チートの落とし穴
翌朝目が覚めると、肉体異常耐性Lv3を習得していた。スキルポイントを8消費しているため、スキル習得に8日の猶予があるにも関わらず、3日で習得出来たということからも、今回のスパルタっぷりが分かると思う。
ちなみに昨晩の修練場での出来事は、思い出させないで欲しい。スキル習得の試練は精神衛生上、思い出さないほうが良い事の方が多いのだ。まあなにはともあれ、目的のスキルを手に入れたことだし、今夜のために軍資金を稼ぐ必要があるだろう。
ベッドから起き上がった俺は、1階にある洗い場に向かい、口を濯ぎ顔を洗う。リビングを抜けてダイニングルームに向かうと、ナオが食卓に食事を並べているところであった。キッチンではスズとノルンが食事の準備をしているようだった。
「おはよう、俺も手伝おうか?」
「いい、すわっててますたー」
背の低いナオにとって、テーブルは高い位置にあるため、少々危なっかしく見える。それでもナオは、一旦食事をテーブルに置いた後に椅子に乗って、食卓に器用に並べていた。
問題無さそうな事を確認した俺は、部屋奥側のテーブルの短辺、上座の椅子に座る。なお、テーブルの形は長方形であり、短辺に1名、長辺に3名の合計8名座れるようになっていた。
食卓に並べられた食事を見るに、今朝のメニューは乾パンや干し肉を使った簡易な物のようだ。今日は討伐依頼のついでに肉を調達するのも良いだろう。
しばらくすると、7人分の食事が並び、全員が食卓の周りに集まる。スズとノルンが俺に近い席に座り、スズの横にナオが座る。他の3人は立ったままだったため、席に着くよう促した。
「家に居る時は、座るのに俺の許可は要らないから、好きにくつろいでくれ」
「……承知」
「他人に見られなければ、気にしないってことね」
「そうだ、ここなら他人の目は無いから、余計な顰蹙を買うことも無いだろうしな」
外食の際、俺だって好きでマシロ達に、床で食事をさせていたわけでは無い。他人に合わせる必要が無いなら、こうして一緒に食卓を囲める方が良いのだ。
全員が食卓に就いたことを確認し、全員で「いただきます」して食事を始める。
「なぁスズ、ナオの服や、生活必需品、あとは食料の買い出しをお願いできるか?」
「いいよ、アスラは魔物狩り?」
「ああ、懐が心もとないから多めに狩ってくるよ」
「気を付けて行ってきてね」
雑談を交えつつ、朝食を終えたら、身支度を整えて東ギルドに向かう。別行動のスズとナオには金貨1枚を渡してある、これで俺の手持ちは小銭だけになった。今日はたっぷり稼がねばなるまい。
今日は収納スキルの高いナオが居ない為、討伐依頼をメインにする予定だ。ギルドにあるブロンズランクの依頼で目ぼしい物は、次の通りだった。
・ハーピー討伐:1匹で銀貨2枚
・トロール討伐:1匹で銀貨5枚
・アシッドスライム討伐:1匹で銀貨3枚
これに加えて、アイアンランク依頼の1匹で銀貨1枚のオーク討伐も受けておく。それにしてもスライムは居ないけど、アシッドスライムは居るんだよな。眷属にして俺の相棒と……いやいや、恐ろしい事になりそうだから止めておこう。
依頼を受けたら、さっさと街を出て、南に広がる森に入る。時たま出くわすオークを狩りつつ、森の奥に進み、休憩を挟みつつ依頼の魔物を狩り続けた。
いつもは止めを刺さないようサポート重視の俺も、今日は気にせずガンガン狩りを行った。今日だけで、トロール3匹、ハーピー8匹、アシッドスライム5匹、オーク14匹を討伐したことになり、合計で銀貨60枚の稼ぎになる。
キリがいい額なのは、森から引き返す際、オークを多めに倒して帳尻合わせをしたからだった。そして最後にワイルドボアを狩り、解体した肉を持てるだけ持って帰ってきている。
日が暮れる前にギルドで、報酬の小金貨6枚を受け取って家に帰る。
