、相手を鑑定しておく。
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名称:ブラックタイガー
種別:魔獣
レベル:40
筋力:58 (389)
耐久:57 (382)
敏捷:71 (476)
器用:26 (174)
精神:14 ( 94)
魔力: 3 ( 20)
スキル:爪術Lv2 体術Lv3 気配察知Lv3
固有スキル:嗅覚感知Lv3 聴覚感知Lv2 噛付きLv3
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身体能力は高めだが、この程度なら問題無く倒せるはずだ。
俺は迎撃の態勢を整え、マシロに攻撃の指示を送る。マシロが矢を放った瞬間に俺も、敵の前に躍り出る。剣を手にした俺は、足に矢が刺さり動きの鈍った魔獣に近づき、一刀の元に首を刎ねた。
奇襲さえ成功すれば、だいたいこんなもんである。
「手傷を負った状態とはいえ、一刀で勝負を決めるとは、聞いていた通り強いのでござるな」
「俺なんてまだまださ、もっと強い奴はいくらでもいる」
「そうでござるか、やはり村を出て正解でござったか!」
嬉しそうにしちゃって……なんだこの娘、もしかして戦闘狂なのか? 厄介そうではあるが、今回の件が済んだらおさらばだ、今だけ我慢するとしよう。
俺はイリスさんにあまり深く聞くことはせずに、引き続き道案内をお願いし、先に進んで行った。
結局この日は、山の麓に着くまでの間に、追加でレベル39のブラックタイガー1匹と、レベル41のドレッドベア1匹と遭遇した。この2匹に関しては、戦闘はスズ達に任せて俺はサポートに徹したが、あっさりと勝利することができている。
山の麓に着いた俺達は、日が暮れる前に野営の準備を済ませ、夕食を摂る。夕食はドレッドベアの肉を焼いたものだった。
「獣臭さはあるが、歯ごたえも有って、なかなかに旨いな」
「そだね、ワイルドボアだと柔らかすぎて、少し物足りないものね」
スズが俺に答えた通り、最近はワイルドボアの肉では物足りなくなってしまっていた。どうやら、パラメータの上昇に伴って噛む力も増しているようで、食感が以前とは全く変わってしまっているのだ。
ワイルドボアやワイバーンの肉は、一般人でも良く食べる物であり、比較的柔らかい肉であり、レベルの上がった俺達にとっては、少々柔らかすぎるのだった。ワイルドボアは低レベルの魔獣であるし、ワイバーンは高レベルでも空を飛ぶ都合上、肉の比重が軽めなのだろうと思う。
「私には少し硬すぎますね、食べられないほどではありませんが、これでは顎が疲れてしまいます」
ノルンにはまだ少し早かったようだ、それでも食べるのを止めていないところを見るに、混血種の業の深さ(食欲)を感じる。
食べてみて分かったがドレッドベアの肉も、やはり高レベルの魔獣の肉ということもあり、味は悪くない。血抜きした程度で、たいした処理をしていない肉がここまで美味しいというのは、前世ではあり得ないと思う。
前世とは異なり、何らかのファンタジー的な要素が関わっているのではないか、と俺が考察していると、ふと食事の手が止まっている者が目についた。
「イリスさん、もう食べないんですか?」
「いえ、その、これほど多く食してしまって良いのでござろうか、とな」
「お腹が一杯でないなら、食べていいと思いますよ」
「竜人の村では、食べることも戦いに重要と教えられたのでござる。食べ過ぎは身体を重くし、動きを鈍くするだけだと。それゆえ拙者も、村の皆と同じ量の食事を心がけているのでござるよ」
なるほど、それで栄養不足で痩せているのか。混血種は普通よりも多くの栄養が必要なのだ。栄養が足りていれば、その分、通常以上の力を発揮できるが、栄養が足りなければ通常以下になる。まるで燃費度外視の性能重視で作られた、試作機のようなものだ。
「私が見る限り、イリスさんは痩せすぎですね。もっと食べたほうが強くなれると思いますよ。ただ今後、村に帰った後の事を考えますと、下手に変えない方が良いのかもしれませんがね」
「村に帰る……でござるか?」
「差し出がましいようで申し訳ありませんが、イリスさんは今回の件、どのように聞いているのですか?」
俺の言葉を受けて、不思議な顔で首を傾げているイリスさんに、ノルンが問いかけた。
「拙者、御爺様からは、生涯を懸けて忠義を尽くすよう、固く申し付けられておりまする」
「やはりそうですか……どうやら私達は族長殿に、まんまと乗せられてしまったようですね」
「そのようだな、まったくあの糞ジジイ、油断も隙もありゃしない」