スズとナオは既に帰っており、1階の掃除をしていたので、ワイルドボアの肉を渡して、食事の準備をしてもらう。醤油や味噌、その他の調味料はスズの収納にも入っているので、料理するのに問題はないだろう。
料理が出来るまでの間、俺は自室に篭もり、今夜の計画を練ることにした。
目的地は、狩猟都市に来てすぐにチェック済みだ。狩猟を生業とする荒くれ者が多い所為もあり、この街には、そういったお店が軒を並べる、常春通りという通りがあった。
知り合いに男が居ない俺だから、どの店が良いかは分からないが、今は贅沢を言える状況じゃない。食後すぐに抜け出すとしよう。
「ご主人、ご飯だって」
「ああ、すぐ行く」
マシロに呼ばれ、1階に降りると肉の焼けるいい匂いが漂ってくる。食卓にはワイルドボアの焼肉が大量に並んでいた。
料理スキルはあっても器用値が低い所為か、スズの料理は豪快の一言だ。見た目こそ茶色一色の男の料理だが、味付けは絶妙であり、俺の胃袋は既に掴まれかけていた。
今日も全員揃ったところで、食事を始める。
「やっぱりスズの料理は美味いな」
「ん、スズお姉ちゃんのお肉は最高」
「なんだか照れちゃうな」
軽く雑談をしつつ夕食を食べ、一休みしてる時に、俺は切り出す。
「そうだ、今日は買いたいものがあるから、少し出かけてくるけどいいか?」
そう、俺は今日、春を買いに行くのだ
「こんな時間に?」
「ああ、ギルドは遅くまでやってるからな」
ギルドは街門が閉まった後でも、結構遅くまで開いている。だからこれも嘘じゃない、ギルドに行くとは言っていないのだから。
「ギルドかぁ、あんまり遅くならないでね」
「分かってる、じゃあ行ってくるよ」
どうにか誤魔化せたようである。明らかな嘘はノルンにバレバレだから、会話には結構気を遣う。スズ達に留守を任せ家を出た俺は、常春通りに向かった。
常春通りは夜だというのに、魔法の明かりで煌々と照らされている。通りに軒を連ねる各店の窓からは、色とりどりの衣装を着た女性達が、通りを歩く客達に手を振っている。
軒先では柄の悪い男達が、客引きをしており、夜なのに活気がある。あまり時間が掛かって、スズ達に心配を掛けるのも悪いから、テキトウに大通りに面した店に入る。大通りに面した店なら、大外れということも無いだろうしな。
店の中は酒場のようになっていて、直ぐに席に案内された。まずはエールを注文して、ちびちび飲みながら周囲の様子を見ていると、何度か給仕の娘と客らしき男が2階に上がっていくのが見える。どうやら気に入った給仕の娘がいたら、声を掛けて2階で実戦という流れのようだった。
「あらお兄さん、1人っきりで飲んでるだけじゃ、つまらないでしょ」
「あ、いや、こういうとこ初めてでさ、どうしていいものかとね」
話しかけてきた女性は、それなりに美人さんだ。なによりも、バインバインで目のやり場に困る。
「そっか~、なら試しに私を選んでみない? 一晩、銀貨5枚でいいわよ」
「一晩かぁ、1時間だけとかは無しかな?」
「できるけど代金は一緒よ~。1階の酒場はあと2時間もすれば閉まっちゃうの、だから安くは出来ないわ」
ううむ、代金が一緒なら一晩だよなぁ。銀貨5枚でこの2つの膨らみを、俺の好きに出来るのか・・・いかんいかん、スズ達に心配を掛けるわけにはいかない。
「じゃあ、1時間だけでお願いしようかな」
「は~い、1名様ご案内しま~す」
ボインちゃんが俺の腕を取って、2階に上がる階段のほうに案内してくれる。ボインちゃんからは香水の甘い香りが漂ってき、腕には幸せなマシュマロの感触を感じる。
「お待ちください、お客様!」
「はい、何か?」
俺達が2階に上がろうとすると、店の男が目の前に立ちはだかる。
「申し訳ありませんが、お客様は高レベルなご様子、少々確認させていただいても宜しいでしょうか?」