大方、俺がスズ達を連れているところを見て、カーミラさんではなく混血種のイリスさんなら受け入れて貰えると思ったのだろう。こういう騙し討ちは好かんし、昨日今日会ったばかりの相手を信じて、仲間に引き入れるわけにもいかない。
「イリスさんには申し訳ないが、俺達はそんな話は聞いていないし、簡単に受け入れるわけにはいかないんだ。案内後に村に戻って貰えるだろうか?」
「……そうで御座ったか、分かり申した。ただ、おめおめ村に戻るわけにも参らぬゆえ、街までご一緒させてくだされ」
うーむ、さすがに帰るに帰れないか。俺は、スズとノルンを連れて少し離れたところに行き、相談に乗ってもらう。
「彼女が街で暮らすってこと、2人はどう思う?」
「うーん……厳しいんじゃないかなぁ? 私達みたいに普人族とあまり変わらない見た目でも、たまに変な目で見られたりするくらいだから」
「そうですねぇ、スズさんは見た目的に問題ありませんし、私とマシロさんも耳さえ隠せば、人と変わらないくらいですしね」
そうなんだよなぁ、俺達の中で、普人族と見た目が一番違うのがマシロで、猫の耳と尻尾があって、目が少し猫っぽい程度だ。ノルンとマシロは基本、フードや帽子で耳を隠している為、これまでは大きなトラブルに巻き込まれずに済んでいた。
それに比べてイリスさんは、肌の大部分が鱗に覆われている。普段露出している部分だけでも、手の甲や、首から顔の下部にかけては濃緑色の鱗が見えていた。これでは種族を隠して生活するのも難しいはずだ。
なんか少し可哀そうに思えてきたが、同情で今の仲間を危険に晒すってのも駄目だろうし、俺と一緒に居るのが彼女にとって良い事だとも限らない。うーむ、どうするべきか。
「ねえアスラ、この件は私達に任せてもらえないかな?」
「いいけど、任せてしまっていいのか?」
「うん、どうしようか決めかねてるんでしょ。ノルンさん、いいえノルンは相談に乗って頂戴ね」
「そうですね今更、さん付けもありませんか……分かりましたスズ、協力して当たりましょう」
面倒事を放り投げたともいえるが、たまには彼女達に仲間にするかどうかを判断してもらうのも良いだろう。
「で、具体的にはどうするつもりだ?」
「問題は信頼できるかどうかってことなのよね? まずはこの旅の間に見極めましょ」
「そうですね、最低限信頼できるのでしたら、後は私達で調教……もとい、教育すれば良い事ですし」
「そっ、そうか……仲間にするなら穏便にな」
どんなことを教育するのかは聞くまい、世の中には知らない方が良い事もたくさんある。
「後は私の魔法で契約を結んでもいいんだけど、さすがにそれは可哀そうかな?」
「そうですね、それは最終手段にしましょう。彼女が『デボーション』を使えればいいんですけどねぇ」
「たしか光魔法Lv1のスキルは持ってたぞ」
「それでは、光魔法のレベルを2に上げてもらいましょう。素直に聞いてくれるなら、判断材料にもなりますし」
ちなみに『デボーション』は光魔法Lv2で覚える魔法で、騎士が主に忠誠を誓う時に使う魔法だ。一度使用した後は、主の近くでのみ発現する強化魔法に変わるものだ。
魔法で行動を縛るというのも、あまり気持ちの良い物では無い。理想を言えば、信頼できるかを見極め仲間にすべきなのだろうが、この短時間でそれを行うには、俺達には圧倒的にコミュ力が足りていない。当然、本人の意思を確認の上だが、魔法で行動を縛るというのも已む無しだ。
「分かった。取り敢えずは光魔法のレベルを上げてもらって、その間に仲間にするかどうかを見極めるってことだな」
「そうだね、戻ってイリスさんにも伝えよっか」
俺達3人は皆の元に戻り、イリスさんに話し合った結果をノルンが伝えてくれた。
「なるほど、拙者は信頼されてなかったでござるか」
「気を悪くしたなら、申し訳ない」
「いや当然のことで、むしろ安心したでござるよ。では拙者はまず、光魔法のスキルを上げれば良いのでござるな?」
「はい、あとは短い期間ですが、この旅の間にお互いを見極めるとしましょうか」
俺の言葉でこの話は終わりにし、3交代で夜の見張りをしつつ休息を取る。1番目の見張りは、スズ、ノルン、イリスさんで、2番目が俺、コテツ、ナオ、3番目がマシロとアンズだ。
1番目にイリスさんと一緒になるのは、スズとノルンの希望である。彼女達が何を話すのか気になりはしたが、俺は気にしないよう努めて、眠る事にした。
女同士の話に、男が首を突っ込むと碌なことが無い。これは俺がこの1年以上、スズ達と過ごして得た教訓の1つである。
更新遅れて申し訳ありません。
今更ながら、ダークソ〇ル2にハマっておりました。
3を買うかは思案中、更新滞りそうなので、たぶん買いません。