「いいけど、何を確認するの?」
むむ、人物鑑定Lv2持ってるなこの男。
「失礼ですが、この石でお客様の筋力が一定以上でないかを確認させてください」
男に見せられた石を鑑定して見ると、次の通りだった。
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名称:筋力判定石+1
説明:触れた者の筋力値に応じて色を変える石
300以上で赤色、100以上で黄色に変わる
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うっ、まさかのステータスチェックだよ。素直に受けてもチェックに引っかかるだろうし、どうすっかなぁ……。
「えーっと、もしかしてこの石が反応したら、2階に上がれないとか?」
「はい、赤色に変わりましたら筋力の高い証拠です。彼女達はうちの大事な商売道具ですからね、怪我はさせたくありませんからな」
やっぱりか、くっそー、やる気満々で出て来たのに、このまま大人しく引き下がるのもなぁ。
パラメータ差のことを、俺は完全に失念していた。夜に行われる行為は、身体と身体のぶつかり合いだ。パラメータ差があり過ぎると、低いほうの身が危険なのは少し考えれば分かる事だったのに、どうやら俺は、よほどテンパっていたようだ。
「なるほど、確認が必要なら今回は辞めておくよ。ちなみに、この確認で赤色に変わる人を相手にしてくれる店はあるの?」
「はい、2軒だけ存在しますが、どちらも予約が必要なお店ですので、今行っても相手をしてくれないかと」
「そうか、色々教えてくれてありがとう、悪いけどこれで失礼するよ」
「またいらっしゃいな、お酒だけで良ければ、少しなら付き合ってあげるわよ」
俺はエールの代金として銀貨1枚(完全にぼったくりだが勉強代と思い、素直に払った)を支払い、今日の所は帰ることにした。出鼻を挫かれて、どっと疲れてしまったので予約は後日にしようと思う。
後で知った事なのだが、高レベルの娼婦というのは、この大きな街でも数人しかいないらしい。女性より男性のほうが、高レベル者が多い。そのため高レベルの女性は仕事も選べるし、嫁の貰い手にも困らない。
よほどの理由が無い限り、夜の街で働く必要は無いそうだ。よほどの理由というのは主に、外見的な理由と、外傷的な理由である。この街の夜の蝶達は、魔物との戦いで身体の一部を失っていたり、その上、外見的に残念だったりするらしかった。
まったく、パラメータが高すぎるのも考え物だな。これでもし俺が、転生時にパラメータ3倍を取ってたら、一生独身とかになったのかもしれんなぁ……ある意味罠だな。
俺は、加護付与をお勧めしてくれた太陽さんに、感謝しつつ我が家へと帰る。俺のパラメータは通常の2倍とはいえ、嫁が出来たら加護を与えれば、パラメータ差はだいぶ縮まるから、俺がレベルを上げ過ぎなければ大丈夫だろう。
そんなとりとめのない事を考えながら、自分の部屋に戻ると、3人の修羅が待ち構えていた。
「マシロちゃん」
「くんくん……お酒とメスの匂いがする」
油断していた俺は、瞬時にマシロに後ろを取られる。
「ノルンさん」
「雷の瞬きで動きを止めよ『スタンショック』」
「グガァッ!」
更に想定外の魔法攻撃により、俺の身体の自由は奪われてしまう。数秒で身体の自由は戻るはずだが、スズとマシロは、その時間を与えてくれるほど甘くは無い。
俺は即座にベッドの上に寝かされ、鎧補修用の頑丈な革で拘束されてしまった。
いったい何が起きてんだ!? 最近もこんなことが有ったような記憶が……そうか、トルテさんにされたアレだ!
「やっ、やめろ! やめるんだ、〇ョッカー!!」
俺には訳も分からず、虚しい叫びをあげることしかできない。このまま改造手術に移行しないよう、祈るばかりだ。




